うーみー。
やって参りました臨海学校。織斑君のお隣争奪戦もあったりしたが、私はのほほんさんとのほほんとしていた。
どうやら織斑君は織斑先生と同室らしい。やったね、織斑君。禁断の愛を今こそ試すときだよ。
「何をバカなことを言ってるんだよ?」
いや、だって織斑君年上好きだし。
「何時そんなことを言ったよ……」
いや、見ていれば。
ま、いっか。今日は私が少し忙しいし。
「ん? 今日は自由日だろ?」
あれ、聞いてないの? 到着後すぐに、《聖杯》の武装テストがあるの。専用機持ちの人は海岸警備をお願いしてたはずなんだけど?
「あぁ、そういえば千冬姉が言ってたな。あれって、岸波さんの機体テストだったんだ」
一班生徒の子たちには広間でモニターを見てもらうんだけど。
「そんなに凄い攻撃なのか?」
うーん、物によっては危ないかな。沖まで出るけど、万が一のことがあったらいけないしね。危ない物質とかは含んでないから、終わったらすぐに遊べるよ。
「しかし、《カリス社》の技術の粋をつぎ込んだISの本気か。楽しみだな」
あ、ボーデヴィッヒさん。ふふふ、ついに水着姿のお披露目だね。
「ば、ばかっ。今言うな……」
ふふ、ごめんね。織斑君もはぐらかしたりしたらダメだからね。
「ん? 何をだ?」
そういうトコ。
「白野さん。そろそろ始めますので、こちらにいらして下さい」
あ、キアラ。じゃ、みんなよろしくね。
織斑君達と別れて、キアラの後に付いていく。そこには織斑先生とラトロワさん、そして《カリス社》の研究員さんが数名。山田先生は広間にいるらしい。
「来たか。一応時間に限りがあるから、早速始めるぞ。まずは沖の方に向かえ。こちらの到着後はこちらの合図が終わるまで待機だ」
了解です。じゃあ、皆さんよろしくお願いします。
「あぁ。行ってこい。あのとき言っていた《聖杯》の本気、みせてみろ」
ラトロワさんに言われたら、張り切らないわけにはいかない。本気の本気。少しイレギュラーですが、デカイのかましてまいります。
「ふっ、楽しみにしてるぞ」
ラトロワさんに見送られ、沖合に向かう。ISだとあっという間なので、しばし待機。《聖杯》、今考えてること出来るかな? 頑張る? うん、頑張ろうね。
『沿岸部にIS配置完了。記録部隊、設定完了。周辺海域200km以内の封鎖完了。衛星からの傍受の遮断完了。これを記録できているのは、記録部隊の他にありません。白野さん、あなたには私たちと、ウサギさんが付いています。何も心配はいりません。全力を出してみて下さいな。これを逃したら、次は何時になるのか分かりませんので』
キアラからの許可も出た。キアラの言葉から、篠ノ之博士も見ているのだろう。ならば、ISの、人の持つ力の可能性を披露しなければ。世界を壊す攻撃でなく、世界を偽る空想を。
すなわち。空想を具現化する。行くよ、《聖杯》。
――《空想具現化〈TYPE-MOON〉》。
私の本質は『月』。ならば、あの存在のほんの一部くらいなら模倣してみせよう。それこそ私の最大の空想。太陽系最大の頭脳だ。それくらいはなんてこと無い。
だから、私は私の世界を創り、世界を偽る。
それこそ万能の願望器《聖杯》の本領発揮。私の望みを汲み取ってくれる。
――固有結界《千年城ブリュンスタッド》。
Another side 千冬
一瞬で飛び立つ岸波を見つめていると、隣にかつての対戦相手が近付いてきた。
「それにしても、お前が教師とは、なかなか似合わんな。軍の教官の方が良かったんじゃないか?」
「それを言うならお前もだ。お前がメイドとは驚きだ」
「私は違うがな。ともかくどうなんだ、お前の弟は」
「まだまだだ。未熟にも程があるな」
そういうと、何故かラトロワが笑い出す。
「む、どうした?」
「クックック……、いや、岸波の言うとおり、お前は弟のことが好きなのだな」
「なっ!?」
岸波め……、あいつはまたしても……。
「まぁまぁ、旧交を温めるのも良いですが、そろそろ始まりますわよ」
「っと、では失礼する。お前も、候補生達への指示を頼むぞ」
私の反論を待つことなく、ラトロワは離れていってしまう。
「織斑先生も、織斑君たちに指示を」
「あぁ……」
まぁ、ここでどうこう言っても仕方が無い。このテストは危険も伴いかねない。
「さて、専用機持ちども、指定の位置には着いたか?」
『はい。全七名、所定の位置に着きました。問題はありません』
リーダーであるラウラの完了の言葉に、ラトロワに合図を出す。他の準備も終えたようで、ラトロワがテスト開始の合図を全ISに告げた。
「さて、これからが見物だぞ織斑」
「ほぅ? お前がそこまで褒めるのは珍しいな」
「その技をこの身に受けたんだ。凄さは一番分かっているつもりだ」
そういうラトロワは、今まで見たことがない表情だった。この女にこんな表情をさせるほどか。ふむ、少し楽しみだな。
期待と共にモニターを覗き、テストが始まるのを見守る。
岸波の動きが止まった瞬間、遙か遠くから、とてつもない重圧が伝わってきた。
「これが、《聖杯》の単一能力なのか!?」
慌ててモニターを見ると、《聖杯》が銀色の光を放っている。そして、辺りの空間がゆがんだかと思うと、世界が夜に包まれる。
「岸波先生! これはっ!?」
「《空想具現化TYPE-MOON》および、固有結界《千年城ブリュンスタッド》の発動を確認。……《メルティ・ブラッド》も発動したようですね。対象がいないため、威力は不明ですか」
周りの騒然とした光景とは裏腹に、岸波先生は落ち着いて、処理を進めていた。
世界が改変されたのはわずかな時間であり、夜はすでに明けている。しかし、その残滓は、ここまで届く波が示している。
「ふむ……、予想以上の結果ですね。まさか、ここまで大出力の技を使えるとは思っていませんでした」
「岸波先生、今のは?」
「《聖杯》の単一能力《空想具現化TYPE-MOON》です。そこから派生した《千年城ブリュンスタッド》です。まぁ、これは私たちが予想した能力とは異なりますので、本来の形ではありませんが、白野さんが予想以上に張り切った結果でしょう。証拠に、ほら」
岸波先生の言葉に、モニターを改めて見てみると、《聖杯》のフォルムが変わっていた。今までとは異なり、真っ赤なドレスのようなフォルムに変化していた。
「これこそが、本来の《空想具現化MODE:SERVANT》です。《聖杯》が今まで展開していた数々の英雄の力を機体そのものにインストールしたものです。展開装甲の可能性を極限まで追い求めたものですわ」
岸波先生はそう言うが、これは異常だ。世界を塗り替えるなんて技術ではなく魔術だ。
「流石に《千年城ブリュンスタッド》は予想外ですわ。あれは、なかなか使えないでしょうし、イレギュラーなものです。「この後」旅館に流す映像は、これからの部分だけに留めて下さい。オルコットさんたちも口外せぬよう、徹底をお願いいたします」
最後の言葉は、オルコット達に向けられたものだ。少しの間の後、小さな声で了解との返事が返ってきた。
「しかし、これからも見物ですわ。伝説の英雄の御技は一見の価値ありです。あぁ、ここからは中継して構いませんよ」
岸波先生は岸波に指示を出すと、モニターを旅館に繫ぐ。
「それと、鳳さんとボーデヴィッヒさんとデュノアさんは、白野さんの相手をお願いします」
『『『了解』』』
「ここからは対戦形式にするのですか?」
「はい。ここからは、危険も少ないですから。わかりやすいほうが宣伝にもなりますしね」
しかし、今からやることは専用機三機との勝負だ。しかも、オルコットの《ブルー・ティアーズ》のような特殊な機体ではなく、総合力の高い三機だ。岸波が抜群のセンスを持ち、《聖杯》を操ろうと、容易に勝てるとは思えない。
「確かに、普段ではそうでしょうが、単一能力を使っているときは別ですわ。恐らく、織斑先生とラトロワさんとのペアでも苦戦するでしょう」
第一回モンド・グロッソ《格闘部門》の優勝者と準優勝者のペアでも苦戦する、か。驕るつもりはないが、にわかには信じられない。
「戦うことに関して、今の白野さんに敵う者は、まさしく織斑先生くらいでしょう」
「……何か含みを感じますが、それほどなのですか?」
「はい。それほどまでのものです。ふふふ、恐らく、多くの子達が白野さんに見惚れてしまうかと」
まさか、と思ったが、気になるのはラトロワが妙に楽しそうに笑っていることだった。まさか本当にそうなるとでも言うのだろうか。
「あぁ。織斑、これから忙しくなるぞ? 何せ、アイツはそこらの男どもよりも余程男らしいからな」
「まぁ、オヤジ臭いところもありますがね」
ラトロワと岸波先生の言葉に、期待の中に、ほんのりといやな予感が混じった。また、苦労が増えるのか……
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