視野の彼方へ ~荒れ果てた世界で生きのびる方法~ 作:むろあをい
初めて降り立った外の世界は、どこか
背後には自分が出て来たばかりの扉がある。快適で全てのものが満たされていた安全地帯、Vault76。危険な外界からガッチリと隔てられ、守られたシェルターの中には全てがあった。食べ物、飲み物、酒、音楽……。パーティーを行う余裕すらあったのだ。
だがまもなくVault76に残されたエネルギーは尽き、シェルターは閉ざされる。一緒にいた仲間たちはみな既に旅立った。いつまでもぐずぐずと残っていたせいで、自分が最後になってしまったのだ。
自分の部屋を出るとき、持てる限りのものはバックパックに詰め込んで来た。ろくなものが残されていなかったとはいえ、Mr.ハンディたちは最後の力を振り絞って、旅立ちの準備を整えてくれた。
水、食べ物、冒険に出るためのスーツ。最低限の武器と弾薬。限りある資源だ。大切に使わねばなるまい。
Vault76を出てすぐの場所にも案内役のMr.ハンディ、ペニントンがいた。
彼はVault76を旅立ったばかりのレジデントに対する案内役だ。この世界のことは”アパラチア”と呼ぶらしい。
最新のアパラチアの情勢と注意事項、そしてここからどちらへ向かうか、彼が私にくれたものはそれだけだ。
近くの街へ行って、与えられた課題をこなすのが最初の仕事のようだった。
私は考えを巡らせた。危険な世界で闇雲に動き回っても、生き延びる確率が下がるだけなのではないだろうか……
まずはこの世界でのねぐらを見つけねばなるまい。課題のためでなく、ねぐらを見つけるために街へ行くというのは悪くないプランのように思えた。
私はペニントンに笑って手を振ると、遠くの方に見える建物の方へ向かって、階段を降り始めた。
階段を半ばほどまで降りた頃だろうか。
遠くから、全力で駆け寄ってくる人影が見えた。
(なんだ、この世界にもまだ人がいるんだな……)
コミュニケーションには自信があった。
荒れ果て、放射能に侵された危険な世界と教えられていたが、案外うまくやっていけるかも知れない。
私は大きく手を振り、人影に向かって歩き出そうとした。そして、違和感に気づいた。
向かって来る人影は、ろくなものを着ていない。顔は焼け爛れ、足を引きずるようにして真っ直ぐ近づいて来る。特に武器を構えるような様子はないが、接近する様子にためらいがなさすぎる。普通は、立ち止まって声を上げるか、手を振るか、何らかのリアクションをしてもいいはずなのに……
近づくにつれて、異相がはっきりした。
顔は半分以上崩れ落ちている。首はひん曲がり、激しい腐臭がする。
生きていない。どう見ても生きている人間ではない。
吹き付けるような憎悪を感じた。
それは私の懐へまっすぐ飛び込んでくるとものすごい力で私を殴り飛ばした。そのまま倒れこんだ私に馬乗りになり、鋭い爪で胴体を薙ぎ払い、引き裂きにかかる。
何の備えもしていなかった私は、なすすべもなく倒れ込んだ。
さらに、二撃、三撃と攻撃が加わる。
飛び散る血の雫に、意識が朦朧としてきた。銃を取り出そうとするが、うまくいかない。
立ちあがろうにも足がもつれ、逃げようにも逃げれない。
そうこうするうちに視界が暗転し、意識が途切れた。
私は死んでしまったのだ。
踏み出すべきあたらしい世界……私の冒険は、こうして始まった。