視野の彼方へ ~荒れ果てた世界で生きのびる方法~   作:むろあをい

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1.4: ほんとうの旅立ち(4)

 初めての敵を倒したあと、私はしばらくその場で放心していた。

 

 が、やがて気づいた。いつまでもここにいる訳にはいかない。まだ日は高いが、いずれ夜になるだろうし、そうしたら暗くなる。いくら私が世間知らずで、怖いもの知らずだったとしても、敵だらけのこの場所で安易に夜を過ごす気にはなれない。

きっと、嬉しくないお友達がいっぱい訪ねてくることだろう。非友好的な唸り声と、鋭い爪の手土産を持って。

 

 私は立ち上がった。

 

(街は……どっちかな)

 

 まずはねぐらを探さねばなるまい。もらってきたばかりのキャンプを設置するのもいいかも知れない、と一瞬心が傾いたが、使い方も分からないし、まごまごしているうちに暗くなってしまうだろう。

 周囲をぐるっと見回す。

 

(そういえば……)

 

 丘を下ったあたりに建物があったのを思い出した。建物があれば人がいる可能性がある。最初に向かうならそっちだろう。

 私は心を決めた。動き出す前に、再び銃を構える。何かあったらすぐ撃てるように。

 

 

 道はなだらかに下っていた。ほんの100メートルも進まないうちに、私は変わり果てた異形に三度、出会った。

 最初は死にかけた私だが、何度も出会えば少しは慣れる。

 

(こんなものか)

 

 動くものに撃ち込むのは怖い。それが人のような形をしているとあれば尚更だ。Vault76では、食卓に上がる肉は調理された食料の形をしていたし、異形を吹っ飛ばして肉の塊にしたところで食べれるような気はしない。だとすれば、私のしていることは何だろう。Vault76で教えられたサバイバルは、基本食べて、生き延びるためにする行為だと思っていた。殺戮のための殺戮を私は好まない。生き延びるために必要だから、せざるを得ないだけだ。

 ふと、人の形をした奴らはどこから来たのだろうと考える。動いてはいるが、どう見ても腐っているし、生きている人間とは思えない。既に死体であるなら、吹っ飛ばしたところで痛痒は覚えないが……もし、あれがこの世界の”人”の姿なのだとしたら……。

 

 私はぞっとした。生あるものへの吹き付けるような殺意を思い出す。あれでは、意思の疎通ができる気がしない。

 恐ろしい。

 世界を救うと称して華々しく送り出されたが、救うべき人がアレなのだとしたら、どうしたらいい。

 

 ふいに世界中に人間は自分だけのような気がして、私は震えた。

 

(いや、大丈夫だ。先に旅立った仲間がいるはず)

 

 私は無理やり自分を納得させた。アパラチアには監督官をはじめ、Vault76を出発したレジデントたちが大勢いるはずだ。成績の悪い私と違って、彼らは優秀だった。きっとアパラチア中に散らばって、何らかの足跡を残してくれているだろう。

 安易な期待はしても無駄だと思いつつ、縋るものが何もない状況は怖い。無理にでも自分にそう言い聞かせるより他はなかった。

 

 さらに丘を下り、木々に紛れて最初の公園が見えなくなった頃、私は人の住んでいた痕跡らしき建物を発見した。

 そこは一見廃墟のように見えた。屋根、壁、ドアといった、一般的な家の形はしておらず、階段のついたただの四角い台のような建物だった。荒廃はひどい。家具らしい家具はなく、雨風を凌げる最低限の屋根があるきりだが、腐臭はしなかったし、何より木箱と、酒瓶と、水と、わずかな食べ物があった。これは、人間にこそ必要な物資だ。異形どもが食事を必要とするとは思えない。食っても腐った内臓からこぼれ落ちていくばかりだろうから……。

 私はていねいに中身の入った酒瓶をバックパックに入れた。今はまだ必要ないが、これが命綱となるかも知れない。

 

 廃墟には他にもいろいろなものがあった。

 手垢がついてくすんだ光沢を放つ古い銃や弾丸。壊れた通信機らしき機械。ドラム缶のような入れ物に火も焚かれている。そして、汚れてはいるが、横になれそうな寝袋。確かに、誰かがここで暮らしていた証。

 

(……ホッとする……)

 

 暗くしぼんでいた気持ちが一気に明るくなった。

 

(寝る場所が見つからなかったらここへ戻ろう)

 

 近くに異形がいたのが気がかりではあるが、階段があるのはせめてもの救いだ。いざとなれば階段を上がって、上から撃ちおろせば身も守りやすい。ここにいた人はそんな風に我が身を守っていたのかもしれないな、と親近感が湧いた。

 私は拾えるものはすべて、バックパックに放り込んだ。古い銃の性能は分からないが、手持ちの武器が壊れた時に役立つだろう。

 

(さて……)

 

 まだねぐらに落ち着くには早い。他にもっと安全な場所があるかも知れないし、人に出会うかもしれない。

 

(もう少し探索してみよう)

 

 当面の拠点になりそうな場所を見つけただけで、我ながら現金ではあるが、この世界に少しだけ興味が湧き始めていた。

 

 

 




少し間が開いてしまいました。
新しい環境に慣れてようやく目途がついたので
だんだんペースアップして行きたいと思います。

始めて1時間くらいの内容で5話分もかかってては……
中身もペースアップしていかないといけないですね?
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