「……………………少し、頭冷やそうか?」
そう言った私に青の騎士は、刀身に水を纏わせて切り込んできた。
……問答無用、といったところだろうが、まともなコミュニケーションもとれないのは、人としてどうかと思うよ?
……まぁ、そもそも人じゃないのかもしれないけど。
そこそこ以上に鋭い彼女の突きは、その剣に纏った魔力も含めて、鍛錬と実戦をこなしきてきたことを思わせる。
「……よっ……と!」
しかし、私には無意味だ。
私は突き出された剣を左手の人差指と中指で挟んだ。
……速度で言えば、真化前のマジアサルファ以下。剣筋そのものは、マジアアズールと同程度でも、その威力はそれに比べるべくもない。
紡がれていた魔力は一撃必倒であったとしても、私の『吸収』の前では一瞬で分解されてしまう。
「……なっ!?」
焦ったように彼女が剣を引こうとしても、ただ指二本で押さえている私から逃れられない。
……膂力の差でも、魔力の差でもない。
……彼女は既に囚われている。
「……Bang★」
右手で銃を放つようなジェスチャーと共に、『黒星』を彼女の胴に撃ち、その威力で彼女が大きく吹き飛ばされた。
「……ぁがっ!?」
レオパルドの『滅殺光線シュトラール』を元に作った『黒星』は、貫通力に乏しいが吹き飛ばし効果は結構高い。
……そして、吹き飛んだ位置は私の想定通り!
「……これは!? 拘束魔法!?」
公園の遊具やベンチなどの影から、茨の蔦が生えており、それにぶつかった青の騎士の体を縛り上げていく。
ルベルブルーメの『影縛り』、マジアベーゼの『マリスネスト』。
これら二つの属性を解析して創った『黒の庭園』。
……何かあの事件以降、私が紐状のものを作ろうとすると何故か、植物っぽくなるんだよね……。
……まぁ、棘があると拘束した相手が痛がって身動き取れなくなるから便利なんだけどさ。
「……残念。私は簡単に仕切り直させるほど優しくないよ?」
格ゲーでハメ技ができるなら当然するし、浮かせたら体力ゲージが無くなるまでエアリアルコンボはデフォですし。……まぁ、おねぇ以外だとCPU相手だから問題になりませんとも。
そして、リアルだったら? ……当然、相手が無防備だったら追撃するよね、ってことで。
……私は必要だったら、死体蹴りだって辞さないよ?
「……『黒星十字』」
……『黒星』は別に右手から発射とは決まっていないものではあるが、特に理由がなければ、右手で銃を作り、その銃口である右手の人差指から発射することにしている。
……ルベルブルーメの魔法を解析した『影』は便利だ。
本人がどう認識して使っているかは知らないが、私はこの魔法の一部を、自己意識の拡張と理解している。
影を通じて繋がり、その先に自分の意識を乗せる。
光に照らされてできた私の右手は果たして、右手とわかるだろうか。
影と手が近ければその輪郭ははっきりとしているであろうが、距離があればあるほどその輪郭はぼやけ、私以外には右手とすら認識できなくなるかもしれない。
……逆にその辺にある影はもしかしたら、私の右手のものかもしれない。
いいや? 私以外に右手の影と認識させる必要もない。
そこにあるものが私の右手の影であれば、その影を作った右手がその近くにあるということ。
……私は右手で銃の形を作り、青の騎士に向けた。
ずずっ、とあらゆる影が彼女の方に向き、ぼんやりとした私の右手の輪郭を映しとり、それらは一斉に彼女を指さす。
ぶわり、と無数の『黒星』が彼女の周囲に浮かぶ。
無数の『黒星』に囲まれて、彼女はこちらが見てわかるほどに顔を青ざめた。
「……まぁ、死にはしないでしょ? 存分にお楽しみあそばせ?」
「やめっ!?」
……「やめて」っていうくらいなら、最初からこっちの話をちゃんと聞けばいいのに……。
人間、やっぱり対話って大事だよね☆
「……Feuer♡」
そう口にして、くっ、と軽く指先を上げ、銃を撃ったときの反動の真似をした。
……かっ、と黒い閃光が迸る。
ふぅ、と私は硝煙のない銃口に息を吹きかけた。
◇◆◇
ちょっとした爆心地になったその場所の中心。
黒焦げになった
「……………………ぁ………………ぁ…………」
……驚いたことに、こんな状態であっても息はあるらしい。
(ふ~む? 予想通りと言えば、その通りなんだけども……それにしてもこれ程か)
…………いいや、既に死んでいる者をこれ以上殺すことなどできないと表現すべきだろう。
(……さぁて、またキナ臭くなってきましたなぁ……)
マジアベーゼの暴走から始まり、クリーチャーの暗躍と私のアレ。これらに加えて、今回のコレ。
誰が、何のために、こんなことをしているのか、現状で意図は読み切れないが、良くない流れなのは間違いないだろう。
(……音楽活動に専念して、夢のおうちの購入費を貯めたいのにっ!!)
お金にならない魔法少女活動より、お金になる音楽活動が優先である!
ちなみに、姉やキウィちゃんに関するあれやこれやはプライスレスなので最優先! あらゆる予定に優先する!!
俗物呼ばわりされても構わないもんね! 人間、何だかんだいって欲望に忠実なものだし!
……だが、私の「姉とキウィちゃんとらぶらぶエッチな自堕落ライフ」に悪影響を及ぼしかねないものは、当然ながら排除する。排除するべきだ。排除しなくてはならない!
「……くふふ♡」
……笑みが零れる。
……私は。……私が思っている以上に、ずっと好戦的らしい。
……相手が誰だか知らないが。
(……私の夢の邪魔をするなら殺すだけ)
「……くっふふふふふふ♡」
◇◆◇
「……………………嘘やろ」
マジアサルファは自分が冷や汗を流していることを自覚した。
自分の戦闘時間とて、それほど長いものではなかった。
未だ練習中であった切り札を切らざるを得なかったという状態ではあったが、他者から見れば、圧倒したと言って差し支えない内容だった……ハズだ。
……だと言うのに。
マジアアトラもネロアリスも既に戦闘を終えていた。
アトラは何をやればそうなるのか、地面がガラス化した状態のクレーターの真ん中で、黒焦げの何かを見下ろしながら、何やら黒い笑みを浮かべていた。
……ネロアリスに至っては、裸体で倒れ伏した相手には既に興味を失ったようで、欠伸をしている始末……。
(……二人して汗一つかいてへん……まさかこれほどの化け物やったとは……)
……強い。
アトラの意味わからん強さは今に始まったことではないし、彼女は一応、味方?である。
一方で、ネロアリスの異様とさえ言える強さは、自分たちにとって相当な脅威となるものだ。
……もっとも彼女は少なくとも自分たちを殺そうと戦っているのではなく、ある種のお遊び感覚であるというのは、命に危険がないという意味では救いではあるが。
(……少なくともこの場で、敵対行動はあかんなぁ……)
……三人の敵対者をアトラがどうするつもりなのかはわからないが……結果、最悪の決断をしたとしても、サルファは異議を挟むことはできないだろう。
マジアマゼンタであれば、その善良さ故に。マジアアズールであれば、その正義感故に。後先を考えずに異議を唱えたのであろうが。
(……それはウチにはできひんなぁ)
良い意味でも悪い意味でも損得勘定ができてしまうサルファにはできないことだ。
……しかし、いざというとき……綺麗ごとでは済まないときに、泥を被り、泥を啜るのが自らの役目とサルファは覚悟を決めている。
(……いずれにしろ、この場の判断はアトラ次第)
何せネロアリスは興味なさそうだし……くふくふ、と笑っているアトラの笑顔は真っ黒で直視すらしたくない有様だが、既に何らかの結論は得ているのだろうし。敵との戦闘に手一杯だったサルファが判断できるようなことは何もない。
……ただ。
(……あの顔……何企んでるんやろうなぁ……)
……はぁぁ、とため息をついて、サルファは碌なことにならなそうな未来を思った。