両手を腰に当てて、微笑んでいた私は、次なる敵の出現を察知し、さすがに顔を硬直させた。
(……まだ増えるのか……)
こっちを見ているはるかちゃんの頬がめっちゃピンクに色づいていて、熱を帯びた瞳なのは、ちょっと横に置いておくとして。
「……はるかちゃん、なつなたち任せるよ」
未だ出現の兆候は表れていない、しかし、確実にそこに現れるであろう影に私は体を向ける。
「……はぅ♡ …………って、えっ!? まさか、また……!?」
……何か普段のはるかちゃんではあんまり聞かない甘ったるい吐息のような声が聞こえた気がするけど、さすがに妹に危険が迫っているとわかると、おねえちゃん力を発揮して、妹たちを守りつつ、私の言葉の意味を察したようだ。
(……何体来る? 二、三体なら、まぁ、何とかいけるだろうけども……)
周囲の魔力を凝縮させて、ぐる、ぐにゃ、と魔力が液体のように空中に可視化され……。
……魔力は、影のように黒く染まり、少女の姿をかたどった。
(……こりゃ、足止めが精々だね……)
囲まれたわけではないので、はるかちゃんたちを逃がすことはできる。
……ただし、それははるかちゃんと三姉妹が、その判断をしてくれるなら、だ。
……私としては、その方がいい。はるかちゃんたちが離れてくれれば、変身する、という最も簡単な解決法が取れるからだ。
しかし……。
「……はるかちゃん、行って!!」
「そ、そんな……ダメだよっ!?」
「いやだっ!!」
「……やっ」
「つぼみを置いてくなんてイヤ!!」
……まぁ、花菱家の四姉妹はそう言うだろうな、とは思ってたけど。
(……手詰まりだな……最悪は身バレも已む無しか)
彼女たちに危険が及ぶくらいであれば、私の身バレ程度の方がマシだろう。
(……前の私だったら、こんな決断をしたのかな……?)
……三姉妹は、私の幼い頃からの友人と言って良い存在ではあったし、この世界なんてどうでもいいと思っていた私でも、彼女たちは、私に関わらないで幸せになって欲しい、と思っていた。
……姉に対する執着とは違うが、彼女たちは彼女たちで、私の特別であったのだろう。
守ろう、とする気概はあったかもしれないが、自分の身が危うくなることとの天秤の上では……おそらく彼女たちの命はとても軽かったのではないのだろうか。
……まぁ、今の私には、わからないことだ。
数十体に及ぶ影の姿に、私は、にぃ、と笑みを浮かべて、拳を構えた。
それに対して、影たちも構え……!
……互いに間合いを詰めようとした瞬間に。
……大きなネコが爪を振るって、影を蹴散らした!
「……って、アリスちゃん!?」
いつものネコのぬいぐるみに載ったネロアリスが両手を腰に当てて、どやぁ、な笑顔で私を見下ろしていた。
(……間に合ったのか!)
ほっ、とした瞬間、今度は魔力の衝撃波が通り過ぎていく。
「メナスヴァルナー!!」
……何故か怒り心頭なマジアベーゼ様……♡ やだ、かっこいい♡ 濡れちゃう♡♡♡
「……大丈夫ですか? ……まったく。勇敢なのはいいですが、あまり無茶してはいけませんよ?」
ぽむぽむっ、とベーゼ様に頭を撫でられた! ……ヤバい! 変身前で接触って初めて! やっぱり衣装えちぃ♡ いいにおいするぅ♡
「は、はい♡」
えへっ、と笑って見せると、ベーゼ様は、ほっとしたような、だけど虚を突かれたような表情をした。
「……っ!」
ぴょん、とぬいぐるみを飛び降りたアリスちゃんが、私の近くまでやってくると、しばらく何かを考えた後、きゅっ、と私を抱きしめた。
え~っと? アリスちゃん、さすがにそれはマズいのでは……?
「……!」
アリスちゃんはゆっくりと離れると、ぐっ、とサムズアップすると、その手には……!
「……あ、あれはぁぁぁぁ!?」
「知ってるの、レオちゃん!?」
燃え盛る赤の自動拳銃。冷たく冴える銀の回転式拳銃。
「クトゥグァとイタクァだ!? ……やだ、かっこいい♡ アタシも欲しいっ!!」
「……えっと……クトゥルフ神話の話……?」
……この銃を知ってれば、クトゥグアとイタクァという結論に至る人は結構いるだろうけど、名前だけでクトゥルフって連想できるベーゼ様はマニアックだと思う。
……というか、アリスちゃんはコレわかって渡してるのかしら……?
「っ!」
むふぅ、とご満悦な顔だが、たぶん元ネタはあんまりわかってなさそう……。ネモちゃん辺りが「Dolls Nest」でもやっているところでも見たのだろうか。
……いや、これでアリスちゃんが元ネタ知ってたらびっくりだけどね? だって、エロゲだし。腸で縛られたり、触手とかで犯されたりと中々えげつないし。
「暴力的な威力のクトゥグア! 精密射撃というか追撃機能のあるイタクァ! くぅぅ、あぁぁぁ……っ! 二丁拳銃っていいよなぁ!?」
……いや、レオちゃんは自分の能力で二丁拳銃どころか、千丁拳銃とかもできますよね?
「……ま、まぁ、ロマンはあるよね、二丁拳銃!」
……ベーゼ様も好きそうだもんね。……軍服モチーフコスチュームで二丁拳銃なレオちゃんとか、めっちゃ刺さってそう。
……しかし……ふーむ……?
かちゃ、と私は渡された二丁拳銃を眼前で交差するように構える。
……すぅぅ、と息を吸って……呼吸を止めて、狙いを定める。
照星も照門も特に合わせない。感覚は手の延長線上。
「……っ!」
引鉄を引く。
……想像していた反動は一切なく……。
……びゃーっ、と何か出た……。
「……っ!」
「……ぁがっ……!」
アリスちゃんは、どや顔で満足そうだが、レオちゃんは何か裏切られた顔をしていた。……たぶん、私もそんな顔だ。
(……アリスちゃんめ……! さては、銃の構造とか興味ないから、適当に設定したなっ!? 単純にコンプレッションガンのエフェクトの方がかっこいいとかそんな感じで、ふんわりした感じで付与したでしょっ!?)
私とかレオちゃんのかっちょいい銃撃戦の想像を裏切るなんて!?
……………………………………まぁ、これはこれでかっこいいから私はいいや。
びゃーっ、びゃーっ、と影に銃撃? を放つ。
「おー! つおい!」
素手で戦っていたときがバカらしくなるほど楽勝だ。
一撃で影が霧散する。
「……なるほど、これで私に無双しろと。……おーけー、おーけー! 完全に理解した!」
にぃ、と笑みを浮かべた私は、影に向かって突っ込んだ。
◇◆◇
「……って、あの子、魔物に突っ込んじゃったんだけどっ!?」
ベーゼは好戦的過ぎる妹の姿に驚愕した。
「……あれならだいじょぶだろ」
「♡」
レオパルトは呆れ顔。ネロアリスは意中のつぼみのかっちょよい姿に目をハートにする。
(……と言うか、つぼみの身体能力高過ぎぃ!?)
ベーゼの眼前では、一方的な蹂躙劇が繰り広げられていた。
つぼみは銃を持っているからと言って、遠くからちまちま削るとかそんなことしない!
剣を持った相手にはむしろ前に出て、剣をかわしながら、相手の懐に入って、頭を撃ち抜いたり、心臓部分を撃ち抜いていた。
時には相手の体を文字通り駆け上り、脳天から銃撃を放ったり、ムーンサルトを決めて回りながら空中で撃ったりと……。
……その様子は確かに無双ゲームを見ているようだった。
「……あの強さなら、魔法少女になっても即戦力なのでは……?」
……しかし、ベーゼとしては、この様子を見るに積極的に敵にしたい相手ではないが、仲間にするとなると過剰戦力過ぎるように思える。
(……このまま銃を持たせるなら、トレスマジアに加えるとバランスはいいと思うけど……!)
ふはははは、と哄笑しながら、相手を蹂躙するつぼみの姿を見るに、マジアサルファよりも好戦的で……どっちかと言うと悪役側に見えた。
(……まぁ、あの子は昔から偽悪的なところがあるし)
……むしろ、自分よりも、悪の組織の総帥とか似合いそうである。
無意味にでっかい玉座にちょこんと座ってる小っさい少女。足を交差させて、ふんぞり返って、腕を組んで、邪悪な笑みを浮かべて、尊大な態度で相手を見下ろす。……めっちゃ似合う。
(…………ありだな)
うむうむ、とベーゼは頷く。何ならこのままつぼみに総帥の座を譲りたいまである。……魔法少女にいたずらできなくなるのでやらないが。
……そして、影は蹂躙された。