(……逃げられましたか)
マジアベーゼは、ちらりとシスタギガントが倒れていたハズの場所に視線を送る。
今回の騒動……彼女が画策したものではないにしろ、何か知っていそうな雰囲気はあったので、もし、そのままだったら、ナハトベースに持ち帰って、色々お話を聞くつもりだったのだが。あのおっきぃおっぱいにはベーゼも興味がそそられていたので!
しかし、ベーゼがよろついたつぼみに目を奪われた一瞬……彼女は姿を消した。
(……転移、ではないようですが。隠蔽系の能力……? 体を大きくする以外の別の能力が……?)
……ふむ、と考えを巡らせるが、良い考えも思い浮かばず……結果、興味を失って、シスタのことは頭の隅に追いやった。
それよりも、とベーゼは視線を動かす。
……その先には、つぼみが大の字で横になっていた。
はるかとネロアリスが彼女に添い寝するように、そして、はるかの妹たちがその上に乗るようにして一緒に横になっている。
妹の無事な様子に、ベーゼは気づかれないように、ほっ、と息をついた。
(……カッコつけて、無茶して……)
最近は昔ほど向こう見ずなことはしないようになったつぼみではあったが、三つ子の魂百までと言うべきか、やんちゃな根幹は実はあまり変わっていなかったらしい。
(……それにしても強過ぎぃ……っ!!)
柊つぼみは一般人である。……一応。
(いや、ホント、何なのあの子!? そりゃあ運動が得意なのは知ってるし、本気になれば、私と違って、たぶん世界レベルのアスリートになるんじゃあ……とは思ってたけど!? 思ってたけどぉ……!?)
生身で魔物を平然と倒すわ、謎銃を持たせれば、無双するわ、自分の十倍くらいの体重差があったであろうシスタギガントを倒すわ……やりたい放題である。
魔法少女にならなくても、魔法少女並みの戦闘能力……これが、もし、魔法少女になったら、と考えると、想像するだけで恐ろしい……。
(……ま、まぁ……つぼみの精神構造は、正義の魔法少女よりは、悪の女幹部寄りだろうけども……)
彼女の行動そのものは、とてもヒロイックなもので、周囲の少女をきゃあきゃあ言わせるが、考え方は全く正義ではない。
利己的で、欲望に忠実で……実は酷く人間臭い。……もっとも、本人がそれを理解しているかどうかは別問題なわけだが。
(……でも)
ベーゼはつぼみをエノルミータを誘いはしたが……彼女が乗ってくる可能性はとても低い。
彼女自身が、正義の魔法少女より、悪の女幹部に対してあこがれを持っていることを考慮しても、だ。
(……得にもならないのに、自分からリスクを背負う子じゃないからなぁ……)
ベーゼ自身、何であそこでヴェナリータの口車に乗ってしまったのか、と思わないでもない。
……まぁ、魔法少女を甚振って、その性癖のまま、性欲を満たして、顔はつやつやで、現状、それなりに充実しているが、それはそれとして。
夢見がちなうてなと異なり、つぼみは恐ろしく現実主義者だ。
自分の利になることなら、積極的にやるだろうが、利がないなら、手を伸ばすことを考えないだろう。彼女が、あこがれ以上に悪の女幹部に何がしかの利を認めたのならその限りではないが。
「……柊つぼみさん。……先ほどの答えを頂いても?」
……未だ横になっている妹にベーゼは手を伸ばしながら問いかける。一緒に横になっているはるかが、警戒したような目線をベーゼに送ってくるが、くすり、と笑って無視した。
「ん~……まぁ、無しかなぁ……?」
……つぼみらしくもない曖昧な回答。意外、と思いながらも、ベーゼは一応説得を試みる。
「……私たちに協力すれば、あなたの願いを叶えられるかもしれませんが?」
……莫大な魔力があれば、おそらく何でもできるだろう。
ベーゼは……うてな自身は、つぼみの願い、夢を何となく察している。
……告白もされている。性的にすきだとも言われている。困惑はあるが、別に気持ち悪いとは思っていない。むしろ、妹にそこまで好かれていることに驚いたほどである。
優秀な妹と出来の悪い姉。世間的はおそらくそう評されて、姉妹である以外にうてながつぼみに好かれる理由なんて無いと言うのに。
姉としてうてながつぼみを性的に見ることはできないが……触れることも触れられることもイヤではないし、そういうこと無しでいいのなら愛していると言っても差し支えない。
もし、彼女がその気であれば……魔法をもって、全てを塗り替えてしまえばいい。
女性同士であることも、姉妹であることも禁忌とせず……むしろ推奨されるくらいの世界に。
「……自分以外の力でさぁ……叶えて
「……」
ぽつり、と零れたつぼみの本音にベーゼは沈黙を返した。
(……そうだよね……つぼみなら、そうだ)
「……私なら、そんなのはいらない。願いは……夢は自分で叶えるから意味があるんだ。誰かから与えられた結果なんて必要ない。私は……私の願いを、夢を……自分で叶えるっ!!」
つぼみは、倒れたまま、天に向けて、拳を突き出した。
「……ベーゼさ、んのお誘いは、とっっっっ……ても、嬉しいけどぉ!?」
(……あれ? 思ってるよりもずっと未練がましいぞ……?)
……彼女が何を考えているのかはよくわからないが、ぐっ、と堪えるような表情で、何なら目にはちょっぴり涙が浮かんでいた。
「……でも、ごめんなさい。私はエノルミータには入れません。……姉に……おねえちゃんに心配かけたくないんで」
……らしい、言葉にベーゼは、満足したように笑みを浮かべる。
(……まったく……本当にこの子は……!)
つぼみの行動基準に自分の存在があることに、少しだけ、どきり、とする。シスコンだなぁ、と呆れる気持ちと、胸の中が温かくなるような……そんな気持ち。
「……じゃ、じゃあ、つぼみちゃん! 魔法少女は!? トレスマジアとかどうかな!?」
「え……ごめん、はるかちゃん、そっちも当然パスだけど? ……はるかちゃん、そんなにトレスマジアすきだっけ? なつなたちがすきなのは知ってるけど……」
「あ、いや、そのぉ……!? 見たかったなぁ、って思って! つぼみちゃんが魔法少女になるところ!」
「……わかるっ!」
「……んっ!」
「それなっ!」
「……えぇ~……」
……花菱姉妹から魔法少女を勧められて、何で自分が魔法少女になる姿をそんなに期待されているのか、と困惑している様子のつぼみに苦笑した。
(……相変わらず、自分に向けられる好意には鈍感だなぁ……)
三姉妹とは元から仲が良いのは、ベーゼも知るところではあったが……改めて見ると、彼女たちの目線は、友人に対するものではなく、完全に恋をする少女のものだった。
そして、今回の件は、彼女たちを本気にさせるには十分であっただろう。……何なら、はるかもちょっと怪しい。
「……と言うか、ですね、ベーゼさ……ん? なつなたちも見ているこの場で、私が頷くわけないですよね? 初手から身バレしてやるわけないじゃないですか。他の人にはわからなくても、この子たちにはバレちゃうわけですよ? 私、友達に自分の性癖知られるのも、えっちぃ姿見られるのもゴメンですからね?」
(……まぁ、それはそう!!)
……実際、頷かれても困るのだ! 姉妹揃って、悪の女幹部やるのも結構な罰ゲームだが、これまでやってきたあれやこれやが彼女がすきな姉がやっていることと知られるのは……!
(……普通に身バレするより死にたくなるっ!!)
……しかも、彼女のことだから、『……おねぇってこういうのすきなんだ♡』『私にすればいいのに♡』とか、によによしながら誘ってきそうで怖いし、そういう状況になったとき、自制が利くかもわからない。
妹を性的に見ることはない……ないが、自信を持って、しないと言い切ることができない程度には、うてなはつぼみを意識はしているし、つぼみはつぼみで、絶対に逃げられない状況を作ってくるだろう。……そうなれば、詰みだ。
毎朝つぼみに起こされて。
つぼみが作ったご飯を食べて。
一緒にお風呂に入って。
夜には一緒のベッドで♡♡♡
そんな未来が待っている!
……現状とあまり変わらないが。
「……残念です。あなたになら、総帥の座を渡しても良いとすら思ったのですが。いや、もう、ホントに!」
(……ホント……できることなら変わって欲しい!!)
……もし、ヴェナリータに声をかけられたのが、自分ではなくつぼみだったら、と。そんなIFを考えて……。
(……あ、いや、ダメだわ。世界が滅ぶ未来しか浮かばない……)
本気で妹が悪の組織の女幹部をやったら、その有り余る才覚を発揮して、ベーゼが愛する魔法少女を滅ぼして、敵対する全てを滅茶苦茶にして、何なら味方すらも叩き潰して、邪知暴虐の限りを尽くし、世界を滅ぼす姿がありありと目に浮かぶ。
くふふ、と邪悪な笑みを浮かべながら、全てを蹂躙する妹の姿は、まさしく『魔王』。
……そんなことになるくらいなら、今のままでいいや、とベーゼは色々諦めた。