【第二部始動】モブウマ娘がハンドラー・ウォルターのところへ来る話【第一部完結】 作:合間理保
嘘でしょ?
話の流れ覚えてる人いるのか?(大反省)
「私、このレースに出たいです!」
タブレットに映るレースの情報画面を見せながら言えば、ウォルターははっきりと難色を示した。
「このレースは……厳しいぞ620。今までのレースより一歩とは言わないまでも、半歩先のレースだ」
「分かっています」
「本当にそうか? 規模こそ今までと同じ程度だが、歴史があるレースだ。勝つことで一流への門が開く。そういったレースの一つだ。だからこそ……」
「強者が集まる」
言って、私は頷いた。
「勝ったウマ娘が一流と認められ、イレギュラーと呼ばれるようになる。そうして大規模レースへと道が続いていく。まさに登竜門です」
「そしてお前はイレギュラーではない。食らいつけんぞ」
ウォルターはばっさりと切って捨てた。客観的で妥当な評価だろう。
それでも私は気勢をそのまま身を乗り出す。
「影は掴んでみせます。イレギュラー、彼女たちの背に指先くらいかけてやります」
イレギュラーという存在に、負けるかもしれない。
けれど、彼女らから逃げるという選択肢は、無い。
たとえ勝てないとしても追いつめてやる。
私の存在を見せつけてやる。
私たちの存在を。
私はレースを求めている。
いや、私は戦いを求めている。
ウォルターは嘆息した。
「無理はさせないぞ。できる限りはするが」
「はい」
私は覚悟を決めた。ウォルターもだ。
617、見ていてほしい。私たちのレースを。
トレーニングに打ち込んだ日々はあっという間に過ぎ去り、私はレースの日を迎えた。
「ブリーフィングを始める」
ウォルターが告げた。
手元のタブレットに目を落とす。
「距離二千、右回り。起伏はほぼ無い。だからこそ地力が試されるレースだ。予定通り先行策を取る。お前のスタートは他に引けを取らないだろう」
私は静かに頷いた。
「集団に飲まれたら終わりだ。レースに出るウマ娘たちと競り合って消耗したら、上位に立つのは不可能だろう。集団の前でレースをコントロールする。そういった立ち回りが重要だ」
ウォルターの淡々とした声がわずかに止まった。
画面は切り替わり、三人のウマ娘が映りだされる。
「やはり問題はこの三人だ。間違いなく大規模レースで頭角を現してくるウマ娘になる。それぞれ、逃げ、先行、差しを得意としている。つまり……」
「潰し合いは期待できないわけですね」
「そのとおりだ。イレギュラー同士での消耗は望めない。だからこそ、俺たちは俺たちの力で彼女らを打ち破る必要がある。俺たちの目標はこの三人のうちの誰かを食い破ることだ。三着以内、そこを目指す」
すなわち、イレギュラーとの直接対決を挑むということだ。
ごくりとつばを飲み込む。
「まずは先行ウマ娘について行くことだ。……そろそろ時間になる。行くぞ、620」
「はい!」
控え室から出ようとして、私はウォルターのほうに向き直った。
「ウォルタートレーナー」
「どうした」
「あの……ありがとうございます。私のワガママを聞いてくれて」
「お前が望んだことだ。俺はトレーナーだからな。お前の走りたい環境を整えてやることが、俺の仕事だ」
620、とウォルターは呼びかけてきた。
「行ってこい620。無茶はするな」
「はい! 行ってきます!」
ウォルターに私の名前を呼ばれるだけで、それでどこまでも走っていける気がした。
ゲートに並ぶ。
ここからは一人だ。一人で戦わなければならない。目をつぶり、胸の前で片手を握る。
ぼう、と体の中で小さな火が灯る。
それは闘争心だ。私の中で、私ごと周りを食い尽くしてやろうとする魂だ。今にも暴れ出しそうなそれを抑え、目を開く。
私の横にも、同じ魂を抱えたウマ娘が居る。闘争心で体を満たしたウマ娘が並んでいる。私たちの体から放たれるなにかで、ゲートが軋むようだった。
笑っている。笑っている。ウマ娘の誰もが、歯をむき出しに笑って、目を見開いて、ゲートが開く瞬間を今か今かと待ち望んでいる。
私も、同じ顔で笑っていた。
静寂が訪れる。
一秒、二秒。
ゲートが開く。
大地を蹴る爆発的な音が私を包んだ。
周りのウマ娘より一歩前に出る。逃がすまいと、体をぶつけんばかりに隣のウマ娘が身を寄せてくる。私はそれを振り切った。
ターフの内側に少しずつ寄っていく。私の前に出たのは、二人の逃げウマ娘と先行ウマ娘。逃げる彼女らはグングンとスピードを上げていく。
レース前に目をつけていたイレギュラーの逃げウマ娘、その彼女にもう一人のウマ娘が必死に食らいついていた。
もう一人のイレギュラーの先行ウマ娘は、その目に妖しい光をたたえながらその様子を観察していた。私は妖しい瞳のウマ娘の陰で、じっと好機をうかがう。
私は、とびぬけた二人を除いた集団の先頭付近の位置につけた。塊となったウマ娘たちの地面を蹴る音が、私の背中を叩きつける。
焦ってはいけない。このプレッシャーに負けてはいけない。
そう自分を叱咤し走り続ける。
勢いを殺さず第一コーナーに入る。ここまでは順調だ。大きなミスも、不測の事態も起こっていない。
だが、それゆえにジワジワと地力の差が出てくる。
私は妖しい瞳のウマ娘を風よけにしているが、その分後方からの圧に晒され続けている。集団の先頭を走り、空気を切り裂かねばならない彼女とどちらがマシだろうか。
彼女は先行を得意とするだけあって、うまくペースをコントロールしているように思える。
彼女が、レースを支配している。
くそっ、と小さく呟く。彼女のレース運びに付き合わされている。どうにかしないといけない。
加速する素振りを見せ、彼女に圧をかけるも、大きな動揺は見られない。結局、私は元の彼女の背後に戻る。
仕掛けるタイミングは、いつだ?
向こう正面、レースは半分を過ぎた。
完結まで書き終わってはいるのでここから爆速投稿です