翌日。織斑君がやけに憔悴していた。恋する乙女は猛烈果敢ということですね分かります。はい、のほほんさん特製ドリンク。元気がでるよ。
「追い打ちは止めてくれ……」
本当に美味しいのに。実はヴィーラさん特製ドリンクだからね。ごくごく。うん、美味しい。
「岸波さん……」
冗談冗談。もういっぱいあるからどうぞ。
「あぁ……あ、本当に美味しい。生き返る……」
私自慢のメイド長さんのレシピだからね。それより、やっぱり、箒さん達にやられたか。四面楚歌どころじゃないしね。
「岸波さんも知ってたのか?」
うん。昨日会長さんから聞いたの。ランクA+の任務だね。
「あぁ……、《打鉄二式》を見たいって言ったらはたかれたし」
そりゃそうだよ。だって、そうなった理由は織斑君の《白式》だもん。もっと女心の機微を知りなさい。そのビンタは授業料だよ。
「うぅぅ、岸波さん、やっぱり俺には厳しいよな」
そういううめき声は可愛いおにゃのこの専売特許。ごつい織斑君がやっても、引っかかるのは箒さん達だけなの。私には通じません。
「そんなつもりはないんだけど。そう言えば、岸波さんって、簪さんと仲良いよな? 何かアドバイスとかない?」
ありませぬ。自分で頑張りなさいな男の子。
「ひどいぜ岸波さん……」
そういうのは箒さんたちに頼むの。恋する乙女の鉄槌を受けた後で、女の子たちからアドバイスを受けなさい。
「血を見ることになりそうなんだけど」
死なないから甘んじて受けなさい。それが礼儀というものです。痛い目みないで何事か為さんだなんて都合が良すぎるの。しっかりと痛い目みなさいな。
「……あぁ、分かった。箒達に相談してみるよ」
うん、それでこそ男の子だよ。後で骨は拾って埋めてあげるから。お供えは殺気のジュースでいいかな?
「はは、京野よりも美味しいのを頼むよ」
むむっ、それは私と《カリス社》に対する挑戦と受け取った! これからヴィーラさんとレシピ開発にかかるから、首を洗って待っていな!
織斑君からの挑戦を受け、早速ヴィーラさんに連絡をとる。
『なるほど……織斑様からそのような』
うん。これはしっかりとリクエストに応えなくちゃいけませんよね?
『無論ですわ。幸い飲み物ですから、夕食後でも試飲は出来ますわ。材料も確かありましたね?』
野菜とフルーツはたくさんあるよ。他にもいっぱいあるし、色々作れるはず。
『では、いつものレシピを改良することから始めましょう。メインは崩さずに、そうですね……オレンジを加えてみましょうか』
よし、のほほんさんも協力してね。あと、虚さんも。たまたま来てました。
「いっぱいのむよ~!」
「楽しみにしていますよ」
ふふっん。いっぱい作るので楽しみにしてて下さいね。
レシピの改良から新レシピの開発。ちょっとした冒険までありとあらゆる試作品を「徹夜」で作り続けた。その数数十種類。先に倒れたのはのほほんさん。笑顔のままギブアップ。虚さんは最後まで付き合ってくれたので、最後に眠気覚ましのドリンクをプレゼントした。《カリス社》社員御用達のドリンクなので効果はテキメンだ。
少し虚ろな虚さんを見送りつつ、意気揚々(偽)と完成したスペシャルドリンク(改)をポット(2.7ℓ)を片手に教室に入ると、織斑君の顔があんぱんヒーローみたいになっていた。
「あ、岸波さん。おはよう」
うんおはよう織斑君。その顔を見る限り、随分と揉まれたみたいだね。
「あぁ……五人に袋だたきにされたよ……でも、アドバイスも貰えたよ」
ふふ、それが何かは聞かないけど、頑張ってね。はい、約束の特製ドリンク。
「ありがとう……おぉ!? すげぇ美味しい!」
ふふん! そうでしょうそうでしょう! 何せ私とヴィーラさんが徹夜で作り上げた最高傑作ですから! レシピは秘密ね!
「あぁ、本当に上手いぜ、これ。こんなに美味しいジュース初めて飲んだ」
腫れた顔で興奮気味の織斑君。そんな織斑君に惹かれたのか、みんな集まってきた。大丈夫。少しずつだけど、みんなにも回るくらいの量があるから。
「ありがとー。えぇっ!? すっごく美味しい!」
「すごーい! 岸波さん、レシピ教えてよー!」
だめだめ。知りたければ《カリス社》のメイド部隊に入るか、調理部門に入って下さいな。もしくは技術部に入ってキアラに教えてもらうとか。
「そ、それは何という超難関なの……」
「うぅー……じゃあじゃあ、たまに作ってよ。これっきりなんてつらいよー」
うん。それなら大歓迎。材料の関係もあるから、たまにになっちゃうけど、それはご勘弁ね。
「約束ですわよ? それにしても、先生方遅いですわね。チャイムも鳴りましたのに」
「確かに。いつもならチャイムの前に来てるのに。どうしたんだろ?」
確かにいつもと違ってチャイムが鳴ったのに織斑先生も山田先生も来ない。
「どうしたのだろうか。呼んできた方がいいのだろうか?」
うーん。朝行ったときはいつも通りの時間に行くから席についていろって言ってたけど。緊急の議題でも出来たのかな?
「……ん? 白野、職員室に行ったのか?」
うん。いっぱいドリンク作ったから疲れが取れるヤツを先生達に渡してきたの。
「……イヤな予感がするな。布仏。さっき白野と一緒にドリンクを作っていたと言ったな。何か変わったものはなかったか?」
失礼な。
「ん~……あ、そう言えば最後に飲んだジュースは何だかとっても幸せな気分になったな~」
……あぁあれね。ボロボロになるだろうから、ヴィーラさん特製のシロップを入れたヤツだね。
「そのシロップ、何が入っているんだ?」
うーん、この間もらったときは何も言ってなかったかな。疲れが溜まったときに薄めて飲んで下さいって言われたかな。
「因みに、どのくらいの希釈なのだ?」
確か十倍って言われたよ。いつもはもう少し薄くしてジュースに混ぜたりするの。
「で、今回はどれくらいで希釈した?」
今回は八倍かな。織斑君がボロボロになる前提だったから。私も飲んだし、虚さんにも飲んでもらったよ。徹夜明けだから、スッキリしたな。
そう言ったらラウラさんは腕を組んで悩んでしまった。どしたの?
「先生達は仕事はあれど、徹夜などはあまりしないはずだ。仕事に影響が出るからな」
「まぁ、確かにその通りですわね。でもそれが何か?」
「さっき言っていただろう。白野と布仏の姉は徹夜明けだど。それなら披露が溜まっているのだから、少し濃いものを飲んでも大丈夫だろう。白野。普通の場合、どんな効果があるんだ?」
ん-、疲れがみるみる取れて、凄くリラックス出来るよ。基本的には夜飲むかな。
「で、そんな飲み物を、休養をとって疲れを取った教員が、普通よりも濃いめのそのドリンクを飲んだらどうなると思う?」
「「「………………」」」
教室内に走る沈黙。隣のクラスのザワザワが聞こえてくる。
「行ってみるか」
箒さんの呟きに、専用機組で職員室に行くことにした。
で。
「「「ポヤポヤーン……」」」
キリリとした人が多いIS学園教師陣。そんな人たちが文字通りポヤポヤ~としていた。唯一織斑先生だけがいつも通りであった。いや、抗っていた。
織斑せんせー?
「……岸波、お前の持ってきたジュース、何を仕込んだ」
いや、疲労回復のシロップですよ?
「その、岸波さんがいつもより濃度を濃くしたみたいで……」
「デュノア、詳しく教えろ……」
デュノアさんが事の次第を説明してくれる。その後、注がれる冷徹の視線。
「岸波……分かっているな?」
はい……至急改善ドリンクを作って来ます。
因みに一時間目は自習になりました。で、復活した織斑先生に怒られました。山田先生にはお礼を言われたけど。肩こりが取れたそうで。おっきいですもんね。
山田先生「岸波さん……その、今朝のジュースなんですけど、たまに作ってくれないでしょうか……」
ちっぱ鈴「グギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ」