今日はこのロシアに来た本題。本国での《聖杯》のお披露目だ。今日は昨日と違って報道陣も入ってのお披露目。首相とゾフィーさんも来ている。流石に《千年城ブリュンスタッド》は禁止されたけど、それ以外はオーケーなので、派手にいくつもりである。
今はピットで時間を待っているのだけど、今朝の朝刊、やっぱり昨日の写真が一面である。ラトロワさん達と一緒に撮ったのは載っていなかったけど
「その新聞、すぐに売り切れになっているようですね。プレミアがつくとも言われていますわ」
アハハ……。ま、期待に応えなきゃね。
「はい。行ってらっしゃいませ」
「行ってこい。そして、お前の力を見せてこい」
「がんばって、ハクノ!」
愛しいメイドさんに見送られ、ロシアの空へ旅立とう。ご覧あれ、《聖杯》の奇跡を。
「まさか、こんな舞台で再戦を出来るなんてな」
今日の相手はラトロワさん。《ヴォジャノーイ》ではなく、クリスカの《チェルミナートル》に搭乗している。本気も本気。これこそがロシアが世界に誇る国家の英雄。この間のようにはいかないだろう。
「ふふ、それは言い過ぎだが、この間のようにはいかないとだけいっておこう。臨海学校で見せた力、披露してみろ」
無論です。私は慢心なんてしてあげませんから。最初から《空想具現化 TYPE:SERVANT》です。今日はアーチャー。無限の剣製、お見せしましょう。
真っ赤な外套のような武装に包まれ、私の周りは無数の剣で彩られる。少々無骨だけど、今日のラトロワさん相手に油断なんて出来ないし、格好付けることも出来ない。だから、本気で。
「ふふっっ、ならば打ち破って見せろ! お前のお前は宿敵だ。千冬と戦うと思って行かせてもらおう!」
それを合図にラトロワさんに向けて、剣を打つ。だが、ラトロワさんは全部避けてしまう。それどころか、こちらにいくつも巨大なレーザーを打ち込んでくる。固定砲台は無理みたい。なら、これ。《壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)》。奇跡の残滓は強力ですよ?
「っと。これは強力だ。が、これでは止められないぞ?」
のようです。でも、こっちにも砲撃戦なら、絶対に負けない盾があるんです。ね、《熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)》?
七つの花弁は、ラトロワさんの猛攻を全て弾く。苛流電磁砲だってレールガンだってレーザー砲だって、全部防ぎますので、この盾。
「のようだな。では、接近戦に切り替えさせてもらおう」
じゃあこっちも。《干将(かんしょう)・莫耶(ばくや)》でお相手します。
「ふむ、攻め切れんな。素晴らしい腕前だな。だが、後ろからの砲撃はどう防ぐ?」
剣を投げてぶちこわします。
「では、正面の私はどうする!」
《鶴翼三連》、これがこの剣の戦い方ですから。
「っく、なんとまぁ奇抜な。だが、こちらもタダではやられんがな!」
うはっ、至近距離からのブラスターは防げません。ごっそりエネルギーを削られたが、まだいける。だって、この身は正義の味方。簡単に負けては申し訳が立たない。しかも《聖杯》にはもう一人アーチャーがいる。ちょっぴり反則だけど《天の鎖(エルキドゥ)》、標的は彼女だよ。
「なっ!? こんなものまで持っていたとは! くっ、なんだこの固さは!?」
ヘラクレスでも解けない鎖です。あなたに敬意を込めて、最強の神造兵器で決着をつけます。来て、《乖離剣エア》。
原初を語る。元素は混ざり、固まり……万象織りなす星を生む。死して拝せよ。《天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)》!
この一撃は世界の終わりにして始まり。どんな人にだって負けやしない。ね、英雄王?
『しかり。我が友まで使ったのだ。当然だろう』
アリーナのシールド中に創世の暴風が吹き荒れる。流石にラトロワさんでも耐えられないだろう。
《偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)》で天井に穴を空け、風を外に抜けさせる。風は止み、土埃が払われると、ギリギリで機体を維持しているラトロワさん。
「全く……これではスラスター一つ動かせんではないか」
ラトロワさんは武器を出そうとするが、途中で霧散してしまう。本当に維持で精一杯のようだ。
「降参だ。悪いが運んでいってくれるか?」
勿論です。お姫様抱っこをしてあげましょう。
「……頼む」
了解、プリンセス。
「昨日の仕返しか? ほら、カメラの方を向いてやれ」
ラトロワさんの指さす先には大きなカメラ。ヤフー。
パシャパシャとフラッシュの雨嵐の中、ピットに戻る。ただいまです。
「お帰りなさいませ。お見事でございました」
ありがとうヴィーラさん。クリスカ、どうだった? 合格?
「無論だ。私の機体をあれほどまでにぼろぼろにしてくれたのだからな」
ありゃ、ごめんなさい。そう言えば《チェルミナートル》って、クリスカの専用機だったね。
「そうだ。まぁ、ラトロワからのお下がりだがな」
あ、そうだったの?
「正確に言えば私の機体を解体して、それを元にして作ったのが《チェルミナートル》だな。試験機段階の時は私がテストしていたんだ」
通りで動きが異常にいいわけですか。今は専用機持ってないんですか?
「あぁ。《ヴォジャノーイ》を一機貸してもらっているが、これもテストの側面が強いけどな」
へー。
「それより、皆お前のことをお呼びだぞ? 行ってやれ」
了解です。じゃ、行ってきます!
Another side ラトロワ
「全く、つくづく気障なやつだ」
アリーナに戻って、客に向かって手を振っている岸波を見てそう思う。
「お前達もベタ惚れな訳だしな」
「な、何だいきなり!?」
「文字通りだよ」
あの冷血だったクリスカが、ここまで慌てふためくなんて、それだけで驚きだ。
「うん! わたし、ハクノにべたぼれだよ!」
イーニァも同じだ。クリスカ以上に他人に無関心だった。クリスカ以外に向けて表情を見せることすらしなかったのに、今では私にもこうして笑顔を見せてくる。学園での生活も同じように篠ノ之の妹と仲が良いようだし、明らかに変わったのだろう。
「ふふふ、それを言うならラトロワ様もではありませんか?」
「それこそ一番変わったのはお前だろう? モンド・グロッソの時と比べたら、別人じゃないか」
「あら、お恥ずかしい」
クスクスしているが、以前のヴィオリニスタを知っている身としてはそれだけでも驚愕に値するのだがな。
「それで、お前の目から見たご主人様の力はどうだ?」
「そうですね。勿論《聖杯》のスペックの高さもありますが、それをあそこまで十全に引き出せる白野様の実力はまさに英雄たるや、といったところでしょう。それでいて、まだ白野様はIS戦に慣れているとは言えません。それを共に訓練できるということは非常に喜ばしいことです」
「あぁ、のろけるな」
これ以上聞いていると、単なるのろけになりそうだったので、取り合えず止めておく。
「まぁ、それはそうだろう。アイツがISに触ったのはほんの一月程度だ。戦闘自体には慣れているようだが、随分と力押しの傾向があるからな。まぁ、それであそこまで出来るのは、状況判断力の賜物か」
岸波が最も優れているのは、戦況を見抜く観察眼だ。無数の武装を持つ《聖杯》の能力を、的確に運用できるのは、一つの才能だろう。
「元々《聖杯》は白野様の能力を引き出すためのものです。正確に言えば、あれらの技は白野様の技であり、《聖杯》の技ではないのです」
「そうと聞いているがな。では、《聖杯》の本来の武装とはなんなんだ?」
「《聖杯》の能力は白野様の補助的能力です。相手を捕縛する能力が多い武装が主となります」
ヴィオリニスタに見せてもらったスペック表を見せてもらうと、あるわあるわ、イロモノ武装。なんだ、このワイヤー武装は。
「最大百八十本同時展開可能のワイヤーブレードです。使いこなせれば、イメージインターフェイスを用いることも可能です」
「そんなところで第三世代の技術を使うなと言いたいが……。これを使いこなせれば相当な脅威になるな」
百八十本のワイヤーブレードが三百六十度全方向から襲いかかってくるのを想像するだけで恐ろしい。それに加えて無数の剣や《星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)》のような大技が襲ってくる。しかも先程使ってきた《天の鎖(エルキドゥ)》もある。あれは、どうやってもほどくことは出来ないだろう。
「というかこれ、完璧にキアラの趣味だろ」
「そういえば、キアラ様が全て手掛けた武装でしたね。製造まで二日で漕ぎ着けたようです」
何をやっているんだアイツは……。
「他にも色々積んでいるそうですが、メインとなるのはそれですね」
「そのメインがイロモノすぎるんだ。使えるようになるのに相当時間がかかるぞ」
「それを助けるのが私たちの役目です。ようやく、白野様のお世話を出来るのですから、実は嬉しいのです」
「あー、だから惚気はアイツにしてやれ。ほら、岸波もそろそろ戻ってこい」
これ以上は聞いても、どうせコーヒーが欲しくなるだけだ。アリーナで高速機動を披露している岸波を呼び戻し、矛先を変えさせてもらうとしよう。
Side out
アリーナでの試合の後はインタビュー。日本語でしてくれているので一安心である。
そういえば、ウチの保護者にサインが喜ばれるって言われたんですけど、そうなんですかね?
「もちろんですわ! その、よろしければ何枚かいただけないでしょうか?」
いいですよ。練習のために沢山書いてきましたから。五枚くらいでいいですか?
「は、はい! ありがとうございます!」
ヴィーラさん、お願いしていい?
「はい。ただいま持ってこさせますのでお待ち下さい」
あ、おねーさんにも何か差し上げないと。予備のISスーツでもいります? なんちゃっ……。
「よろしいのですか!?」
おぉぅ。冗談のつもりだったんですけど。
「あ、失礼しました……。つい、興奮してしまいましたわ」
でも、そんなので良ければ持ってこさせます。あ、でも新品のってあったっけ……。
「その、今日着ていたのとか……す、すみません!!」
あー、野球選手のユニフォームとか欲しくなりますもんね。ヴィーラさん。今日着てたやつ、選択終わってるかな?
「……はい。サインと一緒に持ってこさせます」
? ちょっと待っていて下さいね。でも、ロシアの人はいい人達ばかりですね。
「それだけ、岸波さんを心待ちにしてたのです。ラトロワ様を倒した新たな英雄の誕生。私たちロシア国民が心待ちにしていましたから」
でも、クリスカとかイーニァ、それにIS学園の会長さんとかもいると思いますけど。
「確かに、彼女たちも期待の操縦者です。国家代表の更識さんやビャーチェノワさんやシェスチナさんも他国の代表候補生と比べて一つ抜きんでていると言われていました。しかし、ビャーチェノワさん達は突然候補生から下りられましたし、国家代表選手は大会が始まるまで分かりません。それだけ、伝説の第一回モンド・グロッソの決勝戦の片翼であるラトロワ様を倒された方が現れたとなれば期待せずにはいられません」
インタビュアーのお姉さんは、少し興奮しながら説明してくれた。それほどまでにこの国でのラトロワさんの存在は大きいのか。やっぱりラトロワさんって人気とか凄いんですか?
「はい。第一回、第二回と、千冬様に傷を付けることの出来た唯一の存在にして、我が国の地位を守って下さった、まさに英雄です」
ロシアは他の国では一般的となっている女尊男卑の風潮が著しく低い。その理由はイヴァンさん達の存在もあるが、ラトロワさん達ロシアの国家代表選手達が、男性の存在の意義を説いたからであるそうだ。ISの世界の最前線で活躍する彼女たちがそのような宣言をしたことで、ロシアの中で広まりつつあった女性の男性に対する差別が瞬く間に減っていったらしい。
「初めこそ、様々な反発がありましたが、今ではそれが正しかったのだと感じています。たしかに、ISが乗れるのは女性だけ。しかし、女性にもISに乗れない者はいますし、研究者の中には男性も多くいる。それを忘れかけていた私たちを目覚めさせてくれたのが、ラトロワ様たちなのです」
ラトロワさんのことを話す彼女を見ると、ラトロワさんが本当の英雄なのだと思える。今でこそ私が英雄の再来などと言われているが、私がラトロワさんの所までたどり着くまでにはまだまだ時間がかかるだろう。
すると、そこで扉がノックされ、メイドさんが入ってくる。さっき頼んだものを持ってきてくれた。じゃあ、先にサインを渡しておきますね。読者プレゼントにでもして下さい。
「はい。ふふふ、きっと過去最高の売り上げになりますわ」
そして、スーツの方にもサインを……っと、〈はくのんサイン〉でいい?
「は、はい! よろしくお願いします」
さらさらーっと。はい、これはお姉さんへのプレゼントです。大切にして下さいね?
「も、勿論です! 家宝にします!」
それと、この写真は出版社に。きのうのパーティーで撮ったヴィーラさんとラトロワさんと一緒に撮った写真。サイン入りなので、レア物ですよ。今朝の新聞に載ってませんでしたし、喜んでくれると思って頼んでおいたんです。
「よ、よろしいのですか!?」
うん。ラトロワさんからの許可ももらったし、思う存分載せちゃって下さい。
「はい、必ず。本日は本当にありがとうございました。岸波さんのこれからの活躍、我が社一同応援しております」
そう言うとお姉さん達は部屋を出て行った。時計を見るともう夜の時間だ。窓の外は夜の帳に覆われている。
「お疲れ様でした。今日の予定はこれですべて終了です。夕食の準備は出来ていますが、どうなさいますか?」
うん。いただくよ。今日のご飯は何?
「今日はロシア料理です。メイドたちが張り切って作っていましたから、楽しみにしていて下さい」
それは楽しみだ。昨日はあまり食べられなかったから、今日はいっぱい食べないと。
豪華なロシア料理を満喫し、お風呂を終えた後、私は一人でホテルの屋上のラウンジにいた。特別に出してもらったので、今は一人だ。
それには綺麗な月。綺麗な満月だ。雲一つない夜空に浮かぶ月を見ると、ムーンセルを思い浮かべる。ちょっぴりホームシックもあるが、セイバー達はそばにいてくれる。それにこの空気は好きだ。やはり、夜は落ち着く。
「ここにいたのか」
あ、クリスカ。どうしたの?
「一人でいなくなるからだ。ヴィオリニスタが探していたぞ」
ありゃ、メイドさんに言付けしたんだけど。ま、いいや。クリスカも付き合ってくれる?
「仕方のない奴だ」
苦笑しつつも付き合ってくれるクリスカ。はい、キッチンからくすねてきたブドウジュース。
「おいこれ……。まったく……」
まぁまぁ。はい、どうぞ。
「お前という奴は……。まぁ、ご一緒させてもらうか」
そうそう、今日はこんなにも月が綺麗なんだから。美人さんと一緒にお月見とか最高ですよ。
「……まぁ、今日の月が綺麗なのは同感だが、お前は月が好きなのか? 学園でもよく見ているようだが」
ま、そうだね。月を見てると落ち着くの。
「そうか」
うん。ま、今だとクリスカ達と一緒に寝たりする方が落ち着くんだけどね?
「バカなことをいうな。いつもそんなでは信用されなくなるぞ?」
んふふ、クリスカ達のことは信頼してるから。
「お、おい、酔ってるんじゃないか?」
ふふふ、クリスカと一緒だから、場に酔ってるの。うん、クリスカは温かいね。
「イーニァみたいなことを言うな。全く、お前はたまに甘えたがるな」
ふふふー、ごろごろ。
「お前は猫か」
うん、はくにゃんだよ。にゃー。頭撫でてー。
「分かった分かった」
苦笑しつつも頭を撫でてくれるクリスカ。ISのこととか、ロシアのこととか、色々あるけど、この子達がいれば何も怖くなんかありません。
「……そうだ。お前は何も恐れなくていい。私たちがいるんだからな」
うん。頼りにしています。
そろそろ時間も時間なので、クリスカの腕を抱きながら部屋に戻る。そこで、珍しくアワアワしているヴィーラさんに、ALCOHOL臭をかぎ取られ、しっかりと説教を受けたのであった。反省。
~白野の部屋~
ヴィ「あぁ……白野様はどこに」
イー「(クリスカといっしょみたい。いいなぁ……)」
~キッチン~
メイド2「(あ、白野様のこと、報告しなければ)」
――メイド移動中
(ガチャリ)
メイド2「失礼しま……」
ヴィ「あぁぁぁ、白野様……」
(ガチャリ)
メイド2「(ここでお待ちしていよう、うん)」