賑やかな夕食は終わって、皆が帰途についた。静かになった我が家はちょっと寂しい。
先ほどまでが騒がしすぎたとも言えるけど。
……あんだけ言ったのに、キウィおねえちゃんと薫子ちゃんの険悪振りと言ったら!
大人しかったのはデザートが出るまでだったね!
その後はお互いに「あぁん!?」ってガンの付け合いで何かにつけて言い争うんだもの……。
まぁまぁ、とあわあわなだめると姉と、我関せずとお茶を啜るこりすちゃん!
……最終的にこりすちゃんが薫子ちゃんが途中で止めてた「うたBANBAN」を再開したことで、姉はヲタモードに切り替え、サイリウムを持ち出して振り始めると、その真似をし始めるこりすちゃんと、はぁはぁと荒い息をしながら、ローアングルで姉(おまけでこりすちゃん)を撮影し始めるキウィおねえちゃんに、ドン引きしていた薫子ちゃんが、トレスマジアの曲が始まると、姉たちと一緒にサイリウムを振り始めるという、ちょっとしたカオスだった。
……薫子ちゃん、トレスマジアのファンかな?
……キウィおねえちゃんも、望外にいい画が撮れたって、にんまり邪悪な笑顔してたのは、姉のかわいい画が撮れただけじゃなくて、薫子ちゃんを脅すネタが増えたとかそういうこと?
我に返った薫子ちゃんと取っ組み合い始めたからたぶんそうなんだろうな……。
それでも帰り際には、年長者としてこりすちゃんを送って帰ろうとした二人は、更にどちらが送っていくかで揉め……最終的にこりすちゃんが両者の手を取ったことで決着した。
「「……なんでコイツと……っ!」」
……なんて睨み合ってはいたものの、こりすちゃんがちょっと悲しい顔をすると、二人は黙るしかなく。二人と手を繋いでご満悦なこりすちゃんを連れて、帰っていった。
……まぁ、何が凄いって、あんだけ仲悪そうな二人がこりすちゃんを挟むと仲良さそうに見えちゃうことだろう。
……さすが親友。あんたは魔性の女だぜ……!
実際、あの二人、相性は最悪だけど、ある意味、息が合ってるから実は仲良しなのかもしれないけどね……。
さて。夕食の片づけも終わり、宿題もしゅっと終わらせた私は、今日撮った動画の編集作業に移る。
……と言っても、魔法で必要なエフェクトを入れて撮ってあるから、本当に編集するだけというのが凄い。いや、アリスPが有能とも言えるけれども。
新曲と動画を上手く組み合わせるのが一手間あるけれど、私がイメージしていた画が撮れているから、それほど手間でもない。
……いくら凝り性の私でも、本当のプロのようには上手くいかないから、一応、この後に事務所に送って仕上げてもらい、その後、公式にアップされる手筈だ。
(……新曲もいい感じだし、これなら目標金額もすぐかな)
一発屋と呼ばれない程度には出す新曲がヒットチャートに入っているので、私のお財布の中身は温かい。トレスマジアに楽曲提供の予定も入っているし、それ以外からもちらほらと依頼が来ている。
……正直、魔法少女やってる時間の方が無駄なのだが。
(……でもあれは、一種の広報活動なわけで……)
トレスマジアにしろ、Atraにしろ、魔法少女活動があって初めて、アイドルのようなものとして売れているのである。
……両者のバランスを取るのは中々に難しい。
魔法少女側の露出が減るとおそらくAtraの方の売り上げも下がるだろう。
……売れそうな曲、歌詞が作れたとしても、それだけで売れるほど実力があるとは思っていない。
ピアノやギターはある程度習ったけど、それだって専門にやっているわけではないし、ボイストレーニングだってやっていない。動画を見ながら一応の練習はやっているけれどね。
トレスマジアはボイストレーニングやダンスは専門の人が教えているらしいが、私はそんなのやってない。
……ぶっちゃけ、シンガーソングライターAtraは作詞作曲ができるだけの素人なのである。
まぁ、素人でここまで売れてるんだからいいでしょ、と思わないこともないけど……。
夢のおうちを! 夢のおうちを作るまでは! 私は売れ続けないといけないんだっ!!
うへへ♡ 防音で~、水洗いもできて~、ちょっと特殊なプレイをしても大丈夫なように作って~♡♡♡
でも、日常生活はらぶらぶできるように、特注のおっきなベッドが必要でしょ♡ お風呂も大きめにして♡ あ~、マットも用意しようかな~? あとあと、特殊プレイは後から大画面で見たいから、ホームシアターも必要かな♡ でも、そんなの見てたら、絶対、見てるだけにならないから、すぐにデきるようにこっちにもベッドがいるかも♡
「……うぇへへぇ……♡」
……設計から頑張らないと!
てんてて♪ てっててろてろ♪ てっててろてろ♪ ててててててててっ♪
「……おろ?」
ネモちゃんからの電話だ。珍しい。いつもメッセージばっかりなんだけど。
「は~い」
『おーっす、つぼみ』
「ネモちゃん、電話は珍しいねぇ」
『あー……そうか? まぁ、メッセージじゃちょっとなぁ……』
「……なるほど、文字で残したくないと」
『そうじゃねえよ!? ……いや、まぁ、それもあるかも?』
「どうせ真珠ちゃん関係でしょ? 知ってる知ってる」
『そうだけどさぁ……!』
……だって、いつもは、『一狩り行こうZE☆』くらいの軽いメッセージしか送ってこないネモちゃんがだよ? 電話でお話、しかも、ちょっと何か言い淀んでる感じから、何かしらの相談かお願いだって想像できるし? ネモちゃんの相談と言ったら、真珠ちゃんでしょ! むしろそれ以外に何があると言うのか!!
『いや、実はな……』
……ネモちゃん曰く。
トレスマジアやAtraが結構な人気で「うたBANBAN」出ている様子を真珠ちゃんが見て荒れているらしく。
黒くてしゅわしゅわなにくいあんちくしょうの砂糖入っている方を自棄飲みしつつ、チョコやらポテチやらの高カロリー食品も自棄食いしているらしい。
「……それで真珠ちゃんのボディラインがぷよんぷよんになることを心配してるから、私にダイエットのメニューを考えろってことだね!」
『ちげぇよ!? 健康状態はちょっと心配だけども!? いいじゃん、ちょっとぷよぷよだって、あれはいいぷよぷよなんだぞ!』
まぁ、真珠ちゃんおおっぱいはばるんばるんだからね。数値だけなら、キウィちゃんよりおっきぃ。
身長が低い分、キウィちゃんの方がインパクトあるけど。
真珠ちゃんはアイドル目指すより、グラビアやった方がいいと個人的には思っている。
『……つぼみさぁ、DTMやってるだろ? ……その、真珠に一曲作ってもらえねーかなって』
「……それって個人的に楽しむだけ? それとも動画とかでアップするつもり?」
『……まぁ、真珠的には、実際にアップして反応見たいだろうなぁ』
「うーん……ネモちゃんさぁ、やらしい話、それだったらお金取るし……私は高いよ?」
『……金取んのかよ……っ!』
「いやいや、ノーギャラでやって、万が一バズったときは揉める元だよ? ……それに私、ママのアカウントではそれなりに有名だからね? 広告収入もらえるくらいには」
『あー……『ウチの娘が天才過ぎて辛い!』ってヤツな……。新しい習い事する度にBefore・Afterの動画上げてるヤツ。お前の「もう飽きた」って迷言で締めるアレな』
……大体五歳のときくらいからちょくちょくやっている。
私的にはできることをやっているだけなんだけど……。
ピアノの習い事をしたときからママが撮り始めたのだが。
本当に最初は、始めたときから、こんなに上手くなってるよ、だからもっと頑張ろうね、ということをするつもりだったらしいが、最初こそ、おっかなびっくり、ド……レ…ミ、と弾いていたのが、二時間後には、『猫踏んじゃった』を爆速で弾いていて、一週間後には『月光』を普通に弾いている様子を見て、『あれ……? ウチの娘、もしかして天才じゃない?』とか思って、思い余って動画を上げてしまったことに端を発する。
……で、私がすぐに飽きちゃったもんだから、ピアノは二週間で辞めて、次はヴァイオリン……これも同じく。音楽だけ続いたら飽きるよね、じゃあ、次は茶道とか、華道とか……! とママの私に何かちゃんとやらせたい、という気持ちがこもっている動画たちは、『ウチの娘が天才過ぎて辛い!』シリーズとして、それなりにファンを獲得している。
なお、これらの動画をアップする度に、私の実在が疑われたため、各種検証班が、この子は実在するのか、あるいは、本当にその短期間で習得しているのか、などを検証し、「うわ、これ、マジのヤツ……!」と戦慄するまでがワンセットである。
……私、何かやっちゃいました?