【第二部始動】モブウマ娘がハンドラー・ウォルターのところへ来る話【第一部完結】   作:合間理保

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そろそろ書き貯めの量が少なくなってきたので気合いを入れなおしたいところです


二部 第3話

 ウォルターのもとでの初レースを終えた。結果は二着。悪くはない。いや、むしろ今までの成績を考えれば良いと言えるだろう。

 なにせ私はトレーナーの付かないウマ娘だったのだから。

 けれど、それで満足してはいけない。常に最高を叩き出し続けなければならない。

 

 私の夢を叶えるには、そこそこのウマ娘ではダメなのだ。

 

 休む間もなくレース翌日からトレーニングに入ろうとすれば、ウォルターにやんわりと止められた。

 

「レース直後は体に負荷がかかっている。怪我の可能性が高くなる。今日は休め、621」

 

「え? いえ、そうはいきません、ウォルター。止まっている暇はないんです」

 

 そうだ。ただでさえ一流と呼ばれるウマ娘達からは出遅れているのだ。時間を無駄になどできない。そう告げれば、ウォルターはファイルを手渡してきた。

 

「休むことは大事だ。必要な休息は決して無駄な行為ではない。が、そこまで言うのならこのメニューをこなせ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 資料に目を通す。比較的負荷の少ないトレーニングが記されていた。

 

「621、屋外の第三トレーニング場へ向かって、アップをしてからメニューに入れ。俺は書類仕事を終わらせてから向かう」

 

 私はうなずいて部屋を出た。駆け足でトレーニング場に向かっていったら、途中で教員に睨まれた。

 すまし顔で早足に切り替える。お上品に会釈をしてその場を離れた。

 

 角を曲がり教員も見えなくなったところで、呆れたため息が聞こえてきたので、こめかみを叩いて黙らせた。

 

 トレーニング場でひとしきり体を温めてからメニューに移る。周りにいるウマ娘はまばらだ。それぞれが自分のトレーニングに集中している。私も黙々と体を動かした。

 

 ひとりでいると自然と考えるのはウォルターのことだ。

 このメニューに関してもだが、私は使い潰すというような扱いを受けていない。けれども、噂はそうではない。ウォルターのもとのウマ娘はいずれも怪我をして学園を去ることを余儀なくされている、らしい。

 

 とてもそうは思えなかった。

 

 ウォルターと実際に関わりのあるトレーナーやウマ娘に事情を聞ければいいのだが、そんなアテが有るわけでもなく。結局私はこうして首をひねるしかない。

 

 噂はただの噂に過ぎないということだろうか。しかし、火のないところには、とも言う。

 

 いっそ本人に聞いてしまいますか、と馬鹿げた声がよぎる。こめかみを叩いた。

 

「本人に向かって、なんで悪評が流れているんですかって? そんなことできるわけないでしょ」

 

「何の話だ?」

 

「ひゃい!?」

 

 背後からウォルターの声がかかった。いつの間にか杖をついた彼がそばに来ていた。全然気が付いてなかった。

 いや、それよりだ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 ウォルターが怪訝そうな顔で、

 

「621、誰と話していた?」

 

 びくりと肩を震わせる。まずい。慌てる自分に呼応するように耳鳴りがしてくる。

 

「いや、ちょっと独り言が大きくなっちゃって……」

 

「違う。そういう抑揚ではなかった」

 

「ええと、ハンズフリーの通話をしてて……」

 

「独り言じゃなかったのか?」

 

「……」

 

 まずいまずいまずい!

 言い訳が出てこず、黙り込んでしまう。ウォルターはその沈黙を許さなかった。

 

「621、正直に言え」

 

 ぐう、と喉の奥から唸り声が出てきた。耳鳴りも大きくなってくる。止めたほうがいい、と言われているようだった。

 体の前で落ち着かない手を動かした。それから、結局うまい言葉が出てこず、正直に白状する。

 

「幻聴、です」

 

「幻聴?」

 

 オウム返しにつぶやき、ウォルターは眉をひそめた。

 一方で私はとても目を合わせられない。視線があちこちをさまよい、なんとか言い募ろうと考え、手をやたらに動かした。

 

「私、幻聴が聞こえていて……。それに返事をしていました」

 

「幻聴はいつからだ。どんな」

 

「ええと、数年前からです。耳鳴りに近い不明瞭な音の時もあれば、ひとの声に聞こえるような時もあって……。それが話しかけてくるといいますか……」

 

 吐露に、ウォルターは持っていた杖の頭を指先で叩いた。

 冷や汗が出てくる。こんな話、契約解除ものだろう。焦って一歩彼に近づいた。

 

「走るのに支障はありません! 何も問題はないです!」

 

「医者には」

 

「行きました。異常は見られない、と。だから大丈夫です! 走れます!」

 

 ウォルターは目をつぶり考え込んだ。

 

「621、その声は、お前を損なう可能性はあるか?」

 

「え? いえ、そういう声は今まで無かったです」

 

「……そうか。ならばいい。メニューを続けろ」

 

 言いおいて、彼はきびすを返して戻ってしまった。

 これは不問にしておいてくれるということだろうか。

 膝から力が抜け、その場にへたり込む。体がガクガクと震えていた。

 

「よ、よかった……」

 

 本当に良かった。最大級のピンチだった。長く息を吐く。

 同意するようにホッとしたような耳鳴りが聞こえてきたので、お前のせいじゃないかと、こめかみを叩いた。

 

 

 ◆

 

 

 しばらくした後、心を落ち着かせてからトレーニングに戻った。クールダウンをしているところで、ウォルターが再び近づいてくる。

 

「ウォルター、その……」

 

「621、幻聴が聞こえるという話だが、念のため精密検査を受けろ。知り合いのところで手筈を整えてきた」

 

「えっ? いや、大丈夫ですよ! 前も受けましたし」

 

 急に検査をと言われて驚いた。昔からある現象なので、今では何とも思っていない。何も出るはずのない結果のために検査をするのは悪いと思った。

 

「駄目だ。安全のため受けろ。可能なら俺も最新の結果を確認したい」

 

「いや、その……。そんな検査を受けるお金が……」

 

「無論、俺が出す」

 

 ますます悪く思ってしまう。

 

「621、何事もないことを確認するだけだ。受けてくれ」

 

 頼みこむその目に何か切実なものを感じ、私は首を縦に振った。

 

「ええと、はい。分かりました。ありがとうございます。でも本当に何ともないですからね?」

 

 使い潰すどころか、だいぶ心配してくれているようだ。その事がなんとなく嬉しかった。




そういえばAC6が乙女ゲー界隈でにわかに熱くなってきているとか
人口増は喜ばしいことです我々は余計な口を出さず後方腕組み面でいましょう
その中からこんな僻地のssまで見に来てくれるような方が生まれたら…素敵だ…
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