月暈   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっております。

それでもええで
という方のみお楽しみください。



次については後書きにて書きます。


閉演

 せっかく襲ってきた敵兵士を撃退したというのに、肩と下腹部には軍用ナイフが突き刺さり、私は死にかけている。

 死が迫る中でもどうにかして娘を助けようとしたが、それが叶う前に部屋の中へ第三者が入り込んで来た。

 私は死ぬ。しかし、娘の死まで確定してし待ったことだけが心残りのまま、意識を失った。

 

 

 

 二度と目覚めることは無い。そう思っていたが、なぜか私は体に衝撃を感じて、再び現世で目を覚ました。

 仰向けに寝させられており、見覚えのある白い天井が視界いっぱいに広がっていた。意識を失う直前に入って来た兵士は私が死んでいると勘違いしたのだろうか。

 そう思いながらも体を動かそうとするが、なぜか全く動かせない事に遅れながらに気が付いた。

「動くと死ぬぞ」

 覇気があり、凛とした口調の女性の声だ。意識がまだはっきりとしないが、視線だけでも探そうとすると、相手からこちらを覗き込んで来た。

 混濁した意識では正確に相手の輪郭を捉えられないが、顔にはガスマスクは付けられていない黄色人種特有の肌が見えた。見たことの無いタイプの敵と思うのが妥当だが、それにしてはなぜか私は殺されない。

 兵士の仲間ではないというのだろうか。しかし、判断材料がガスマスクの有無だけでは不確定だ。最後の力を振り絞り、残っていた意識の欠片を集めて一曲に集中させた。

 一時的にとは言え、曇りがかかっていた視界が晴れていく。覗き込んでいる人物を視認するのは容易ではなかったが、私を抱き起してくれているのが女性であることが辛うじて分かった。

 あまり視界を維持することができず、ぼやけがありつつも一瞬だけ見えた気がした。気が強そうに見えたのが、第一印象だった。そして、瞳の力強さからこの局面を乗り切ってくれそうな迫力が伺えた。彼女になら、娘を託せるだろうか。

 追ってきた兵士のような重装備ではなく、私のようにある程度は動きやすそうなラフな格好をしている様だった。見える表情や瞳から、彼女は敵ではないと思えた。そう思いたかった。

 彼女にこびり付いた血液が見えたが、負傷か返り血か。晴れていた視界を維持できずに、再度ぼやけていく中では判断が付かなかった。だが、仮に負傷していたとしても、銃声が張り響いている場所へ来ることができたのは、腕っぷしに自信があるからとしか思えない。

 そんな彼女に頼むしかない。とは言え、彼女としても命のやり取りをしている間なら重荷になる事は間違いないが、私以上に助かる見込みのある女性に頼むしかない。

「すみま…せん………娘…を……!」

 話している最中から意識が遠のき、彼女へしっかりと伝えられたかわからなかった。気力を振り絞り、もう一度リリィのことを頼もうとするが、感覚を失いつつあるらしく話せている気がしない。指を指して示すこともできず、伝わっている事を願いながら私は意識を失った。

 

 

 どれだけの時間が経ったのか。今度こそ死んだと思っていた私は、気が付くと女性に起こされた時と同じように天井が目に入る。ボヤけていて分かりずらいが、キッチンに使われていたはずの蛍光灯が見えた。

 辛うじて繋ぎ止めて意識を取り戻したとしても、すぐに出血死で死ぬのだから意味など無い。朧気な意識の中で天井を見上げていると、さっきの女性と思わしき影が私を覗き込んで何かを話している。

 私に手を伸ばし、何かをしている。応急処置だろうか。まともな治療を受けなければ、数十分以内に出血死するような人間は置いて、娘とさっさと避難して欲しい。そう言おうとしたが、意識を失う方が速かった。

 次に目が醒めると、見上げていた天井ではない景色が映し出された。天井とは違った白い景色は、女性が来ていた白い服だろうか。足を抱えられている感覚から、背負われているのだろう。

 娘はどこだろうか。目を動かして探してみるが、向いている方に娘はいない。私を助けるために猛スピードで走っている事は周囲の景色から伺える。その速度にリリィは絶対に着いてこれないため、彼女が正面側で抱えてくれているのだろう。

 普通の健康体であるならば、背負われた状態で走られている状況では意識を失えることは無いはずだが、失血から来る眠気に似た気絶に誘われ、再度意識を失ってしまう。

 次に起きると私はストレッチャーに乗せられていた。病院特有の匂いが鼻につき、周囲を見回すと院内は混乱を極めていた。

 病室や治療室に入れない怪我人がホールで治療を受けていた。九割に達する大部分が、爆発による怪我人なのだと治療に仕方でなんとなくわかる。

 トリアージが行われ、治療を受けられる人と受けられない人が医者や看護師によって分けられている。黒いタグを付けられた、助けることのできない人たちが廊下やホールの端に並んで横たわっている。

 私は治療をしてもらえるようで、医者が看護師たちに指示を出している。あの女性に礼を言いたかったが、見回してもその影も形も捉えられない。

 応急処置のお陰で出血性ショックが抑えられ、処置ができなかった出血し続けていた時よりも容体が安定しているらしく、視界にぼやけは無い。女性も娘の姿も見えないが、怪我人が優先される流れがある事で外か別の場所で応急処置を受けているのだろう。

 そう思った時、進行方向を歩いていく看護師に目が留まった。ストレッチャーを横切り、治療がされることの無い患者が横たわっている場所へ向かっている。

 小さな子供を抱えているようだったが、治療中に死んでしまったのか、黒いタグが足首に付けられていた。

 これがこの戦い。いや戦いとは言えない殲滅の非情なところだ。年寄りだろうと、女子供だろうと関係なく手を下しているキリングマシーンと変わらない、酷い連中だ。

 その足から目を離そうとしたが、ふと履いていた靴に目が行った。見慣れた靴だった。娘が履いていたのと同じ靴で、大きさからもちょうどリリィと同じぐらいの印象を受けた。

「っ…!」

 大丈夫だ。そう自分に言い聞かせる。私を追ってきた兵士の注意は常にこちらへ向いていて、娘に向かう前に撃ち殺したのだから、見た靴を履いた同年代の子供だろう。流行りの靴だったはずだから、同じものを履いている子供がいてもおかしくない。

 子供を抱えていた看護師が床へ横たわらせたタイミングで、私のストレッチャーが隣を横切った。医者や看護師たちの体で遮られて姿が見えていなかったが、通り過ぎた後に二人の事を見上げた。

 看護師の体で見えていなかったが、抱えられていたのは私と同じ髪の色で、自宅で抱きしめた時と同じ洋服を着ている少女だった。どう言い訳を付けても、避けられない真実がそこにはあった。

 横たわった少女の顔がこちらを向く。黒いタグを付けられた時点で助かる見込みの無い者であるため、そこに彼女の意識は無い。治療の煩雑さから丁寧に寝かせている時間が無いため、看護師の手が当たって動いてしまっただけだ。

 こちらを向いた少女の顔は、見間違えようもないリリィだった。金髪の綺麗な髪は血や煤で汚れ、自慢の紺碧の色の瞳は、光を無くして虚空を見つめている。身体には特に外傷のような者は見当たらなかったはずだったが、死因はすぐに判明した。

 倒れた瞬間に頭を打ったのか、それとも首の骨を折ったのか、どちらとも違う。あのいとおしくてたまらない娘の顔には、後頭部にまで達する穴が開いていた。

 誰がどう見ても、死んでいる。見間違いにしたかったが、顔に空いている小さい穴から頭部越しに抱えていた看護師の手が見えており、否定のしようがなかった。

 あの兵士が小銃を乱射した時に被弾してしまっていたが、当たったのは私だけではなく娘もだった。私から飛び散った血が娘に掛かってしまっていた事で、当たっていないと勘違いしてしまっていた。

 倒れた娘は何かにぶつかったわけでもなく、ただ倒れただけなのに動かないのはおかしいと思っていた。

 なにか、自分の中の何かが欠落してしまったように、自身の半身を失ってしまったかのような、初めての感情と感覚に涙が溢れそうになった。悲愴感の文字通り、私の胸を槍が突き刺したようにぽっかりと穴が開いてしまった。

 唯一、守りたかった娘は私の手をすり抜け、別れを告げる間も別れを悲しむことさえ許さずに逝ってしまった。あの子しかいなかった私は、そこの見えない絶望へと突き落とされた。

 生きる意味も見いだせず、私は活力を失いつつあった。肉体の限界は等に超えており、リリィの為にも死ねないという気合だけでどうにか命を繋いでいた。だが、支えから生じていた気力であるため、支えを失えば脆く瓦解する。

 精神に大きく呼応する肉体は死を受け入れようとした瞬間から、絶望の崖を落ちた瞬間から、肉体のバイタルは急激に悪くなる。

 脈拍、心拍数が低下し、呼吸数が減少する。胸に取り付けられた心電図の波形が乱れ、死へ一直線へ向かう。

 絶望の崖へ沈んでいく私は、死を受け入れて娘のところへ逝こうとした時、全く別の感情が膨れ上がってくるのを感じた。抑えきれないほど膨大な量のそれは、折れた心ごと濁流となって飲み込み、新たな支えとなって落ち込んだ感情を押し上げる。

 怒りだ。憎しみに近い怒りは、感情を炎のように滾らせて爆発させる。全てを焦がして焼き尽くす怒りの炎に身を任せるのは危険極まりない。扱いを誤れば自らをも灰燼と帰し、破滅を呼びかねない。だが、扱いさえ間違えなければ、この状況を打破する武器にもなる。

「麻酔を急げ!」

 治療室に入ってすぐ、叫んだ医者に看護師が麻酔を吸引させる透明なマスクを手渡した。鼻と口をしっかりと覆う事の出来るシリコンマスクを私の顔へ付けようとした医者の腕を掴む。

「絶対に助けて………このまま死んだんじゃ…死んでも、死にきれない…!!」

 絶望の淵から這い上り、憤怒を纏う私の気迫に看護師たちがたじろいだ。だが、表情一つ変えない医者は鼻で笑い飛ばし、確かな口調で言った。

「僕を誰だと思っている?余裕だよ、任せろ」

 そう言った医者を信じ、私は手を離した。マスクが押しあてられるとマスク内に麻酔が噴霧され始めたのか、僅かながら湿気を感じた。

「深呼吸して」

 医者の指示に合わせ、深呼吸を何度か行う。怒りを孕んでいる私は、とてもじゃないが眠れるような精神状態ではないが、薬品によって眠ったことを自覚することもできない程、強制的に眠りへつかされた。

 こんな悲劇は教科書の一ページにも、歴史の一行にすら記載されない。しかし、それらが積み重なって戦争の悲劇が語られる。

 




書き溜めていた分が無くなったので、また溜まってきたら投稿しようと思います。

本編がある程度かけるまで、気長に待っていただけたら幸いです。



もし、また読んで下さるのであれば、その時にお会いしましょう。
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