悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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92 ……その頃のネモと真珠

 ……時間は少し遡って。

 

「……ネモ! 見なさい、新しい衣装が出ているわよ!?」

「……いや、同じようなのもう持ってるだろうが」

「全然違うわよ!?」

 

 人形などのおもちゃゾーンに突撃したこりすたちと離れて、ネモと真珠はコスプレ衣装売り場にいた。

 

(……どうしてアイドルのコスプレなんか……)

 

 自分でアイドルになるんじゃなかったのか、他人のマネをしてどうするんだ、とネモは思いつつも、きらきら笑顔の真珠には逆らえない!

 

 ……あと、新衣装のお披露目のときは色々捗るというのもあるっ!

 

「……くっ……いい値段するじゃない……っ!」

 

 きり、と歯を鳴らした真珠の顔は、戦闘時よりも真剣だった。

 

 ただでさえオシャレに気を遣う真珠である。お小遣いのやりくりは相当に苦しかった。特に最近、新しい下着を買う率が高く、貯金を切り崩しながらの日々である。……替えの下着だってオシャレしたい! だって女の子だもんっ!

 

(……真珠に付き合って、つぼみも色々買ってたんだっけか? 何か黒いカード取り出してた、って真珠が青い顔していたけど……)

 

 柊家は一般家庭に見えるが、実は裕福なのだろうか、とネモは考える。

 

 つぼみのパソコンはハイエンドモデルのやたらスペックの高いものだし、オンラインゲームでは容赦なく課金アイテムを使ってくる。

 うてなにしてもバイトもしていないのに、どうやって魔法少女グッズを買い漁っているのか……謎である。

 

(……まぁ、つぼみは広告収入かなんかで潤ってるんだろうな……)

 

『ウチの娘が天才過ぎて辛い!』はそれなりのフォロワー数を稼いでいるので、暇つぶしレベルでやっているくせに、まぁまぁの収入だろう。次は何に挑戦するのかは、実はネモも結構楽しみにしている。

 

(……まさかテルミンがあんなことになるとは……っ!)

 

 最新のものは謎楽器テルミンのものだ。習いにいった先生を半泣きにさせるくらいにはつぼみの演奏は段違いだった。正確に音を捉え、正確なリズムを刻む……言うのは簡単だが、やるのは相当に難しい。彼女の動画から「簡単じゃん」と思ってテルミン演奏にチャレンジした者は、ことごとく爆死していることだろう。

 

 最近は音楽系統が多いが、運動系も面白い。

 

 ……特にカバディ編はすごい。

 

 小っこい体で大人に混ざって、普通にレイダーとしてもアンティとしても無双していてヤバイ! 海外のプロチームからスカウトも来ているヤバさだった。

 

 ……そして、真剣な顔で「カバディ、カバディ、……!」と言っているつぼみがまた面白い。……笑ってはいけないのだろうが。

 

 見どころは「お前は忍者か!?」というぐらいのつぼみのアクロバティックな避け具合だろう。相手の体をするするっと避けて、囲まれても相手の体を飛び越えて宙を舞う様子は圧巻の一言である。

 

(……あいつの身体能力は一体どうなっているんだ……?)

 

 テルミン演奏にしろ、カバディにしろ、FPSや格ゲーの対戦にしろ、彼女は自分の体を使うことが上手過ぎるのである。

 

 ……当の本人が、ちょびっと運動神経がいいくらいに思っていることに対しては、渇いた笑いしか出てこない。

 

 彼女が公式な表舞台に出てこないのは、偏に彼女の性格故だろう。

 

 色んなことに興味は向くが、基本的に飽きっぽい。個人プレイは得意だが、チームプレイは苦手。

 

 何でも器用に熟せるが、それでもスペシャリストには及ばない……と考えてしまう見切りの早さ。

 

(……もったいないよなぁ)

 

 ネモが見る限り、彼女の思っているスペシャリストとは、オリンピックの金メダルレベルである。比べる方がどうかしている。彼女が本気で努力をするなら、ものによっては、それすら狙えるレベルであるというのに。

 

 ……しかし、つぼみは頑なだ。お遊びで動画は上げることには抵抗がなくても、試合やコンクールには出ようとすることはない。

 

(……まるで、そこは自分が居るべき場所じゃないとでも言うように、な……)

 

 何ならネモたちの……いや、うてなの隣ですらそうであるような危うさがあった。

 

 ……最近、キウィにべったりで、そんな危うさは軽減されているようにも見えるが。

 

(……こりすがつぼみにべったりなのも問題かもな)

 

 こりすがつぼみに好意を抱いているのはわかる。つぼみもおそらくは満更でもないようだ。……今のところは。

 

(……だけど、何かあれば、アレは爆発しそうだ)

 

 ……つぼみは危うい。彼女の精神状態は常人のものとは異なることをネモは何となく感じている。

 

 真に理解しているのは、おそらくキウィくらいだろうが……ネモの懸念は、つぼみの天秤が傾いたそのとき。今ある関係を滅茶苦茶にしたいとか……台無しにしたくなるのではないか、ということだ。

 

 破滅願望……あるいは自虐的、自罰的とも言えるかもしれない。

 

 ……その根底にあるのは、「他の人と異なる」ということ。

 

 彼女がそれを改めて感じた時、自分たちの中で、どれだけの者が彼女に寄り添えるだろうか。

 

 キウィはおそらく大丈夫だが、自分や真珠は難しいかもしれない。つぼみの抱える深すぎる闇は彼女たちには重すぎる。うてなは……何だかんだ大丈夫そうではあるが、おそらく一番ダメージを受けるのは彼女だろう。……そして、こりす。イマイチ何を考えているのかわからない彼女ではあるがつぼみを支えられるかというと疑問符を浮かばせざるを得ない。

 

(……単なるあこがれなら茨の道だぜ、こりす)

 

 ネモはこりすの恋心を応援する気持ちはあっても、無理につぼみに推す気はない。つぼみの友人としてのネモは、彼女の気難しさを理解しているからだ。

 

「……ねぇ、ネモ。こっちの赤とこっちの青……どっちがいいと思う?」

「赤い方。そっちのが似合う」

「やっぱりそうよね! こっち買ってくる!」

 

(……こんくらい単純ならなぁ……)

 

 自らのパートナーが突き付けてくる地獄の二択を、さらりと正答し、ぱぁっ、と顔を輝かせる真珠を見ながら、ネモは、やれやれ、と首を振る。

 

 真珠は表情がよく変わるし、割と言いたいことを言っているので、とてもわかりやすいが、つぼみは決して腹の底を見せようとしない。表面上、愛想よくしていても、本当は何を考えてるのか読めないのだ。

 

(……まぁ、致命的なことにならないように見守るのがアタシの役目かねぇ)

 

 当事者間だけではなく、見守っている第三者の視点も必要になることはあるだろう。うてなとキウィは直接関わざるを得ないのだろうし。

 

「……お待たせっ!」

 

 買い物を終えた真珠は、ほくほく顔であった。……後で、こんな真珠を新しい衣装であんなことやこんなことをするのだと思うと、ネモの頬は自然と赤くなった。

 

「おー……じゃあ、うてなたちと合流するか……っ!?」

 

 幸せでえっちな未来を考えていたネモは突如として膨れ上がった魔力に警戒を強めた。

 

(……結界アイテムか? ……ったく、休日の買い物くらいゆっくりさせてもらいたいんだけどな)

 

 隣では、真珠も身構えている。

 

 ……魔力によるもの、ということはすぐに気づいたが……。

 

(……何だ? トレスマジアでも、シオちゃんズでもないし……アトラでもない)

 

 基本、仕掛ける側であるエノルミータである彼女たちが、仕掛けられるのは基本的に例外だ。

 

(……残ってる可能性は、シスタか、ヴェナか……あるいは新しい誰か)

 

 前者二人はこちらの素性はわかっているだろうが、後者だったら、単なる偶然か……それともわかっていて、自分たちを狙ったのか……?

 

 ネモが思考を巡らせていると、結界は建物全てを覆いつくしたようだ。

 

 ……そして、どろり、と影が現れる。

 

 周囲の人間は、異常事態を察知して逃げ始めていて、幸いにも目に見える範囲ではネモと真珠の二人きりだった。

 

(……しまったな。うてなたちはつぼみを連れてるから、すぐに変身できないかもしれない……)

 

「……うてなたちは変身できてないかもしれねーな。早く行かねーと。……蹴散らすぞ、真珠」

「わかってるわよ、ネモ!」

 

「「変身(トランスマジア)!!」」

 




……そういや、一緒に来てたわ、と今更思い出した二人w
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