「……………………嘘やろ」
驚愕と呆れの混ざったようなサルファの声に私は振り返った。
「あは……サルファも終わった?」
アリスちゃんはとっくに終わって、欠伸してる……うん、まぁ、そうだろうね……。
ぽてぽてと歩み寄ってくるアリスちゃんが、こてん、と私に背を預けてくるので、仕方ないなぁ、と後ろから抱きしめる。
……眠そうな姫はご満悦の様子である!
「……仲ええなぁ?」
「少なくとも今日は明確に敵対してないですし。……サルファも抱きしめてみる? それとも撫でてみる? やわっこくて、ぽかぽかできもちいぃよ?」
こんな場所じゃなかったら、一緒にお昼寝でもしたい気分だよ……あ、でももう夕方か。
「……いや、遠慮しとくわ……」
サルファの「ないわ~……コイツ、ないわ~……」的な目は……アレですか?
アリスちゃんの私に対するすきすき光線がぽわぽわ見えちゃってる感じですか? ……そうですか。
……まぁ、でも実際、そんな状態で同じようにしてみるか、と言われても、アリスちゃんが許すかどうかの問題もあるし……万が一、拒否されたり、威嚇されたりしたら、悲しいもんね。
……特にサルファって、魔法少女として小さい子に気遣って本性をあまり見せていないところもあるし。イメージ戦略もあるんだろうけど、実は、小さい子の面倒見たい、って気持ちがあるのに、怖がらせたらあかん、とか思って、実際にはマジアマゼンタ辺りに対応させてそう……。
「……しっかし、アトラ……その……黒い焦げみたいになってんのは、アレやんな……?」
「アレだねぇ」
「……い、生きとんのか、ソレ……? 『半殺し』言うたんはアンタやろ……?」
まぁ、サルファの方は、
アリスちゃんの方は……あ~……精神的に殺したみたいな?
私のは……九割九分九厘殺しというか……。
「……ん~……この状態を何て表現したらいいのかは私も悩むんだけど。息はしてる、という意味では『死んでない』……と言うか、死ねないんじゃないかな?」
「……何やて?」
「……まぁ、トレスマジアならあのぐらいやっても死なないだろうな、くらいの手加減は、いちお~してはいたんだけども」
「……見てへんから何とも言えんけど……ウチどころか、色んな意味でタフ過ぎるアズールかて死んでしまうわ、こんなん!!」
「謙遜謙遜。サルファの防御でだって軽減できるし……アズールは……うーん……私としては消し炭にしたいけど、受けきるんじゃないかなぁ? ……それで、コレなんだけども」
私はアリスちゃんを放して、黒く焦げた何かに近寄る。
……辛うじて、人であるということはわかる。
火傷という表現を通り越して、炭化してしまってはいるが、これは青の騎士だったものだ。
通常の人間であれば、当然のことながら体全体が炭化している状況で生きていることなどできないだろう。
数多の『黒星』の爆発は、肌を焼き、喉を焼き、肺を焼き、内臓を焼き、血液を沸騰させ、体中のたんぱく質のほとんどが変質し、最終的に炭になっている。
……だと言うのに、この黒い塊は、未だに息をしているのだ。
まるで何かに生かされているみたいに!
「……アトラ?」
私が止めを刺そうとしているように見えるのか、サルファが不安そうな目を向けてくる。
……そう見えてしまうのは仕方ない。
私からすれば還そうと思っているだけなのだが。
私は、かつて、青の騎士だったものに、左手で触れる。
……私の魔法。『吸収』。
……これは本来の使い方ではないのだろう。
……魔法を解析、分解する……そして、吸収をしないまま、魔力を……彼女を空に還す。
「……なっ!?」
サルファが驚きの声を上げる。
聡い彼女のことだ。私がやったことを理解しているだろう。
青の騎士だった
サルファたちが使う魔法と同じように、役目を終えて。
「……答えは御覧の通り。彼女たちはそもそも生きていない。故にこの魔法が機能している限り、その機能を継続する。魔法の内容は……魔法少女の再現、ってところかしら?」
……趣味悪いよねぇ。
人型であったとしても、魔法少女じゃなければ、もう少し罪悪感も減るのに。
私やアリスちゃん、サルファで良かったよ……。
マジアマゼンタだったら、メンタルが病んじゃうだろうし、マジアアズールは罪悪感で死にそうになるだろうし。
……マジアベーゼ……ベーゼ様だったら、怒り狂って、また暴走しちゃうかもだし?
もしや、それが狙いかも、とも思ったが、だったら、何故このタイミングだったのか、ということに疑問が残る。
……一番ありそうなのは、クリーチャーが実は死んでなくて、また、私の体を狙っている、とか?
……ありえないわけじゃない。だが、やはり違和感がある。
アレは、私の精神構造を正確に理解しているハズだ。ならば、私が魔法少女の形をした何かを相手に遠慮も呵責もないことは承知済。むしろ、嬉々として殺しに来てもおかしくないであろうことは理解しているハズ。
……だと言うのに、少々手ぬるい感じがする。
……まさかとは思うが……狙いはアリスちゃんか?
彼女の魔力はベーゼ様に次ぐ……そして、未だ真化前。
そういう意味では手ごろと言えなくもないが……。
私は、そろそろ本格的に眠そうにしているアリスちゃんを見る。
……うん! アリスちゃんは、こんなのに興味ないよね! 知ってた!!
……一方のサルファの表情は深刻だ。
「……ほんなら、この子らは……そもそも存在してへんいうんか?」
……サルファはドライに見えるが、トレスマジアの中では一番人間臭くて、好きだよ、私。
……何となく想像できたとしても、一番最悪な結論を最初に除外したんでしょう?
「……いいえ、彼女たちは既に死んでいるハズよ。そうでなければ、ここまでリアルに再現できないでしょう? ゼロから作り上げるより、元からあるものを模倣する方が易い」
姉の執念は凄まじい。古今東西、あらやる魔法少女を網羅している。……いや、中には姉の嗜好とは一致しない者もいるけれど、知識としては持っていて……そして、姉が知っていることは私も知っている。
……その中に彼女たちに該当するものはない。
しかし!
「……魂を。存在を。契約で縛って。……もし、魔法少女が死んだら、それをエネルギーにする、ということだったら?」
……クリーチャーは自らが滅びゆく世界の救世主となるべく、魔力を集める装置としての機能を私に求めた。それが故に私に与えられた『吸収』の魔法。
……ヴェナリータはベーゼ様を暴走させて、その有り余る魔力を手に入れようとしていた。
これらだけではない。不自然なほど各地で長く争い合う魔法少女と悪の組織。
その意味を考えるに……『魔力』。これを集めるための方策がそれぞれに異なるのだとしたらどうだろうか。
その内の一つ……『争い合う魔法少女たちから、溢れる魔力を回収する』というものは考えられないだろうか。効率は悪くても、長く魔力を回収できる方法の一つだと思う。
そして、万が一、魔法少女が戦闘中に亡くなったとしたら、それを無駄にすることなく、魔力にする方法を仕込むだろう。
……安全だと、君のためと嘯き。
それをそれと知られることなく……強かに、密やかに。だが、確かに、強く契約として、対価として強要する。
「……『認識阻害魔法』。魔法少女になったとき、自動的に付与されるこの魔法……私はこれが諸悪の根源と考えている」