Another side 千冬
目の前の光景が信じられない。縦横無尽に空をかけている岸波。先程の斬撃もそうだが、これは現行のISの性能を凌駕していると言わざるを得ない。
「岸波先生、この機体は……」
「先程言った通りですよ? 白野さんの為に作った機体です。多くの技を持つ彼女の為に全力を注いだのでございます」
「多くの技?」
先程の《星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)》という技。あれだけではないというのか。
「白野さんの持つ、イメージを再現するために、あの機体には、展開装甲を積んでいるのです。今回発動したものは《皇帝》。彼女が最もイメージしやすいものですわ」
皇帝が何を指すものかは不明だ。しかし、その威力は絶大。ISの砲弾をも防ぐシールドを、一撃でダメにしてしまうほどだ。《雪片》のように、一撃特化型のものでない限りは不可能だろう。
「欠点といえば、それぞれの装甲に対して、明確なイメージがなければ使いこなせないということでしょうか。つまりは白野さん以外の手に渡ったとしても、打鉄にさえ勝てぬものとなるでしょう」
「完全に岸波専用の機体ということですか?」
「そういうことでございます。性能的には第四世代ですが、完全なワンオフなのでございます。しかも、白野さんに頼りきったものですわ。正確な展開装甲とはいえませんけれども、試作第四世代といったところでございましょうか」
なんでもないように言うが、これが公になれば世界は驚愕する。束が以前に漏らしていた第四世代IS。それをいち早く形にしたこの人は、まさしく天才にして天災。
「さて、そろそろ終わりにいたしましょうか。白野さん、今日はこれで終了ですわ。第一ピットに戻って下さいませ」
岸波先生に言われ、何故か背面飛行でピットに入る岸波を見て、仕事が増えることを革新するのだった。
Another side out
存分に飛び回り、いい汗かいた。
「いかがでしたか白野さん?」
最高です。
「それは良かったのでありますよ。そのISは、白野さんのものですから、一緒にいてあげて下さいませ。織斑先生、これからのことはお願いいたします」
「……はい。岸波は私と来い。山田先生はすみませんが、ここの戸締まりをお願いします」
「はい。あ、岸波さん」
はい?
「今日は体をしっかり休めて下さいね。少し早いですけど、大浴場を空けておきますから、ゆっくりして下さい」
……女神や、こんひと女神や。
「さて、行くぞ。着替えは一応だが学園のものがある。Yシャツだが、寝間着なら十分だろう」
まさかの裸Yシャツ。パンツ・ハイテ・ナイ。
「……下着くらい用意してやるから、バカなことを言うなバカ者」
さーせん。
ともあれ、お風呂だお風呂。大浴場というからには広いお風呂だろう。まさに命の洗濯。ウキウキしてしまう。
「……無表情なのに雄弁というか。やはり、お前も岸波なのだな」
……一応、私が岸波です。あの人本当は殺生院なんです。決して血縁なんてありません。
かぽーん。
はふぅ。気持ちがいい。これだけ広いお風呂を独り占めというのは気持ちがいい。なんだかんだいって、あれだけ動いたのだ。山田先生が言ったとおり、疲れがたまっている。
少し疲れのたまった足をもんでいると、誰かが入ってきた。もう、そんなに時間が経っていたのだろうか。
「岸波さん、失礼しますね」
入ってきたのはOPM、いや山田先生。タオル一枚なので、刺激的である。母性が溢れている。ともあれ、教師はこの時間帯に入るのだろうか。
「いつもはお部屋のお風呂です。岸波さんにマッサージでもしてあげようと思って」
確かに、山田先生はマットを持っている。何故あるのかという疑問はあるが、好意には素直に応じよう。
ごろりとマットに横になり、山田先生にマッサージをしてもらう。おぅ、こそばゆい。
「どうですか? あれだけの動きをしていましたから、足や腰に疲れがたまってると思いますけど」
ぐいぐい押されているので、返事はつっかえつっかえになってしまうが、気持ちいい。すっかり骨抜きにされた後、再び湯船につかる。今度は山田先生と一緒だ。
「それにしても、岸波さんは岸波先生とお知り合いなんですか?」
知り合いというか、何というか。殺生院キアラではなさそうだが、全くの別人とも思えない。あそこまで私にしっくりくる機体をくれたし、というか、準備が良すぎる。まるで、私が来ることを知っていたとしか思えない。
取り敢えず、知り合いと言っておこう。間違いではない、はず。
「あの方は本当にすごい人です。というか、どうして保険医をしているのでしょうか?」
多分気まぐれだと思います。本気出したら、世界覆い尽くすタイプの人ですし。
「ははは……、で、でも、岸波さんだって凄いですよ。初めてISに乗ったのにあの起動。あれは、機体の性能だけではありません。岸波さんの腕前あっての動きです」
そう言われると照れる。そんなこんな話していると、どうやらそろそろ時間らしい。
「じゃあ、食堂に行きましょうか。その後織斑先生のお部屋に案内します」
よろしくです。運動した後はお腹が空くのだ。
食堂に案内されたが、まだ私たちの他に誰もいない。
「明日からは皆さんと食べられるので、今日の所は我慢して下さいね」
気にしないけど、まあ、こんなに広いところで一人で食べるのは寂しいものはある。
山田先生にISの歴史などを聞きながら、マーボーを食べる。あの冗談としか思えない劇物を食べたことがある身としては、ここのマーボーは絶品と言えるだろう。ほどよい辛さ、そこにある確かな旨み。痛みしかないアレとは別物といえるだろう。
「ははは、どれだけ辛いんですか、そのマーボー豆腐……」
地獄というものに味があるならば、それです。
「ははは……」
山田先生が苦笑いをしているうちに、目的地織斑先生の部屋に到着。山田先生にお礼を言って別れてから、扉をノックする。すぐに返事が返ってきたので、そのまま入るとそこは
ゴミ屋敷。
…………、…………………………。
「来たか。ほら、着替えだ。制服は明日渡す。今日の所は、これで我慢しろ」
Yシャツと下着を渡されたので、取り敢えず受け取る。それより、この惨状はなんですか?
「うっ……、その、だな、仕事が忙しくてな」
それはダメな女性の言い訳です。
「うっ」
まぁ、一晩泊めてもらうお礼です。徹・底・的・☆にお片付けしてあげましょう。高速で。取り敢えず、織斑先生は、外に出て行って下さい。
「だ、だが」
出て行って下さい。パンツ・ハカセ・ナイ、しますよ?
「……わかった」
うん。では、早速。――――同調(トレース)、開始(オン)。
赤い弓兵の真似をしよう。そして、完璧な家事を。
そして、三〇分。――ふぅ、これで、あの皮肉屋にも及第点は貰えるだろう。むろん、皮肉のおまけ付きだろうが。
ともあれ、ここの家主を追い出してしまった。いま、どこにいるのだろうか?
扉を開けると、織斑先生と、なぜかキアラがいた。織斑先生大丈夫?
「あ、あぁ。それより掃除は終わったのか?」
はい。……取り敢えず中に。
そう言うと織斑先生は疲れた様子で中に入っていった。……なにしたんすか。
「少しばかり説法を。とはいっても、婦女子としての心構えを、ですが」
確かに必要なのかもしれないが、あなたがやると脳髄がとろけるので自重して下さい。
「ふふふ、そんな大げさですよ?」
いいえ、妥当な判断です。
そのままキアラはこの場を去って行った。……本当に何をしに来たのだろうか。まぁ、あの官能菩薩を相手にしても、意味がないことは百も承知である。妙な疲れを覚えつつ、部屋に戻ると、織斑先生はソファでぐったりとしていた。……ビール飲みます?
「……もらおう」
ささ、JKのお酌です。どぞどぞ。
「ここにいる生徒は99.9%女子高生だ。……まぁ、ありがたくいただこう」
疲れたときにはしみるだろう。とはいっても、五本は飲み過ぎです。言われるままに作ったおつまみを片付けつつ、織斑先生にタオルケットを掛けておく。さすがにこのままでは風邪をひくだろう。
「うむぅ……いち、か」
寝言とは可愛らしい。年上だが、可愛い。
ともあれ、良い時間なのだが眠くならない。昼に眠っていたからだろうか。ふむ……。
とりあえず、騒ぐのもダメだろうし、布団に入ろうか。
…………、……………………。
……ね・む・れ・ん・!