ブレイバーン見てたらSSSS.GRIDMAN見たくなって夢想辛すぎてユニバース見たら最高で夢想見たらやっぱり辛くてアカネちゃんに脳内侵略されて他の小説が手をつかなくなったので書いた
---自分にはなんにもなかったんだと思う。
物語に出てくる主人公のように何か大きな喪失感があるわけでも、特別な何かがあるような、そんな感じもない。
きっと自分は空っぽだったのかもしれない。
でも、そんな俺にも……何かがあったような、大事な何かがあったような、そんな気がする。
『---♪』
優しい歌のようなものが、耳を通り過ぎる。
なんだか懐かしいような、懐かしくないような、妙な感覚に襲われる。
この歌を、知ってる気がする。
『---必ず僕がそばにいて…支えてあげるよその肩を』
透き通るように綺麗な、確かな歌声が聞こえた。
このまま眠ったまま聞いていたいと思えるくらい、その声は心地がよかった。
そう出来れば、どれだけいいのだろう。
『---♪』
一体、誰なのだろう。
そんなふうに一度気になってしまうと、確認したくなってしまうものらしい。
俺は閉じていた目を開きながら、ゆっくりと体を起こした。
体を起こすと布のようなものが動いた感触があって、目はぼやけてよく見えない。
「---あっ、起きた」
「んん……おはよう、ございます……」
歌っていた『誰か』は気づいたらしく、俺は寝惚けた眼で口から言葉を発していた。
陽射しが入ってくる影響で眩しく、視界は次第に鮮明になっていく。
「全然起きないから、心配したよ」
「……誰?」
「も〜寝惚けてるの?」
心配させてしまったらしい。しかしそれよりも分からないことがあった。
視線の先に居るのは何かの人形と思われるものを弄る一人の女の子。
俺は、彼女を知らない。
彼女の見た目から分かるのは
そんな彼女が持ってるのは人形は脳みそがむき出しになったような頭に、まさかさのような体のひだを持ち大きな角の生えたもの。
他にも貝みたいなのや二足歩行の龍のようなもの、ワイバーンのようなのやアオウミムシみたいなのなど色々と置いてある。
俺はあれを、あれらを見たことがあるような気がする。
彼女が持ってるのは……。
---ダイダラホーシ
「…ダイダラホーシ」
「えっ?」
「あっ、いや…いまのは……」
まずい、混乱しているのかもしれない。
頭に突然浮かんできたのを言ってしまったが、やばいやつと思われるかもしれない。
「大丈夫?どこか痛いところとかある?」
急に接近してきた彼女に驚くが、触れないように身を逸らすと彼女の赤い瞳が近くで見える。
その瞳を見てると吸い込まれそうで。だけど綺麗だと感じた。
「そ、そこは大丈夫…です」
そう思ったのも一瞬だけで、何か言葉を返そうとして絞り出すように口に出していた。
実際に体は痛くない。でも頭の中は霧がかかったように何も分からない。
彼女は誰なのか。どうして俺はここにいるのか。
「じゃあ顔でも洗う?」
「あっ…えっと、良いなら……」
「全然いいよ。洗面所は向こうにあるから」
彼女が誰か分からないまま、指差した方へ歩いて扉を開けると洗面所と思わしき場所があった。
恐らくここは俺の家じゃないのだろう。
出来る限り、何も触らないようにしないと。
「……俺?」
顔を挙げると、鏡には一人の男が映っていた。
というか、ここには俺しかいないので俺なのだが、自分の姿すら初めて見たような感覚だ。
いや実際何も分からないのだから初めて見たようなもんだろうけど。
俺の見た目は自分が思ってたのと違って、紫色の髪にエメラルド色の瞳。
にらめっこしながら手を動せば、鏡の向こうでは同じ動作をする。
やはり自分だったらしい。
自分が自分だという実感が全く湧かない。
「……っと」
あまり待たせるのも悪いため、分からないものを考えても仕方がない。
俺はポケットを探るとハンカチを見つける。
タオルはあるみたいだが、他人に拭かれるのは衛生上嫌だろうと自身のハンカチで解決した。
それを終えれば入ってくる前と同じ状態に戻し、扉を閉める。
「どぉ〜?目、覚めた?」
「おかげさまで…」
さっきと同じ部屋に戻ると、女の子はすぐに気づいて声を掛けてくれる。
けどやっぱり何も分からない。今はもう眠気もないしパッチリしてるんだけど……。
なんなんだろう、この感じ。
「あの…」
「ん〜?どうしたの、雨野くん」
「俺のこと?」
なんて言えばいいのか分からなくて、彼女から出てきた人名のような言葉に疑問が浮かび上がる。
それを解消しようと聞けば、目の前の彼女は固まったように無言になった。
「え?」
「えっ?」
「え?」
「え…」
「…覚えてないの?自分が誰なのか分かってる?」
「うん、ごめん…記憶がなくて」
「それ記憶喪失じゃん!」
「記憶喪失?そう、なのかな……」
「頭強く打ったんじゃない?本当に痛いところはない?」
「そこは多分平気…だけど」
記憶喪失というのが何なのかは分かる。言葉も分かるし、意味も理解出来てる。
ただ自分が誰なのか、彼女や他の人が何者なのか、自分がどう生きてきたのかそういった部分だけが全部抜け落ちていた。
いわゆる思い出ってやつだ。
「雨野って…俺のことだよね?」
「そう、
「雨野奏……」
どうやらそれが俺の名前だったらしい。
ツツジ台高校一年E組に通うごく普通の高校生…だとか。
「とりあえず病院行こっか」
「あ、そう…だね。その方が早いか……」
自分では自覚しているけど、こういうのは見てもらった方が早いだろう。
それを肯定すると、彼女は小さく頷いて俺に背を向けてどこかへ歩いていく。
「ちょっと待ってて。準備するから」
「え?君も来るの?」
「---嫌?」
何かをカバンに詰め込んでいるのを見て、思わず聞いてしまった。
すると彼女は手を止めて、無機質な表情で見てくる。
不快にさせてしまっただろうか。言い訳になるかもしれないけど、伝えないと。
「あっ、いや…そうじゃなくって。ただでさえ厄介になっちゃったのにそんなことまで頼んでいいのかなって…迷惑だと…思うし」
「…なぁんだ。それを気にしてたの?」
「う、うん」
本心を伝えると、さっきの表情から一転して笑顔になった彼女は何がおかしいのかくす、と笑えば目を細めて半開きで見てくる。
「そもそも病院の場所、分かるの?」
「う……」
「それなのに行こうとしてたんだ?私なしで?」
「仰る通りです…はい。是非ともよろしくお願い致します」
なんだか耐え難くて目を逸らしてしまった。
記憶が無いんだから病院の場所すら分かるはずもない。
ここがどこかを彼女の様子から察することは出来たけど、この辺をどう行けばどこに着くかも分からないんだ。
「ふふん♪よろしい」
「はは…」
しかしこうなってくるとますます彼女のことが気になってくる。
見ず知らずの他人にこんな世話を焼いてくれるだろうか。
知り合い、幼馴染、友人、親友、恋人、どれも選択にはあるだろうが…彼女のように可愛いらしくて美しい美少女を体現するような女の子と俺なんかが接点あるように思えない。
そりゃ恋人とかなら嬉しいけど…って何考えてんだ。そんなわけないだろ。
わざわざ世話を焼いてくれる彼女に失礼だと首を横に振って思考を掻き消す。
「準備出来たよ…ってなにしてんの」
「いや……あれ…」
呆れたような視線を向けられ、そのまま言うわけもいかない俺はどうしようかと思って、たまたま彼女のスマホの画面が見えた。
何かのアプリだろうが、奇妙なヒトガタのマスコットがあるアイコンが見える。
---ヅウォーカァ将軍
「…ヅウォーカァ将軍」
「……!」
「って、ごめん!た、たまたま見えちゃって……」
やばいやばい!
何してるんだ本当に。
女子の携帯を勝手に覗くなんて最低だ。俺もう喋らない方がいいのでは?
それはそれで失礼になる…というか目の前の彼女は驚いたように目を見開いてる。
「分かるの?」
「…えっと、頭に浮かんでくるというか」
「…ふーん?まあいいや。行こ?」
「あ、うん」
「あっ、これ雨野くんのリュックね」
「あっ、ありがとう」
紫色のリュックサックが渡され、背中に背負う。
紫色が好きなのだろうか。よく見たら隕石のようなキーホルダーみたいなのもあるな。
---ブルトン
また頭に浮かんできた。
どうやら俺は、こういったものが好きだったのかもしれない。
いわゆる怪獣ってやつ。
そうじゃなかったらわざわざ付けないだろう。
「行くよー」
「うん」
慌てて玄関を出ると、彼女は鍵を施錠しているように見える。
というか
出てきた途端、別の世界に足を運んだように。
それもこれも、原因は明白だったりする。
「…霧濃くない?」
「…そう?」
まるで普通と言わんばかりの様子に俺がおかしいのかと思ってしまう。
今出てきたばかりの家が見えない理由は、これだ。
ぶっちゃけほぼ見えない。
でも記憶が無いのは俺だし、これが普段通りなのかも……。
そう思いながら周りを見渡すと、俺はそんなの関係なしに『異常』なものが見えた。
「あ、あれ…!なにっ…!?」
「なにって…なにが?」
「あっ…あそこっ!で、でっかい怪獣が…!いる!」
指差しながら指摘するも、彼女は不思議そうにするだけだった。
もしかして、見えてないのか?
一般的な怪獣をイメージする恐竜型で両肩からは鋭利な棘のようなものが生えている。口は開かれていて、見える歯は凶暴さをより引き立てている。
こんな目立つ存在が見えてないのはどう考えてもおかしくて…。
「やっぱり頭でも打ったのかも……」
「ほら、病院閉まるよ?」
そう言ってスタスタと歩いていく彼女を見て、俺は何度か確認するように怪獣を見ながら霧で追えなくなる前に彼女に着いていく。
何度見ても霧の向こう側には怪獣が居て、何も見えてないのが普通なのか。見えてる俺が異常なのかよく分からないまま俺は目的地の『井上病院』へ入っていった---。
検査が終わり、ブレザーのポケットに両手を突っ込んでいる彼女の元へ歩いていく。
「どうだった?」
「一時的なもので時期に記憶が戻るんじゃないかって」
「よかったじゃん、戻るってことでしょ?」
「うん…かなぁ……」
正直なところもっと具体的な方が助かったんだけど。
ないものを強請っても仕方がないことなんだけどさ。
それより長居しても夜になるし、これ以上彼女を巻き込む訳にもいかない。
何とかなるだろ、多分。
「じゃあ俺帰るよ。ありがとう、案内してくれて」
「それはいいけど……」
「?」
「自分ん家わかるの?」
「……あ」
記憶喪失なんだから当然知るはずもない。
携帯はあるけど、全く分からない道を地図頼りにして動いても辿り着く気はしない。
あれ、俺詰んだ?
「送ってくよ」
「…お願いします」
早速巻き込むことになってしまった。
申し訳ないけど、頼れるのっていま彼女しかいないしな……。
家に案内してもらう途中でお腹が空いてしまい、SEVEN TO ONEというコンビニでパンを買って食べることにした。
もちろん流石に彼女の分も俺が出した。
遠慮されたけど、これくらいはしないと申し訳なさに押し潰される。
とまあ今はコンビニの前で人一人分の距離を開けて買ったものを食べている最中だ。
無論、コンビニに入ってくる人や出てくる人が邪魔にならないように移動してる。
ただ互いに無言で、俺からすれば初めて会った人とこうやって無言で食べるのはなんというか、なんかあれだった。
「あの……」
ちょっとした勇気を振り絞って、声をかける。
ちょうど聞きたいこともあったことだ。
「聞きたいことあるんだけど…いい?」
「なにー?」
許可を貰えたので一安心。
いい加減分からないままってのは嫌だし、少しでも解決したい。
今一番気になってること。
「どうして俺…キミの家に居たの?」
そう、そこだ。
目覚めて自分の家ならまだしも、他人の家ってどういうことなのか。
いや、人が居てくれて助かったってのはあるけど。
「新条アカネ」
「え?」
「私の名前」
そういえば一度も名前を呼んだことがなかった。記憶がないから仕方がないけど。
それを気にしてか、名前を教えてくれた。
新条アカネ---やっぱり知らない名前だ。
特に記憶が蘇るってわけでもない。
「えっと…どうして新条さんの家に?」
「雨野くん、私ん家の前で倒れてたんだよ」
「!?」
予想を斜め上にいく状況だったことに驚く。
それは何が起きて、何があったことなのだろう。
いや、それよりも。
「ご、ごめん。家の前ってことは運んでくれたんだよね?そんな苦労までかけさせて…」
「そこは知り合いに運んでもらったから」
「そ、そか……」
話が終わってしまった。
色々と整理するなら、まず俺は新条さんの家の前で倒れていた。
何故かは置いておいて、目が覚めたら新条さんの家で寝かされていた。
しかも記憶を失って、だ。
まず間違いなく、倒れる前に何かがあったんだろう。
で、記憶喪失の割にはなぜか怪獣のことだけは分かる…というよりは頭に浮かんでくる…か。
なるほど、情報が少なすぎる。
そういえば新条さんが言ってた知り合いって誰なのだろうか。高校生の男を運べるって考えたら相当力がなければ無理なはずだけど…見た感じ服が汚れてるって訳でもないから引き摺られたわけではないし。
まあ、その辺は詮索すべきではないな。彼女には彼女のプライベートがある。
けど、気になってくることが出てきた。
「もうひとつ…いいかな?」
「?」
「俺と新条さんの関係ってどうだったのかなって。深い意味はないんだけど…友達とか?」
別にそれが分かって変わるわけじゃないけど、気になるものは気になる。
記憶喪失になる前の俺がどんなやつかは知らないけど、主観的に判断するなら極悪人ってわけではないはずだ。
友好関係を築いてたって不思議では無い。
「やっぱりそれも覚えてないんだ……あんなことまで言ってくれたのに」
「えっ」
悲しげに目を伏せた新条さんの姿に内心で慌てる。
なぜそんな反応を…。もしかして俺と新条さんの関係って---
「なーんてね。うそうそ、同じクラスになってちょっと話しただけ」
「あ……そうだったんだ…」
「もしかして期待した?」
からかうように言ってくる新条さんに目を逸らす。
期待したかしてないかって言われたらした。そりゃだって…俺も男だし。
でも同時に、俺なんかじゃ絶対釣り合わないだろうなって思ったから安堵もあった。
「あはは、ごめんって〜」
「いや…勘違いした俺も俺だから。でも…それが嘘でよかった」
「どうして?」
目を逸らさず、今度は新条さんの赤い瞳を真っ直ぐ見つめる。
向き直って、真っ直ぐに。
新条さんもまた笑みを消して、見つめてきた。
「だって、もし親密な関係だったら俺は新条さんのことを忘れて、今まで一緒に過ごしてきた時間も共有したものだって全部忘れたことになる。なのに新条さんだけが覚えてる---そんなの悲しいと思って。新条さんが傷つくことがなかったから、良かったって思ったんだ」
自身の思ったことをありのままに告げる。
そうすると、新条さんは予想もしてなかったかのように目を見開いて酷く驚いていた。
これも俺の本音の一つ。
ここまで良くしてくれた新条さんを悲しませたくなかったし、傷ついても欲しくなかった。
何が原因であれ、記憶を失った方が悪いだろう。
「……優しいんだね、雨野くんって」
「そう…なのかな」
「そうだと思うよ」
「なんというか客観的に評価してくれると…自信になるよ。ありがとう、新条さん」
「どういたしまして」
それっきり俺と新条さんは話すことはなかった。
俺はただ夜空を見上げながらメロンパンを食べて、彼女はおはぎを食べる。
新条さんは俺に優しいと言った。
でも本当は思ったんだ。きっと、新条さんは俺と違って誰にでも優しいんだろうなって。俺は“本当の俺”を知らない。
だからもしかしたら、そうありたいと願ってたのかもしれない。けど新条さんは俺にここまで世話を焼いてくれた。
彼女の本心は分からないけど、優しくないならそんな事しないはずだ。
「…帰ろっか」
「…うん」
食べ終わって、終わる。
もう新条さんと話す機会は無くなるかもしれない。
それでもいいだろう。彼女の言葉を信じるなら、俺と新条さんは友達でもなんでもない。
これからは元の関係に戻るだけ。特に目立つようなものを持ってないと思う俺と彼女では世界が違う。
まぁ…ちょっとやっていけるか不安はあるけど、俺と彼女の道が交わることはなさそうだ。
もしこの世界に主人公なんてのが居たなら、そういった存在の人物が関わるんだろう。
だから俺はこの恩だけは忘れないようにして、明日から頑張って生きよう。
結局んとこ自分を知らなきゃ、だけど---
「……アカネ?」
「…ん〜?あれー六花じゃん」
そう思って、ゴミ箱で袋を捨ててたら人の気配と声が聞こえた。
気になって見てみれば、少しクールな雰囲気を漂わせる黒髪の少女と赤毛の少年がそこに居た。
黒髪の少女と新条さんは知り合いみたいだが。
「どうしたの、こんな時間に。しかも二人っきりで…もしかして?」
「あ〜…いやいやちょっと……響くんがね」
「?」
話を聞いてる限り、赤毛の少年の名前が響くん?らしく、黒髪の少女は六花さんと言うらしい。
何やら訳ありのようだけど。
「何かあったの?」
「えっ……と…?」
「響くん記憶喪失なんだって。さっき病院行ってきたところ」
「そうなんだ。それはすごい偶然だねー」
「偶然?…あれ、確か……」
俺の存在に気づいたらしくて、黒髪の少女がこちらを見る。
新条さんとは対極で、青い瞳。
しかし響くんとやらも記憶喪失なのか。気が合うかもしれない。
「雨野奏くん、六花も同じクラスでしょ」
「そういえばそんな名前の人がいたような…ごめん。話したことなかったから出てこなかった」
「いや、それはいいけど……俺わかんないし」
「あ〜やっぱり分からないよね。雨野くんも記憶喪失だし」
「え?響くんと同じってこと?」
「らしいよー」
女子は女子で情報交換みたいなのになっていて、俺は着いていけず。
同じく赤毛の少年も困ったような顔で、目があった。
「キミも記憶喪失なの?」
「らしい。そっちも?」
「そうみたい」
向こうから話しかけられたため答えると、案の定記憶喪失みたいだった。
記憶喪失者が出会うってどんな確率だよ…。
「えぇっと……どうも雨野奏です」
「あ…どうも、響裕太です」
「お互い苦労するかもだけど…よろしく」
「うん、よろしく」
軽く自己紹介を交わして握手を求めるように手を差し伸べると、意図を理解してくれたようで手を握ってくれた。
けど---
「---!?」
「どうしたの?」
手を握られた瞬間、頭に電流が走ったような痛みが走ってバッと手を離してしまう。
ちょっと驚いたように見つめられ、俺は戸惑いながら苦笑いを浮かべる。
「ごめんなんでもない。裕太くんって呼んでいいかな」
「いいけど……じゃあ俺は奏くんって呼ぶよ」
「それで構わない」
赤毛の少年、裕太くんには申し訳ないことをしてしまったが新条さん以外に知り合いを作れたのは大きいところだ。
特に同じ境遇だから話しやすそうだし。なにより彼は優しそうだった。
なので互いに目が覚めたらどうだったかと分かる範囲で情報交換をしたのだが、どうやら俺と新条さんが病院から離れた後に裕太くんたちも辿り着いたらしい。
もしかしたらそこで会ってた可能性もあったのか。
それに裕太くんは六花さんの家の前で倒れていたとか。
「そういえば、奏くんに聞きたいことあるんだけど…」
「聞かれても分からないと思うけど、それでいいなら」
なんなら何を聞かれても分からない自信はあるが、響くんはちょっと困ってる様子が見られる。
同じ記憶喪失として力になれることならなりたい。
「
「……なにそれ?」
「…だよね」
予想通りというように裕太くんは力なく項垂れていた。
なんか申し訳ないな。うん、力になれなくてごめん。記憶喪失になる前の俺なら知ってたかな?
「それで六花はどうしてここに?」
「ちょっとお腹が空いてさ」
「19時過ぎてるもんね〜じゃあいつまでも話してたら六花たちが買えないだろうから私たちは行こうかな。雨野くんもいい?」
「新条さんが良ければ…結局俺だけじゃ分からないしさ」
「ああ、響くんと同じで家も分からないんだ……だからアカネと一緒だったんだ?」
「そーそー。だから私たちは行くよ、二人ともまたね」
邪魔してはいけないと会話に入らない俺と裕太くん。
というか俺ら二人ともなんも分からないからね、改めてどういう状況だよ。
「うん、また」
「ああ、うん。また」
「あーじゃ、六花さん。裕太くんをお願いします」
「知り合ったばっかでそれ言うことじゃなくない?…まあ頼まれなくても、もうここまで来たし」
「う…ごめん、六花」
「えー響くんが謝ること?」
「…なんかごめん」
「いや、俺の方こそごめん」
「だから---あーいいや。終わらなさそうだし」
負の連鎖というか、無限ループに入りかけたところを六花さんが切ってくれたので、助かった。
と言うよりは面倒くさくなったって感じに見えるけど。
「んっと…じゃあ改めて。またねー」
「ということで…買い物邪魔してごめん。裕太くん、困ったことがあったら言ってくれよ」
「うん、奏くんも。俺に出来ることなら力になるから!」
「一応、暗いから気をつけて」
「六花たちもね。---雨野くん」
「お願いします」
ちょっと長話になってしまったが、買い物に来た六花さんや裕太くんの邪魔になってしまうのもあって、俺と新条さんは俺の家の方向と思わしき方向へ。
裕太くんと六花さんはコンビニに入っていく。
その道中で。
「響くんと何話してたの?もう親しくなってるように見えたけど?」
「特には無いけど、自己紹介とお互いの状況確認…かな。なんというか、大変だなって思った。記憶喪失って」
「えぇー?なにそれ、雨野くんだってそうじゃん」
「それもそうなんだけどさ。他人がそうなってるのを見るとね」
「そっか」
歩きながら何話したか聞かれたので素直に答える。
親しくなれたなら、正直嬉しいけどな。
六花さんとはあんま話せてないけど、なんだかんだ親切そうだし。
そういえばグリッドマンのことは…話さないでいいか。裕太くんの情報を言いふらしてもアレだしね。
ただちょっと裕太くんは…何か、俺とは違ったような気がする。
「…あ。ここだ」
途中から他愛もない雑談をしながら、失言しないようにちょっと気をつけていると自分の苗字が書かれた表札があった。
漢字もあっているし、ここだろう。
俺はマンションの五階に住んでいたようだ。
「じゃあ私帰るね」
「あ、ああ…はい、さようなら」
案内は済んだからか、あっさりと背を向けて新条さんは帰っていく。
止めても悪いし、送っていくのも…迷惑か。というか道も完全に覚えてない俺が送っていけるわけもなく。
こんなもんだろう。これで本当に終わり。
だから俺は俺でひとつひとつ、少しでも思い出していけるように頑張らないと。
それにもし家族が居るなら会うことになる。今はそっちが問題で。
不安と緊張を抱きながら、ドアノブを握って---
「ねっ」
「…しっ…新条さん!?」
開く前に横から声が聞こえて肩が驚いた影響でビクッとしたが、視線を向けると新条さんが隣にいた。
前のめりになって、下から俺を覗き込むようにして。彼女の綺麗な、それこそ宝石のような赤い瞳が近くにあって。
あまりに近くて思わず一歩下がって身を反らしてしまう。
な、何か忘れ物でもしたのだろうか。
「雨野くん、好き?」
「へぁっ!?」
質問の意図が読めなくて、頓狂な声が口から出た。
しかもちょっと大きめの声が出たせいで、新条さんは萌え袖になっている手で口元を抑えながら両肩を震わせている。
悪い事をした---
「ふ、ふふふふっ」
「ぅ……」
笑われていただけだった。
なんだかそれが無性に恥ずかしくて、顔に熱が籠ってくる。
けどそれ以外にも、笑ってる姿がありのままの彼女を見れたようで恥ずかしいけど得をした気分だった。
「ごっ、ごめんね、雨野くん。ふふ…なんだかウルトラマンみたいな声で。って、記憶喪失だったね。分かんないか〜」
例えを出して言ったようだが、俺の状態を思い出したのか残念そうな様子だった。
しかし。
---M78星雲出身のウルトラ戦士、われらのウルトラマン。
ヒーローが生まれたウルトラシリーズの始まりの物語に出てくる光の巨人。
大昔から宇宙の平和を守ってきた怪獣退治の専門家であり---
予想通り、頭の中には浮かび上がっていた。
しかも名前だけじゃなくて文章みたいに。
これもこれでなんなんだ……。
「そっ…それで、好きって…何が?」
「うん、ずっと気になってた。雨野くんのリュックに付いてるの、ブルトンでしょ?」
「あ…うん」
背中の方が見えるように首を動かせば、隕石のようなキーホルダーがある。
ブルトンってのはこれだ。
「だから怪獣が好きなのかなって。どう思ってるのか聞きたかったの」
さっき聞きたかったのは、そのことだったのだろう。
向き直って新条さんを見れば、彼女は優しい目で首を傾げている。
俺はどう思ってるのだろうか。
分からないから、分からないなら、自分が思ったことを伝えればいい---
「---好きだよ」
「……!」
「俺、記憶喪失なのに。怪獣のことだけは見たらすぐに分かるんだ。みんな笑うかもしれない。バカにするかもしれない。
でもさ、これだけは間違いない。これだけは嘘をつきたくない。俺は、俺は怪獣が好きなんだ。昔も今も、きっと。この気持ちだけは、絶対に嘘じゃない……と、思う……」
自分の心に従うように右手を胸元で握りしめながら大見得切って言ったまではよかったものの、最後の最後で自信を無くしてしまった。
ただそれでも、霧の向こうに見えた怪獣は怖いって気持ちよりもかっこいいっていう思いが勝っていたし怪獣を見ると懐かしい気持ちになる。ずっと見たくなる。もっと知りたいって思う。
これが好きじゃないって言うなら、一体なんて言うのか。
「………」
「………」
どれだけ経ったのかは分からない。
気のせいかもしれない。錯覚かもしれない。
それでも新条さんが何処か嬉しそうに見えて。
「私も好きだよ」
「!?」
「---怪獣」
耳元で囁かれた言葉はこそばゆくて、不思議と胸にストンと落ちて。
両手を後ろに組みながら前のめりで悪戯が成功したように微笑んだ新条さんは、今日一緒に過ごしてきた中でとびっきり可愛く見えて、とても魅力的に思えた。
「それだけっ!じゃあ、明日また話そうねー!」
走っていく新条さんの背中を俺は呆然としながら眺めることしか出来なかった。
春に咲く満開の桜のように心が奪われて、物事を冷静に考えれるようになって気づいたことがある。
「…あした?」
新条さんが言い残していったその言葉を信じていいなら。それが本当であるならば。
俺は彼女と、新条さんとまた話しても。会ってもいいってことなんだろうか?
「……ただいま」
いつまでもドアの前に居たら怪しまれるかもしれないので、俺は一度思考をかき消して部屋の中に入る。
「暗っ……当然か」
部屋は真っ暗で、電気がどこにあるか分からない。カーテンも閉められているのか明かりはなかった。
手当り次第に壁に触れて探って、ボタンを押すと電気は点いてくれた。
どうやら電気は通っていたらしい。
靴を脱いで整えてからリビングと思わしき場所へ向かう。
部屋は汚いというわけでもなくて、廊下を歩きながら周りを見渡すと風呂場とトイレ、部屋が二つ、リビング、ベランダみたいだ。
「あった」
リビングに入ると最初に電源を探して部屋を明るくする。
テレビと椅子、テーブルはあるが目立ったものは無い。
ただ壁際のガラスケースには至るところに怪獣の人形が多く並んでいる。
大切に保管されているであろう場所で、俺は写真立てがあることに気づいた。
「……これが親、かな」
父親と母親、小学生くらいの自分らしき写真。
笑顔で写っていて微笑ましくなる。
でも気づいた。
何故、小学生くらいの頃なのかと。
「特にメモがあるわけでもない……か」
留守にしてるなら何かとメモは書き残してるかもしれない。
そういうのもなくて、リビングを歩いていると分厚い本に足が当たった。
ちょっと痛かったが、拾ってみるとアルバムのようだ。
記憶喪失になる前の俺はこれを見てからどこかに出掛けていたのかもしれない。
何はともあれ自身を知れるきっかけになるだろうと開いていくと、薄々予感していた通り。
その写真は中学二年生の頃くらいから増えていない。
しかも少しずつ写真に写る俺の表情が暗くなっていて、中学生に上がる頃には父親は写っていなかった。
一緒に中二以降の写真には母親も俺もない。
ただアルバム以外に地面のそこら中にあるのはBlu-rayと思われるもの。それにビデオテープのようなものだってある。
---ウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブン、帰ってきたウルトラマン、ウルトラマン
次々と頭の中に浮かぶそれはパッケージのタイトルと思われるものにでかでかと書かれている作品名だ。
他にもまだまだあるが、今はいい。
どうやら俺はウルトラシリーズとやらが好きだったようだ。
こんなたくさんある時点で間違いないだろう。
なんならレコーダーの中にも見てたであろうウルトラマンギンガってのが入ってたし。
けど、他の人が居たような生活感が全くない。
母親は…もう居ないのかもしれない。
記憶が戻るか母親が帰ってくるまでは分からないけど、そう思っておこう。
そうじゃないと真実を知った時に心構えをしてなければ耐えられないかもしれない。
ひとまずリビングの電気を消して後にし、一つの部屋を開けたらそこには怪獣の人形だけじゃなくてぬいぐるみやカード、クッションやら色々あって、間違いなく俺の部屋だろう。
リュックサックを適当に置いて、俺はベッドに勢いよく体を預け天井を見上げる。
「………変わらないな」
家に入っても、何かを思い出せたわけじゃない。
不思議と空虚な気持ちになるだけで、何も無い。帰ってくるのが、むしろ嫌だったような感覚すらある。
両親はどこへいるのだろう。俺は何をしていたんだろう。居ないとしても、何があったんだろう。
他に家族は恐らく居ない。アルバムには三人しかいなかったんだから。
「考えても仕方がないし…寝よ」
結局思い出せないものはどうしようもなくて、俺は明日に備えて目を閉じる。
しかし目を閉じると、ある光景が浮かび上がった。
『私も好きだよ---怪獣』
家に入る前に、別れ際に言われた新条さんの言葉。
まだ耳に彼女の言葉が強く残っていて、表情も仕草も全部覚えている。
また顔が熱くなってきて、寝れる気がしない。
好きって気持ちではなくて、何か別の感情。嬉しい、のだろうか。
…なんだろうな。記憶喪失だってのに。これからを考えたら不安ばかりなのに。
記憶喪失も悪くないって思う自分がそこにいて。
気がつけば俺の意識は遠のいていた---
暗い部屋だった。
日が入らず、ごみ袋がたまった、お世辞にも清潔とは言えない部屋。無機質な怪獣の大群がガラスケースに敷き詰められた場所。
慣れているように一人の少女はその中を軽い足取りで歩いていく。
「アレクシスー」
誰もいないというのに誰かを呼ぶように声を発する。
彼女が向かったのはデスクトップであり、そこにある椅子に腰をかけると横のモニターは電源が落ちたままなのに彼女の眼前の大型モニターはいつの間にか点いている。
さらにそこにはどこか不気味な、映画の悪役のようなマスクをかぶった存在がいた。
一目で悪役と分かるフォルム。漫画やアニメ、ウルトラシリーズに出てくるキャラクターとしか思えない異形。宇宙人のような悪魔や魔王を思わせる姿。
その異形はモニターの中に存在しているように見える。
『おや、なんだか随分とご機嫌だねぇ。何かいいことでもあったのかな?』
「うん。ちょっと面白いことがあってね」
『ほう?』
親しげに異形と話す少女の言葉に、異形は興味津々といった様子。
「その人記憶喪失なのに怪獣のことは分かってて、でも他に何も覚えてなかったんだよ。それが嘘なら殺してたんだけど。
なにより私が作った怪獣のこと見えてるんだって! そこは驚いたなぁ」
『ふむ、それはそれは…確かに面白いねぇ』
物騒なことを言っているが、それを窘める者はいない。
怪獣が見える存在。
それがどういう意味を持つのか、分かっているのは異形と少女のみ。
当然ながら、その彼は知らなかった。
『キミはどうしたいんだい?』
「んー気まぐれで助けたけど話が合いそうだしもう少し話してみたいかな。どうして家の前で倒れていたのか気になるし…だから何もしないで関わって見ようって思うんだけど、どう思う?」
『キミがやりたいようにやればいいと思うよ。気づいてないようだけど、今のキミはとても楽しそうだ。本当は彼に少し興味があるのだろう?』
頭の中で今日の出来事が思い返される。
何かを決断したような時に向けられた真っ直ぐで強い瞳。初対面みたいなものなのに、相手を気遣う優しさ。
怪獣の名前を一切間違えなかったこと。
他にも色々とあるが、やはり一番の理由は---
「そうだね、興味あるかも。彼は何故か
『なら自分のやりたいようにやるといい。キミが面白いと思うことが大切だからね』
「…うん、そうしようかな」
意思を尊重するような言葉を投げかけられ、少女は自身の中で整理した後に決めたように頷く。
その顔は、とても楽しそうだった。
まるで新しいオモチャでも見つけたように、退屈を楽しく変えてくれることを期待するように。
『私も少しその人物に興味が湧いてきたよ』
「アレクシスも?珍しいね」
『あそこに居た彼がそれほど面白い存在とは思わなかったからねぇ。いつか紹介してくれると嬉しいよ、
「その時が来たら紹介するよー」
少女は、新条アカネはそう言って、楽しそうに部屋から出ていく。
以前とは違うアカネの姿をディスプレイ越しに見ながら異形は独りごちた。
『雨野奏くん、か……彼は一体何者なんだろうねぇ…』
誰も知らない。
それは本人たる彼ですら。
異形である存在と一人の少女に目をつけられてしまったことも。
本来出会うことの無い二人の運命が交差するとき、どんな未来が待ち受けているのか。
神ですら知らない物語の幕が上がる ---
続くか続かないかは分からない。