【第二部始動】モブウマ娘がハンドラー・ウォルターのところへ来る話【第一部完結】   作:合間理保

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前回投稿からおおよそ3ヶ月です

嘘でしょ?

話の流れ覚えてる人いるのか?(大反省)


第9話

「私、このレースに出たいです!」

 

 タブレットに映るレースの情報画面を見せながら言えば、ウォルターははっきりと難色を示した。

 

「このレースは……厳しいぞ620。今までのレースより一歩とは言わないまでも、半歩先のレースだ」

「分かっています」

「本当にそうか? 規模こそ今までと同じ程度だが、歴史があるレースだ。勝つことで一流への門が開く。そういったレースの一つだ。だからこそ……」

 

「強者が集まる」

 

 言って、私は頷いた。

 

「勝ったウマ娘が一流と認められ、イレギュラーと呼ばれるようになる。そうして大規模レースへと道が続いていく。まさに登竜門です」

 

「そしてお前はイレギュラーではない。食らいつけんぞ」

 

 ウォルターはばっさりと切って捨てた。客観的で妥当な評価だろう。

 それでも私は気勢をそのまま身を乗り出す。

 

「影は掴んでみせます。イレギュラー、彼女たちの背に指先くらいかけてやります」

 

 イレギュラーという存在に、負けるかもしれない。

 けれど、彼女らから逃げるという選択肢は、無い。

 

 たとえ勝てないとしても追いつめてやる。

 私の存在を見せつけてやる。

 私たちの存在を。

 

 私はレースを求めている。

 いや、私は戦いを求めている。

 

 ウォルターは嘆息した。

 

「無理はさせないぞ。できる限りはするが」

「はい」

 

 私は覚悟を決めた。ウォルターもだ。

 617、見ていてほしい。私たちのレースを。

 

 

 トレーニングに打ち込んだ日々はあっという間に過ぎ去り、私はレースの日を迎えた。

 

「ブリーフィングを始める」

 

 ウォルターが告げた。

 手元のタブレットに目を落とす。

 

「距離二千、右回り。起伏はほぼ無い。だからこそ地力が試されるレースだ。予定通り先行策を取る。お前のスタートは他に引けを取らないだろう」

 

 私は静かに頷いた。

 

「集団に飲まれたら終わりだ。レースに出るウマ娘たちと競り合って消耗したら、上位に立つのは不可能だろう。集団の前でレースをコントロールする。そういった立ち回りが重要だ」

 

 ウォルターの淡々とした声がわずかに止まった。

 画面は切り替わり、三人のウマ娘が映りだされる。

 

「やはり問題はこの三人だ。間違いなく大規模レースで頭角を現してくるウマ娘になる。それぞれ、逃げ、先行、差しを得意としている。つまり……」

 

「潰し合いは期待できないわけですね」

 

「そのとおりだ。イレギュラー同士での消耗は望めない。だからこそ、俺たちは俺たちの力で彼女らを打ち破る必要がある。俺たちの目標はこの三人のうちの誰かを食い破ることだ。三着以内、そこを目指す」

 

 すなわち、イレギュラーとの直接対決を挑むということだ。

 ごくりとつばを飲み込む。

 

「まずは先行ウマ娘について行くことだ。……そろそろ時間になる。行くぞ、620」

 

「はい!」

 

 控え室から出ようとして、私はウォルターのほうに向き直った。

 

「ウォルタートレーナー」

「どうした」

「あの……ありがとうございます。私のワガママを聞いてくれて」

「お前が望んだことだ。俺はトレーナーだからな。お前の走りたい環境を整えてやることが、俺の仕事だ」

 

 620、とウォルターは呼びかけてきた。

 

「行ってこい620。無茶はするな」

 

「はい! 行ってきます!」

 

 ウォルターに私の名前を呼ばれるだけで、それでどこまでも走っていける気がした。

 

 ゲートに並ぶ。

 

 ここからは一人だ。一人で戦わなければならない。目をつぶり、胸の前で片手を握る。

 ぼう、と体の中で小さな火が灯る。

 それは闘争心だ。私の中で、私ごと周りを食い尽くしてやろうとする魂だ。今にも暴れ出しそうなそれを抑え、目を開く。

 

 私の横にも、同じ魂を抱えたウマ娘が居る。闘争心で体を満たしたウマ娘が並んでいる。私たちの体から放たれるなにかで、ゲートが軋むようだった。

 笑っている。笑っている。ウマ娘の誰もが、歯をむき出しに笑って、目を見開いて、ゲートが開く瞬間を今か今かと待ち望んでいる。

 

 私も、同じ顔で笑っていた。

 

 静寂が訪れる。

 

 一秒、二秒。

 

 ゲートが開く。

 大地を蹴る爆発的な音が私を包んだ。

 周りのウマ娘より一歩前に出る。逃がすまいと、体をぶつけんばかりに隣のウマ娘が身を寄せてくる。私はそれを振り切った。

 

 ターフの内側に少しずつ寄っていく。私の前に出たのは、二人の逃げウマ娘と先行ウマ娘。逃げる彼女らはグングンとスピードを上げていく。

 

 レース前に目をつけていたイレギュラーの逃げウマ娘、その彼女にもう一人のウマ娘が必死に食らいついていた。

 もう一人のイレギュラーの先行ウマ娘は、その目に妖しい光をたたえながらその様子を観察していた。私は妖しい瞳のウマ娘の陰で、じっと好機をうかがう。

 

 私は、とびぬけた二人を除いた集団の先頭付近の位置につけた。塊となったウマ娘たちの地面を蹴る音が、私の背中を叩きつける。

 焦ってはいけない。このプレッシャーに負けてはいけない。

 そう自分を叱咤し走り続ける。

 

 勢いを殺さず第一コーナーに入る。ここまでは順調だ。大きなミスも、不測の事態も起こっていない。

 だが、それゆえにジワジワと地力の差が出てくる。

 

 私は妖しい瞳のウマ娘を風よけにしているが、その分後方からの圧に晒され続けている。集団の先頭を走り、空気を切り裂かねばならない彼女とどちらがマシだろうか。

 

 彼女は先行を得意とするだけあって、うまくペースをコントロールしているように思える。

 彼女が、レースを支配している。

 

 くそっ、と小さく呟く。彼女のレース運びに付き合わされている。どうにかしないといけない。

 加速する素振りを見せ、彼女に圧をかけるも、大きな動揺は見られない。結局、私は元の彼女の背後に戻る。

 

 仕掛けるタイミングは、いつだ?

 

 向こう正面、レースは半分を過ぎた。




完結まで書き終わってはいるのでここから爆速投稿です
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