心の穴を満たして   作:絆蛙

7 / 7

メリークリスマスです。
年内最後になりやす。感想は読んでました。お陰で書けたよ。
ちなみに予め言っておきますが、六花と主人公の絡みはあるものの六花が主人公のヒロインになることは絶対ないです。
裕六を見て出来るやついたらカーンデジファー様に嘘吹き込んでNTRを消し去ってもらうわ。
ひとまず24話構成考えてたけど長くなりそう。なので一話一話の文字数増やしてみた。遅れた理由これ。




運・命

 

結局何も分からないということが分かってしまって解散となってしまった。

俺は家の場所が違うため、裕太くんたちとも分かれて帰る最中だった。

 

『あ、アイス! 少年買おうよ〜! 甘くて冷たくて美味しいよー?』

 

幽霊さんの存在を信じて貰えたのは一歩前進だ。

限定的とはいえ、裕太くんも視認出来ると分かった事だし。

でも一番の問題が何も分かってないんだよな。

グリッドマンはbotだし、街の異変は不明だし怪獣の出自も不明。

ついでに俺の記憶も裕太くんの記憶も幽霊さんの記憶も不明だ。

不明ばっかりだな、どうするんだこれ。

 

『ちょ、ちょっとちょっと!私たちの記憶ついで扱いなの!? というかアイス! あーいーすー!』

「…ああ、それはそうだろ。命あってなんぼのことだし、失ったら記憶も得られないからな」

『少年アイスのこと意地でも無視するね!?』

「……行けばいいんだろ」

『わーい!』

 

子供のようにはしゃぐ姿にため息が溢れる。

別に無視しているわけではない。ただ全く関係ない話だから聞かなかったことにしていただけだ。

 

『ほら早く!早く行こー!』

 

俺の手を引っ張るように彼女は店に向かっていく。

本来触れてもすり抜けるはずが、俺が触れるという条件を満たしているからだろう。彼女が俺の手を握るということは、腕なら触れてないから無理だろうが、手なら俺が触れているとも取れることだ。彼女から握ったら掴めないなんてなれば矛盾が発生してしまう。

彼女が俺を引っ張れる謎を解析しながら俺は転けないように足を動かしていると目の前にいる彼女は楽しそうで、とびっきりの笑顔だ。

分からないことを考えようとして、だけど何も分からなくて、それでも考えるのをやめられなくて。

そんなことを繰り返す俺がなんだかバカみたいに感じる。

……まぁ考えたって仕方がないもんな。それに疲れた脳に糖分は必要、か。

 

「そう引っ張られたら俺が転ぶぞ」

『そこは私じゃないんだね〜』

「だって浮いてるだろ」

『あは、そうだった!』

「……たく」

 

彼女の言葉に呆れてしまうが、不思議と怒りが湧いてくることもなければ悪い気持ちになることもない。

もし彼女が生きていたなら、どうなっていたのだろう。いや…その時はきっと俺と出会うことなく友達を作って彼氏でも作って普通の女の子としての生を歩んでいたのだろうか。

それともこうして俺の近くに居て、今のように手を引いてくれたのだろうか。

もしもの話なんてしても仕方がないことだが、何故だか前者だと思うことが一切出来なかった。

 

『あ、これ割るやつじゃない? 半分こしよー?』

「……なんでもいいよ。好きにしてくれ」

『やったー!』

 

まぁ、でも生きている俺と死んでいる彼女は同じ時間を歩むことは出来ない。

未練が無くなれば成仏すると言われているのが幽霊で、記憶を取り戻す過程はあるが別れは来るだろう。

その時何を思うか分からないが、今は、少しくらいは優しくしたってバチは当たらないよな。

もし彼女が居なくて俺一人ならきっと、今もずっと考えていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流石に今日は学校は休みだ。

つまり土日の休日。

何をやるつもりかはもう決めていた。昨日はグリッドマンのところに行き、何も変わらないまま帰ってきて終わり。

今日六花さんに許可もらったとして、再び行っても無意味だろう。というか、多分裕太くんが居なきゃ意味ないだろうし。

考えるのは月曜日でいい。今のとこ怪獣は出てないみたいだし、そんなポンポン来られても困るからな。

もしものことがあったら動くつもりではあるが……やれることといえば戦いを見守るくらいしかないし、情報得るにも特に伝手はない。

だからこそやることがないため、ウルトラシリーズを見る…ことも考えたが現実を見るべきなので真面目にしようと思う。

ウルトラシリーズ見てもウルトラマンに関する知識は蘇るが、俺の記憶には関係ないしな。

今はそれよりも大事なことがある。

 

『何処か行くの?』

「ああ、留守番…は出来ないか。とりあえず知識だけでも戻さないといけないからな」

『どういうこと?』

「すぐ分かる」

 

学校に持っていくものと同じ鞄に必要な物を入れ、背負うと家を出る。

鍵を閉めたことを確認すると階段を降りて外に行く。

今日も晴れみたいだ。雨は濡れるしこの季節となると晴れでも雨でも暑いからな。

それならまだ晴れの方がいい。

しかし外に出ても休日の朝だからか、人はそれほど多くはない。これが昼となるともっと増えてくる頃だとは思うが…。

ひとまず道が分からないことが問題だな。記憶を失った影響で地理すら失われてしまっている。携帯で道を調べて行くのが得策か。

 

『ねーねー、どこいくのー』

「図書館」

『あー! それなら分かるよ〜こっちこっち!』

 

そう言うや否や、彼女は先に限界まで行くと手を振っていた。

飛行と歩行では差があるんだが…限界なく動けてたら見失ってたぞ。

 

『携帯よりもお姉さんの方が頼りになるんだからね!』

「…はいはい」

 

携帯の方が機能がいっぱいあるだろだとか色々と言いたいことはあったが、抑え込んで素直について行く。

場所に関しては地図を見るより実際分かる人に案内してもらった方が分かりやすいのも事実だしな。

 

 

 

というわけで図書館に来た。

10時30分くらい。既に開いていたので図書館を少し見渡し、本を見繕う。

数本重ねて窓際の机に着席すると、俺は早速ペンとノート、教科書を机に広げた。

 

『えーなになに…大人の学び直し超解読ドリル全科コンプリート〜小学生編〜…え、小学生!?』

「何も分からないんだよ…」

 

漢字はまだしも、数学なんて基礎が分からなきゃ何も出来ない。

今までは前のページを見て何とかしてきたが、ぶっちゃけ理解出来ているかと言われればあまりだ。

まだテストがないのが救いだが、一学期の終わりも近い。

油断していれば期末テストで赤点、からの補習の可能性が増えてしまう。今後怪獣がいつ現れるか分からない状態で時間を取られるのは避けたい。

 

「俺は解読してるから好きな本持ってきて読むといい」

『そう言われても触れないよ?』

「……見つけたら呼んでくれ。ページは俺が開くから」

『んー、そか』

 

今までの彼女の姿から勉強は好きではないのは察せられる。

だからこそ好きな本を持ってこさせることにした。

範囲外に行きたいならその都度俺が歩けばいい。

辞典並みに分厚いが、何とかなるだろう。

とりあえずふよふよと浮いてどこかへ行く彼女を見送ると1ページ目を開き、目次を見る。

漢字は飛ばしてもいいだろう。

あれはなんか勝手に頭に浮かぶ。国語は問題ないから、社会と数学…算数と理科か。

英語は後回しにするとして…算数のページを開くと、見るだけで答えが浮かんでくる。

なるほど、どうやら俺は忘れてしまっただけで見るだけで十分らしい。こういっちゃあれだが、俺は頭が良い方なのだろう。

あとはウルトラシリーズとは違って、勉学に関しては記憶を失う前は必ずと言ってしていたはず。真面目だったか不真面目だったかは分からないし、不登校だったかもしれないけど常識は残ってたように、似たようなものなのかもしれない。例えるならそう、ウルトラシリーズと同じく魂が覚えてたみたいな。第一足し算引き算など覚えてなかったら買い物すら出来ないからな。

なら一日もあれば小学校の問題は行けそうだ。必要なのは基礎だから、そこに絞ればいい。

逆に言えば小学生の問題だから簡単なだけで、上がれば上がるほど難しくなる。小学上級生から中学生レベルとなると苦戦するだろう。それを考えたら小学生の問題、特に低学年はぱっぱと終わらせるに尽きる。

読むだけでいいのだけがまだ救いか……。

しかし裕太くんは大丈夫かな。俺でこれなら、彼もやばいと思うんだけど……の割には見かけないんだよね。俺が覚えたら教えられるし、記憶喪失仲間としてそうしてあげられるよう頑張るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、ぐぐーっ……」

 

算数だけに絞って、時刻は気がつけば14時。

小学校の範囲までは学んだが、頭に詰め込みすぎて頭が痛い。

本来はもっと年数をかけて覚えるような内容をたったの三時間半の時間でやってるからな。

けど算数は問題無さそうだ。あとは中学生レベルだけだが、他の科目も並行してやる必要がある。先に簡単な小学生問題からやっておきたい。

このペースだと一日じゃきついかもしれないが。

 

『あ、終わった?』

「まだだけどひとまず飯にしようかなと…で、そっちはなんか読んでたのか? ページ捲るだけだったから何読んでたかまでは見てないんだが」

『うん、なんかねー剣と魔法の異世界に転移したウルトラマンみたいなパワードスーツを着た作品。アイア○マンっぽさあるよね、面白いよー?』

「アイア…? なんだそれ。特撮…と扱っていいのか?」

 

あくまで読むだけで良かったから片手は開いていた。

だからページを捲るのは出来ていたのだが、面白かったならいいか。

それよりもご飯だ。腹が減ったら集中が途切れるだろうし。

 

「まず返しにいくか。そっちの本は借りるか?」

『じゃあまだ途中の一冊だけ〜』

「そうか」

 

持ってきていた本を元の位置へ戻し、鞄の中に荷物を全部収納する。

幽霊さんの本はどこにあるか分からないので本人に案内してもらった。これ、ライトノベルってやつか。異世界へ行った作品らしい。

俺はあんまり知らないみたいだ。流し見程度ではあったが、タイトルを見ても何も頭に浮かんでこない。

なんというか、やっぱり思い出せる記憶と思い出せない記憶もあるんだろうな。思い出に関しては写真を見ても一切思い出せなかった割に、ウルトラシリーズと勉学に関しては思い出せるし。

となると、一番有力な説は深く根付いてるものなら思い出せる…かな。

だからって何かがあるわけじゃないよな、結局自主的に思い出せないし。

 

「まぁいいか」

 

本を返すのは終わったので、ちゃんと荷物を忘れてないか確認して本を借りて図書館を出ると歩く。

目的地は特に決めてないけど、あまり食べすぎない程度にしないと勉強のしすぎで寝てしまうかもしれない。

それにバイトしてないからお金だって無尽蔵にあるわけじゃないからな。

 

『どこにする?どこにするの?』

「そうだな……近いところ…コンビニかな」

『いいねーコンビニ! 何食べよっかなー!』

 

近場で調理せず色んな食べ物が売ってる場所と考えたらコンビニだったので挙げてみたら、文句はなかった。

そこでいいか。

てっきり何が文句のひとつは来るかと思ってたのだが。

 

『せっかくの人生なんだからどんなものでも楽しまないとね! それに私そこまで欲深い人間でもわがままでもないよ!』

 

おっと…難しいな。ふとした時だと心を読まれる。

てか幽霊だろ、人間じゃないし人生というのは人間がこの世で生きている期間のことだ。死んでるならもう幽霊生の間違いじゃないか。

 

『それは確かに! でもでも、別に隠さなくたっていいんだよー?お姉さんが相談に乗ってあげる!』

「で、何を食べたいんだ?」

 

そんなに遠くなかったから着いたため、一応訊く。

決して話題転換しようと思って訊いたわけではない。

 

『どうしよっかなーむむむー…パンもあり…』

 

悩む彼女を置いて、俺は適当に弁当を手に取る。

商品を見ればから揚げ弁当で、なんでもいいので気にせず幽霊さんの元へ向かう。

 

『んー…これっ!』

 

指差したクリームパンを手に取り、ついでにあんぱんを取ると飲み物がないことを思い出して麦茶をレジで支払い、弁当は温めてもらう。

そうしてコンビニを出ると、図書館で食べる訳にはいかないのでどうするか考え、公園に向かった。

 

『昼時を過ぎたからか人が意外といるね〜』

「そうだな」

 

休日なのもあるのかもしれないが、子供も居れば大人もいる。

とりあえず空いているベンチを探して座り、荷物を隣に置いてからパンの包装を開いて空ける。

それから膝上に置いた弁当の蓋を空け、割り箸を割って手を合わせると心の中でいただきます、と呟く。

具材は一口サイズの厚焼き卵とから揚げ、胡麻の乗ったご飯のみ。

まずから揚げを口に含み、咀嚼する。

そうなるとご飯が欲しくなるのでご飯に手を出し、ちゃんと噛んでから飲み込む。

特別美味しいとは感じないが、普通にどこにでもあるようなコンビニの味だ。

次に周りを見渡し、誰も見てないことを確認してから出来る限り隠すようにパンを持って幽霊さんに向けると、彼女は大きく口を開いて一口食べていた。

ただ彼女基準なので、それほど一気に減ったというわけでもなく俺からしたら一口の半分くらいの量だが。

 

『んー♪』

 

美味しそうでなにより。

傍から見たら何も無いのにパンが欠けたといった感じになるんだろうなぁと他人事のように考えながら左手で箸を使ってから揚げを頬張る。

から揚げにしたのは正解だった。片手で食べられるし、口にさえ入れたら口を動かすだけでいいからな。

 

『じー』

「……食うか?」

『いいの!?』

「食べづらいし」

 

しかし見てたら食べたくなったようで、物欲しそうな視線を感じたので彼女の口にもから揚げを放り込んだ。

 

『ほわぁ…おいしい。美味しいよ少年! 食べられるって素敵だねぇ…』

 

そもそも幽霊は普通食べることが出来ないと思うのだが……まぁいいや。

公園で遊ぶ子供たちを微笑ましく思いながら眺め、景色を楽しむ。

麦茶を片手で何とか開けて片手で持って飲み、空を見上げた。

晴れ晴れとした空。雲も暗くなく明るくて、少ないお陰で大空を見られる。

なんというか、外で食べるのも悪くないと感じられる。注意しないと食べている物が何もしてないのに消失するというホラー現象になって大変なことになる可能性があるデメリットがあるけど。

 

『はふ、クリームも最高…あむ』

「………」

 

こうやって見てると、怪獣が現れたなんて嘘のように感じてしまう。

街は壊れてないし、子供たちは今も何も無かったかのように楽しそうに遊んで、怒って、喜怒哀楽の感情を表に出している。

ご飯を食べながら仕事をしている人や俺みたいにのんびりしてる人もいるが、結局これは怪獣が居るなら出来ないことだろう。

もしかしたら、全部が夢なんじゃないか……と思えたなら、良かったんだろうなあ。

今も首を横に向けて遠くを見れば、巨大な怪獣の影が見える。あれのせいで夢だとは絶対に思えない。

どうすればいいんだか、とため息を吐く。

 

『少年?』

「なんでもない。あんぱん食べるか」

『食べる食べる!わーい!』

 

子供かよと思ったが、子供か。俺も子供だけど。

彼女の外見は中学生から高校生だ。無論あくまで外見上だから特定は出来ないのだが。

ただ大学生が制服を着てるはずないだろう。たぶん。

そこから考えるなら、間違いなく学生だ。

 

『つぶあんだー美味しい! 少年はどっちが好き? こしあん?つぶあん?』

「……さあ」

『えー戦争になってるんだよー? ちなみに私は両方!えっへん!』

 

ない胸を張る幽霊さんに呆れながら、ちょっと調べて考えてみることにした。

こしあんは柔らかく煮て漉し、皮を除いて砂糖を加えて練り上げたもの。つぶあんは豆の粒を潰さずに残しただけの違い。

滑らかな舌触りが特徴なのとつぶつぶした食感。

 

「人に寄るんじゃないか」

『それ答えになってない…』

「…じゃあ、気分かな」

『両方ってことだねーくふふ〜、一緒!』

 

何がいいのか、嬉しそうにする彼女はつぶあんパンをパクパク食べている。

俺も自分の弁当を食べながら、口元にクリームがついてるのが気になった。

後で指摘すればいいか。それよりあまり長居して人が増えたら気付かれる可能性もあるし食べて去るとしよう。

あといい加減拭けよ…って俺が拭かないといけないのか。幽霊さんを手招きして付いているクリームを拭うと、口に含む。

 

『ふえっ』

「どうした?」

『な、なんでもなーい』

 

なんだかいつもより顔に赤みがあって、いつもと様子が違うことは気になったが、クリームも中々いいなとすぐに思考が掻き消された。

が、直ぐに自分がしたことに気づいて、冷や汗が流れる。

それに体温が上がってきたので、このままではまずいと記憶に蓋をして気づかなかったことにした。

……あれ? そもそも幽霊なのに幽霊さんの口に付着しているものって食べられるのか…食べられるものなのか?

いや傍から見ればクリームだけ浮いてたとか……は、誰もこっちを見てないしなさそうだな。それを言えば食べられる時点でおかしいことになるし、なんかあれだ、俺が触れたら食べられるのと同じ現象でも起きたんだろう。

 

「……ん?」

 

思考が持っていかれてしまったが、そうこうしてる間に食べ終わったので袋に詰め込んでいると、何かが視界に入る。

周囲を見渡したら、誰も気づいていないというわけじゃなく、関わろうとしていない。

仕方がないか…と立ち上がると、荷物を持って移動する。

不安そうにして、今にも泣き出しそうな子供がいる。

状況から察するに親とはぐれたか。

 

「うっ…えぐっ…えぐっ…ぅぅぅぅ……」

「君、どうした?」

 

怯えさせたりしないように、声を小さく穏やかに心掛けながら背を合わせて声を掛ける。

ギリギリ泣き叫ばれる前に声をかけることが出来た。俺が泣かせたみたいな現場を作り上げたら困るし。

 

「俺で良ければ力になるから、話してくれるかな?」

「う…ぅん…それが……ママとはぐれちゃって……」

「そっか、じゃあ一緒に探そう。君がお母さんを探してあげるんだ」

「わたしが……?」

「うん、泣くのは悪いことじゃない。だけど泣いていたって何も変わらないんだ。それなら動いて早く見つけて、お母さんの……お母さんの腕の中で泣きついた方がいいだろ? 大丈夫だ、俺が絶対に見つけてやるから」

 

そう言って少女の頭をぽんぽんと撫でる。

警戒心がほとんどなくなっている。これなら探せるだろう。

それにこの子の母親がここに来なければ、この子はずっといるかもしれない。子供が一人でいる方が危険だろう。

いつ怪獣が現れるか分からない以上、放っておくなんてもっと出来ない。

それなら一緒に探した方が早く見つかるし、もしもの時は逃がしてあげられる。

いざとなれば幽霊さんから空から探してもらったらいいだろうし。

 

「……うん。私、がんばる!」

「いい子だ。行こうか」

「うん!」

 

元気になった少女の手を取って一緒に歩く。

周囲を見渡しつつ、母親の特徴を聞く。

黒髪にチェック柄の服、白っぽい肌色のズボンと。

髪は少し長いらしい。

少なくとも周囲と公園には特徴に合う人はいなかった。

となると、親の立場になって考えよう。

子供が居なくなった場合、普通ならばどうする?

①訳も分からなく探す。

②来た道を戻る。

③聞き込みをして探し回る。

④警察署に向かう

候補としてはこんな感じか。迷子センターとかあるような場所ではないしな。

ただだいたいはふたつに絞れる。

①か②。ただ①は冷静さを欠いて、なおかつ②を実践したあとのパターンが多いだろう。

つまり、はぐれてどれくらいかに寄るが②が確率が高い。

そう考えた俺は少女に来た道を教えてもらい、戻っていくことにした。

 

「お母さんー! 八重ちゃんのお母さんー! 迷子ですよー!」

「ママー! ママ、どこー!」

 

大声を出しているせいで注目されているが、我慢するしかない。

注目を集めるというのはこういう場合は大切なことだ。周囲を見ながら歩いているが、見えない範囲は声に届けてもらうしかない。

しかしそう簡単に見つかるんだったら苦労なんてすることなく、向こうから来てくれるということは無い。

でも諦めるという選択肢はないに決まっている。少女の姿が見えるように肩車することも視野に入れるべきか?

チラり、と視線を一瞬だけ動かせば余裕はまだあるようだ。疲れてきたらやるべきだな。

最初からやって俺が体力尽きたら意味がなくなってしまう。

ミイラ取りがミイラになるのは避けなければ。

とりあえずいざという時の切り札を三つくらい用意しながら、俺たちは声を挙げながら歩き続ける。

公園からかなりの距離が離れ、数分は歩いただろう。

声を挙げていると、俺は走って誰かを探すような仕草をしている女性が目に入った。

髪、色、服装は一致。片手には鞄。

特徴としては鞄以外は同じだが、近づいてみたら分かるだろう。

ぬか喜びさせるわけにもいかないので、少女の手を引いて一応他に居ないか探すようにしながら女性の元へ近づいて。

 

 

「---八重!」

「! ママ!」

 

女性が気づいたようにこちらを見た瞬間、俺は手を離してあげると少女は女性に勢いよく抱きついていた。

どうやら正解だったようだ。

母親も心配だったのか強く抱き締めていて、涙が浮かんでいる。

見るべきでは無いな、と俺は踵を返す。

これが親子水入らず、というやつだろう。

 

「あ、あの…!」

「…?」

 

声を掛けられた気がして、一瞬停止すると振り向く。

そのまま去るつもりだったが、無視する訳にはいかないだろう。

気がつけば少女と手を繋いでいる女性が頭を下げていた。

 

「ありがとうございました、本当に……このまま見つからなければどうしようって思っていて…!」

「い、いえ頭を上げてください。たまたまその子のことを知っただけですし感謝されたくてやったわけじゃないので……」

「ですが……」

「えー…と。じゃあその子の手を今度は離さないであげてください。それだけで俺は十分ですから。

……っとそうだ、八重ちゃん。お母さん見つかってよかったな。次からは俺がいる保証もないし気をつけてな」

 

実際にお礼が欲しくてしたわけではないが、満足しなさそうなのでそれっぽいことを言っておくと、最後に八重ちゃんに背を合わせるとぽんぽんと撫でて優しく告げる。

 

「うん、ありがとう。かっこいいお兄ちゃん!」

「ぉ……おう。どういたしまして」

 

子供らしい直球な言葉に苦笑しながら立ち上がると、女性の方に頭を下げて今度こそ踵を返して歩いていく。

 

「お兄ちゃんー! またねー!」

 

聞こえてきた声に視線を向ければ、大きく手を振っていて女性は頭を下げてきたので、軽く手を振り返して歩いていく。

図書館からだいぶ離れてしまったが、計算は狂ってしまった。

まぁゆっくりやればいいか。

それはそうと。

 

「いつまでその顔でいるんだよ」

『えー? 別に〜?』

 

気になっていたのだ。

珍しく静かだったなと思ってたら、俺が八重ちゃんの母親を探し出した時からずっとニコニコと笑顔を貼り付けている。

微笑ましそうに見られているというか、なんというか…優しい目というか暖かい目というか、そんな感じ。

抗議するように睨んでみるが、何処吹く風で受け流される。

 

『ただ少年は優しいなぁって』

「俺がか?」

『そう、じゃなきゃわざわざ迷子の子供に声をかけて一緒に探してあげようだなんて思わないよ。あそこまで必死に考えて動けるはずもない。それに少年は感謝もお礼もいらないって言ってた。

普通は見返りを求めるものでしょ?』

「まあ…そうかもな。けど別にそんな大した理由があるわけじゃないよ」

 

なぜ俺がわざわざ声をかけたのか。

理由はあった。

俺だって周りと同じく見なかったことにすれば良かっただろう。

それでも俺が動いた理由は、一つ。

 

「俺には母親の思い出がない。写真が残ってたから顔は知ってるけど、俺には母親と、家族と過ごした記憶はないんだ。電話も通じなければメッセージも届かない。どこにいるかも生きてるのかも分からない。だけどあの子は会えたんだ。会える可能性があった。 俺はただ自分を重ねて自分を救っただけで…自己満足だよ」

 

無償で誰かのために何かをするような存在には俺はなれない。

そういうのはヒーロー志望か主人公がやるものだ。

自分の記憶が気になる。家族が気になる。だけど会えないから、分からないから、せめて泣いているあの子には笑顔で居て欲しかった。

そしてそれを自分と重ねていた。そんなことしても、母親に会えないのに。

そう、俺は本当は……。と思うことかある。

だけどそれを言葉にしたら本当に自覚してしまうから、自覚したら抑えられなくなりそうだから、気づいていないふりをしている。

 

『……そっか。そうなんだ。気持ち、分かるなあ。不安なんだね。寂しいんだね。怖いんだね。

私も何も分からないし家族ってどうだったのかなーって思うときもあるもん。でもね、少年。少年は優しいんだよ』

 

なのに、彼女は踏み込んできた。

俺があの時思ったことを。

俺も無視すればよかっただけの話だ。それが出来なかったのは自分に重ねて、あの子の心を俺自身が同じように感じ取ったから。

俺は何をしたいのか、どうして家族がいないのか、自分は何者なのか。

 

「だから……っ」

 

それを認めたら終わる話なのに何故か認めたくなくて、見栄でも貼りたいのかと頭の中に過ぎる。

執拗い彼女に思わず声を荒らげようとしたところで、言葉が詰まった。

温い突風が通過し、風が髪を靡かせる。

彼女の赤い瞳は真剣だった。

からかうわけでもなく、ふざけているわけでもなく、優しさと思いやりに、慈愛に満ちている。

それこそ怪獣の心を鎮め救う慈愛の勇者のような。

 

『少年が肯定出来ないなら私が言ってあげる。少年が不安なら私が一緒に居てあげる。寂しいならたくさんお話してあげる。怖いなら傍で支えてあげる』

「なんで、そこまで……」

 

ある程度の関係性を築くだけでいいはずだ。

俺も彼女も欲しているものは自分自身の失った記憶。

互いに深く干渉する必要はなくて、利用すればいいだけなのに。

 

『ん〜これが本当の理由かはは分からないけど…貴方が私を見つけてくれたから、かな。私しか居ない世界に少年が手を伸ばしてくれた。私のことを見えるようになった原因は私にあるかもしれないし少年にあるかもしれないけれど、少年は私のことを放っておくことも出来たはずだよ。なのに少年は私のことを考えてくれた。行動してくれた。今日だって食べ物くれた。少年にとっての当たり前の行動で、当然のことでもね私にとっては凄くすごーく嬉しかったんだ。ああ、やっと誰からも無視されなくて済むんだ、って。私を見つけてくれたんだって』

「偶然だろ、そんなの。あまりに非日常の出来事に偶然が重なってそうなっただけで」

 

誰にも認識されない世界でひとりぼっちで居るのは寂しいだろうと同情はした。

放っておけないとも思ったが、それは俺が偶然見えるようになって偶然俺に取り憑いたからに過ぎない。

もし見えなければ、俺も皆と同じだっただろう。

 

『そうかもね。だけど偶然が重なり合えばそれはね、偶然じゃないんだ。一度目なら偶然かもしれない。二度目なら奇跡かも。だけど重なり合う度に必然に変わっていく。何より、とっても素敵な魔法の言葉に変えられるんだよ』

 

一つ一つ、思いを込めて紡がれる言葉の数々。

一度区切った彼女は何かを抱きしめるように胸元で両手を重ねると目を閉じて、少しの間を空けて微笑んでから口を開いた。

 

『私と少年が出会ったのは、”運命“なんだって』

 

そういった彼女の姿は、降り注ぐ太陽のお陰でひとつの絵として完成されていた。

美少女と呼べる少女が陽に照らされ、微笑みかけている絵。

これがドラマやアニメならばきっと印象的に残る部分になることだろう。

けど、何故だろうか。

その言葉を待ち望んでいたかのように、俺の中ですとんと胸に落ちる。

 

「運命……」

『そう、こうやって巡り会ったのは運命。そう思った方が素敵じゃない? 私は憧れるな、運命の出会い。まぁ死んでるんだけどね! あはは〜』

「……っは。台無しだよ、それ」

『でもいい顔になったね〜きっとお母さんにも会えるよ、生きてる!だから私たちは前を向いて出来ることをやっていかないと! この世界が無くなったら、記憶も家族も友達も全部ぜーんぶ消えちゃうんだから!』

「そうだな……そう思って、やっていくか。ひとまず勉強からだな」

『……え。そ、それはもう良くない? ほら、甘いものでも食べよ!』

 

話の終着点があやふやになったような気もしなくもないが、死人ジョークのお陰で吹っ切れたことがあった。

確かに彼女の言う通りだ。俺が優しいかどうかなんて些細なもので、やれることをしなければならない。

それに彼女がそう言うなら、そうありたいと思った自分が居る。例え過去の俺が酷いことをしていたとして、最低だったりしても、クズだったりしても、彼女が肯定し続けてくれるならいつか自分も認められる気がして。

運命だなんて信じていないが、怪獣が現れるこの街だ。そういう、なんらかの不思議な力でもあるのかもな。

彼女が見える理由も、怪獣が見える理由も、グリッドマンの声が聞こえたのも、裕太くんや内海くん、六花さんに出会ったのも。

何より、今こうして彼女が俺に取り憑いたのも、新条さんと出会ったことにも。

俺と幽霊さん、裕太くんの記憶が無くなったことにすら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日もまた、俺は図書館に行っていた。

昨日は結局甘いものを食べて帰ったので、続きをやらなければならない。

今日歴史を習うためにも社会からだな。恐らくこれは時間がかかる。

算数のように数式と公式だけを見ればいいのとは違って文章が圧倒的に多い。

算数にも文はあるが、読むだけで分かったからやる必要はなかった。

それに今日は少し頭が痛い……が、出来るだけやってみよう。

 

『うわぁ、嫌になる文章量だね〜』

 

多いだけで余裕だろ、と思ってたが、ページを適当に開いて読んでも残念ながら頭に浮かんでこない。

なるほど、漢字や数式などの日常に使うものならまだしも、使わないのはやはりダメらしい。

これは時間がかかりそうだな…一日想定だったが、諦めて時間をかけてやっていくしかない。それまで授業は頑張ってついていくか。

ひとまずどうでもいい内容は無視して、明らかに重要な話だけ読むといったところか。こっちは歴史に入るまでは基本問題ないだろう。

さて頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頑張った。

 

『しょ、少年ー!』

 

見事に力尽きた俺はパンクしかけて頭痛が発生していた。

もうなんか色々多すぎる。

俺が生きた年数よりも圧倒的に多いからと言われればそうなのだが、これはきつい。

4時間で結構目が痛くなるし頭痛いし情報量が多すぎる。

読みたい本のように自身の興味があるものならまだしも、義務的にやっているものだ。記憶を取り戻す手立てがない以上、授業についていくにはやるしかないからやっている。

それがより疲れさせる原因なのだろう。端的に言えば、それほど興味が無いと言える。

これを一人でやっているというのもあるのかもしれないな。

 

「仕方ない……」

 

時間も昨日と同じくらいだし、昼飯にするとしよう。

立ち上がった俺は四冊程度なのでまとめて持っていき、本を片付けていくと図書館を出る。ちなみに昨日の本は返して、また次巻を借りた。

今日はどこにするのかと聞いてきたが、考えるのも面倒になった俺は昨日と同じコンビニに入った。

適当に歩いて商品を見ていき、特にピンと来なかったのでおにぎりを二つとむぎ茶を購入。

幽霊さんは焼きそばパンがいいと言ってたので、購入した際に温めてもらってまた昨日と同じ公園に足を運んでいた。

奇しくも座るベンチも同じで、昨日をなぞっているかのようだ。

思わず苦笑しながら、おにぎりの包装を外す。

 

「……しまった」

 

包装の中を見ると、海苔が中に入っていた。

全部ではないが引っ張った際に海苔を巻き込んで残ってしまったのだろう。

気にしなければいい話なのだが、なんだか妙に気になってしまう。

過ぎたことを後悔しても仕方がないので、諦めておにぎりを食べる。

具は鮭で定番のものだろう。

普通に美味い。

焼きそばパンを食している幽霊さんを見れば、彼女は満面の笑みを浮かべている。

目覚めてから俺と出会うまでずっと何も食べてなかったのだから、それもあるのかもしれない。

…幽霊でも消化器官って働いてるのか?

と、考えるのはやめよう。今は休ませる時間なため、公園をぼうっと眺める。

今日も怪獣が出なさそうだが、昨日より人が多く見える。だからといって昨日と変化があるのかと言われたら、全くない。

空を眺める。

太陽が眩しくて、晴れ晴れとした空だ。もう少ししたら、梅雨に入るのだろうか。

俺が目覚めてもう一週間が経とうとしている。彼女と出会ったのは三日目だったかな。期間でいえば短い方だろう。

俺の中ではもっと長く感じていたのだが、色々ありすぎた影響かな。

 

「…ん?」

 

空を眺めてぼうっとしていたら、足に違和感を覚える。

まるで誰かに触れられたかのような、いやなんなら普段よりも重さを感じる。動けないほどでもないし軽いが、気になった俺は目線を足の方へ向けた。

 

「おにーちゃん!」

「キミは……ああ、八重ちゃん」

 

そこに居たのはショートヘアの黒髪の少女。

昨日迷子になっていたから力になった女の子だった。

もしかして今日も迷子になってしまったんだろうか。子供は好奇心が強いとかネットに書いてあったし、それならまた母親の元へ…と思ったら、視界の端に母親の姿が見えた。

会釈されたので返すと、ますます八重ちゃんが俺に抱きついてきた理由が分からない。

制服を着てるから事案にならなさそうなのが救いか。

 

「今日はどうしたんだ? 親とはぐれたってわけでもないみたいだし」

「えっとね、お兄ちゃんにあいにきたの!」

「俺に? 今日もここにいる確証はなかっただろうに……」

「あえたよ?」

「いやまあそう……いいか」

 

俺に抱きついている女の子はだいたい小学2年生未満と思われる喋り方で拙い。

変に道理を口説いても意味は無いだろうと諦めると、隣に座ってきた。

幽霊さんの反対の方で良かったな、と思いつつ八重ちゃんを見る。

 

「お母さんは大丈夫なのか? どうせなら呼んできた方がいいと思うけど」

「えーとね、お兄ちゃんのちかくならいいっていってた!」

「それはそれでどうかと思うんだけど…」

『正確には多分、見える範囲でなら、って感じだと思うけどね〜お母さんちゃんと見てるし』

(俺もそう思うけど)

 

流石にさっきまでのように喋る訳にはいかないので、心の中で幽霊さんの言葉に答えながら母親を見るが、見てるだけだ。

ちょっと俺を信頼しすぎではないだろうか。もしかしたら悪いやつかも……そんなやつはわざわざ迷子を連れていかないもんな。

 

「あっ、あとね、これっ!」

「…ん?」

 

肩に掛けていた鞄から何かを取り出すと、八重ちゃんはこっちに差し出してきた。

今の言葉から察するにくれるということだろうか。

少し待ったら、近づけてきたのでそうらしい。

 

「これは……栞か」

 

受け取って見てみれば、花の栞。

いわゆる押し花というやつか。スマホで検索してみればタチアオイというやつだった。

 

「きのうはありがとう!」

「……ああ、どういたしまして」

 

わざわざ持ってきてくれたのか。

受け取らないという選択肢は消されてしまったので、笑顔な八重ちゃんの頭を軽く撫でる。すると嬉しそうに声を挙げていた。

このままいい子に育って欲しいものだ。

とりあえず栞は幽霊さんの本に挟んどく。俺は必要ないけど、彼女は使うだろう。

しかし俺はこの子に対して何したらいいのだろうか。このまま居ればいいのか、遊んだらいいのか、子供に対してどう対応すべきか分からない。

いざとなったら親の元へ連れていくか……。

 

「あれ……雨野くん?」

「っ!?」

 

なんて考えていたら聞き覚えのある声が耳を打つ。

反射的に顔を挙げると、目の前には手に紙袋を持って普段と変わらないパーカーを羽織る新条さんが居た。

 

「何してるの? その子は?」

「え……あ…新条さん?」

 

通り道だったのか目的地へ向かうためにたまたま通ったのかは定かでは無いが、不思議そうな顔で見ていた。

待て、落ち着け俺。これはまずい。普通に見れば幼子の頭を撫でる男子高校生という絵面だ。はっきり言ってやばい。通報されてもおかしくはない。

選択を誤れば記憶うんぬんかんより早く人生が終わる。

 

「えと、新条さん。これはその、なんというか、かくかくしかじかで……」

「へえ、そうなんだ。妹さんかなと思ったけど、似てないもんね」

「う、うん…髪色とか顔とか色々違うから、他人だよ」

 

どうやら説明がちゃんと通じてくれたらしい。

昨日迷子の子供が居たから親の元へ届けたらなぜか懐かれた、と結構簡単に説明したが、冷静に説明出来た俺を褒めてやりたい。

とりあえずいつまでも立たせるわけにはいかないので、幽霊さんに退いてもらうように伝えて、彼女は俺の後ろで浮遊していた。

 

『アカネちゃんのためなら仕方ないねー少年の隣は譲るよ!』

 

俺の隣は誰のものでもないしこのベンチは共用のものなのだが…新条さんに良かったら座ることを伝えると、横に腰掛けていた。

 

「ねぇねぇ、お姉ちゃん」

「ん〜?」

 

新条さんが来たため興味が俺から移ったのか、俺を挟んで八重ちゃんは話しかけていた。

新条さん子供の相手苦手じゃないかと心配にはなったが、問題なさそうなのでその間に俺はペットボトルの麦茶を飲む。

 

「お姉ちゃんはお兄ちゃんのしりあい? おともだち?」

「そうだね、なんだと思う?」

「うーん……あっ、かのじょさん!」

「ぶふっ!?」

「わっ!? お兄ちゃん!?」

『あっ吹いた』

 

油断していたら予想外の発言に口に含んでいた麦茶を吹き出してしまった。

吐き出すのは汚いとは思うが、こればかりは仕方がないだろう。子供の視点で考えればその考えに行き着く可能性はある。あると言えばあると思うが、まさか直面するなんて。

 

「げほっ、げほっ!」

「雨野くん大丈夫?」

「な、なんとか……」

「お兄ちゃんごめんなさい…」

「い、いいよ」

 

思わぬ不意打ちにびっくりしただけで、問題があるわけではないが新条さんは背中を摩ってくれた。

非常に申し訳ない。

 

「ねぇねぇ、お姉ちゃん。どうなの?」

「うーん」

 

だいぶマシになってきたからか擦るのをやめた新条さんは僅かに俺を見ると、考える素振りを少しして定まったのか笑顔で八重ちゃんに答えた。

 

「正解だよ。実はそうなんだよね〜」

『そうだったの!?』

「っえっ!?」

「わ〜! ぱぱとままといっしょ?」

「そこまでではないけど、ちょっと近いかな?」

「じゃあじゃあ、なかよしさんだー!」

「ちょ…いや、その…えぇ!?」

 

俺が混乱してる間に話が勝手に進んでしまっているが、こちらに向かって笑みを浮かべる新条さんに思わず目を逸らしてしまう。

違う、落ち着くんだ。何意識してるんだ、単純すぎるだろ。というか幽霊さんも騙されてるのはおかしいだろ。

落ち着いて状況を整理しよう。

いやいくらほとんど忘れてしまってるとはいえ、俺も男だし思春期だから当然その事に関心は持っている。

俺と彼女なら俺では釣り合わないだろうが、子供に対しても優しいからそう答えたのだろう。

それに下手に否定しない方が怪しくもない。俺をからかうために言った可能性も高いが、どちらにせよ本気にしたら彼女に悪いだろう。

仲が良いと思われるのはいいし、新条さんが俺に対して仲が良い相手と思ってくれてるなら嬉しい限りではあるが。

そもそもの問題、俺と新条さんは趣味の合う同盟を結んだ仲。軋轢を生みかねないことは考えるべきではないし、知り合いが片手で数えられる程度しかいない俺からすれば出来れば仲良くしたいから嫌だ。

つまりこれはこの場を取り繕うための冗談。

よし、冷静になってきた。問題ないな。

 

「八重〜!」

「…お母さん呼んでるぞ」

「あ、ほんとうだ! またあおうね、お兄ちゃんとかのじょさん!」

「またね」

『またねー八重ちゃん! あの子も将来有望だね、うんうん』

 

用が出来たのか長居するつもりはなかったのか、八重ちゃんの母親の声が聴こえてきたので伝えると、八重ちゃんは俺たちに手を振って駆けていく。

その姿を見届け、誰目線で頷いてるのか分からない幽霊さんはとりあえずスルーして受け取った栞を挟んだ本を僅かに見る。

時間が解決した可能性もあるが、あの子の笑顔を守れたって思ってもいいかもしれない。

 

「やっぱり優しいね」

「え?」

 

八重ちゃんが去ったからか、突然そんなこと言われて目を向けると新条さんは地面を見ながらベンチに両手を着いてぶらぶらと両足を動かしていた。

 

「だって雨野くん記憶ないでしょ。なのにわざわざ迷子の子を母親のところに連れて行って、見返りも求めないだなんて。初めて話した時も言ったけど、雨野くんは優しいなぁって」

「---」

 

目を見開く。

事情を説明したから知っていることに対する驚きではない。

ただその言葉は、昨日聞いたことがあったから。

 

『あ、やっぱり? アカネちゃんもそう思うよね〜少年は優しい! 私の目に狂いはなかったねー!』

「…どうしたの? そんな驚いた顔して」

「いや……今の新条さんの言葉がさ。他の女の子に似たことを言われたことがあって、驚いたんだ」

「ふーん、私以外にも居るんだ?」

「え、と…いるかいないかと言われたらいなくて。なんて言えばいいのかな…この世にはもう居ない、かな」

「あ……そ、そう、なんだ…」

 

誤魔化せば良かったのに、何故か嘘をつきたくなくて濁すことはしたものの素直に話してしまった影響で空気が若干重たくなってしまって、新条さんの表情も若干暗い。

第三者に立つと、今のは新条さんの言葉で断片的に思い出したみたいだ。

しかもその相手は亡くなっている。

本当のところは今も呑気に周りをぐるぐると浮遊している相手に昨日言われた言葉なのだが、幽霊の存在を信じられるはずもない。それは教えた時に重々承知している。あの時は裕太くんが居なければ内海くんと六花さんにやべーやつと思われてた可能性が高かっただろうし。

つまり俺が取れる手段は、ひとつ。

 

「そ、それよりさ! 新条さんはどうしてここに?」

 

明るく振る舞いながら、話を変えること。

事情が事情なだけあって、これで新条さんに暗い表情を浮かべさせたままだと俺の良心が痛む。

 

「…雨野くんならいっか」

「?」

「ううん、こっちの話。私はソフビを受け取りにいって、その帰り」

「ああ、その紙袋はその」

 

他に何も持ってないのに紙袋だけはあったから気にはなってたが、おそらく怪獣のソフビだろう。

何か掘り出し物でもあったのかな。

 

『どれどれ…おお、いっぱい! あ、ジャシュラインだ〜♪』

 

---宇宙三面魔像 ジャシュライン

トーテムポールの見た目で1つの体に三兄弟の人格を共有しており、額のランプが点灯した顔が攻撃の主導権を得られる。また、兄弟ごとに能力と一人称、語尾につける言葉が異なる。

1番上の怒り顔が長男。語尾にジャジャとつけ、腕の盾を変形させたブーメランを武器にしている。

中央の笑い顔が次男で、語尾にシュラとつけ、軽快なフットワークを生かしての格闘戦を得意としている。

一番下の無表情顔が三男で、一語尾に~インとつけ、念力やバリヤーを使用する。

それぞれの語尾からジャシュライン。

その強さはウルトラマンメビウスを一度倒し、ウルトラの父が駆けつけなければ勝てなかったほどの強豪---

 

っておい、勝手に新条さんの紙袋の中身を覗くな。というか、ジャシュラインの見た目結構凄いな…。

異なる能力は厄介だが、一番厄介なのは相手を黄金像に変える光線、ゴールジャシュラーと言うやつらしい。

 

「そうそう、雨野くんは?」

「あ、俺? 俺は…図書館、かな」

「図書館?」

「ほら、何もわかんないからさ、勉強してたんだ」

「勉強…偉いねぇ」

『うんうん、少年は偉いねぇ』

 

別に偉くはないと思うのだが、褒められて悪い気はしない。

ただなんで同じ反応なんだ。

 

「それに俺の場合はその行動をするってことも大事なんだ。ちょっとした拍子で一部でも戻る可能性があるし」

「それはそうかも…雨野くんって、ちゃんと考えてるよね」

「…そうかな。あまり自分じゃ自覚できないな」

 

記憶を探るように無意識に視線を上に上げながら思い出すが、咄嗟に動くことはあっても基本的に考えて動いている気がする。

本能で動く時が正解な時があるだろうに、俺は理性的なのかもしれない。

 

「雨野くんはまた図書館に行くの?」

「特にやることないから、多分。程々に休憩はすると思うけど…新条さんは?」

「似たようなものかな、家に帰るだけって感じ」

「そっか……」

 

それっきり話が終わってしまって、無言の空間が出来上がってしまう。

俺はやることが特に思い当たらないから勉強のために図書館に、新条さんは家に帰宅。

互いに時間が空いているってことになる。

ちら、と横目で新条さんを見れば、さっき同様足をぶらつかせながらぼうっと空を眺めている。

これ、もしかしてそういうことなのだろうか。そう捉えた方がいいのか…?

 

『少年はやくー! チャンス! チャンスだよ! このまま誘っちゃお!』

「…あの、新条さん」

「ん〜?」

 

別に幽霊さんに従うわけではないが、すぐに帰らないということはもう少しだけ一緒に居てくれるのかもしれない。

そんなちょっとの期待を持ちつつ、意を決して声を掛けた。

 

「時間が空いてたらでいいんだけど…場所を変えてもう少し一緒に話せない、かな。ほら、あれ…そう、約束、というか口約束というか…体調が悪かった時とか前の埋め合わせもしたいし! もちろん嫌だったり無理なら断ってくれても---」

「いいよ」

「って、やっぱり嫌……え?」

 

聞き間違いかと思って聞き返してしまう。

あれこれ言い訳を捲し立ててしまっていたが、女の子を誘うというシチュエーションに巡りあったことなんてないからだ。

だが俺の聞き間違いでなければ、いいっていってたような。

 

「私も雨野くんともう少し話したいから、いいよ? どこか連れて行ってくれるんでしょ?」

「え、ああ…うん」

「だったらいこ?」

「ええ…と、いいの?」

「誘ってくれたの、雨野くんからじゃん」

「そうだけど、そうじゃないというか…」

「えー? なにそれ?」

 

男女が休日に二人っきりで出掛けるということは、世間では意味を持つことをさすがに知っている。

それについて気になったのだが、俺が意識しすぎなだけだろうか。

 

『やたー! でーと、デート♪ アカネちゃんとデート!』

「…まぁ、新条さんがいいなら、いいのか」

「?」

「い、いや何でもない」

「そう? 変な雨野くん」

「はは…ま、まぁ新条さんがいいなら、いこう。落ち着いて話せそうな場所は見つけてあるから」

「うん」

 

どうやら俺だけじゃないというか、明らかに浮かれている人物が一人居たが彼女が良いなら良いのだろうと、俺は荷物を持って一緒に移動をすることにした。

紙袋に関しては持とうか聞いたけど、大丈夫と言われたから持たなかったが。

 

『まったくもう、優しいってのはそういうところだよ〜少年』

 

なんのことを言いたいのかよく分からなかったが、俺は図書館に行く途中で見つけていた場所に向かい、一緒に入店する。

新条さんと入った場所は喫茶店だ。

空いている席に案内され、対面になるように座るとメニュー表を渡す。

俺は昼飯食べてそんな経ってないからそれほどお腹が空いているわけじゃないが、軽く食べれるものを頼むつもりだ。

 

「何か食べたいのとか、ある? 前言った通り、奢るから」

「う〜ん…甘いものを食べたいから、これかな」

「わかった、他にあったら追加で頼むから」

『私のあいす!!』

 

ボタンを押してパフェひとつとホットケーキを頼む。

飲み物は問題ないか聞いて、とりあえずオレンジジュースにしておいた。

悪いが幽霊さんのは注文出来ないので我慢してくれ。今度また埋め合わせするから。

 

『むむむ…しょーがない』

「雨野くんはホットケーキなんだ。甘いものは好きなの?」

「どうだろう。選んだのは何となくで、理由はないから。だけど甘いものは食べたいという欲求があるから嫌いじゃないと思う。新条さんはなんだか、好きそうだ」

「そう見えるかなー。けど糖分って大事だからね」

「ああ、確かに甘いものを食べたくなる時はあるな。勉強した後とか、頭使ったあとは特に」

「でしょ、摂りすぎは良くないけど程よく摂取しないと体や脳の機能が低下するからね。苦手だったり嫌いなら、話は変わるんだけど」

「うんうん」

 

甘いものは大抵カロリーもある。

気にせずパクパク食べてたら太ってしまうだろう。それが悪いとは言わないが。

だけど、こういった時でも新条さんのことを少し知れるのは嬉しいものだ。

俺は話せる相手が少ないから、関わりのある人物とは出来る限り仲良くなりたいからな。

 

「自制心が大切ってことだ」

「それが中々難しいんだけど…ただ限度さえ超えなければ、好きなものをいっぱい食べるのも悪くないんじゃないかな」

『がとーしょこら……』

「……?」

 

どこか感情が籠った声で外を見る新条さんに少しの違和感を覚えるが、話してる間に注文したものが届いて机に置かれる。

次にこっちを見た新条さんは自然で、気のせいだったのではと思うくらい一瞬だけだった。

 

「食べよっか」

「う、うん…そうしようか」

 

やっぱり気のせいだったのだろう。

仮に気の所為じゃなくとも、俺は何に違和感を感じたかまでは分からない。なら考えるべきでは無いだろう。

ナイフとフォークを使って一口。

ふんわりとした食感に牛乳の甘みと卵のコクが感じられる。溶けたバター

の影響もあるのだろう。上にかかったシロップがまた別の甘さを引き立てる。

店として出しているだけあって、美味い。流石に食べたことはあるはずが、新鮮な気持ちで食べられるのは忘れてしまったのが原因だろうか。

新条さんはどうだろうと思って見てみると、彼女の顔に不満は見られず手が進んでることから問題なかったのだろう。

 

『おいしそうに食べてるね、アカネちゃん』

 

さっき溶けていたのに元に戻っている幽霊さんは優しい目を向けていて、その言葉に俺は再び新条さんを見るが、パフェを食べて輝かせてるわけでもない。

普通と言った感じ。

そうなのだろうか。美味しいならいいのだが。

 

「雨野くん?」

「え?」

「もしかして一口食べたい?」

「へっ…な、なんでそう思ったの?」

「ずっとこっちを見てるから、そうなのかなあって」

 

そう捉えれたのか。

食べているところをジロジロと見るのは良くないし、これは俺が悪いな。反省しなければ。

 

「ごめん、そうじゃなくて、なんて言えばいいだろ…美味しいのかなって」

『同じ意味じゃない?』

 

それは言ってから思った。

この場合適切なのは美味しいかどうか聞くだけでよかったのだ。

 

「美味しいよ〜。んーじゃあ、はい」

「……ん?」

 

僅かに考える素振りをした新条さんはスプーンで掬い、身を乗り出して差し出してくる。

スプーンの上にはバニラのアイスの一部に生クリームとイチゴシロップがかかっているのがあり、突然のことで俺の思考が止まる。

 

「食べたら分かるでしょ? 雨野くんも食べてみて」

『食べてあげないとダメだよ〜ここで誤解だなんて言ったら恥をかかせちゃうよ!』

 

そう言われて思考が動き出すが、スプーンを見て、自然と視線が吸い寄せられるのは新条さんの唇だった。

新しく変えたものではなく今さっきまで使っていたもの。

新しいのを持ってきてもらうように頼むのもあるかもしれないが、それは遠回しに嫌だと言っていると解釈される危険性がある。

なら俺が使っていたものとなると、ナイフとフォークしかないので不可能。

しかしこのまま食べてしまえば、いわゆる間接キスになるだろう。

遠慮するという選択もあるが、結局のところ好意を無碍にしてしまう。

つまり。

 

「……うん」

 

心を無にして食べる。

アイス特有の冷たさとバニラの風味に生クリームとストロベリーソースの甘さが上手く調和していてより美味しさを感じさせる味わい。

特に少しずつ暑くなってきているこの季節には体が冷えてより良く感じる。

 

「確かに美味しいな、これ」

「でしょ?」

 

火照る姿を悟られまいと感想を伝えると、指摘されずに済んだ。

落ち着くためにオレンジジュースを飲めば、また甘酸っぱい…甘いのばっかだな。

 

「ね、雨野くんのは?」

 

刹那の間に言葉の意図を理解する。

感想を聞いているように見えるが、さっきの行動からどういう意味かなんて考えたらすぐに行き着く。

鈍感ならまだしも、俺は察し能力は高い方なのだろう。

ナイフとフォークを使って瞬時に脳裏で計算し、彼女の一口サイズに合わせて切ると、差し出した。

 

「あ……ん」

 

合ってたかなと不安に思いながら差し出したが、新条さんはすぐに口に含んでいた。

食べさせている俺がなんだか恥ずかしくなるというか、顔が近い影響で高鳴りを覚える。

邪念を追いやり、意識しないように努めながら口を開く。

 

「どう?」

「うん、こっちも美味しいね」

「ならよかった」

 

しかし長くは持たず、妙に気恥しさを覚えた俺は新条さんから目を逸らして窓を見る。

特に曇りがあるわけでも雨雲があるわけもなく、晴れ晴れとしている。

雨を降る心配はなさそうだ。そんな短時間で変わることはそうそうないと思うけど、晴れた空を見ると落ち着く。

周囲を見れば、人は比較的少ないから今の目撃された可能性は低そうだし、冷静になろう。

流石の俺でも、この行為の真意までは分からない。無意識なのか、それとも分かっていたのか。

…まあ、不快な思いをしてないなら、いいか。

 

『私もアカネちゃんにされたいなー』

 

不可能な願望を口にしていたのを聞き流しながら、そういった結論に至った俺はすぐに思考を描き消して話をしながら食事を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食べ終わったあとは雑談を少ししてお金を支払うと、時刻はだいたい16時くらいだった。ここから帰ったら17時くらいで、新条さんを一人で帰させるわけにはいかないので近くまで送っていくことにした。

俺ならまだしも、新条さんは美少女と呼べるくらい優れた容姿だ。客観的に見ても武力的に強いとは思えず、何があるか分からないし、話せる数少ない知り合いの身に何かあったら辛いのもある。

何が出来るかは分からないけど、盾くらいにはなるだろう。女の子一人よりかは安全になるだろうし、過去にスポーツをしていたのかぷにぷにだったりへなへなって感じの肉体はしていない。

 

「結局こんな時間になって、勉強の時間なくなっちゃったね」

「ああ、別に勉強はいつでも出来るし、あまり詰め込みすぎても良くないから。実際に昨日勉強してすぎて少し頭痛くて。それに…」

「それに?」

「……い、いや、なんでもない」

 

偶発的とはいえ、新条さんと一緒に休日を過ごせて嬉しかった、だなんて続く言葉を口にするのはなんだか恥ずかしくて、つい濁してしまうと新条さんは目を弧にすると背中を曲げて顔を覗き込んできた。

 

「え〜気になるなぁ。本当の本当になんでもないの?」

「う……その」

「ん〜?」

「こう、正面から言うのは恥ずかしいんだけど……休日の一日だけでも新条さんと一緒に居られて、会えてよかったなって…思ってました……」

 

顔が熱くなるのを感じる。

こう言ったことはキャラではないというか、もちろん恋愛的な意味では無い。

俺は新条さんに”好き“という感情はまだ抱いていない。知り合いも家族も、人と過ごすということそのものが少ない俺にとって一番趣味が合うであろう彼女と会えるのは嬉しいことなのだ。

例えば同性の友達らしい友達である相手の裕太くん相手でも、同じような感情を抱いただろう。

 

「そっか…ふーん、そうなんだ」

 

新条さんは俺より先に前に躍り出ると、立ち止まってぶつからないように俺も足を止める。

お陰で彼女の顔は見えない。

見るよりも先に動いていたから言ったあとの反応も分からないが、見に行こうとは思わなかった。それは俺の顔が赤くなってる自覚があるから、なのかもしれない。

ただ彼女は前を向いたまま腕を上げると何かに触れるように若干腕が動いているのが見え、数秒ほど沈黙が流れる。

風は緩く、温く、少しずつ沈んでいく夕焼けの陽射しだけがあった。

その数秒で俺の熱も下がっていく実感を感じながら、新条さんは振り向いた。

 

「…私もね」

 

赤い瞳が真っ直ぐに俺の視線を射抜く。

両手を後ろに組んで、前かがみになった新条さんからほんの少し目を逸らしてしまう。

 

「私も今日一緒に居られて、キミのことを少し知れて…よかったっ」

 

けれどその言葉が聞こえた時には視線が吸い寄せられて、そう微笑みながら夕陽に照らされる新条さんは、この世の者と思えないほどに綺麗で、視線が完全に釘付けになる。

脳裏に昨日の記憶が蘇り、昨日の幽霊さんの姿と今の新条さんが重なる。

シチュエーションは少し違う。それでも俺は彼女たちに同じ感情を抱いた。

つまり、見惚れてしまったということだった。

 

「雨野くん?」

「…っ、ごめん。何でもない」

「そう? じゃあ、行こ?」

「うん」

 

流石にこれまでは素直に言えることじゃないから胸に仕舞っておくことにして、待ってくれている新条さんの隣に並ぶとまた歩き出した。

 

「そういえばさっき言ってた、俺のこと知れたって、どういう…?」

「それはねー例えば…甘いものが嫌いじゃないってこととか?」

「なるほど…それなら俺も同じかな。新条さんも、同じでしょ?」

「じゃあ、子供に好かれるところ!」

「あ、あれはどうだろう。けど、そう来るなら俺にだって考えはあるよ。そうだな、新条さんはちゃんと人のことを見てて、気遣える、かな」

「それを言ったら雨野くんもじゃん! 今だって私を車道の方に歩かせないように歩いてるし、優しくしてくれるし」

「いやいやそれは別に普通というか。これは無意識というか。それなら今日パフェを少し譲ってくれた新条さんは人情深くて---」

 

いつもは怪獣の話ばかりなのに、気がつけば勝負のように互いに今日知れた互いの一面を言い合って、最終的に互いに”負けず嫌い“と認識出来たことがなんだかおかしくて俺と新条さんは笑いあっていた。

怪獣の話をするのは楽しい。俺も記憶が蘇る感覚があるから、俺の記憶はちゃんとどこかにあるんだという安心感もあるから。

だけどこうやって普通の話で笑い合えるのは、趣味だけを話すための関係じゃないって思えて、なんだかもっと嬉しくなってくる。

 

『この空間に入れなくて悲しい……! って、少年見て見て! あそこ!おっきな家!』

 

視界に二階建ての豪邸と呼ぶべき家が見えるが、驚くよりも妙に知っている道というか、つい最近来たことがあるような道に違和感を抱く。

 

「あ、もう着いちゃったみたい」

「え? 着いた?」

「どれか分かる? いーち」

「え、制限時間付き!? えーと、えー…」

 

周囲には豪邸の他にも当然ながら向かい側などに家はたくさんある。

どの家か分からずに周りを見渡すが、表札でも見ないと分からない。

俺がどの家か分からずに居ると、10のカウントと同時に新条さんは跳ぶように数歩進み、こちらに振り返って何かを両手で示す。

 

「時間切れー。正解は、こっち。これが私の住んでいる家っ」

 

見上げた先にあるのは最初に幽霊さんに言われた二階建ての豪邸。

防犯もしっかりしているようで、巨大な門まである。

それを見た俺の感想は---

 

「でかっ!?」

 

驚きながらたった一言を口にすることしか出来なかった。

これが知らない人の家なら、『へえー豪邸だな』程度だったが、知り合いとなると流石に驚く。

 

「ちなみに君が倒れてたのはこの門の前だよ」

「なるほど……」

「何か思い出せた?」

「ごめん。全然」

「簡単にいくはずないか〜。そもそもこれで思い出せるなら、初日に思い出してるもんね」

「まぁ…うん。だけどほら、あの時は霧が濃くて。新条さんの家も分からなかったし道も覚えれなくて。だからある意味、初めて知り合いの家の前に来たかな」

 

一瞬残念そうにしていたが、すぐに思い直したようで初日のことを言われた。

初日のことは当然覚えている。記憶が無くなって起きたら名前の知らない美少女の家に居て、病院に行くために家を出たら怪獣が居たのだから。

色々衝撃的すぎて忘れられるはずもない。

 

「だったら雨野くんの初めては私のものだねっ」

「う…うん」

 

笑顔でそう告げる新条さんにドキッとさせられる。

なぜこう、勘違いされそうな発言に聞こえてしまうのか。

俺の雑念が原因なのか。ええい、心頭滅却。

新条さんはそんなもののために言った訳では無いのだ。別に彼女を性的な目で見ているわけじゃない。いや見れないという訳じゃないけどそうじゃなくて。

誰に言い訳してるのか分からなくなったが、友人同士健全な付き合いをするべきだ。

この場の意味で適切なのは女の子の家の前に来たという意味だろう。

六花さんの家は店の方しか入ってないし、ノーカンだ。

そう考えれば、あながち間違いでもないのか。

 

「初めて誰かの家に来るのが新条さんの家なのは……記憶に残って悪くない、かな」

「え?」

「い、いやごめん。なんでもない。えっと、もう遅いから、ほら俺も帰るよ。新条さんも無事に着いたわけだしいつまでも家の前に居ても仕方がないだろうから。俺も帰らないといけないし」

 

口にしてから妙に恥ずかしくて、言葉が少しおかしかったような気はするが早口で捲し立ててしまう。

けど気にしてないのか、彼女は思い出したかのようにスマホを取り出して電源ボタンを押したのかスマホの明るさが見えた。

すぐに仕舞ったことから、時間を確認したのだろう。

 

「気がついたら5時半過ぎてたみたい。ごめんね、時間取らせちゃって」

「それは俺がやりたかったことだし、女の子一人に帰らせるわけにはいかないから。楽しかったし…」

「そか、紳士だねぇ」

「あ、あはは…そうかな…」

「私も楽しかった。じゃあ明日。迎えに行くからね」

「あ…うん、分かった。…また、明日」

「うん、またね」

 

そんな会話をして、別れる。

俺は踵を返して帰り道へ、新条さんは家の中へ。

さっきまでの時間も今日の出来事も、新条アカネという少女と過ごす度に思うことがひとつある。

それは一時の夢のような…この場合…ああ、そうだ。

ウクバール。

まるでウクバールに誘れたかのような現実離れたした空夢のような時間。

だけどこれは現実、リアルで。

踵を返す俺が首だけ後ろへ向けて振り返るとその事を証明してくれるかのように、新条さんはまだ門の前に居て、手を振ってくれていた。

そのお陰で彼女が居ることは虚像ではないと分かって、軽く振り返しながら今度こそ歩く。

ある程度離れたからか門がひらく音だけが耳に残って、家に戻ったのだろう。

俺も帰るために歩くと、やはり妙な感覚を感じ取る。

何というか、知っているような…。

 

『あー!!』

 

さっきまで空気を読んでいたのか静かだったのに、というか新条さんと話してる時だけは静かなのに急に背後で叫ばれた俺は肩が跳ねる。

急に叫ぶのはやめて欲しい。

 

「なんだよ…」

『ごめんね。じゃなくて! 少年の違和感も最もだよ! ほら、あれ! あそこ!』

「どこ……は?」

 

悪気はないことは分かっていたとはいえ、彼女が指差す方へ疑心感を抱きながら見ると、一瞬思考が停止してしまった。

仕方がないだろう。今俺の横にあったのは、視線先にあるのは、JUNKSHOP絢。

つまり、六花さんの家ということ。

 

「ちょ、ちょっと…まさか!?」

 

明らかに大した距離は無い。

テレポートしたとかワープさせられたわけでもなくて、俺は慌てて振り向くと駆け出す。

だいたい数50mから100m。

そこには姿はもうないが新条さんの家があって、戻ってみると六花さんの家がある。

これって…。

 

『完全にお隣さんだね……』

「……まったく気づかなかった。そうか、来たことがある理由はこれか……いや、待て。けどおかしい、それは矛盾になるはず」

『矛盾? どういうこと?』

 

幽霊さんが言ってくれなければまず間違いなくスルーしてたし気づかなかった。

盲点だった。

しかし俺の中で違和感が強くなってしまう。

偶然だと思う。

思うけど……。

 

「俺は既に三回もここに来てる。一回目は新条さんの家を出て病院に行くとき。二回目は裕太くんと内海くんと。三回目は怪獣のことを聞くために。そして今日、四回目だ。合計四回もここに来て、実は隣にある家が新条さんの家だと気づかないものか? 知らないならまだしも、俺は彼女の家から出てきたんだ」

『うーん…どうだろ? 偶然じゃない?』

「まだある。これは可能性が低いが、裕太くんが俺と同様に倒れていたのは六花さんの家の前だったんだとか。病院に着いたのは俺が早いとはいえほぼ同時刻。なら鉢合わせるか新条さんか六花さんのどちらかが倒れてる俺と裕太くんを見つける可能性の方が高いような…一人一人じゃなくて、一緒に」

 

今日は反対から来てたとはいえ、二回も三回も来ていたらある程度記憶には残っている。

一切気づかないなんてあるのだろうか。

ただ仮にあったとして、それが何なのかは分からない。

偶然で済まされてしまえばそれまでなのだから。

 

『霧が濃かったんだよね?』

「結構近くなければ」

『じゃあ二人の姿が見えることはないんじゃないかな? そもそも気づかなかったからといって、何かあるわけでもないでしょ?』

「…そうだけど」

『少年だってさっきまで気づいてなかったでしょ? そんな感じだったんじゃない?』

「そうか……まぁ目的地以外のことは覚えてなかったし、そんなものか」

 

幽霊さんの言葉は否定出来るものじゃなくて、自分をそう納得させる。

正直くっきり覚えていたかと言われたら、そんなわけでもないし。

こんな発見をしてしまうと案外世界って狭かったんだなって思うな。

 

「とにかく……それなら俺が気をつけないとな。新条さんを巻き込みたくない」

『うん、あんなに楽しそうに怪獣のことを話してたもん。本当に会って嫌いにでもなっちゃったら嫌だよね。何より巻き込まれて怪我するかもしれないし』

「そうだな、目撃しても記憶は消えると思うけど……不確定要素を信じるよりは最初から防げた方がいい」

 

他の人たちが記憶を失う理由も俺達の記憶が残ってる理由もまだ分かってないけど、隣なら守れる距離だ。

個人情報だから裕太くんたちに話すのは違うし、俺が頑張ろう。

 

「……あ」

「ん?」

 

一人で決心してると、見知った顔を見つけた。

声に反応したのかたまたま気づいたのか、片耳のイヤホンを外してこちらを見つめてくる。

 

「どうも…?」

「どうも」

 

片手には買い物帰りと思われる袋があり、肩にかかるほどに伸ばされた青みがかかった黒色の髪。

いつも見る制服とは違って私服という違いはあるが、六花さんだった。

俺の交友範囲で女性は二人しかいないから当然といえば当然だ。

考えただけで寂しくなるというか狭すぎるな…。

 

「えと……買い物帰り?」

「あー…うん。コンビニで」

「そうなんだ……」

「そっちは?」

「俺はこっちの方面に用があったから、その帰り」

「そうなんだ」

『二人ともコミュニケーション能力ひくっ!』

 

そこで会話が止まってしまって、言い訳が出来なかった。

自分でも自覚してる。新条さんとはまぁまぁ話せるのは、趣味が合うお陰だろう。

ただこういっちゃあれだけど、俺六花さんのこと全く知らないんだよな。雰囲気に反してお人好しなイメージはあるけど…。そもそも二人っきりで話すのとか初めてでは?

とにかく何か話さないと。

 

「…そうか。なんでって思ったけど六花さんの家だもんな」

「逆になんだと思ったの?」

「いや、ほら…グリッドマンのことで、家ってイメージよりそっちの方が先に出ちゃって…ごめん」

「あー…グリッドマン同盟…だっけ。別に雨野くんが謝ることじゃないし」

「それは、そうだけど……」

『全然ダメじゃん!』

 

またしても続かなくて、何を話すべきか分からなくなる。

話題があまりないというのもあるのだが、相手を知らないと下手に口に出来ない。

だから知るために話す必要があるんだけど…。

 

「……ねぇ」

「ん?」

 

まさか六花さんの方から声を掛けられるとは思わず、内心で驚きながら返事をすると、彼女は迷うような素振りを見せて、決心したように見つめてくる。

 

「雨野くんはさ、どう思う?」

「どうって?」

「問川たちのこと。そりゃ雨野くんにはいい印象がないかもだけど……だけど、だからって最初から居なかったって…」

 

言いたいことは、何となく分かった。

まぁ俺は記憶喪失なのもあってボールをぶつけられた相手って印象でしかないが、それもなかったことにされている。

生きていたらいつか死ぬ。

そのことはどうにも出来ないが、生きる死ぬではなく存在がなくなっているんだ。生きていても死んでいても思い出という形で生き続ける。

この幽霊さんが、存在は残っているように。彼女も本来居た場所で思い出として残っていることだろう。

だけど彼女たちは、少なくとも高校には居なかったことにされている。

 

「悪いけど、俺には彼女たちが居なくなったとしても何も思えない。特に知らない相手に深く感情移入出来るほど俺は出来てない」

『ちょっ、確かにそうかもだけど! もうちょっとこの子のことを考え---』

「っ、そんな言い方---」

「だけど」

「……?」

 

そう、俺にはどうだっていい相手だ。

六花さんにとっては友達か、話す相手だったかもしれないけど。

関わりが一切なくて、実際なさそうだった彼女たちに何かを思うことはない。

何故なかったことにされているかは気になるが、それだけ。

ただ、ただもし。

 

「もし俺にとっての知り合い……裕太くんや内海くん、それに六花さんたちが同じようなことになったら、冷静なんかじゃいられない。同じようなことなんて起こさせたくない。だからさ、見つけてやろうよ。この事件の真相を、原因を。そして次の被害を無くそう。それが今の俺たちに出来る、彼女達に出来る弔いだと…俺は思う。思ってる」

『少年……』

 

本当はその中に新条さんが入ってるけど、裕太くんたちにも六花さんたちにも新条さんと結んだ同盟は話してないから話さず。

それでも俺の中で出した結論を、真正面から話した。

目は逸らさない。俺の覚悟のようなものだから。

起きてしまったことは取り戻せないけど、怪獣が一度で終わるはずがない。次に同じことが起きたら、別の人が同じような目に遭う。

 

「そっか……ごめん」

「…へ? い、いや謝るような事じゃ」

「ううん。誤解してたから。雨野くんの言葉を全部聞かず冷たいって…酷い人だって決めつけかけてたから…強く言いかけたし、ごめん」

 

謝られる筋合いはないというか、客観的に見たらそうだろう。

実際客観的に見てた幽霊さんがそう見えてたはずだし。

でもやっぱり、初めて会って裕太くんを病院に連れて行ったときから思ってたけど。

 

「それなら俺もごめん」

「え?」

「俺六花さんのこと最初怖そうって、冷たそうな人だって思ってた。でもさ、そうじゃないんだ。六花さんは他の人のことを気にかけて、記憶喪失になった裕太くんも病院に連れて行ったりしてた。内海くんがグリッドマンに会いたいと言った時だって断ることが出来たはずなのに妥協してくれて…本当は根が優しいんだって知ることが出来たから、俺もごめん」

「…ふ、なにそれ」

 

ここに来て、初めて六花さんが笑ったところを見たような気がした。

彼女の望む答えが出来たのかは分からないけど、きっと正解なんだと思う。

そうじゃなきゃ、笑わないと思うから。

 

「でも…雨野くんの言う通りかも。まだ何も分かってないけど、原因を見つけないことから始まらないか」

「そうだな、そこが難しいけど……やれるんじゃないか」

「どこからそんな自信が?」

「だってほら、俺らグリッドマン同盟だろ。ひとりじゃないんだから、力を合わせたら確率的には上がる」

「またそれ? ほんと、変なの。けど……だよね」

『少年はやればできる子だね……うんうん、お姉さん信じてたよ。ね、六花ちゃんに伝えて?』

「え、何を?」

「?」

 

不思議と上手くいって、何も知らないより距離が近づいた気がしたけど、突然幽霊さんに言われて思わず口に出してしまった。

やべ、と思っても遅く六花さんは不思議そうにしている。

事情は知ってても見えない彼女からすれば分からないだろう。

とにかく誤解を解くためにも説明しなければ…。

 

『失ったものは取り戻せないけど、今あるものは守れるんだよって。だから一緒に頑張ろうね!』

 

ただの言葉のはずなのに、何も互いに知らないのに、不思議とその言葉は感情が込められている気がした。

言葉では形容出来ないような、そんなもの。

だからこそ一言一句、俺は伝えた。

 

「今あるもの……ね。本当に雨野くんには幽霊が見えるんだ」

「もしかしてあまり信じてなかった?」

「正直。今は……そうな気がしてきた、かな」

「……そっか」

 

文句は何一つない。

関係性の薄かった俺と六花さんにとってなかなか信じられる現象ではないから。あの場だけでも、1ミリでも信じてくれただけで良かった。

だからこそ今本当の意味で信じて貰えたような気がして、知ってもらったような気がして、自分のことでもないのに嬉しく思う俺が居る。

 

「じゃ、俺はもう帰るよ。いつまでも止めてちゃ悪いし俺も帰れないから」

「うん」

 

ちょうど話もついたことで、これ以上引き止める訳にもいるわけにもいかないため俺は六花さんの隣を通過して通り過ぎる。

そのまま歩いていこうとしたところで、これだけは伝えようと振り返った。

 

「…六花さん、俺も出来る限り頑張るから。だから互いに、みんなと頑張ろう」

「…ん」

 

明確な返事が返ってきた訳では無いけれど、同じ意思だと信じて俺は今度こそ帰り道を歩く。

もう振り返ることはなく、隣に幽霊さんが並ぶのが見えた。

 

『私も協力するよ、少年。アカネちゃんのことを守るためにも、六花ちゃんの不安を消してあげるためにも。死んでる私でも役に立つことがあるって、ううんこのために少年と居るんだって思うから』

「…そうか。なんだ、その…頼りにしてる」

『! んふふー、少年はやっぱりツンデレさん! このこのー』

「違うってば。やめろ」

 

からかうように絡んでくる幽霊さんから逃げるように走っていく。

もう太陽は沈んですっかりと暗くなってしまった。

でも今日の一日、ほんの少しだけ空虚な心に光が差し込んだ気がした。

それが錯覚かは分からないけど、家に戻ってもいつも通り穴が空いてるような気持ちになったから、気の所為なのだろう。

それでも、今もこうやって笑顔で話しかけてくる幽霊さんと過ごすことに煩わしさがなく、安心感を覚えつつある心境の変化に俺は気づいていた。





もし幽霊さんが居ない世界軸なら奏くんはどうなっていただろうか。
もし雨野奏という存在が居ない世界軸なら幽霊さんはどうなっていただろうか。
それとももし、幽霊さんが生きていたらどうなっていただろうか。
少なくともどういう形であれ、『偶然』出会うんだろうなと思います。
それが手遅れになった後か、なる前かはさておき…。(申し訳程度なクリスマス特有の不穏要素)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。