悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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78 柊つぼみの嫁力

 薫子ちゃんを柊家にご招待!

 

 いやぁ……丁度良いところにいてくれて助かったよ薫子ちゃん!

 

 昨日の今日でこりすちゃんとおうちに二人きり…………?

 

 ……もうヤバい予感しかしないよね!?

 

 こりすちゃんに襲われるか、こりすちゃんの魅力に耐え切れず私が襲うか……どっちも、の三択くらいだろう。

 

 最後までいたしてしまったらいたたまれないし、()()姉たちに目撃されたら……考えたくもないね……親友と二度と会えなくなりそうだよ……。

 

 しかし、こりすママは今日も帰りは遅くなると言うし、『よろしく☆』とメッセージも直接もらっているし……何よりこりすちゃんが私のごはんを楽しみにしているみたいだし。

 

 ……こりすちゃんが私のおうちに来て、ご飯を食べるのは既定路線。

 

 せめて、姉が補習じゃなくて、ちゃんと帰ってきてくれていれば……っ!

 

 ……最近、姉の頭がピンク色なことには何も言うまい……あれだけ煩悩溜まれば、キウィちゃんとの仲も進展しようというもの。それができなくても、私を欲望の捌け口に使ってくれる可能性もワンチャン……。

 

 ……おねぇはSMが好みらしいし、縄で縛られちゃうかも♡ でも、おねぇってば、自分では多分やろうとしないから、ここは私が気を使って、自分で自分を縛ったイケナイ格好でおねぇのベッドで待機するべきかな? でもでも、ちゃんと道具がないとおねぇも困っちゃうから、道具も用意しないと♡ 手錠に縄、首輪、目隠し、電マ、ろうそく、鞭……後はサインペンとか筆とか? ビデオカメラも用意しちゃおうかな♡ 夢が広がるなぁ……♡

 

 ……じゅるり……♡

 

 ……ふふふ、私はいつでもうぇるかむだからね、おねぇ♡

 

「……アンタ、またしょーもないこと考えとるやろ……」

 

「……おっと失礼」

 

 薫子ちゃんに指摘されて、うへへ笑いしながら、口元から、たり、と零れていた涎をそっとハンカチで拭って微笑む。

 

 ……今日もかわいいつぼみちゃんですが、何か?

 

 私のおすまし笑顔にこりすちゃんは、ぽっ、と頬を染めて、薫子ちゃんは嫌そうに顔を顰めた。

 

「……つぼみのその完璧な笑顔はあれやな……詐欺やな」

「失礼な」

 

 ……いや、私ごときの笑顔で喜んでくれるのはこりすちゃんくらいだろうけれども。直前まで変なことを考えていたとは一切思わせない私の営業スマイルは鉄壁である!

 

「……薫子ちゃんも同類でしょ?」

「……そないなことないよ?」

 

 うふふ、とお互いに微笑み合う。

 

 ……見た目はおっとり笑顔の薫子ちゃんだが、彼女の性格は結構攻撃的なところがある。もっとも人前ではそんな様子を見せないのだから、見た目詐欺みたいなのはお互い様だと思う。

 

 薫子ちゃんをリビングのソファに案内すると、勝手知ったるこりすちゃんは冷蔵庫を開けて飲み物の用意をしている……まるで、自分の家に招待したみたいだが、ある意味こりすちゃんもホスト側ではあるし、私のお手伝いをしていると思えば普通なのかもしれないが。

 

「……お、それに目を付けたか……目ざといね、こりすちゃん」

 

 彼女が取り出したのは、昨日、私が作ったコーラシロップである。

 

 適量注いで炭酸水で割れば、お手製コーラの出来上がりだ。まだまだ試行錯誤中だが、甘すぎないそれをこりすちゃんは割かし気に入っているらしい。

 

「……お手製のコーラ……?」

 

 薫子ちゃんは、珍妙なものを見たような顔をしているが、そこまでこだわらなければ、そんなに難しいものではない。……まぁ、黒くてしゅわしゅわするあれとはまた違う感じではあるが、自分で味が調整できる分、こっちはこっちでおいしい。

 

「……ホンマにアンタは家庭的というか……いや、これ家庭的なんか? 趣味人過ぎるんとちゃうん?」

「そんな大したものじゃないよ」

 

 ……ぶっちゃけ各種香辛料と砂糖、レモンをぶち込んで煮込んでシロップ作っただけだし。

 

「……おぉ! 市販のとは全然別もんやけど、これはこれでうまいやん!」

「♡」

 

 薫子ちゃんとこりすちゃんがソファに並んで、コーラをおいしそうに飲んでいる。

 

 私もこりすちゃんが作ってくれたそれを口に含む。

 

(……シロップ多すぎ)

 

 こりすちゃん的にはサービスのつもりだったのかもしれないが、何事にも適量というものがあるもので……。

 

 ……私はキッチンに移動しつつ、こっそり炭酸水を足した。

 

◇◆◇

 

 キッチンではピンク色のエプロンを付けたつぼみが夕食の支度を始めている。

 

 薫子は柊家を初めて訪れたわけであるが、つぼみが……ついでにうてなも、割と育ちのいいお嬢さんなんだなぁ、と考えた。

 

(……中身はアレやけど)

 

 それほど築年数の経っていない一軒家。庭は丁寧に管理され、家の中もきちんと片付けされている。全てつぼみがやっているわけではないだろうが、彼女がその一端を担っているのは間違いない。……うてなは……ちょっとわからないが。

 

 ここは私の城だ、と言わんばかりにキッチンに立つ彼女の姿は堂に入っている。

 

 コーラを飲み終えたこりすが、ててっ、と薫子の分のグラスも下げて、つぼみの隣に立ち、グラスを洗う。

 

 ……何と言うか、お母さんのお手伝いを一生懸命頑張っているお子さん、という感じである。

 

 薫子のそんな視線と、どや顔でグラスを洗ったこりすを見ながら、つぼみは苦笑気味だった。

 

「……こりすちゃんもお手伝いする?」

「……っ! ……っ!」

 

 手を挙げながら、ぴょんこぴょんこと肯定の意思を示すこりすに、つぼみは柔らかく微笑みかけると、彼女の予備であろう水色のエプロンをつけてあげている。

 

「じゃあ、こりすちゃんは、レタス洗って、ちぎってくれるかな?」

 

 任せろ、と言わんばかりに胸を叩いたこりすにレタスを渡したつぼみは、トトト、と小気味良いリズムを奏でながら、包丁を使っているようだ。

 

 既に何か調理を始めているのだろう。食欲をそそる匂いが漂ってきている。

 

 ……手持無沙汰な薫子はテレビを点けて、面白そうな番組がないとわかると、録画された番組の確認に移り、『うたBANBAN』を選んだ。

 

 最新のものだが、今回()出演しているAtraがトップバッターらしく、彼女の歌声が響いている。

 

 薫子はソファに、ぐでーっ、と寄りかかった。

 

(あー……なんやこれ……他人ん家だっていうのに、妙に居心地がええなぁ……)

 

 ほげー、と映像を見ながら、いつの間にか傍らにあったお茶とお菓子に、無意識に手が伸びる。

 

(……あー、うんまいなぁ)

 

 お手製らしいクッキーは甘さ控えめだが、お茶との相性が抜群だった。

 

 ……誰が置いてくれたのかはわかっている。

 

 料理の途中だというのに、こちらの様子を伺って、さりげなくつぼみが淹れてくれたのである。

 

 ふんふ~ん、とテレビの音に合わせて鼻歌を歌っている様子もまたかわいらしい。

 

(……えー?……なんなんこれ……最高やん)

 

 ……気の利いたお嫁さんが、こちらの様子に合わせて、お茶もお菓子も出してくれる。作る料理は絶対おいしい。子どもの扱いも上手い、とっても家庭的でかわいらしいお嫁さん……。

 

 ……ウチは新婚やったか、とちょっと脳がバグるくらいには、リラックスしてしまっている。

 

(……しかし、なるほどなぁ。……つぼみの嫁力は強力過ぎるんと違う?)

 

 つぼみと同じように、家庭的なはるかでさえも『嫁に欲しい』と言ってしまうほどの魔力がある。

 

 ……単に、料理ができる、掃除ができる、ではないのだ。

 

 初来訪の薫子が実家で寛ぐがごとく、ぐでーっ、としていても、そっと気遣いされるその空間。

 

(……人ってこうやってダメにされるんやなぁ……)

 

 これがはるかであれば、おいしい料理を振舞われて、また明日も頑張ろう、という気になるのだろうが、つぼみの場合、もうぜんぶつぼみに任せていいかな、明日も甘えよう、みたいな気分になる。

 

 完全に人をダメにする方向に能力を注ぎ込んでいる。

 ……それが薫子から見た柊つぼみの嫁力である。

 

 

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