【第二部始動】モブウマ娘がハンドラー・ウォルターのところへ来る話【第一部完結】 作:合間理保
みんな!できたよ!(書き終わっているとは言ってない)
みなさまどうぞお付き合いください
二部 第1話
松葉杖をついたウマ娘にウォルターというトレーナーの部屋を教えてもらった。
これから会いに向かうというのに、トレーナー室の集まる一角の近くに行ってから誰かに聞くなりなんなりすればいいだろうと思って、ちゃんと調べていなかった自分に呆れて息を吐いた。
同意するように耳鳴りがしてきたので、うるさいと小さくこめかみを叩く。
やはり、少しばかり緊張しているらしい。
それもそうだろう。これから会いに行くウォルターは曰く付きのトレーナーだ。
曰く、ウマ娘を使い潰す悪辣。
曰く、地獄への道。
それがウォルターというトレーナーの噂だった。
きっとまともな扱われ方はしないだろう。それでも、トレーナーの付かない自分がレースに出るには、どんなトレーナーにでも縋りつくほかなかった。
レースに出られるなら、なんだってしてやる。ぼうとしていると言われることが多い自分だが、そういう覚悟を持ってここに来たのだ。
やがて、ウォルターのトレーナー室の前に着いた。
なんてことはない普通のドアだ。質素なネームプレートが付いているだけで、他の部屋のものと変わりはない。けれども、重々しい何かを感じずにはいられない。ここが、地獄への門なのだ。
ノックしようと手を寄せる。その手がわずかに震えていた。
怖いのか、と問われる。そんなことはない、と気丈にこめかみを叩いた。それから大きく息を吸って吐いた。気を取り直してノックをした。中から声が返ってくる。
「入っていいぞ」
はい、と小さく返事をしてドアを開ける。中にいた男は、こちらに背を向けてバインダーファイルに何かを書いていた。
彼は振り返りながら、
「どうした。忘れ物でもあったか」
噂とは違い、少し温かみのある声だと思った。
と、こちらを見た彼がわずかに目を丸くする。それから決まりが悪そうにあごを撫でた。
「すまない。別の者が来たのかと思った。お前は?」
彼の、わずかに燃え残った灰のような温かみのある目が、冷え切った灰の色に変わる。
けれど、温度のない目の奥に、赤い光があった気がした。
「ええと、初めまして、ウォルタートレーナー。あなたに担当になってもらいたくてお願いしに来ました」
ウォルターは腕を組んで眉をひそめた。乗り気ではなさそうだ。私は頭を下げる。
「お願いします。私はトレーナーになってくれるひとがいません。それでもレースに出たいんです。私のトレーナーになってください」
彼は嘆息した。
「他を当たれ」
「当たりました」
「噂は知らんのか」
「知っています。それでもここに来ました」
彼は再び息を吐いた。「矢先だと言うのに」小さくつぶやく。意味が分からず、私は頭を下げたまま小首をかしげた。それでも、お願いしますとくり返す。
「どうか、せめて私が走っているところを見てくれませんか?」
「断ると言ったら?」
「ここで頭を下げ続けます」
頑なに言いつづける私を見て、ウォルターは諦めたように唸る。
「頭を上げろ」
言われた通り姿勢を戻す。ウォルターは眉根を寄せていた。眉間にしわが深く刻まれている。何がそう難しい顔をさせるのだろう。少し気になった。
「なぜだ。なぜお前は俺のところへ来た。中央でトレーナーがつかなくても、他所へ行けばどうとでもなるだろう」
「少しでも上を目指したいと思うのは、そんなにおかしいでしょうか」
「その先に破綻が待っていたとしてもか?」
破綻。どういうことだろうか。分からなかった。けれど、確かなことがある。
私は中央で走りたいのだ。頂点を獲りたいのだ。そのためにここに居るのだ。
「私は勝ちたいんです。ただの勝ちじゃない。誰もが知るような勝利を手に入れたいんです」
「トレーナーが付かない程度のウマ娘がか」
「……」
鋭い切り返しに思わず閉口した。確かに彼の言う通りかもしれない。だいそれた絵空事のような夢なのかもしれない。
「それでも、です。それでも走りたいんです」
ウォルターの目を見てはっきりと告げる。
睨みつけるような視線で互いに見やる。先に目を伏せたのはウォルターの方だった。
「621だ」
「え?」
「ここにいる限り、お前の名は621だ」
それでいいなら登録しろ。
そうウォルターが告げた。
621。何の意味もない通し番号。なるほど、噂に違わずといったことか。だがそれでも構わないとうなずいた。
同時に、本当に大丈夫なのかと不安げな声がよぎる。
大丈夫だ。きっと自分はやり遂げられる。トレーナーに付いてもらうのはその第一歩だ。
「はい。私は621です」
殊勝な返事に、ウォルターは渋々というように書類を取り出した。学園で使われるトレーナーの契約書だ。ペンを渡されたので、迷わずサインをする。
書類を返せば、ウォルターは素早く目を通してファイルにしまった。それで、と彼はこちらを向きなおる。
「それで、誰もが知る勝利をと言っていたが、具体的にどういう目標があるんだ?」
問いに、目をつぶり大きく深呼吸をした。目を閉じて胸のなかに思い描くターフの色。
決意を示すのだと、こめかみを指先で叩いてから胸の前で手を握る。
「中山。芝。右回り。2500」
答えにウォルターはぴくりと眉を動かした。
「本気か?」
「当たり前です。人生を懸けて挑むのなら、そうでなくちゃいけない」
有マ記念。
誰しもが憧れる大舞台だ。
620編ですがさすがに二年前に書いたものなので、あまりの拙さに身悶えしています
ま、書き直してたら終わらないんでね!このまま行きますけどね!