悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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88 異変

 

 ……私の前でキウィちゃんが項垂れている。

 ついでに、三姉妹もそれぞれがいつの間にか私から離れて、orzの姿勢を取っている。

 

 う~ん……私がファーストキスの相手だと信じていた三人には、思っていたよりショックが大きかったのかな??

 

 ……こりすちゃんもむくれているしさ……。

 

 割と平然としているのは、はるかちゃんと姉。

 

「……ね~? かわいい妹だもん♡ ちゅうくらいするよねぇ?」

「……う、うん」

 

 さすがは長姉たち……妹とのちゅうくらいでは動じない。

 

 ……キウィちゃんは……。

 

「……ふ……ふふ……」

 

 ……どよんとしているおめめが更にどんよりしている……。

 

 ……なかなかの大惨事だね……。

 

 まさか、楽しいお買い物でこんなことになるとは……っ!

 

 私が皆の状況を苦笑気味に見ていると……。

 

(……あれ? こりすちゃん、どこ行ったの?)

 

 さっきまで私の腕を掴んでむくれていたこりすちゃんの体温がいつの間にかなくなっている。

 

(……お手洗いかな……?)

 

 自由人なこりすちゃんならありそうではあるが……。

 

 ……いや。

 

(……っ!? ……魔力反応!?)

 

 警戒していたとは言わないが、気を抜いていたわけでもない。

 この前の件から、何かが暗躍し始めていることには気づいていたのだから。

 

 ……しかし、このタイミングで、とは考えていなかった。

 

(……まずいな。なつなたちを安全なところに……)

 

 姉たちはともかく、なつなたち三人は避難させなければならない。

 

 ……だが、それすらも遅かったようだ。

 

 おもちゃ売り場の空気が変わる。悪意のある魔力が空間を埋めていく。

 

(……結界魔法……? いや、魔力で囲って閉じたのではなく、起点から広がるような空間の断絶……マジックアイテムの起動かな?)

 

 私やこりすちゃんのように、自らの魔力で世界を閉じたのではなく、マジックアイテムを使用した独特の魔力反応のように思えた。

 

「な、なに、こ、これ……!?」

 

 はるかちゃんが焦ったように周辺を見渡しながら、妹たちをかばうように身構えている。

 

「……うてなちゃん」

「……うん、キウィちゃん……」

 

 キウィちゃんと姉も辺りを警戒している。

 

「「「……つぼみぃ!」」」

 

 なつなたち三人は一番近くにいた私に抱き着いてきて、不安を露わにしている。

 

 ……他のお客さんたちは……やはり、明らかに空気が変わった様子に気付いて、不安そうに辺りを見渡していたり、こどもは泣き声を上げたりしている。

 

(……あんまりよくないな)

 

 今のところ、パニックを起こしている様子はなく、親たちがこどもをあやしているくらいだが、何かあれば、すぐにパニック状態になるだろう。

 そうなれば避難も危うい。

 冷静に判断できるなら避難経路に沿って逃げるだろうが、この状態ではそれも期待できない。

 店員は災害時の訓練などは受けているだろうけど……通常の災害と異なる今の状態で、冷静に避難誘導できるだろうか。

 

 私は頭の中で案内板に書かれていた幾通りかの避難経路を思い出し、三姉妹をいかに逃がすことを考えていたとき……。

 

 ……そして、それは、現れた。

 

 どろり、と影と汚泥を集めたような人型が通路に現れる。

 

 不定形で、何となく人型に見える程度であったソレは、少しずつその輪郭をはっきりとさせていく。

 

 ……少女。……魔法少女。

 

(……この間の魔法少女騎士!)

 

 ……彼女たちは確かに私が還した。

 

 影のような姿なのは、オリジナルではないからだろうか。

 

(……魔力量的には、彼女たちからは圧倒的に劣る……)

 

 ……だが、その技量は? 数は? ……あるいは他にも出てくる?

 

 姉に、はるかちゃん、なつな、あきほ、みふゆ。

 

 変身を見られてはならない相手がこれだけいる。

 

(……こりすちゃんはおそらく一早く気付いて、姿を隠した)

 

 ……私にも教えてよ、と言いたい気持ちもあるが。

 

 こりすちゃん一人の方が見つからないという判断だろう。

 

「……あれ!? こりすちゃんはっ!?」

 

 ……くっ!? 普段から妹たちがわちゃわちゃしているからか、はるかちゃんはこんなときでも目ざといなぁ!?

 

「……トイレだって」

「そ、そんな……こんなときに、こりすちゃんが一人だなんて……!?」

 

 ……本来だったら、はるかちゃんの言葉は正しいんだけども!?

 

「……こりすは私とうてなちゃんに任せろ。はるかっぴと妹ちゃんたちは先に避難しとけ。……つぼみ、誘導……できるだろ?」

「うん、任せて」

 

 ……この状況、キウィちゃんたちが何とかする、っていうことだろうけど。

 

 うわぁ、とか、ひぃ、とか悲鳴が上がって、一般の人たちが逃走を始めている。

 ……店員の誘導は間に合わず、無秩序に逃げる彼女たちは、無意識のうちに自分たちが辿ってきた経路を戻っているのだろう。エスカレーター付近に人が滞留している。

 

 ……しかも、火災などとは違って、発生した場所を回避できる訳ではないので、逃げた先にはまだ別のがいるのかもしれないと考えれば、あんまり賢い選択とは言えない。

 

(……結界から出れるかどうかもわからないしねぇ……)

 

 とは言え、一般人からすれば何とか逃げるしかない。

 

 ……幸いにも魔法少女がいるこの街の住人ならば、すぐに魔法少女が駆けつけてくるであろうことは何となく頭の中にはあるだろうし。

 

「……はるかちゃん、なつな、あきほ、みふゆ。こっち! 怖いだろうけど、手をつないだりしないで、自分たちで走って!」

 

 なつなたちは私かはるかちゃんにしがみつこうとしていたが、それを制して走り出す。

 

 かわいそうだけどそんな状態で走れば転びやすいし、何かあったときに対応し辛い。

 

 できるだけ広い通路を通り、階段を目指す。

 

 そんな私たちの横を、いつもの猫のぬいぐるみに乗ったネロアリスが通り過ぎていった。

 

「……今のネロアリス!? ()()()()これってエノルミータの仕業じゃないの!?」

「……だろうね。彼女たちならもっとおバカで楽しい感じだもの」

「……あはは……」

 

 ふーん……はるかちゃんでも、これがエノルミータが原因じゃないって気づくんだ。

 

 ある意味愛されているよね、エノルミータって……。

 

 何かやらかしたとしても、『何だ、また、エノルミータか……』と呆れられ、『お、じゃあ、トレスマジアがくるな!』と観戦モードに入られるくらいだからね……悪の組織として地域と共生してるわ……。それでいいのか、悪の組織……。

 

 ……でも、アリスちゃんが間に合ったのなら、あちらはどうとでもなるだろう。

 

 問題は……。

 

「……止まって」

 

 ……ずる、り、と影が人型をとって現れた。

 

「そ、そんな……こっちまで……」

 

 はるかちゃんが妹たちをかばうように抱きしめる。

 

 ……私ははるかちゃんたちをかばうように立って、影と対峙する。

 

「つ、つぼみちゃん!? 駄目っ!?」

 

 はるかちゃんが私に制止の声を上げる。

 

 ……だが、私は見てしまっていた。

 

 はるかちゃんの腕の中、声もあげることができないほど恐怖した、なつな、あきほ、みふゆの三人の涙を。

 

◇◆◇

 

 はるかは震えて涙を浮かべる三人の妹を腕の中に抱いていた。

 

 何かあれば自分の身を盾にするつもりだった。

 

 変身を考えるよりも先に体が先に動いていたのだ。

 

 だから、それを庇うように影と対峙するつぼみの姿を見て、血の気が引いた。

 

 妹たちの親友。級友の妹。はるかにとっても友人と言っていい存在。

 ちょっとだけやんちゃなところのある料理がすきで、スポーツ万能な女の子。

 

 ……柊つぼみ。

 

 妹たちと一緒に育っていく彼女の姿をずっと見てきた。

 

 その少女が、怖いだろうに、影……魔物と対峙している。

 

 それは自分(マジアマゼンタ)の役目だったのに。

 

「つ、つぼみちゃん!? 駄目っ!?」

 

 ……早く、変身を、と考えるが、それよりも先につぼみが動き始めてしまった。

 

「……なつなを、あきほを、みふゆを泣かせるなんて……ゆるさんっっっ!!」

 

 ()()()言葉ではあったが、気持ちだけでどうにかなる相手ではない……。

 

 ……ハズ、だった。

 

 影が動く。おそらくは剣を模しているのであろう鋭く尖ったその剣先で、つぼみを貫こうとしていた。

 

(……危ないっ!?)

 

 普通であれば、つぼみはそのまま剣で貫かれて絶命していただろう。

 

 ……しかし、彼女は普通ではなかった。

 

 自分に向かってくる剣に向けて、体を前に動かしていた。

 

 切っ先が自分の額に触れるか否かのその刹那、するりと剣を躱して、相手の手を捩じった。

 そのまま手を押さえてつぼみが前に体を進めれば、自然、肘が曲がり、影はのけ反るように体勢を崩した。

 つぼみはそのまま相手の背中に自分の背中を当てるように体を入れると()一本背負いのように相手の腕を持ったまま、体勢を崩した相手の重さと自身のバネで、影を宙に浮かせる。

 更に容赦なく、その腕を引き、床に相手の頭が直接刺さるような角度で叩きつけようとする。

 

 ごっ、と鈍い音が響く。続いて、ごきっ、という何かが砕けた音がした。

 

 よく見れば、地面に頭をたたきつけ、投げる勢いのそのままに、つぼみの膝が影の後頭部に刺さっている。

 

 ……人間であれば即死レベル。そして、それは影……魔物が相手だったとしても……。

 

(……つ、強ぉ……っ!)

 

 ……はるかは驚愕した。

 




小手返しで手首を、更に逆一本背負いの形にすることで肘を極めつつ投げ、相手が地面に刺さると同時後頭部に全体重を載せて潰す。
雷だとローキックで相手の首を圧し折る感じだけど、ちょっと手緩いと思ったのでこうなった。
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