うぅぅぅ……頭がいたい……。
「もう……どうぞ、シジミのお味噌汁です。これからはあのようなことをしないで下さいね」
ありがとうございますぅ。あー、しみるわー。
「ハクノ、だいじょうぶ?」
うん。今日はサンクトペテルブルグに行くんだもんね。おめかししなくっちゃね。
「うんっ! ヴィーラにあたらしいふくをかってもらったの!」
あ、そうなの?
「はい。今日に合わせて皆様のお洋服を用意させていただきました。もちろん白野様の服もございますよ」
用意された服は、可愛らしい物。あまりこういうのは着ないんだけど……。どう?
「よくお似合いですわ」
「ハクノかわいー!」
どうやら好評のようだ。クリスカとイーニァも着替え済みで、二人ともお揃いで可愛らしい。
「それでは参りましょうか」
ちなみにヴィーラさんはどこぞのお嬢様かと言いたくなるほどビューティホー。
移動は例の専用機。二時間弱で到着だ。
目の前に広がるサンクトペテルブルグの町並み。ついでにこちらを見る人・人・人。
「今朝の一面も白野様の記事でしたからね。変装をした方が良かったですね」
うーん……まぁ仕方ないね。ん? なぁにお嬢ちゃん? え、サイン? りょーかいです。
ロシア語は分からないけど、喜んでいてくれるのだけは分かる。頭を撫でるとその子は笑顔を返してくれた。じゃーねー。
その後もサインをいくつも書いていたが、頃合になるとヴィーラさんが通すよう伝えてくれたので、ようやく観光が出来る。
「すごいにんきだったね」
照れちゃうけど、ちょっと嬉しかったかな。
「学園に帰ったら、もっと凄いんじゃないか?」
うーん、学園には会長さんもいるし、それほどでもないんじゃないかな?
「だが、この間の臨海学校の試合を見て、相当鳳が増えたようだぞ?」
なんと。それは初耳。
「いろんなひとに、ハクノのことをきかれるんだよ?」
へー、一組だと箒さんたちとよく一緒にいるから気付かなかった。
そんな話をしつつ車で移動。警備付きなので安心だ。この車も《カリス社》所有の物なんですよね?
「はい。《カリス社》製のリムジンです。聖杯のエンブレムが人気なんですよ」
まぁ、確かに格好いいですけど。イヴァンさん、どこまで手を広げてるんだろ?
「取り敢えず大体の職種には手を出しています。《カリス社》の本社と日本支部は全て《カリス社》の製品で出来ています」
ビルの建物も?
「はい」
トイレも?
「はい」
メイド服も?
「はい。デザインから縫製まで、全て《カリス社》で手掛けています」
すげぇ。ん? じゃあ、文化事業とかもやってるの?
「はい。これから行くエルミタージュ美術館にも数点絵画を寄贈しています。イヴァン社長が美術品収集がお好きですから、積極的に行っています」
すげぇ。何でもやってるな《カリス社》。
「他にも沢山の美術品がありますから、我が国自慢の美術館、楽しみにして下さいね」
それは楽しみだ。イーニァも楽しみ?
「うん! わたしこういうトコいくのはじめて!」
私も初めてだから、一緒だね。楽しみ。クリスカは行ったことある?
「いや、訓練漬けだったから私も初めてだ」
ありゃりゃ。何と非文化人なことか。じゃ、ゆっくりしましょうか。
「うん!」
その内エルミタージュ美術館に到着。建物自体も綺麗だ。
「この美術館は一七六四年に開館いたしました。この街一帯が世界遺産に登録されています。この辺りを歩くだけでも楽しめること思いますよ」
ヴィーラさんのガイドの元、美術館の中を巡る。カリスコレクションという区画があることには、もう何も言えない。
今は休憩がてらお茶を飲んでいるところだ。静かなカフェで、少し隠れた所にある席なので囲まれることもない。
「こちらのマスターはホテルでバーにいらっしゃった方なんですよ」
おぉ、この渋いマスターも《カリス社》に縁のある方でしたか。
「しかし、ようやく落ち着けるな」
美術館の中でも遠くからだがかなり見られていた。話しかけられることはなかったが、妙な気疲れがある。
「ふふふ、皆気を遣って下さっていたようでしたが」
「後を付けてくるような奴もいなかったしな」
どうやらロシアの方々は優しい人が多いようだ。イーニァ、パフェは美味しい?
「うん! とってもあまいの!」
あぁ、ほっぺについてる。じっとして?
「んー」
はい取れた。そう言えばつぎはどこ行くの?
「次はショッピングです。民芸品や化粧品などが沢山ありますわ」
マトリョーシカ?
「はい。ございます」
あ、じゃあ、アメとかもある?
「アメ、ですか? あると思いますが……」
ふふふ、楽しみだなぁ。
「ハクノ、アメすきなの?」
うん。普通のもすきだけど、棒付きのとかが好きだなぁ。最近あんまりないんだよねぇ。
「ほぅ? そういえば、お前はアメを常備していたな」
美味しいからね。オルコットさんから美味しいアメもらったの。じゃあそろそろ行こっか。
「はい。マスター、お金はここに置いておきます」
ダンディズム! ダンディズム! マスター格好いいね!
「ありがとうございます。またのお越し、心からお待ちしております」
帰りにアメをもらってご満悦。イーニァと一緒にコロコロ転がしながら、買い物に行く。
マトリョーシカがたくさんある。サッカー選手のとかもある。
「ハクノ! こっちにハクノのがあるよ」
ん? おぉぅ!? 私のマトリョーシカがある。これは買いだ。他にもラトロワさんやヴィーラさん、水色カラーのマトリョーシカもある。どうやらここはIS操縦者のコーナーのようだ。お土産に買っていこう。
あと、アメも。しかも棒付きのアメがあったので人数分買う。ウマウマ。
「ウマウマ」
「ふふふ。子どもの時以来です」
「は、恥ずかしいのだが……」
そういうクリスカも美味しそうに食べている。美味しいね、このアメ。一杯買ってこ。
「ハクノ、ふく、かいにいこ?」
うん。可愛い服、たくさん買ってあげる。
「わたしもハクノにピッタリのふくさがしてあげる!」
イーニァも、勿論クリスカも、とっても美人なので選び甲斐がある。
近くのブティックに入る。綺麗な洋服がたくさんある。これ、イーニァにぴったりじゃないかな。
「そうかな? ちょっときてくるね!」
そういって試着室に入るイーニァ。クリスカもこっちの服着てみて?
「これは……少し派手じゃないか?」
いいからいいから。
クリスカも試着室に入る。ふふふ、楽しみ。
「白野様はご自分の服はいいのですか?」
うん。二人に選んでもらいたいから。
「ハクノ、どう?」
「ど、どうだハクノ?」
二人ともよく似合ってる。私の見立てに間違いはなかった。
「じゃあつぎはハクノのばんだね!」
イーニァとクリスカは私の服を持ってきてくれる。まずはイーニァの方。あら、可愛い。モソモソ、よし。みんな、どうかな?
「ハクノとってもかわいいよ!」
ちょっとふりふりが多いけど、うん、こういうのも悪くはない。じゃあ、次はクリスカのだね。ゴソゴソ、うん。こんどはどう?
「似合っているぞ。その、き、綺麗だ」
ふふふ、ありがと。ヴィーラさんどうかな?
「とてもお似合いです。そうだ、みなさん、このまま着ていったらいかがでしょうか?」
そうだね。じゃあ、このまま行こっか。
今まで着ていた服をホテルに送ってもらって、新しい服でお買い物を続ける。何か、視線が増えた気がするけど、まあクリスカ達相当美人さんだからね。
その後も小物やお菓子をみて楽しんで、こちらのホテルに戻る。ここにも《カリスホテル》はありました。サンクトペテルブルグ支店ですか。メイドさん達も何人か来ていた。
「今日はたくさん歩きましたし、お疲れでしょう。ミラも来ていますので、マッサージなどいかがですか?」
ミラさん?
「以前白野様のマッサージをしていた者です」
あぁ、あの整形外科さんの。じゃあ、頼もうかな。
「はい。お風呂の準備は出来ています。ごゆっくりなさって下さい」
ヴィーラさんに連れられて、お風呂に入る。かぽーんとしてから、マッサージをお願いする。
「今日は楽しかったですか白野様?」
うん。そういえば、メイドさん、ミラさんっていうんだね。
「はい。ミラ・ステラと申します。よろしくお願いしますね」
うん、よろしく。あぁぁぁぁ、きもちぃ。
「足が少しはっていますわ。本当に楽しかったのですね」
ちょっとはしゃぎすぎ、あ、そこそこ。
「ふふふ、では私が揉みほぐして差し上げます。だから、いっぱいはしゃいで下さいな」
うん。一杯はしゃいじゃう。だから、ミラさんもよろしくね。
「はい。どこまでも。あ、ここ、凝ってますね」
あぁ、いい、ソコいい!
カポーン。
マッサージの後、ミラさんと一緒にお風呂に入る。ミラさんもなかなか……。
「ふふふ、抱きしめて差し上げましょう」
むにゅんとした感触が頭に。至福だわ、これ。
「ふふふ、ヴィーラにも負けていないつもりです」
そういえば、ミラさんって、ヴィーラさんと仲がいいの?
「はい。小さい頃からの幼馴染みです。モンド・グロッソではあの子の整備士でした。昔と随分変わって、最近のヴィーラは可愛らしい」
ヴィーラさんはカワイイクールな美女ですけど、昔のヴィーラさんって、どんな感じだったんですか?
「そうですね、ひたすらに冷静な子でした。ほとんど感情を表に出さないこでしたし、笑うことなんて、ほとんどありませんでしたね」
今のヴィーラさんからは想像がつかない。じゃあ、どうしてメイドになったの? キアラに誘われたって言ってたけど。
「えぇ。モンドグロッソが終わり、ヴィーラが引退しようとしていた頃に誘われました。軍や他の企業からも誘われていましたが、キアラ様の一言で《カリス社》に、いえ、あなたのメイドになると決めました」
なんて言われたの?
「それは……ふふふ、秘密ですわ。だって、恥ずかしいですもの」
そういうミラさんを見ていると、真っ赤になってしまう。は、早くあがろ!?
「はい。今日のご飯は楽しみにしていて下さい。私たちが腕によりをかけて作ったロシアの家庭料理ですから」
Another side ミラ
思い返せば何年前だったか。ヴィーラが《ヴァルキリー》となって、色々な所から誘われていた時のこと。
「こっちは軍から、こっちは……イタリアの企業ね。ねぇ、ヴィーラ。あなたどこがいい?」
膨大な書類の山にうんざりして後ろを振り返ると、とうの本人は優雅に紅茶を飲んでいた。いや、あなた宛の手紙なんだから。
「ヴィーラ……少しくらい読んであげなさいよ」
「いや、面倒」
「面倒って、そりゃそうかもしれないけど。で、この後はどうするの?」
「どうって……、もう引退するんだから、普通に暮らしていくつもりだけど?」
出来るか。せいぜい、IS学園の教師になるくらいが、一番いいか。
「イヤよ。私が教師なんて出来るわけないじゃない。それとも、私が教師なんて出来ると思ってるの?」
「いや、その、ゴメン」
まぁ、確かにその通りか。この子に教師なんて務まるわけがない。もしそうなったら生徒が不憫だ。
「まぁ、今すぐにはいいけど、少しくらいは読んでおきなさい。取り敢えず良さげなの見繕っておいたから」
無表情で受け取るヴィーラ。まぁ、面倒くさそうだけど。
「まったくもう。お茶、新しいの入れてくるわ。スコーンでも食べる?」
「うん。よろしく」
何でも出来る割にものぐさなパートナーを満足させるために、随分と紅茶を淹れるのが上手くなってしまった。
と、お湯が沸くのを待っていると、チャイムが鳴る。
「はーい、少しお待ちを」
ものぐさな家主が応対するわけがなく、代わりに私が出る。そこには修道服を着た女性が立っていた。
「あの、どなたでしょうか?」
「私、《カリス社》の岸波キアラと申します。クラヴィア様にお話があって参りました」
「あ、ヴィーラですか。その、そういうのは……」
見る限り横暴な連中とは違うようだが、自宅にくるとは。流石にお引き取り願おう。
そう思っていたのだが……。
「入ってもらって」
「え、ヴィーラ?」
99.9%客の応対なんてしないヴィーラが突然の来訪者を招き入れるところなんか初めて見た。
ともあれ、ヴィーラが招き入れたならば、岸波さんはお客様だ。お茶を入れて持っていくと、ヴィーラと岸波さんがソファで向かい合っていた。片や無表情、片や終始にこやかな表情。異様な光景である。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「それで、なんのご用ですか?」
紅茶を口にもせず、本題を切り出すヴィーラ。相当冷たい視線だが、岸波さんは一切動じず紅茶を口にしていた。カップを下ろすと、いくつかの書類をヴィーラに渡す。
「……これは?」
「私が手掛けている第“四”世代機《聖杯》です」
「わたしに、これに乗れと?」
……まさかの第四世代機、か。普通ならば冗談にもならない戯れ言だが、なぜか否定ができない。未だに第三世代機ですら開発中なのに、いくつもすっ飛ばして開発しているのか。技術者としては非常に心引かれてしまう。が、ヴィーラはそれに驚愕一つ浮べていない。
「いえ。あなたにはメイドになっていただきたいのです」
「は?」
は? メイド?
「……ISの操縦者になってほしいんじゃないの?」
「はい。この方に仕えていただきたいのです」
そういって取り出したのは一枚の写真。ヴィーラに負けず劣らずの無表情の女の子だ。
「この方がこっちに来たときに、この方を支えていただきたいのです」
「……なぜ私に?」
「あなたしかいないと思ったからですわ。そうですね、表向きには適当な情報を流しますので、そこの所はこちらにお任せ下さい」
理由は適当そのものだが、なぜか写真からは目が離せない。
「……この方はいまどこに?」
ヴィーラの雰囲気が先程までとは変わっていた。今までの氷のような雰囲気が和らぎ、小さな呟きには少しの熱が籠もっていた。
「今はここにはおりません。あなたにはこの方をお迎えして差し上げたいのです」
岸波さんの言うことには無茶なことが多い。でも、それでも。
「この方のお名前は?」
ヴィーラの顔はもはや恋い焦がれる乙女のそれだ。
「岸波白野さんです。いかがですか? 白野さんに仕えて下さいますか」
もうヴィーラの、いや、私たちの気持ちは決まっていた。我が身は、白野様の為に。
……あら、白野様。こんなところで眠っていては溺れてしまいます。もう、小さい頃のヴィーラじゃないんですから。
ふふふ、カワイイご主人様。
「ミラ、いつまで入っているのです。流石に長すぎ、って、白野様!? 大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ。ただ眠っているだけだから。ほら、手伝って?」
「ミラ! あなたがついていながら! 白野様大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。疲れがたまっていたみたいね。取り敢えず部屋にお運びしましょう?」
「だから、あぁもう! 白野様お運びいたしますわ。ミラは後で私の部屋に来なさい!」
ふふふ、こんなに慌てちゃって。あの頃とは別人ね。
「何を笑っているのですか! 早く手伝いなさい!」
はいはい。カワイイご主人様を運びましょう。カワイイ幼馴染みさん?
Side out
次回でロシア編はおしまいです。
はくのんマトリョーシカ、見てみたい。