今日は土曜日。そして、マーティカのメイド職業訓練初日である。ついでなので、私も受けることにした。はくのん、メイドVerである。
「どうして、お前までメイドになっているのだ?」
だって、せっかくだし。それに、一人じゃつまんないでしょ?
「……もういい」
そう? じゃあ、ヴィーラさん、お願いします。
「はい。では、まずは掃除からやりましょうか。お二人にはこの部屋を掃除していただきます。初めに私がやりますので、特にマーティカはよく見るように」
お部屋のお掃除ということで簡単そうだが、このゲストルームには調度品も多く、それを一つ一つ綺麗にしていくとなると、重労働かつ繊細な作業だ。ヴィーラさんは何でもないようにスイスイやっているが、マーティカはその動きを真似出来ずとても苦戦していた。
「そうではありません。無造作に拭いては生地が傷みます」
「そ、そんなに神経質にならなくてもいいだろう」
「いけません。この部屋はゲストルームです。この部屋はいわば《カリス社》の顔。一切の妥協は許されません」
ヴィーラさんスパルタ。えっと……ミラさーん、これって、こうやればいいのかな?
「はい。でも、もう少し優しくするといいですね。こんな感じで」
ほぅ、なるほどなるほど。ミラさんはやさしい。マーティカ、ガンバ☆
午前中は全て掃除で終わった。部屋の掃除はもちろん、浴室や廊下などの掃除もやったが、丁寧にやるととても疲れるものだった。特にヴィーラさんのスパルタ指導を受けていたマーティカは疲労困憊の様子。お疲れ様。はい、紅茶をどうぞ。私が淹れたお茶です。ヴィーラさん達に比べたらまだまだだけど。
「そんなご謙遜を。白野様の淹れて下さるお茶はとても美味しいですわ」
ありがと、ミラさん。でも、ミラさんとかヴィーラさんの淹れてくれるお茶が一番好きだから。あとで淹れて下さいね?
「はい。腕によりをかけてお淹れしますわ」
これで楽しみが一つ増えた。ほらほらマーティカ、お味はいかが?
「あ、あぁ……。あ、美味しい……」
いえーい。今度一緒にれんしゅうしようね。取り敢えず、明日は私に淹れてね?
「……それこそ、練習次第だ。何せ、私は何も出来ないのだからな」
いやいや、お掃除は出来るようになったじゃない。それに、これから練習して色んなことを出来るようになればいいの。ね、ヴィーラさん?
「はい。マーティカ、午後はお茶を淹れる練習です。明日までに最低限の味を出せるようになるまで、終わりませんからね」
「お、おいっ、腕を引っ張るな!」
ありゃりゃ、ヴィーラさんやる気満々だね。ミラさん、私たちも行こっか。
「はい。とはいっても何をいたしましょうか。元々白野様に仕事をしていただくというのも申し訳ないですし」
じゃあ、久しぶりに会社の方を見てもいいですか? 最近こっちに行ってなかったですし。
「それはいいですね。皆喜びます」
じゃあ早速行こう。ついでにお茶を淹れてあげよっと。メイドがご奉仕しちゃうんだから。
その後ミラさんにも手伝ってもらって、準備をしてオフィスに向かう。休憩時間手前なので、迷惑はかからないそうだ。
皆さんお疲れ様でーす。紅茶とスコーンの差し入れでーす!
「白野様!? メイドさん!?」
はい。メイドVerです。いつもお世話になっているお礼に、小リスのお茶会です。一緒にお茶しましょ?
「はははは、はいぃぃぃっ!!」
お、落ち着いてね? 皆さんもこっちに来て下さい。ミラさん、お手伝いお願いします。
「はい。皆様。イヴァン社長からもお許しは出来ていますので、是非お楽しみ下さいませ」
ミラさんと一緒に紅茶を淹れて、社員の皆さんに配る。あの山田先生そっくりな女の人は真っ赤になって卒倒しそうになっていた。でもそれじゃ飲んで貰えないので、いい子いい子してあげた。倒れそうになってた。どして? 皆さんお味はいかががですか? ふふふ、良かった。喜んで貰えて何よりです。
「わ、私、と、とっても幸せです!」
私もとっても幸せですよ。皆さんがいてくれるから、私は空を目指せるんですから。
このままお話をするのも素敵だが、流石に仕事を止めてはいけない。名残惜しいが、皆さんと別れた。
「白野様、お疲れでしたらマッサージをいたしますが、いかがなさいますか?」
うーん、それはとっても魅力的ですけど、今はISに乗りたい気分です。誰か一緒に飛んでくれる人とかいませんかね?
「そうですね……ラトロワ様はロシアに行っているのでいらっしゃいませんし……」
あ、そうだったんだ。そう言えば昨日から見なかったけど、ロシアに行ってたんだ。
「あら、あなた……」
仕方ないから一人で飛ぼうと思っていたら、向こうから声をかけられる。どこかの制服を着たとんでもない美人さん。……《カリス社》には美男美女しかいないのだろうか。
「ファーレンホルスト様。いかがなさいましたか?」
「ラトロワに会いに来たのですが、連絡に行き違いがあったようで。イヴァン社長とお話しさせていただいていました。それで、この方が」
あ、岸波白野です。
「私はジークリンデ・ファーレンホルストと申します。ドイツのツェルベルス大隊所属です。よろしくお願いしますね」
ドイツ……、じゃあ、ボーデヴィッヒさんと一緒ですね。
「彼女の部隊とは違い、防衛部隊ですけれど。隊長も男性ですわ」
今の世の中で男性が隊長とは珍しい。しかも、ISを使う部隊でだし。とっても凄い方なんですね。
「えぇ。とても素晴らしい隊長ですわ。って、これでは身内自慢になってしまいますね。それで、白野さんはどうしたのですか?」
ちょっとひとっ飛びしようかなって思ったんですけど、ラトロワさんがいないみたいで。仕方ないから一人で飛ぼうかなって思ってた所です。
「あら、それでは私もご一緒してもいいかしら? えーっと、大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です。アリーナの準備は出来ておりますので、今から行っても大丈夫です」
じゃあ行きましょう! えへへ、楽しみです。
「私も楽しみです。ロシアの英雄のお力、見せていただきます」
あぅ。それは恥ずかしいのですよ。ファーレンホルストさんは専用機を持ってるんですか?
「ジークリンデでいいですよ。第三世代機の《タイフーン》という機体です。自分で謂うのも何ですが、美しい機体です」
へー、早く見てみたいな。ほら、早く行きましょ!
「ふふふ、分かりました。急ぎましょうか」
わーい。ということで、急いでアリーナに向かう。専用機は着替えの時間が無いのが助かる。
って、ジークリンデさんのISスーツ姿がやばい。鼻血でそう。
「大丈夫ですか?」
はい。いつものことなので。それより、それが《タイフーン》ですか。なるほど、確かに芸術品みたいに綺麗な機体ですね。
「ありがとう。そう言って貰えて嬉しいわ。私にも見せてくれないかしら? 《聖杯》の姿を」
もちろんですとも。来て《聖杯》。あなたがとっても綺麗だってこと、ジークリンデさんに自慢しちゃおう。
やる気満々の《聖杯》は、いつもより三割増しでキラキラしていた。うん、美人さんだね。
「なんと美しい……。まさしく至宝。《聖杯》の名に偽りなしですね」
だって、自慢の相棒ですもの。もちろん見てくれだけじゃないですよ? スピードも自慢です。
「えぇ。それは世界が知っていること。しかし、ヴァルキリーの名を持つ以上、私も負けるわけにはいきません。《白き后狼(ヴァイス・ヴォルフ)》として、貴方に挑ませていただきましょう」
狼さんですか。では、狩られないように逃げさせてもらいますね。
とはいっても、今日はバトルじゃないので、お互いに飛ぶだけだ。それでも、ジークリンデさんの動きは優雅で見ていると思わず気を抜いてしまいそうになる。それほどまでに美しく、綺麗な軌道だった。
気が付けば辺りが暗くなり始めている。そんなことに気が付かないほどに、ジークリンデさんとの逢瀬に没頭していたのだ。
一度気付いたら、疲労感がドッと押し寄せてくる。ジークリンデさんも同じだったようで、地面に降りてISを解除すると、二人揃ってふらりとしてしまった。お互い顔を見合わせてクスクスと笑ってしまう。とっても楽しかったです。ありがとうございました。
「お礼を言うのはこちらです。こんなにも楽しかったのは初めてです。機会がありましたら、また一緒に飛びましょう?」
もちろんです。でも、ラトロワさんもそうだけど、ジークリンデさんも学園に来てくれたら良かったのに。中々一緒にいられないんですもん。
「そうですね。ラトロワも私も、軍に所属している身ですから、中々難しいですね。でも、白野さんのお願いとあらば、上に掛け合ってみましょう。それに、あなたの素敵なお姉さんに頼めば、大体のことは通ってしまいそうですしね?」
私のお姉さん? ヴィーラさん?
「彼女もそうですが、キアラ博士です。あの方ほど世界に影響力を持つ方なんていないですから」
げっ、鳥肌たった。まぁ、確かにそうですけど、借りを作ったら何をさせられるか……。でも、それを我慢すればジークリンデさん達と一緒にいられるんだし……うむむ。
「ふふふ、決意が出来たら連絡を下さい。あなたからの連絡ならば本国お大歓迎でしょうから」
はい。ちょっと時間はかかりそうですけど……。その時はよろしくお願いします。
「えぇ。あぁ、それと、あなたの同級生に私の部隊にいた子達もいますから、仲良くしてあげて下さい。この間のあなたとラトロワとの試合を見て、すっかりあなたのファンになったようですから」
あら、いつの間にかファンが増えていたみたい。えぇ。今度挨拶にいきます。
「あの子達も喜びます。今度伝えておきますね」
そう言って、ジークリンデさんとお別れした。いやいや、楽しすぎてはしゃぎ過ぎちゃった。ゴメンね、ミラさん?
「楽しかったのならば良かったです。でも、あんなに続けて飛び回っていたのですから、お疲れでしょう。入浴の用意は出来ていますので、少し早いですがお風呂に入ってはいかがでしょうか?」
ありがとう、ミラさん。あ、じゃあ一緒に入りましょう? そうだなー、背中の流し方とか教えて下さい。
「もぅ……分かりました。ご一緒させていただきます。もちろん、マッサージはさせていただきます。放っておいては筋肉痛になってしまいますからね」
うん、お願いします。ミラさんのマッサージは天下一品だからね。
「では参りましょうか」
その後、ミラさんの最高級マッサージで骨抜きにされた後、絶賛特訓中のマーティカの所に行ってみる。
「……まだ駄目ですね。少し渋みが出てしまっています。こんなものではどなたにもお出し出来ません」
「……違うか?」
「まだ先程淹れたものの方がマシです。あなたも飲んでみなさい」
「もうお腹いっぱいだ……」
……今までずっと練習していたのだろう。大量のカップが傍らのテーブルに置いてある。
「あら、ヴィーラったら張り切っていますね。白野様に飲んでいただくとなれば、当然なのかもしれませんが」
嬉しいけど、そろそろ止めてあげるべきだろう。お疲れ様、マーティカ。ヴィーラさんもこれくらいにしてあげて? 流石にお腹いっぱいだと思いますし。
「白野様。……そうですね。今日の所はこのくらいにしておきましょう」
あ、じゃあ最後に私からのアドバイス代わりに一杯淹れてあげる。ちょっと待っててね。
「もうお腹がいっぱいなのだが」
まぁまぁ。大切なのは、相手のことを想っていれること。いやいや淹れてたら美味しい茶葉も美味しくなくなっちゃうからね。淹れてあげる人にどうなってもらいたいか考えながら淹れてあげることが、美味しいお茶を淹れる一番のコツ。
「相手のことを……」
マーティカは慣れないかもしれないけど、少しずつ頑張ってみて? なんせ、私の可愛い妹なんだから。だから、おねーちゃんに甘えなさいっ。むふー。
「姉かどうかはともかく……やって、みる」
ふふ、そっか。はい、どうぞ。マーティカに笑顔になってもらうためのお茶だよ。飲んでみて。
「あぁ……。あぁ、お前の淹れるお茶は美味しいな」
そっか。じゃあ、これからはマーティカの為にたくさん淹れてあげる。だから、マーティカも私の為に淹れてね?
「あぁ。せっかく捕まったんだ。やれるだけやってみよう」
うん、頑張って。明日の朝のお茶、楽しみにしてるね。
「夕食の準備は出来ています。ヴィーラ、マーティカのことは私が見てるから、あなたは白野様のおそばにいてあげて?」
「でも、マーティカにはお茶の入れ方を教えなければ」
「私が教えるわ。だから、あなたは白野様をお願い」
私からもお願いです。今日はヴィーラさんとあんまり一緒にいられなかったから、夜は一緒にいたいです。
「は、白野様。……分かりまして、今宵はご一緒させていただきます」
あ、ミラさん。ちょっとお願いがあるんですけど。
「はい、何ですか?」
えっとね、ゴニョゴニョゴニョ。
「えぇ……はい……。はい、分かりました。では時間になりましたら」
うん、よろしくね。じゃあ、行こっかヴィーラさん。
「はい。今日も厨房の者達が張り切っていましたので、楽しみにしていて下さいませ」
もちろん。みんなが作ってくれるご飯、凄く美味しいからね。いくらでも食べちゃいますよ?
ジークリンデさん登場。
追加で登場させるのはThe Euro Front組とまた別作品から一人だけです。
他作品からってのは、単なる私の趣味です。雰囲気は壊さないように頑張ります。