お久しぶりです。この作品の主人公は頭の回転が早いお陰でやりやすいですね。
ただ原作知識はないので、答えをどう見つけ出すのかがポイントになりそう。それによってルート変わりそうだ。
ご飯を食べ終えると食器を洗い、学校の準備をする。
ほんの少し待てば、幽霊さんがゆら〜りと近くに来たのを見て写真立てを見る。
子と親。小学生くらいだから随分前の写真ではあるものの、唯一家族全員が写っている写真。
「お父さん、お母さん。行ってきます」
記憶喪失四日目。
習慣となった挨拶をしてから、俺は幽霊さんと一緒に玄関に向かう。
流石に幽霊さんも両親の前では騒いだりはしなかった。
こういう真面目な時はちゃんと出来るようだ。
『今バカにしてなかった?』
しまった、ある程度なら繋がっている影響で思考が読めるんだった。
反省。
それはそうとして、俺は学校に行くために玄関を出る。
扉を閉めて鍵をしたことを確認して、外廊から見える外を見る。
眩しい太陽。
雨が降る心配は一切なさそうだった。
道は覚えてきたが一応見ながら行こうと地図を開こうとしたら、間違えてメッセージアプリを開いてしまった。
そこでそういえば裕太くんたちと交換していないことに気づく。
見事親しかないようだ。
『少年……』
「やめろ憐れむな」
ぼっちであることを可哀想な者を見るような目で見られたが、俺だって好き好んでぼっちでいるわけじゃない。
避けられてるだけだ。たぶん。
それはそうとして今度こそ地図を開いて階段を降りていく。
マンションを出たら天井がなくなったのもあって日差しが差し掛かる。
けれどまだ真夏の暑さではなく、これくらいならまだまだ普通に動けそうだ。
さて今日はどうしようか。グリッドマンに聞きに行くのはいいがそれだけで解決するとは思えないし……。
『……少年』
だが俺は記憶喪失だ。
探偵のように解決出来る能力もなければツテだってない。
あれ、もしかして詰んでるのでは?
『少年。少年。しょーねん。しーよーうーねーん!』
「…なんだ?」
なんてことを考えてたらめっちゃ連呼してきたので、仕方がなく返事する。
すると彼女は責めるような目を向けてきた。
『いつまで誤魔化してるの。本当は気にしてるんでしょ』
「何を……」
『新条アカネちゃんのこと』
「……!」
彼女の指摘に言葉が出なかった。
昨日新条さんを帰りに誘うことが出来なかったのは情けないと思っていたが、彼女が言いたいのはそう言うことではないはずだ。
『ちょっと寂しかったんじゃない? 今日居なくて』
新条さんは今日、いつものように先に来てることも待っていることもなかった。
誘われたわけでも誘った訳でもない。
確かにちょっと寂しくは思った。でも逆にこれが普通なんじゃないかとも思うんだ。
俺は恐らく、物語で言うモブという立場。脇役にすらなれない。
そんな俺が記憶喪失ということになったから、優しい新条さんは放って置かなかっただけ。第一、俺の家に来てもらうなんて手間だ。
四日目となると学校くらいの道も覚えれるだろうし、そもそも新条さんが俺の面倒を見る必要性なんてない。
今までが奇跡のような出来事だっただけだろう。そもそもクラスの人気者がクラスですら避けられてる俺を気にかけてたこと自体が異常だったんだ。
『少年はなんだかんだ下手くそだよねー顔に書いてるのに』
「書いては無いだろ」
『自分の気持ちに蓋をしたっていいことないんだよ。少年にとってあの子と話す時間は楽しくなかった?もう話したくないと思った? 楽しかったなら話せばいいんだよ。罪悪感があるなら謝ればいいんだよ。私たちには言葉がある。想いを伝えることが出来る。後々後悔するよりもその方がいいと私は思うなー?』
「………」
ウルトラシリーズについて語りながら学校に行くのは嫌いではない。
楽しかったし、言葉が次々と出てきた。
彼女も俺と同じ怪獣好きだったのもある。
何が原因かは実際のところ分からない。あくまで予想でしかないから。
「誰かに決め付けられることじゃない……か」
彼女の言葉を聞いて、新条さんに言われたことを思い出した。
はっきり言って俺は周りの目を気にする。というのも俺は避けられてるしもうどうでもいいけど、俺の影響で誰かが迷惑を被るのは嫌だ。
それでもやっぱり、新条さんとはまた話したいなって思っている自分がいるのは確かなわけで。
奇跡としか言いようのない出来事ではあったが、一緒に登校して話して、どうせなら楽しく過ごしたいと思う。いやそう望んでしまうと言うべきか。
俺が望んでいいことなのかは、さておき。
「…まぁ、なんだ。何をどうすべきは分からないけど謝ってみるよ。そもそも毎日ここに来るのが大変で来るのをやめただけの可能性もあるし」
『その可能性は低いんじゃない? ううん、ないって断言してあげるよ。 けど少年がちゃんと伝える意思があるのは良い事だね〜偉いぞ〜少年! お姉さんが撫でてしんぜよう』
「何のキャラだよ」
ひとまず撫でようとしてきた幽霊さんの手をしゃがんで避けると歩いていく。
後ろから不満気な様子でついてくるのが見えたが、ほんのちょっとだけ、胸のつっかえが消えたような気もしなくもない。
新条さんに申し訳ないことをした、という気持ちがどこかにあったのだろう。昨日ちゃんとフォローしてれば、自己満足でしかないがこんな気持ちは抱かなかっただろう。
---”そもそも、なんでこんなに新条さんのことが気になるのだろうか?“
そんな考えが一瞬過ぎったが、彼女は俺の中で初めて出会った人で、良くしてくれた恩人だ。初めての知人との縁は大切にしたいと思ったんだろう、な。
案外、答えなんてすぐに出てきた。
『えーもっと学生らしい勘違いしてもいいのに』
「勘違いって?」
『うーんこういうのってもしかして好きなのかも!とかなると思うの!! 他には相手の気持ちなんて全く気づかなくて怒ってる理由とか相手の行動が分からなかったり!
普通、少年みたいな子こそが鈍感だと思うんだけどなあ。暇で読んでたいせかいてんせい?の本では主人公は相手の気持ちに全く気づかずに意図すらわかってなかったし! らいとのべる?ってやつでも! なんで怒ってるのか分からないって書いてたよ!』
「所詮創作だろ…。現実はそうはならないって」
『そんなことないよー私は分かんないもん!』
「分からないくせによく俺の気持ちは分かったな」
『それは女の勘だよ〜乙女を舐めちゃダメだよ少年』
「それは末恐ろしいことで」
『むむ、少年はクールだねえ』
「いやクールなのか…?」
現実的と言われればそうかもしれないが。
いやでも、冷静という意味ではそうなのだろうか。自分じゃわからないな。
なんだって自分のことを何も知らないんだし。
『まあまあ、記憶喪失同盟の仲でしょー?』
「なんで知ってるんだよ」
『え? 何が?』
「………」
単純に思考が被っただけだったらしい。
まあでも、今のところ俺、幽霊さん、裕太くんが記憶喪失だからな。三人。
これ以上増えたらどうなるんだよ。
奇跡的に被っただけで、そんな偶然はこれ以上絶対にないと思うが。
教室に辿り着くと新条さんは居なかった。
まだ来てなかったようで、俺は自分の席に座ると裕太くんもいないので顔を伏せる。
周りはガヤガヤと少しだけ騒がしいが、時刻的にはまだ余裕はあるからか比較的静か。
しばし寝てられるだろう。というかやることがないし。
何かあったら幽霊さんが起こしてくれるはずだ。
『人…じゃなくて幽霊を目覚まし時計扱いしてないー?』
(信頼してるだけだ)
『えへへしょうがないなあ。お姉さんに任せなさい!』
さすがに小声だとバレると思って思念を送るような、メッセージを送るイメージで心の声で話したら届いたようだ。
やはり俺とパス的なものが繋がってるということか。距離は10mほど、俺が触れてるものは触れることが可能。食事はなぜか可能。ある程度の思考は強制的に伝わる。恐らく強い感情ほど届きやすいのか。そして心の声であればさっきのようにすれば通りそうだな。ただこれも強く送るようなイメージじゃなきゃ無理そうだ。
とりあえず出来る実験はこれくらいか。思いついたらやろう。
『ただ寝るためじゃなくて、確かめてたの!?』
(いや寝るためだが)
『えー…そこは私のためだって言って欲しかったなあ』
(幽霊さんのためだよ)
『心が籠ってなーい!』
なんかこう、疲れが取れないというか昨日は頭が痛かったし眠かったし今日は頭痛が酷くないからマシだとは思うのだが、ちゃんと寝たのに眠いんだよな、つまり寝るのは仕方がない。
だからこそ、ちょっと慣れてきたところで今度こそ俺は意識をあっさり手放す。
『て。……き!』
睡眠を妨げるような声が聞こえる。
まだ寝たいという欲が残ってはいるが、起こして欲しいと言ってたような気もしなくもなくもない。
『きー! ……ー!』
しかし眠たいものは眠たい。
このまま目を開けたら寝れないだろう。だが声に従わなければ寝れるかもしれない。
『きーて! 起きて、少年! おーきーてー!』
---どうやら俺の負けらしい。
眠気を強引に取っ払って顔を挙げる。
視界がぼんやりとしてまだ完全に意識は覚醒してないものの、目の前には幽霊さんの顔があった。
『あ、やっと起きたぁ。もー、寝坊助さん!』
彼女の赤い瞳は新条さんに似ている。
顔立ちと一部を除いて体つきもそっくりだ。
何が言いたいかと言うと、彼女は端正なのだ。
未覚醒の脳で一時停止してしまったが、強引に叩き落とすと僅かに椅子を引く。
『少年?』
(なんでもない。起こしてくれて助かった)
出来る限り伝えないように隠すと、通じなかったようだ。
やはり隠したい時は隠すことも可能らしい。
いやしかし、下手に意識を取り戻さなくてよかった。もし完全に目が覚めてたら全力で椅子を引くか後ろに倒れていた自信がある。
「奏くん?」
「…ん、ああおはよう裕太くん。いつの間に来てたんだ?」
「ついさっきね。奏くんは早かったの?寝てたみたいだけど…もしかして今日も寝れなかった?」
「人は比較的少なかったかなぁ。いやちゃんと寝たけどやること無くて寝てた」
「そうなんだ…あ、だったら---」
後ろの席の裕太くんと話していると、チャイムの音が鳴った。
お陰で聞こえなかったが、ここまでのようだ。
悪い、とだけ伝えて前を向く。
注意をされて下手に注目を集めたくないからな。
(そういえば……)
HRが始まり、右から左へ受け流しながら横目で新条さんが座っている席を見た。
いつもと同じダボダボなパーカーを着こなしている彼女は肘を着いて拳に顔を乗せながら窓側を見つめている。景色ではなく何処か遠くを見ているような。
すると窓を見ていた彼女が一瞬だけ此方を見た。
目が合ったような気がして、視線を彷徨わせると新条さんは再び窓を見ていた。
気のせい、なはずがない。
でも理由までは分からなかった。
特に深い意味はなかったのだろう、とそう思うことにして俺は授業を受けることにした。
相変わらずよく分からなかったが、一時間目が終わった。
幽霊さんも興味はなかったのか最初は新条さんの近くで授業を受けていたのだが、途中で帰ってきて寝ていた。
俺は何かしでかすのではと心配だったが、触れられないし杞憂だったようだ。
抱きしめられないことに何故か俺に文句言ってきたが。
「んー…」
『ふう…やっと一限目終わったね!』
寝てたくせに何を言うのか。
ノートすら取ってないんだからいいだろう。俺なんて必死にノート書いてたんだから。
『ご、ごめんって。そんな目向けないでー!』
「まぁいいか……」
別に強制するつもりはない。
邪魔にならない分はマシと見るべきか。机の半分を使われると困るが、許容範囲だ。
傍から見たら変な感じになってたかもしれないが、避けられてる俺には影響がないはず。
それはさておき。
「裕太くん裕太くん」
「ん? どうかした?」
俺は後ろの席の裕太くんに声を掛けると、彼は中腰から椅子に座り直していた。
移動するつもりだったのだろうか。それはちょっと申し訳ない。
「大した話じゃないんだが、一応確認したくて。今日の放課後だったよな? あそこに行くの」
「うん、俺も気になると言えば気になるし……」
「まぁそりゃそうだよな…もしかしたら記憶喪失の手がかりがあるかもしれないし」
「俺だけじゃなくて奏くんもね」
「…俺もか?」
確認のために聞いたが、流石に今の言葉は予想外で驚いてしまう。
裕太くんはグリッドマンになれるから分かるが、俺は一切関係ないはずだ。
「だってほら、俺と奏くんだけでしょ、見えるし聞こえるの」
「---」
そう指摘されて、自分でも頭から抜けていたことに気づく。
確かにそうだ。
裕太くんはグリッドマンに変身できる。変身者なのだからグリッドマンのことが見えても聞こえてもおかしくは無い。
ならば…俺は?
グリッドマンは俺の記憶にあるウルトラシリーズのひとつ、ウルトラマン
だったら俺が変身者という選択はない。変身者だったならば、グリッドマンは俺にも声を掛けるはずなのだから。
じゃあ俺は一体なんなんだ。なんで記憶喪失になった?なんで怪獣が見える?なんでグリッドマンが見える?聞こえる?俺はなんで、どうして、俺は一体…なんなんだ---
『少年、少年? しょーねん!』
「…っ!?」
『どしたの、大丈夫?』
声を掛けられたお陰か思考の渦から抜け出すことが出来て、大丈夫だということを伝えると思考を掻き消す。
「奏くん平気?なんだか顔色が……」
「大丈夫、ちょっと考えごとをしすぎただけだ」
「そう?大丈夫ならいいんだけど」
「よっ、おふたりさん。何の話?」
「あ、内海」
そうこうしてるうちに内海くんもこっちに来たようだ。
彼だけが席違うからな。
「内海くん、ただ確認してただけだよ。今日だろ、えー六花さんとこ」
「ああ、今日こそは確認しないといけないしグリッドマン同盟の秘密基地だからな!」
「うん、まあ秘密基地かどうかはさておき。そういう話だったもんな。まぁ結局俺たちは何も知らないからそれが妥当っちゃ妥当なんだけど」
勝手に人の家を秘密基地にするわけにはいかないから聞き流すが、実際俺たちが唯一分かっているのは裕太くんがグリッドマンになれるということ。
その他は全くと言っていいほど分からない。
「けどウルトラシリーズでも様々な理由で正体を隠してるだろ? 内海くんあんまり大きい声で言わない方がいいぞ。どこに黒幕が潜んでいるか分からないんだ、変身者をばらす訳にはいかない。記憶を失ってないのは俺を合わせて四人。つまり狙われる危険性はそれほどあるんだ」
「お、おう…確かにそうか。悪い」
「…なんていうか、奏くんすごいね」
「ん?何が?」
「いや、俺も内海も…多分六花も。そこまで深く考えてなかったと思うんだ」
「ああ、ぶっちゃけ意外だった。そりゃ深く知ってるってわけじゃないけど…印象と大きく違うなと」
「……そう、なのか?」
恐らく俺が記憶喪失になる前のことを言っているのだろうが、もちろん俺には分からない。
けど記憶喪失になる前の俺は今の俺とは異なるようだ。
「まあ俺は今の俺でしかないんだ。俺は俺だし裕太くんも内海くんも自分は自分だろ。それに俺の場合は考えすぎてしまう節があるっぽいしそれだけだよ。思慮深いと言ってくれ」
「うん、居てくれて良かった。安心感があるよ」
「そう素直に告げられるとどう返せばいいか分からなくなるな」
「お、照れてるのか?」
「そういうわけじゃ…ないはずだ。なんだろう。ま、普通に頼りにされてるようで嬉しい」
「ぶっちゃけたな…」
「でも奏くんが居てくれたから俺も落ち着いていられるんだよね。ほら色々と似たもの同士だし」
「まー同期の記憶喪失だもんな。奇跡的すぎるだろお前ら」
「照れるだろ、なあ」
「あはは」
「褒めてねぇよ!」
「いいツッコミするね、内海くん」
「そうさせてるのは雨野だろ」
「いやいや、俺はただ単に---うお」
友達がいるならばこんな会話なのかな、とは思いながら話してると背中にほんのちょっとの衝撃が走った。
一体なんだろうか、と顔を挙げると内海くんは驚いたようにこちらを見てる。
いや正確には後ろ。
「し、ししし新条アカネ!?」
「あー…大丈夫? ちょっと躓いちゃって」
そこには新条さんが居た。
今の衝撃は彼女がぶつかったからか、と頭は冷静に状況を理解した。
見た感じ怪我がないのは良かった。
とにかく何か喋らないと…何を、言うべきか。
気にしてない? 大丈夫? 問題ないと伝える?
謝るべきか? それとも何か他の---
「…昼休み。ここに来て」
「……え」
考えていたところで、耳元で囁かれるのと同時に俺の手に何らかの感触が残る。
どういうことか、と口にしようとする前に一歩前へ進み、振り向いた彼女は---
「邪魔してごめんね」
そう言って離れていった。
友人と思わしき二人と合流して、教室を出ていく。
その前にほんの一瞬、俺に視線を向けてきたような気がした。
「……はぁああ、びっくりした」
「内海は何もされてないと思うけど…」
「ばっか、そういった問題じゃねぇんだよ」
「………」
「あー…まあなんだ、あまり雨野も気にすんな。仕方がないって」
「待て、なんで俺が振られた感じになってんだよ。何もしてないっての」
『はぁぁぁ、うーんやっぱり可愛いねぇアカネちゃん。抱きしめたい!撫でたい!それはそうとして少年何かもらった?』
何もしてないのに何故か同情されたり傍で誰にも見えない
そこにあったのはくしゃくしゃになった紙。ゆっくりと開いてみれば、階層と思わしき文字と地図らしきもの。
あの短な会話から察するに、昼休みにここに来て欲しいということか…ここは渡り廊下か?
「それよりもそろそろ時間だし移動しようぜ」
「移動教室か、案内頼むぞ内海くん」
「お願いします」
「だろうなと思ったよ」
まだ学校に慣れてない俺と裕太くんは内海くんに案内を任せ、他愛もない話をしながら授業に向かった。
なんというか、友達がいたらこんな感じなのかなと思った。
『うんうん、時間なんて関係ないんだよ。友達ってなるものじゃなくてなってるものだからね。傍から見てたら、もう友達のような距離感だと思うな。よかったね、少年!』
時間は関係ない、か。
何も持っていなくて、周りから疎まれている俺が果たしてそんなことを思っていいのだろうか。
分からない。分からないけど…そうだと、いいな。
そんなこんなで裕太くんと内海くんと親交を深めていたら、気がつけば昼休み。
俺はひとまず誘ってくれた二人に行くところがあるからと断り、購買部でパンを購入するとメモを見ながら歩いていた。
階層も書いてくれているお陰で記憶のない俺にも分かるもので、辿り着くと渡り廊下のドアを開ける。
室内から出たのもあって吹いてきた風に反射的に目を瞑るとゴミが入ったような違和感を感じて目を少し擦ると、再び開ける。
すぐに視野が戻り、俺の視界には新条さんが映っていた。
手摺に組んだ両腕を置いて外を眺めている。
それに対して俺は、彼女が何処か遠くにいるような錯覚に陥っていた。
物理的な距離はそれほどではないはずなのに、なぜそう思ったのか分からない。だけど精神的にでも物理的にでもなく、根本的なナニカが違うようで…。
でもきっと、気のせいかもしれない。同じ世界で同じ学校で同じ場所で、歩いたら近づける距離なのだから。
それよりもいつまでもこうしているわけにはいかない。
いや、違う。このままではいけない気がする。
深呼吸を挟んで、俺は歩みを進めながら驚かせないように小さめに彼女に声を掛けた。
「新条さん」
「…あ。来てくれたんだね、雨野くん」
正解だったかどうかは分からないが、俺の存在に気づいた彼女は手摺を引っ張るようにして背中を少し曲げてこちらを見てくる。
何を口にすればいいのか、何をすればいいのかなんて分からないけれど、伝えなくちゃならない。
目を閉じて、心を落ち着かせると俺は今度こそ口を開く。
「新条さん…ごめん!」
「え?」
頭を下げて謝ると、戸惑うような声が聞こえる。
それはそうだ。俺だって急に謝られたら意味分からなくて同じ反応をする。
説明のために顔を挙げると、彼女はよく分かってない顔をしている。
「えっと……なに、急にどうしたの?」
「いや……その…」
言ってからというもの、この先の言葉は口にするべきなのか分からなくなる。
ただの勘違いかもしれない。気にしてないのかもしれない。
それでも。
「ほら…昨日のこと。昼休みのことで……ごめん。あと、今日は新条さんと一緒に登校出来なかったから…い、いや新条さんが俺と一緒に登校する理由はないしそんな約束はしてないけど……その、えと…怒ってたら…謝りたかったから…」
頭ではちゃんと考えていたはずなのに、言葉にすると上手く出てこなくてたどたどしくなってしまった。
顔色を窺うように俯きがちに目をやると、新条さんは面食らっていた。
目をぱちくり、と瞬きして、数秒にも満たない一瞬。
「……っふ」
「……?」
言葉を飲み込んだのか新条さんは俺から目を逸らすと袖で覆われた手を口元に当てて。
そして。
「うふふふふ…あはははっ!」
「し、新条さん? あれ? お、俺真剣だったんだけど…」
何故か笑われてしまった。
今度は俺が理解出来ず、戸惑いを覚える。
何が面白いのか、片方の手ではお腹を抑えている。
え、そこまで笑われるものなの…?と思って幽霊さんを見たらニコニコ笑顔だった。この状況でそれはどういう笑顔だよそれ。
「ふ、ふふっ、んふふ……ご、ごめん。そ、そんなことだったんだ」
「そ、そんなこと…」
「う、うん…ふふふふっ。そ、そんなに気にしてないよ。言わなかった私も私だし。怒ってたから雨野くんを迎えにいかなかったわけじゃなくて、今日は寝坊しちゃってね。それで行けなかったんだぁ。いらない心配掛けちゃって、ごめんね?」
それを聞いて俺は体感温度が上昇する感覚に陥る。
つまり、なんだ。
俺は気にしすぎてただけで、本当は全く気にしてなかった。怒ってたわけで呼んだわけでもなく、別の要件。朝来なかった理由は寝坊。
色んな言い訳をして逃げようとして、幽霊さんに言われて向き合った結果がこれで……。
「……しにたい…!!」
何が言いたいかと言うと、昇ってきた羞恥心で死にそうだった。
恥ずかしすぎて顔が見れない。思わずしゃがんでしまった俺は悪くないはず。
そりゃそうだ。俺だって寝て起きるんだし新条さんも同じなんだ。
いつだって起きてる訳でもないはずだろ。なんで寝坊という可能性にすら至らなかったんだ俺は……!
「あははっ、でも……うん、次は一緒に行こうね。せっかく雨野くんから誘ってくれたもんねっ」
「…っ、あ、ありがとう…」
耳元で囁かれ、ゾクゾクとした妙な擽ったさというか感覚に耐えつつも、なんだかんだ解決した俺は心から安堵し、ひとまずは羞恥心は他所へ投げ捨てた。
『うへ、笑ってる姿も可愛いなあ…うへへ』
空気をぶち壊すこの変態は見なかったことにしておくとして。
『ひどっ! 私がそんなこと思うのはこの子だけだよ!! 私、一途なの、一途な乙女だからね!』
はいはい、と適当に返しつつも立ち上がった俺は今日の昼食を食べるべく買ってきたコッペパンの包装を取って、いただきますと言ってからちぎって食べる。
普通のパンだ。
「あ、買ってきたんだね」
「うん。新条さんは? ないなら食べる? 俺だけ食べてるってのはちょっと…」
「私は食べたから平気。あまり食べてもね」
「そっか、眠たくなるか…」
午後も授業は残っている。
お腹いっぱいにしたら寝てしまうだろう。
パンを食べる俺と、隣でトマトジュースを飲む新条さん。
気がつけば隣同士で外を見ていた。
変わらず視界には怪獣が見えるのだが、これに関しては動かないから気にしていても仕方がない。
それよりも本題に入るべきか。
「あのさ、新条さん」
「ん〜?」
「どうして俺をここに呼んだのかなって。それに秘密にするような……」
それが一番気になっていた。
こうして秘密裏に会うつもりがないなら、直接言えばいい話だ。わざわざ紙を渡すだなんて。
あのタイミング、渡し方、間違いなく偶然を装っている。あの時はたまたまだと思っていたが、怒っているわけでもなかったなら俺には理由が思い当たらない。
「んー、やっぱり雨野くんって……鋭い?」
「え…ど、どうだろう。俺記憶ないし、他の人のことよく分からないからな……」
「それもそうだよね。うーん、なんだろ。雨野くんって人の目を気にする感じだからここでなら二人で話せるかなって」
「…本当は?」
普通なら納得してしまう理由ではあるだろう。
けれど俺には、裏が隠されてる気がして聞いてみると、彼女はほんの少しばかり驚いた顔をしたあとに穏やかなものへと変化する。
「ここなら、君と私しか居ないこの場所なら好きにたくさん話せると思ったんだよね。雨野くんとなら怪獣のこと、たくさん語れそうだから」
「---」
それは嘘ではないと不思議と分かった。
怪獣のこと、まだ思い出してないことは多くあるだろう。全てのウルトラシリーズを見返す必要があるか、名前を聞く必要はあるがそれだけで思い出せる。
実際少し記憶は増えているのだ。自身に関してではなく、ウルトラシリーズのみだが。
それにこの高校で、この場所で怪獣のことだなんて、ウルトラシリーズのことだなんて、特撮のことだなんて、口を大きくして話すものでは無い。世間一般から見れば、子供が見る番組という印象が強いだろうから。
だけど、そうか。彼女にとって俺は”記憶喪失の可哀想なただの同級生“じゃなかったんだ。
勝手に彼女のことを決めつけて、無意識に自分の気持ちを見ないふりして、自分を卑下していただけだったのか。
こんなチャンス、二度はないはずだ。ならちょっとでも、少しでも、ちょっぴりだけ自分の心に従ったって、いいはずなんだ。
「お……俺なんかでいいなら……違うな。俺も、新条さんと話したい。何もない俺だけど新条さんと語り合う時間は楽しくて…居心地が良くて……またそうしたいと思ってたんだ」
「じゃあ…」
「うん、だから新条さんが良ければ…たくさん語りたい」
紛れもない本音。
彼女と語り合うのは楽しいと思った。
同じ趣味を持った相手なんて、それもヒーローでなく怪獣だなんて広い世界で出会うのは限りなく低い。
だからこそ、今この瞬間が俺にとって大事なものなのだと思う。
そしてきっと、これから。
「決まり。ならこれからの昼休み、ここに集合ってことで…いいかな?」
「俺は…まあ食べる相手いないからいいけど、新条さんは…大丈夫?」
「大丈夫。上手く言い訳するから」
「そか…それなら、いいか」
言ってて悲しくならないのかと言われれば悲しくはなるが、新条さんには友達がいる。だから心配だったが彼女がそう言うなら俺に何かを言う権利はない。
それに内海くんの言葉を信じるならば、クラス全員から好かれているのだろう。下手に俺が何かしようとしたらバレて面倒なことになってしまいかねない。
まぁそれは恐らく記憶喪失である俺と裕太くん以外、となると思うが。
「うん。だから約束だよ」
「約束……」
そう言って右手の小指を差し出してくる。
指切り、ということだろう。約束を守るという誓いの行為。
そう望むならと俺は反対である左手の小指を伸ばして、直前で触れていいのかどうか悩んで逡巡する。
俺からではなく、彼女からなら問題はないだろう。しかし別に好きでもない異性に触れられて嬉しい人はいないはず。
果たして良いのだろうか。
『少年はやくー待ってるよー? こういうのはちゃんと約束しなきゃダメだよ!』
「ん」
その声に現実に引き戻された俺は、幽霊さんの一押しもあって躊躇しがちに自身の小指を近づけて、新条さんの小指に触れた。
どうやら俺は無駄に考えすぎる癖があるらしい。一人なら訝しまれてたかもしれない。
「約束破ったら---指切るからね」
「あ、あはは……多分大丈夫」
俺からではなく、新条さんが先に小指を曲げるとワンテンポ遅れて曲げれば互いの小指が掛かり、絡められる。
指切りげんまん、嘘ついたら針千本的なやつだったか。
こういうのってだいたいはそれくらい約束を破らない覚悟というだけな気がするのだが、何故かこの時だけは本当になりそうな気がして、新条さんがするはずないと説得する自分がいた。
「…なんだかこうして約束するのって、同盟みたいだね」
「同盟? 俺と新条さんなら……怪獣のことだし、安直だけど怪獣大好き同盟…とか?」
「怪獣大好き同盟…いいね、それ」
我ながらネーミングセンスはないと思うが、分かりやすいことが評価されたのか肯定された。
そもそも俺が一度出した案は記憶喪失同盟だからな、酷すぎる。多分前からネーミングセンスは皆無だったのだろう。ウルトラシリーズでも物によっては似たようなもんだし問題ないか。ウルトラブレスレットとかそのまんまだもんな。
「じゃあ今日から私たちは怪獣大好き同盟。私と君だけの…二人だけの、同盟」
甘い言葉の響き。
何も知らず、何も分からず、自分が何をどう生きて何を思って生きてきたのかすら分からなくて、残っていたのは知れば知るほど蘇ってくるウルトラシリーズの知識だけ。
そんな俺がクラスの人気者である新条さんと怪獣がいる世界で、こうやって二人だけで過ごす時間や同盟を結ぶだなんて記憶喪失前の俺に伝えたって分からないだろう。
非現実的なことばかりで実感はまだ湧かないけど、目の前にいる新条さんは確かに本物で。
この瞬間だって一回限りではなく、もっともっと続いていくであろうこの時間。
「新条さん……これからも、よろしく」
「こちらこそ、よろしくね雨野くん」
改まったことにどこか可笑しくて互いに笑いあって、俺と新条さんは昼休みが終わるギリギリまで今日は初代ウルトラマンに登場するベムラーやULTRAMANに登場するザ・ワンなど関連性のあるものに繋げていきながら語り合った。
ガヴァドンAかBどっちが好きとかだったり。
ちなみに俺も新条さんもAだった。あっちの方が可愛いから仕方がないな…と頭の中で勝手に浮かんだ姿に納得した。
けれど。
俺は、この時のことを、この日のことを二度と忘れることはないだろう。交わした約束を。誰にも知られていない彼女と俺だけのひそかな同盟が結ばれた日のことを。
放課後になると、俺は裕太くんと内海くんと共に六花さんについていった。
目的地が彼女の家なのだ。何も知らない俺と裕太くんはついていくしかない。流石にそんなすぐ覚えられないし。
『夏だねぇ〜私もそろそろ夏服かなー』
幽霊が着替える必要あるのか、そもそも着替えられるのかなどちょっと気になったが、目的地のジャンクショップに辿り着くと裕太くんは迷いなくグリッドマンがいるパソコンに向かい、俺も分かってるので裕太くんについていく。
『やあ』
「あ、どうも」
「グリッドマン、聞きたいことがあるんだが……」
『裕太、君には使命がある!』
「えっと、それについてもっと具体的に聞きたいんだけど…」
「使命……か」
前来た時とは変わらないグリッドマンの姿がパソコンの中にあって聞こえもするが、何も変わっていない。
まともな会話が出来ないのか他になにかあるのか。
「絵は見えるのに声は聞こえないじゃん」
「中途半端だなー」
「え!? 聞こえないの? 奏くんは…聞こえてるよね」
「ああ、ちゃんと聞こえてるし見えてる」
六花さんも内海くんも見えるようにはなったようだが、聞こえないようだ。
俺は初めて見た時から聞こえてるので頷きながら答えると裕太くんは小首を傾げていた。
そんなとき、後ろから幽霊さんの呼ぶ声が聞こえた。
『何の話してるの? 何かいるの? え、もしかして幽霊!? 少年逃げよう!』
「幽霊はお前だろ…そもそも幽霊がそんなに見えてたまるか」
『てへへ』
「褒めてないんだが……」
「…奏くん?」
「ん?」
そもそも取り憑かれてるのは俺だと言いたかったのだが、会話してたら裕太くんに呼ばれて反応すると、裕太くんは戸惑いを覚えているような様子だった。
「あ、雨野…お前突然どうした? 誰と喋ってんの?」
「……んん? ま、待て待て。裕太くんは…?」
内海くんに言われて違和感を抱く。
もしかしてグリッドマンは見えてるのに見えてないのか? こっちも問題ないだろうと思って普通に声に出したんだけど。
ということはグリッドマンとは異なる存在となるわけだが…けど俺は最初からグリッドマンを認識出来てたし、同じ裕太くんならば---
「…ごめん。俺も急に奏くんが誰かと喋ってるようにしか……」
「うそだろ…!? ちょっと待ってくれ! ほら、ここ! 俺のここに幽霊がいるわけなんだが……え、俺だけ?」
まるで言い訳をするように場所を知らせつつ伝えると、三人ともピンと来た様子はない。
「なんか見える?」
「いや、全然」
「俺も」
どうやら誰も見えないらしい。
そりゃそうか、幽霊だもんな。霊感ないと見えないもんな……。
六花さんと内海くんの可哀想な人を見るかのような目が突き刺さって辛い。
「病院、行こうな」
『メガネ私も付けてみようかなー借りていい?』
店の椅子に座っていた内海くんが同情するように俺の傍に来て肩を叩いてきたが、誤解されている。
まずい、このままだとまずい。
「ちげーよ! 本当にいるんだってば! なんなら今お前の後ろでメガネ借りていいかとか言ってるんだって!」
「え、なにそれこわ…メガネ取る幽霊とかいんの?」
「私の家誰もメガネ掛けないけど。あーでも今はいないだけかな」
「そうじゃなくってだから……はぁ、悪い。忘れてくれ……」
どう説得しようとしても証明出来るものがない以上、頭がおかしい人になるだけだと諦めた俺は項垂れる。
写真は幽霊だから映るはずもない。実体化なんて出来ない。場所伝えても見えない時点で無理。グリッドマンなら見える可能性はあるが、botみたいになってるから不可能。
グリッドマン見えるんだからこっちも見えるかと思ったんだが。じゃあ、幽霊さんは本当に幽霊なのか? 俺の予想は幽霊ではあるが何かしらの意味があって存在していると思っていた。第一、怪獣が狙ったってことは怪獣には見えてるということ。
そしてグリッドマン。
誰も覚えていないのに、俺たち四人は覚えている。幽霊さんは怪獣のことは覚えている。ここにいる四人はあの時、グリッドマンを目撃したメンバーだ。
だがグリッドマンを目撃したからという理由で記憶が消えないのならば、街の人々の記憶が消えているということは矛盾してしまう。
考えられる可能性はグリッドマンが何かをしたのか、それともこのジャンク屋でこのパソコンでグリッドマンを認識することが大切なのか…。
けど内海くんや六花さんは見えるようにはなった。それはなぜだ?
……ダメだ、どう考えても分からないな。
「ま、まぁ奏くんには見えてるということだろうから」
「ゆ、裕太くん…俺の味方は君だけだ…!」
例え信じられてなくても、その言葉だけでどれだけ嬉しいか。
俺は感極まって裕太くんの手を両手で握ってぶんぶん振った。
「あはは…大げさ---っぇええ!?」
「うわぁ!?」
「今度はなんだよ?」
「えっ、急に叫んで…何?」
『…ん、あれー?』
目の前で大声を挙げられ驚く俺と、叫んだ裕太くんに内海くんと六花さんが目を向ける。
裕太くんは尻もちをついて俺を指さしてるように見えるが。
『少年。やっぱり…その子私のこと見えてるよ?』
「……は!?」
後ろから聞こえた声に反応すれば、彼女も驚いている。
もう一度裕太くんに目を向ければ、彼は混乱しているようで視線を彷徨わせて何かを探してるようにも見える。
「い、居た! 今! さっき! 誰か…居た!」
「おいおい裕太まで頭がおかしくなっちまったのかよ」
「やっぱり二人とも病院行った方がいいんじゃない?」
「さらっと俺の頭がおかしいことを確定させるな」
『ありゃ、気のせいかなーさっき一瞬私と目が合ったんだけど…今は見えてないみたいだねー』
客観的に見たら幻覚でも見てるのか錯乱してるようにも思えるから仕方ないが……。
それは完全に否定出来ないからいいとして、今は見えていない?
でも裕太くんのこの反応は間違いなくさっき見ていたということ。
「い、いや本当! 本当に居たんだって!」
『こんばんはー初めまして? がおーっ!』
裕太くんの目の前で両手を広げて爪を立てた動物のようなポーズを取っている彼女を他所に、思考の渦へと入る。
俺たちが記憶を失っていないのは恐らくグリッドマンが関連してると予想すべきだ。ならばこっちは、幽霊さんがトリガーとなっているのか?
だとしたら辻褄が合わない。第一ここに来てから彼女は何か特別なことをしたわけではない。
何か変わった条件が鍵に……。
『むむ? 食べちゃうぞ〜? 見えてない? なんでかなー少年が握ってた時は見えたみたいだけど』
その言葉を聞いて、ハッとする
そうか。俺が握っていたときということは…そういうことか。
幽霊さんは触れることが出来ないが、彼女は俺が触れたもの---パンは食べることが出来た。それは食べ物だったからだ。
食べ物に見るということは出来ない。俺が触れたことで食べれるようになったということは限定的に実体化が出来ているのか、触れたものが幽霊---この場合は幽霊の世界、幽界とするとしてそこへ干渉したのか。
そのどちらかに絞ることは一応可能だ。
じゃあ俺たちのような生物ならば?
怪獣は超常的な存在ではあるが生き物だ。
生き物であるなら『目』が存在する。目がなくとも他の器官が代用しているだろう。
怪獣は幽霊さんを捉えた。これに関しては正直参考にはならないが見ることが出来たということは生き物ならば見ることが出来るようになるのだろう。
恐らく、取り憑かれている俺が触れることで。
ならば---
「でもどこにもいないよな……気のせいとか…?」
「疲れてんじゃねーの?」
「いや待ってくれ、裕太くん。一度触れてもいいか? そうしたら恐らく、見えるようになると思う。俺の背後を見ててくれ」
「そ、それはいいけど……どういう…」
立ち上がっていた裕太くんに許可をもらうと、俺は幽霊さんに背後に来てもらってから彼の肩に手を乗せる。
すると。
「う、わぁ!?」
『わああぁぁ!?』
咄嗟に離れようとする裕太くんに俺は慌てて腕を掴むが、予想通り見えているようだ。
となると条件はやはり、俺が触れることか?
というかなんで二人して驚くんだよ…裕太くんならまだしも。
『えへへ、つい。じゃなくて、こんばんは。君は響裕太くんだよね、よろしくねー?』
「え、あ…よ、よろしくお願いします…じゃなくて! もしかしてこれって…!」
「そう、幽霊さん」
『声も聞こえるんだーごめんね驚かせるつもりはなくて…あと私記憶喪失でねー。今は名前ないからお姉さんと呼んでくれていいからね!聞いて聞いて、少年ってばね私のこと全然お姉さんって呼んでくれなくてー私はこんなに少年のことを想ってるのに酷いと思わない? ぐすぐす、お姉さん悲しくてないちゃ』
「は、はぁ……って、あれ?」
掴んでいた腕を離すと、裕太くんは周囲に視線を巡らせる。
やはり俺が触れていたら限定的に見えるのか。というか余計なこと言う必要あったか? 俺の姉じゃないだろうに。
「なあどういう状況なのこれ」
「さぁ?」
「俺もさっぱりで……けど間違いなく奏くんは嘘を言ってなかった。確かに俺には、今さっきまで女の人が見えてたし喋ってたから。それも浮いてる人」
「ということは本当に幽霊がいるってこと? えー雨野くんに取り憑いてる?」
「怪獣の次は幽霊か…ますますウルトラシリーズみたいになってきたな!」
「興奮するところじゃなくないか? …そっちに関しては多分、やったら分かるかもしれない。恐らく俺が触れることが条件なんだ。手を離したら見えなくなるんだろうな。内海くんはいいとして……六花さん、触れても? 二人とも手を出してくれるだけでいいから」
「それはいいけど…」
「これでいいのか?」
俺の言葉に従って二人とも片手を差し出してくれた。
俺の予想が正しければこれで見えるはず…と俺は二人の手に自身の手を置いた。
「どうだ? 後ろにいるんだが…」
「後ろ…あー…うん、グリッドマンが映ってるパソコンがあるな」
「何も見えないけど?」
「……どういうことだ?」
「いや、俺に聞かれてもな」
「同じく」
嘘をついてるようには見えないというか、メリットがない。
それに幽霊を見たら驚くのが普通だ。
本当に見えてないのだろう。となると全てが覆る。
俺が触れたら見える訳では無いのか?
「裕太くん、もう一回いいか?」
「あ、うん」
二人が無理なら、唯一見えた裕太くんはどうだろうかと二人から離れた俺は裕太くんの肩に再び手を乗せる。
幽霊さんに視線を向ければ、手を振っていた。
「やっぱり見えるけど……」
「そうか……裕太くんだけ、か。ありがとうな」
「結局どういうことだよ?」
「待ってくれ……ちょっと整理する」
新しく得た情報から全てを更新していく。
まず俺が触れるという条件は間違いない。これはパンで試しているし他でも出来た。
問題となるのが二人が見えなかったという点。怪獣に関しては超常的な存在だから視認出来るのは納得出来る。
見えなかったということは霊感がないと考えたら自然だが、それは違う気がする。
恐らく俺は取り憑かれたから、宿主だから見えるし聞こえる。なら裕太くんは?
二人は見えなかった。裕太くんは触れたら見れた。まだ一体でしかないが前居た怪獣、超常的な存在は認識した。
そこから導き出される結論は、ひとつ。
裕太くんはグリッドマンに変身出来るから問題がなかった、ということが一番近いんじゃないか?
所詮は俺の推論でしかないが、怪獣が見えることを考えたらこれが一番近い気がする。
「…そうだな、多分だけどグリッドマンになれる裕太くんだからこそ、見えるんだと思う。俺に関しては取り憑かれているからだな。今ある情報ならこれが近いはずだ」
「てことは、今のグリッドマンと同じってことか。姿が見えないだけで」
「端的にいえばそうなるな…けどまぁ、もう一人いるってことは分かってもらえた…と思う」
「裕太の反応見りゃ、嘘とは思えないからな…」
「まぁ…状況的にも信じるしかなさそうだし」
俺一人なら信じられなかったかもしれないが、裕太くんのお陰で信じてもらえたようだ。
これで俺が変なやつではなくなったし堂々と話せるだろう。それに彼女を認識出来るのが一人だけでも増えたのだからいいことだ。
知恵もひとつ増えるしな。
「それはそうとして、結局グリッドマンは何か言ってるのか?」
「ああ、そういえば…伝えてなかったか。裕太くん」
「うん、えっと……」
そして裕太くんが前と同様危機が迫っているということをグリッドマンが言っているというのを二人に伝えた。
つまるところ、グリッドマン含めて怪獣や街の異変に関しても一切の進展がなかったということである。ジャンクの調子も悪いみたいだし。
暗く狭い部屋。
生活感のあるような部屋とは思えないもので、唯一無事なのは周りにあるショーケースやパソコン周りだけ。
掃除が行き届いてない部屋とも言えるだろう。
そんな部屋に一人、街を歩けば100人中1000人は振り向くであろう美少女と言えるほどの容姿を持つ銀髪の少女が椅子の上で胡座をかきながらヘッドホンを身につけ、体をゆっくりと揺らしている。
パソコンの中には明らかな異形と思わしき、宇宙人ともいうべき存在がいた。
『
「んーまぁちょっとねー。なんだと思う?」
少女、アカネの声は低いものでも暗いものでもなく、誰がどう聞いても見ても明るいものだ。
無論その表情も。
『うーむ……もしや例の少年…だったりして?』
「正解! そう、雨野くん。お客様のことに関してはまだなんだけどね。
彼には驚かされてばかりだよー。私が何か言ったわけでもないのに察したのか考えていることを当ててきたり、言葉の裏を読んだり…私の予想を何度も超えてくる子」
雨野奏。
記憶喪失の少年であり、つい四日前アカネの家の前で倒れていた人物。
なぜ倒れていたのか、なぜ記憶喪失になったのか、そういったことすら彼女にも分からず唯一分かるのは自身と同じようにウルトラシリーズが好きだということのみ。
そして今日、アカネと約束をした者である。
『ほう……』
「”お客様“のことも興味はあるけど、彼の興味も尽きないんだよね〜まるで退屈な世界に色付いたみたい」
『アカネくんにそこまで言わせるとはねぇ。キミが楽しいならば何よりだよ。お客様のことは自ずと分かってくるさ』
「うん。それに記憶喪失というのも気になるし。趣味も合うし疲れない。他とはどこか違うし、変な気を起こすこともない。ほんと、考えれば考えるほど雨野くんは退屈しないかも」
『まあ今はゆっくりといこうじゃないか。その彼のことを今のうちに知っていくのも悪くは無いことだろう。アカネくんはアカネくんの欲求に従って、”お客様“のことも少しずつやっていけばいい』
「そうだね。焦ったって何も分からなければ意味無いもんね。アレクシスの言う通り、”お客様“のことはゆっくりとやっていこうかな」
話せば話すほど興味を失うどころかその逆となっていく少年のことを考えるアカネは彼が今度はどんなことを考え行動し、どんな話をするのか。
それに期待を寄せていた。
少なくとも、無神経でも嘘を吐くことも無く、起きた問題を無かったことにせず自ら行動し即解決する姿は好印象、とアカネは思っている。その一方で他と違って怪獣についての記憶を失わず、予想を超えてくる姿には面白いとすら感じる。
ただアカネとアレクシスに興味を持たれていることなんて当然彼は知るよしもなく、時間は過ぎていく。
幽霊さんと雨野くん、ここに来てのファインプレー。
主人公鈍感だったらもう三回くらい死んでそう