Another side 箒
白野が眠る部屋から、ビャーチェノワ、いや、クリスカとイーニァが出てくる。クリスカの目元は腫れているが、表情は戦意に溢れている。
「もう、大丈夫みたいね」
「あぁ。これでは主に怒られてしまうからな」
……え?
「岸波って、従者持ちなの?」
「ん? あぁそうだぞ。私もイーニァもハクノのメイド部隊の一人だ。メイド長はヴィオリニスタ・クラヴィアだ。お前達も知っているだろう?」
知っているも何も、最強の一角だ。知らない人はいない。そんな人の主をやっているのか白野は……。
「あとで話を聞かなければなりませんわね」
「だが、その前に、さっさと片付けてしまおう」
そうだ。私と姉さんを助けてくれた白野を助けるのは、私の役目だ。今度は私の番だ。白野に助けてもらったこの命。絶対に無駄にしない。
千冬さんには内緒だが、何故か、岸波先生から頑張って下さいと、プライベートチャンネルで通信があった。まぁ、黙認してくれているのだろう。
海岸から飛び立とうとすると、《紅椿》にメールが入る。宛先は姉さん。内容は一言だけ。
『がんばって』
それだけで、私の緊張が和らいだ。この震えは武者震いだ。
「行ってくるぞ、白野!」
目の前に繭のように丸まっている《銀の福音》。私たちに気がつき、顔を上げた瞬間、そこにラウラの砲弾が直撃する。それが開戦の狼煙だった。
「行くぞ! シノノノ!」
真っ先に飛び出したのはクリスカ。私も後に続く。クリスカの猛攻は、苛烈そのもの。ならば私も負けていられないというものだ。
「姉さん、力を貸してくれ!」
心の底から願った瞬間、《紅椿》が光の粒子に包まれた。……私は最高の姉を持ったな。帰ったら、お礼を言わなければならないな。
「一夏! 《零落白夜》を! エネルギーの心配はするな!」
やれる! この《絢爛舞踏》となら!
「そうなのか!? 信じるぞ!」
「信じろ! 私と姉さんを!」
一夏は、《零落白夜》を発動し、《銀の福音》に突っ込んでいく。しかし、福音は《零落白夜》を警戒しているようで、特に警戒している。やがて、一夏の《雪片二型》の光が消える。それを狙っていた福音は、一夏にとどめを刺そうと一夏に詰め寄る。
だが、それを待っていた!
「一夏! もう一度発動だ!」
一夏に触りながら、そう告げる。その瞬間、《白式》にパスが繫がり、《雪片二型》に光が戻る。
その瞬間、福音から驚愕した様子がうかがえた。が、もう遅い!
「いっけぇぇぇぇ!」
「おぉぉぉぉぉぉ!」
私たちの叫びと共に、完璧な一撃が入った。……終わったよ、姉さん、はく……。
「まだだ!」
え?
そう思った瞬間、私の真横を、膨大なエネルギーが通過する。そして。
「ぐぅ!?」
「くぅっ!!」
「きゃぁ!?」
「きゃ!」
ラウラとシャルロットとセシリアと鈴が落とされていた。何故だ!? 確かに一夏の一撃は奴を捉えたはずだ!
「セカンドシフトだよ、ホウキ!」
イーニァの言葉と共に、福音から目映い閃光が走る。慌てて、《雨月》を振るうが遅かった。
「ぐぅ!!」
とっさに交わすことが出来たが、《絢爛舞踏》の輝きは消えてしまった。くそ!
残ったのは私と一夏、そしてクリスカとイーニァだ。私と一夏は、エネルギーもギリギリだ。
「クリスカ! イーニァ!」
急いで二人をみるが、その間にも福音の怒濤の砲撃はやまない。今の私では避けるので精一杯だ。
「分かっている! イーニァ!」
「うん!」
二人はすぐに体制を取り直し、福音に立ち向かうが、第二形態に進化した福音には手が足りない。頼む! 力を貸してくれ姉さん! ……白野!
――そんなこと言われたら、がんばらないと。
そんな声が聞こえた気がした。
その瞬間、私たちの周りは、炎の壁に包まれた。こ、これは……っ! っっ! だ、ダメだ! 今は戦いの最中だという、のにっ! 涙が……涙がっ!
「バカ者……っ!!」
「ハクノ!!!」
黄金の鎧を纏った白野が、大量の武器を携え威風堂々の姿で君臨していた。
Side out
『おきろ』
いってぇ。何、ギルガメッシュ?
『我が鎧を貸してやろう。お前の此度の遠征、なかなかに見ていて笑わせてもらった』
あ、見てたの?
『全て見せてもらった。ラクザの百インチティービーでな。貴様の笑顔、見物だったぞ』
……着替えも?
『赤いのと狐が大層興奮をしていたな。まぁいい。我の財宝をお前に預けよう。見せてみろ』
まあ、見物料代わりに借りるとしよう。あ、ギルガメッシュ。
『む? 何だ?』
私、慢心しないから。
『クックック……良い。この王たる我が許す。存分に我の宝を振るうがいい』
うん。見てて。本気で、行くから。
夢から覚めると、旅館の一室。少し眠りすぎたようだ。……唇が湿ってるような?
じゃ、行こうかな。
「……お前は絶対安静だぞ」
「まぁまぁ、そんな無粋なことを言うものではありませんわ」
織斑先生、キアラ。……目つぶし、しようかなー。
「脳天かち割るぞ?」
すみません、うそですうそですうそです!!
「全く……お前たちは命令系統を何だと思っているんだ」
「いいではありませんか。責任は私たちがとればいいのですし、第一、まだ作戦終了を告げていません。幸い、謎の電波障害で、今の状況は知られていません。なので、無事に帰ってくれば、万事解決ですわ」
「いや、ですから……」
織斑先生、諦めたほうがいいかと。
「そういいながら窓に足をかけるな」
それはむりなご相談。じゃ、キアラ。後はよろしくね?
「はい。あ、夏休みはご予定を空けておいてくださいな」
……美味しいボルシチ、食べさせてね?
「はい。そのようにお伝えしておきます」
さて、夏休みの予定も決まったし、みんなを迎えに行かないと。じゃ、行って来ます!
窓からなので、海に出るまではソロソロと。海に出た瞬間、超高速マッハ5で目的地に向かう。
超音速下であっても、オープンチャンネルの声は聞こえる。だから、箒さんの願い、確かに聞き届けた。
――そんなこと言われたら、がんばらないと。
《聖剣集う絢爛の城(ソード・キャメロット)》。今回は三度目。一番調子がいい。
それに今の私は英雄王だ。慢心をしない最強の王。ならば、絶対に負けやしない。三六連砲? ならばこちらは七十二の宝具で相手だ。
歌姫さん、王様を楽しませるくらいの歌じゃなきゃ、許さないよ?
それと織斑君。出発前に言ったこと、覚えてる? 手短に言うけど、《白式》の声を聞きなさい。それまでの時間を稼いであげる。
クリスカ、イーニァ。
「遅いぞばか者!」
「ずっとまってたんだから!」
ごめんね。こんな頼りない主だけど、一緒に戦ってくれる?
「うん!」
「行くぞ!」
箒さんはエネルギー供給をお願い。今なら使えるはずだよ?
「……あぁ。答えろ! 《紅椿》!」
……じゃ、行くよ! 《王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)》、フルオープン!
宝具の弾幕は、福音の弾幕を上回り、福音に傷をつける。クリスカ、イーニァ。ここだよ。
「あぁ!」
「うん!」
二人のコンビネーションは、宝具の合間を縫って、福音にダメージを与えていく。たとえエネルギーが切れそうになっても、《絢爛舞踏》があれば、問題はない。故に無尽蔵の財宝を惜しげもなく放出出来るというもの。
――ほら、男の子。早くしないと、女の子だけで終わらせちゃうよ?
「男として、そんなんじゃみっともないよな……」
お、出来たんだね?
「あぁ! 確かに《白式》の声が聞こえたよ。ありがとうみんな! 最後の一撃、今度こそ俺に任せてくれ!」
うん。頑張れ男の子。格好いいところを見せてあげて。その《雪羅》で。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
今度こそ、確実に、《銀の福音》は沈黙した。けど、詰めが甘いよ、織斑君。
ポフッとセクシーなお姉さんを受け止めて、織斑君に告げる。クリスカやイーニァ、そしてオルコットさん達も無事のようだ。水も滴るいい女。
「ったく……なにふざけたこと言ってるのよ」
「全くですわ。寝起きで寝ぼけているのではありませんの?」
ふふふ、それじゃあ、目を覚ましに行こうか。みんなも、泳いだ後だし、さっぱりしたいでしょ?
「そうだね、早く戻ろっか」
「では、帰還しよう」
ここに来るときとは違い、帰りはこの女性に負担をかけないようにゆっくりと。すると、クリスカとイーニァが並んでくる。
「ハクノ、体は大丈夫なのか?」
うん。《聖杯》のおかげでね。少し、出し渋っちゃったから、怒られちゃうかもしれないけど。まぁ、《白式》もレベルアップできたし、万々歳かな?
「そっか。じゃあ、こんやはいっしょにねむれるの?」
うん。いっぱいいっぱいぎゅーってしてあげる。
「うん! わたしもいっぱいぎゅーってしてあげる!」
どうやら今夜はぐっすり眠れそうだ。
で、海岸に着くやいなや、即正座。いや、まぁ、分かってはいたけど。
「ま、まぁまぁ織斑先生。皆さん疲れているでしょうし、お説教はそのくらいで」
や、山田先生。アンタ、天使やぁ……。
「……まぁ、このくらいにしておいてやる。表向きには何の問題もないということになっているからな。……まぁ、よく無事に帰ってきた。お前達、よく頑張ったな」
笑みと共もに、お褒めのお言葉。織斑君達は驚きのあまり絶句している。
かーわーいーいーぐふっ。
「……さっさと診断を終わらせてしまえ。そのあと、特別に風呂を空けてもらっている。夕飯前に汗を流しておけ」
んふふー、クリスカの体洗ってあげるー……。……? どしたのクリスカ。
「そ、その……お前が望むのならば、よろしく、頼む」
なん……だと……。……よ、よろこんでー。
……え、えと、マジ?
福音戦は早々に終了です。
はくのんは戦いよりも、いちゃこらしているほうが似合っている。
次回、濡れ場。