【第二部始動】モブウマ娘がハンドラー・ウォルターのところへ来る話【第一部完結】   作:合間理保

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エピローグ

 あのレースから一ヶ月が経とうとしている。

 

 私はようやく病院から離れ、日常生活に戻ろうとしていた。

 とはいえ、すべてが元通りになったというわけではない。松葉杖は未だに手放せないし、通院も必要だ。

 

 それに何より、私はもうレースに出られない。

 

 幸いにも、といっていいのだろうか、大きな後遺症は残らないだろうと医師に伝えられた。

 普段の生活や軽い運動は問題なくできるようになると、そう言われた。

 

 だがそれはつまり、激しい運動はできないということで、レースなんて言うに及ばずだ。

 

 病床にはいろんな人が来てくれた。

 小規模レースで出会った逃げウマ娘、617とその旦那さん、妖しい瞳のウマ娘、友達、そしてウォルターも。

 

 けれど、ウォルターはついぞ私のことを620とは呼んでくれなかった。

 

 退院した私は学園へと向かう。

 松葉杖をつきながらウォルターの部屋へと足を運んだ。

 杖を見せ、おそろいですねなどと言おうと思ったが、あまりにもあんまりなジョークだと思い直し、頭から消し去った。

 

 ドアの前に立つ。

 このドアを叩いたところからすべてが始まったのだ。

 そして、今すべてが終わろうとしている。

 

 息を吸い、呼吸を整える。意を決してノックをした。

 

「入っていいぞ」

 

 声が聞こえる。ウォルターの声だ。

 中に入ると、デスクにいたウォルターがこちらを向き直った。

 

「えーと、その、大事な話があって来ました」

 

 ウォルターは目で続きを促す。

 

「私は引退します。学園を辞めます」

「そうか」

 

 入院している間、私はどうするべきかずっと考えていたのだ。

 彼は目を伏せる。

 

「すまな」

「謝らないでください」

 私はウォルターの言葉を遮った。

 

「私の走りは、私自身の行動の結果です。私が選択した結果です。それに、何度同じ道に立ったとしても、私は同じ選択をするでしょう」

 

 ずっと、ずっと考えていたのだ。

 

 私はあのレースでどうするべきだったのか。

 そして考え直すたびに思うのだ。私は頂点を取りたかったのだと。

 結局のところ、私に諦めるという選択肢は存在しなかった。勝負を挑む以外の道を選ぶことはなかっただろうと、そう思うのだ。

 

「だから謝らないでください。私はあの場に居れて幸せだったんです。結果はこの通りでしたけど、あのレースに出たことは後悔していないんです」

 

 朗々とウォルターに伝える。

 彼は黙って聞いてくれた。私は勢いよく頭を下げた。

 

「ウォルタートレーナー、ありがとうございました。私はあなたのもとで走れて、620として居られて幸せでした。」

 

 それは紛れもない本心だった。

 ウォルターは噛みしめるように言葉を紡いだ。

 

「お前のこれからが、お前の世界が広がっていくことを願っている」

 

 部屋を後にして廊下を歩いていると、一人のウマ娘とぶつかりそうになった。

「ごめんなさい」

 彼女が謝る。それから、おずおずといった様子でこちらに聞いてきた。

 

「あの、ウォルターというトレーナーが居ると聞いた。どこか分かる?」

 

 なんだ、と思った。私がさっき出てきた部屋を教えてあげた。

 礼を言って、小走りに部屋に向かう彼女の後ろ姿を眺め、思う。

 

 彼女が621になるのだろうか

 

 もしそうなったら、彼女がウォルターに降り積もる灰を、少しでも払ってあげてほしいと勝手ながら思う。

 失敗した愚者からの勝手な期待だ。

 

「621。頼んだよ」

 

 誰に言うでもなく、私は呟いた。

 

 学園を後にすれば、清々しい透き通った空が広がっていた。気分がいい。

 

 さて、これからどうしたものかと考える。

 まずは617のところでカフェオレでも飲みにいこうかな。

 それがいいと、私は下手なステップを踏むような足取りで店に向かって歩いていった。

 

 




620の物語にお付き合いいただきありがとうございました

皆さまが見てくださり、また評価や感想をくださったことでここまで来れました

本当にありがとうございます
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