Another side 千冬
とりあえず岸波を山田先生に預けると、私は保健室に向かう。ノックをすると、中から相変わらず甘ったるい声が返ってきた。
「どうぞお入り下さいませ。織斑先生」
「失礼する」
保健室に入ると岸浪先生が、お茶を用意して座っていた。この人は、未来が読めるのではないかと時々思う。
「どうぞ、冷たいお茶です。お疲れございましょう?」
「あぁ、ありがとうございます」
この先生の入れるお茶は驚くほどにうまい。それが悔しいと思うのは仕方がないだろう。
受け取ったお茶を一口飲んでから、本題に入る。
「先程の生徒、岸浪白野のことですが、あなたのことを知らないそうです」
「あら、そうでございましたか」
しかし、岸波先生は慌てる様子もなく、お茶を口にする。
「あなたの関係者ということで、IS委員会への連絡を保留しているのです。それが違うとなれば、問題が生まれます」
「とはいっても、事実は事実なのでございます。白野さんは私のことを知っているはず。それに、彼女の身分はこちらが保障しているのです」
岸波先生の立場といえば、世界で有数の開発会社《カリス社》。彼女がかつて開発主任を務めたロシアの企業だ。つまり岸波は。
「ロシア所属の人物ということですか?」
「そういうことになりますね。みなさま、快く承諾して下さいましたよ」
それはそうだろう。この人物にかかれば、束でさえも敵わないだろう。それほどの人物だ。どうして、ここで保険医をしているのか、全く意味不明だ。
「……あなたの言うことですから、これ以上は追及しません。ですが」
「ええ。承知いたしております。しかし、ご安心下さい。その嘘は真となりましょう」
はっきりと嘘と言っているが、反論が出来ない。……世界を席巻しているのはIS、束といわれているが、この人が本気を出せば、一週間もかからず世界を支配してしまうのだろう。
Another side out
さて、今私は黒い色の機体を纏い、ぷかぷか浮いている。向かいには緑色の機体。胸が大きい山田先生が乗っている。
『それでは、次は飛行訓練です。私に付いてきて下さい』
そう言われ、ゆっくりと前進する山田先生の後をついていく。向こうではサーヴァントにまかせっぱなしだったけれど、こちらでは随分動くのが楽だ。それに、このISというのも、私の思考を十全に汲み取ってくれる。イメージ通りに動いてくれるのだ。たとえば、ホーレホレ。
『き、岸波さん! 急加速は危険です!』
怒られた。反省。
『もう。でも、起動に関しては問題なさそうですね。今のも全く無駄のない完璧な起動でした』
おっと、どうやら合格点をいただけたようだ。少し調子に乗って立体起動を試みる。うん。ヒョイヒョイっといける。
『す、すごいです! はっ、だ、ダメですよ! 岸波さーん!』
山田先生は慌てているが、自由の翼を手に入れたのだ。少しくらい羽目を外してもいいだろう。
で、10分後。
怒られました。
「まったく……お前というやつは。人畜無害なようで、じゃじゃ馬か」
面目ない。あと、以前は子リスと言われいや何でもありません。
「とりあえず、お前は岸波先生――岸波キアラ先生により保護される。国籍はロシアだが、まぁ、気にするな。大国の庇護をもらえるとでも思っていればいい」
おお、すぱしーば。ボルシチって美味しいよね。
「……まぁいい。この後検査を終えたら、休んでいい。今日の所は私の部屋にこい。明日には部屋も用意できるだろう」
まさかの織斑先生との同室。以前はマイルームがあったから、二人で寝起きするというのは新鮮である。
「織斑先生、白野さん」
と、そこに聞き覚えのある声。振り向くと、キアラ、先生がいた。しかし、見れば見るほど殺生院キアラと同じだ。外見だけでなく、中身も。キアラと名のつくものは皆こうなのだろうか。そうならば、私は自分の子に絶対キアラと名付けたくない。
「岸波先生、どうかなさいましたか?」
「いえ、白野さんの検査を担当させてもらうと思いまして。データを本国に渡しておきたいのです」
どうやら、キアラ先生はやる気満々らしい。なにやら腕章らしきものを持っている。
「そ、それは!?」
なにやら織斑先生が驚愕している。というか、あれ。生徒会の腕章じゃ。
「白野さんのために作ってきた秘蔵っこですわ。この子をまかせられるのは白野さんだけですので」
そう言って渡された腕章を、いつものように腕につける。うん、やはりというか、しっくりくる。あそこでの思い出がよみがえってくるようだ。ついでに、「この子」のスペックも。
「白野さん、調子はいかがですか?」
言う前もない。ぱーふぇくとだ、キアラ。
「よかったのでありますよ。では参りましょう。これからのテスト、適応テストに変更ですわ」
どうやら予定は変更になったようだ。よく分からないので、とりあえず付いていこう。
『とりあえず、まずは展開をしてください』
ピッチリとしたスーツに着替えた後、先程の大きなアリーナに一人立っていた。とりあえず、言われた通りにISを起動しよう。ほら、一瞬。
『シンクロ率89%、上々ですわ。では、まずは機動性ですわね。白野さん、好きなように動き回って下さいな』
軽く浮いてみると、さっきの機体とは段違いに動きやすい。さて、まずは急加速からの直角ターン、続いて高速回転しながら端から端まで、ついでに一周。さてさて、ジグザグ走行をした後は、螺旋でも描いてみよう。うん、これならセイバーと一緒に楽しめるかも。
『あら、随分と動けるのでありますね。では、白野さん。次は武器のチェックですわ。シールドレベルは最大にしてあるので、フルパワーで発動して構いませんよ』
おや、とりあえずここまでのようだ。言われた通りに武装を取り出そうとしたが、どうやら大量にあるようだ。取り敢えず、今回はセイバーになりきろう。《原初の火(アェストゥス・エウトゥス)》、彼女の剣だ。彼女よりは劣るが、その動きは何度も見てきたのだ。すなわち《星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)》を。
『はい。《星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)》の発動を確認いたしました。あら? 少しシールドに影響が出てしまったようですね。白野さん、武装テストは終了です。どういたしますか? もう少し時間は残っているので飛行の練習ならば出来ますが』
是非やらせてもらう。実は、攻撃とかよりも、動き回れることのが楽しいのだ。