「……何やて?」
マジアアトラの語る推論にマジアサルファは戦慄した。
マスコットたちが意図して、悪の組織と魔法少女を争わせているとしたら、というIF。
マジアマゼンタに誘われて始めた魔法少女
エノルミータの世界征服を阻止するため? ……確かに、初期の頃はそういった想いはあったかもしれない。
だが、今の彼女たち……マジアベーゼを総帥に据えたエノルミータは、かなりの確率で世界征服とかどうでもいい感じだろう。
正直、しょうもない……あるいは、自分たちを標的としてえっちぃことをしてくるくらいで、世間への害と言うと……。
『うわ……また、エノルミータが変なことしてるよ……』
……おそらくこれくらいなのではないだろうか。
ロードエノルメのときは、ある種のテロリストだったが、今の彼女たちは完全な愉快犯だ。
……放置しておけばいいものを、トレスマジアは彼女たちを相手せざるを得ない。半ば義務的に。
確かに、これまでの確執を考えれば、容易に放置できる相手ではないが、だからと言って、ここまで執拗に争う理由はあるだろうか。
(……いや、あるわっ!!)
散々酷い目に遭ったし、マゼンタを剥いたり、マゼンタを誘拐したり、マゼンタに変な魔力注入したり! あと、特にレオパルトは気に入らない!!
……だが、冷静な観点で見れば、アトラが考えていることは、一考の余地があった。
「……ウチらは既に術中か?」
「……残念ながら、その可能性は極めて高いと言わざるを得ない。そして、それがわかっていたとしても……」
「『認識阻害魔法』の恩恵を捨てることはできひんなぁ……性質が悪いわぁ」
『認識阻害魔法』は身バレ防止の意味で不可欠なのだ。特にエノルミータを相手にしているトレスマジアは死活問題である! いや、マジで!!
(……拡散されたら、死ねるわ……)
身バレしてないから、顔を覆うくらい恥ずかしい想いをするくらいで事なきを得ているが、これで身バレしたらどうなる? 普通に社会的に死ねる!
「……『認識阻害魔法』は魔法少女にとっての生命線。でも、だからこそ、この魔法がこれほど低コストで使える訳がない。裏があって然るべき」
高度情報化社会。ひと昔前とは異なり、今起こっていることはリアルタイムで世界の裏側まで発信できる。
高度に隠ぺいができなければ、誰が魔法少女なのかはすぐにバレてしまうだろう。
現代技術ならば……例えば、周辺住民の中から、その時間、その場所に
……だが、技術的にはできるとしても、誰もそれをやろうとはしない。
おそらくは、そう思考が誘導され……あるいは記憶すら書き換えられていたとしてもおかしくはない。
……それほどの大魔法なのだ。『認識阻害魔法』は。
そんな魔法がノーリスクな訳がない!
「……つまり、アンタが言いたいのは……」
サルファの言葉へのアトラの回答は笑みだった。
彼女らしい薄く微笑んだ程度の笑み。
……しかし、これ以上ないほど恐ろしい。
ふるっ、とサルファの背筋が震える。
「マスコットたちの……クリーチャーどもの言い分を信じちゃダメっていうこと」
アトラの黒々とした瞳にはサルファの姿すら映さない深く濃い憤怒の色だった。
「……現にエノルミータは相当警戒しているでしょう? ……アレらは、この世界じゃ異物。同じ言葉で喋っていても、思考回路も善悪も全く別の存在」
……事実、被害に遭った(?)彼女の言である。否定する術をサルファは持たない。
……強いて言うなら、その思考回路すら読み切って、あっさりぶち殺したお前はなんなんやねん、というくらいである。
言うまでもなく、マジアアトラは魔法少女としては異質の存在であり……しかし、彼女は魔法少女足らんとしているとサルファたちは信じてきた。
……だが、彼女の異質さはその存在だけではなく、その思考回路にこそあるのだと気づく。
魔法少女の存在が善性であり、その考えも、友情、努力、勝利の眩いものであるとすれば、彼女は悪性を旨とし、偽り、貶め、陥れることこそを是とする。
「……でも、トレスマジアの中で笑顔のまま警戒できるのは、あなた以外はいないでしょう、サルファ?」
……そして、それはサルファにも似ていた。
「なるほどなぁ……それは確かにウチ以外にはできひんなぁ」
サルファは善くあろうとはしても、決していい子ちゃんではないのだ。
謂わば、善性のうちの悪性とでも言うべきか。
マジアマゼンタとマジアアズールの二人が何の根拠もなく信じるのであれば、マジアサルファは疑うことこそが役目。
「……もっとも……これは状況証拠から私が推測したものに過ぎないのですが」
「は! 他ならないアンタが推測したんやで? 疑うには十分過ぎるわ!」
アトラの推測が正しいとは限らないこと……それはサルファも十分に承知している。
だが、火のないところには煙は立たぬとも言う。
無警戒のまま後ろから刺されるよりも、くたびれもうけとなろうが警戒していた方がマシである。
「……しっかし、警戒すんのはええけど……結局、コレらは結局何なん?」
「先兵……と言いたいところですが、それにしては中途半端、と言わざるを得ませんね……」
(そら、アンタらはな!?)
仮に相手側の威力偵察だったとして、『つおい』という以外わからん感じである!
マジアアトラとネロアリスに対しては、確かにそんな感じではあるが、トレスマジアが相手であれば、十分に威力偵察の意味をなしたことだろう。
結果、戦力的に見れば、
(……アトラはそうは考えんやろうな。それに出現タイミングがな……)
サルファはエノルミータの……ネロアリスの魔力反応を察知して現着した訳だが、今回の三騎士は、二人の魔力に誘われるようにして現れた。
だとすれば、その狙いはどちらか、あるいは両方と考えるのが自然だろう。
……だからこそ、中途半端なのだ。
(……この場にいたのが、ウチら以外なら)
そも、マジアアトラとネロアリスが共にいて、戦闘状態にない、と考える者がどれだけいるだろうか。
一応、互いに敵対しているハズであり、出会ったのなら、戦闘状態にあるのが普通と考えるだろう。
サルファとて、この二人が妙に仲が良いのは、あまり理解が及ばなかったのだ。……無論、当の二人の状態を見れば、その仲の良さはさもありなんという感じなのだが。
(……妙なのに好かれるんやな、アトラ……)
今のところ、ネロアリスが一方的にアトラにアピールしているように見える。アトラもアトラで明確に拒絶しないどころか、受け入れつつあるようにすら見える。
マジアアトラは真化によって、若干の大人モードにはなっているものの、彼女の実年齢はネロアリスとの同年代……おそらく小学生であると推測される。
だとすれば、同年代のネロアリスがアトラに親近感を覚えるのは別段おかしな話ではない。
(……仮にこの二人が戦闘中のところにアイツらが乱入してきたとしたら……?)
一応は魔法少女なのだ。マジアアトラに加勢して、ネロアリスと敵対することになるだろう。
ネロアリスが正体不明な強さを持っているにしろ、マジアアトラに加えて、更に魔法少女が三人……さすがに手に余るのは間違いない。
(……狙いはネロアリス?)
……確証はない。……しかし、少なくともアトラには同じような考えはあるだろう。
……まぁ、当のネロアリスは全く興味なさそうだが!
「……それにしても、再生魔法少女ですか。それは特撮の領分でしょうに」
「再生魔法少女言うんはやめーや……せめて、英霊召喚とかなぁ」
サルファとしては、戦闘の末に亡くなった先達への畏敬も含めて、そのように言ったのだが……。
「……英霊、ですか」
ふむ、とアトラは何かを考えるようにしながら、頷いた。
「おぅ、アトラ! 聖杯戦争がどうたら言うたらあかんぞ!」
「……そんなつもりはありませんが」
共通している部分は多いんですよね、とアトラの唇が動いた。