待ちかねて。つらつらと。   作:フユキ 

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うるかの場合

トントントン。

コトコトコト。

グツグツグツ。

 

 今日は珍しく練習も音羽大学も休みの完全オフ。一日中ゆっくり過ごそうと思っていたけど、午後にはもう手持ち無沙汰になっていた。

 成幸は教育実習に行っている。慣れない仕事で疲れてるみたいだけど、夢に向かって毎日充実した様子で過ごしている。今日はそれが終わったら、あたしの住んでるマンションに来る日だった。

 今は少し早めの夕飯作り。かぼちゃの煮物はじっくりと煮て味を染み込ませて、豚汁は具をたっぷり入れてぺこぺこのお腹を満たせるように。それからきゅうりとかぶを浅漬けにして、付け合あわせも用意して。

 豚汁で余ったゴボウとニンジンをきんぴらにするために炒めながら、こんなものかと一人頷く。メインディッシュの鶏の照り焼きは先に作っておくわけにはいかないから、今できるのはこのくらいだ。

 

「作るの早かったなー」

 

 時計を見るとまだ5時だった。普段成幸が来るときは夕方くらいだけど、今日はもっと遅くなると言っていた。先生として働く準備期間だから、本当に働くのと同じように過ごしているらしい。

 成幸とケッコンして、将来はこんな感じの未来になることもあるんだろうか。

 まだ水泳をやめる気は全然ないけど、その後どうするかはまだ随分バクゼンとしていた。

 指導者になる道もあるだろうし、テレビで解説なんかをするのも……まあ、自分に向いてるとは思わないけど、誘いが無いとは思わない。プロ転向しなかったとしたら、入社した会社で水泳をやめてからも働くことだって全然あり得る話で、そんなふわふわとした想像の中の一つに、専業主婦になるというのもあった。

 漠然とした想像でしかなかったけど、実際こんな感じかなという過ごし方をしてみると、時間を持て余してしまう自分にはあんまり向いていない気がした。

 

「子どもができたら違うんだろーけど」

 

 ぽつりと呟いて、将来子どもを産んでみたらどんな感じだろうと考えてみる。

 生まれた後しばらくは仕事をセーブして子育てに専念する、なんていうのはよく聞く話だ。それなら時間を持て余すことなんてないだろう。

 成幸との子どもはどんな子どもになるだろうか。あたしに似たら、まあきっと騒いではしゃいで手のかかる子どもになるに違いない。

 成幸に似たらきっと真面目で手のかからない子になるのかな。いやでもあれで結構頑固なとこあるから、あたしに似たのとは違った意味で、手がかかる子になるかもしれない。

 両方に似たらどうだろう。いいところだけ似てくれればいいんだけど、そういうわけにもいかないだろう。騒いではしゃぐ、頑固な子どもだったら大変だろうなあなんて想像しているうちに知らず笑いが零れてしまった。

 とりとめのないことをつらつらと考えているうちに、少しずつまぶたが重くなってきた。

 体に疲れはなくっても、やることがなくて時間を持て余していると睡魔は襲ってくるらしい。

 ソファーに体重を預けて、小さいあくびをしてから目をつぶる。

 成幸が来るのをじっと待つのは退屈だから、それならいっそ寝てしまおう。自分の体内時計を信じてアラームはセットせず、そのままゆっくりと意識を手放した。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 一ノ瀬学園の教室で、ひとり残って補習を受けていた。教壇に立っているのは先生になった成幸で、テキパキとした仕草で講義をしている。マンツーマンで教えられていたから、トーゼン内容なんて頭に入らない。

 成幸が夢を叶えた姿に見惚れていると、あたしが上の空でいることに気がついた成幸が、教壇を降りて近づいてくる。

 注意するでもなく呆れたようなため息を付いて、「仕方ないやつだな。目を覚ましてやる。」なんてことを言いだした。何をされるのかとドキドキしていると、徐々に顔を近づけてきて、あたしの唇にキスを――

 ピンポーンというチャイムの音で目を覚ます。反射的に玄関モニターを見て、成幸が鳴らしたのに気がつくと弾けるように飛び上がって玄関に向かう。

 時計を見る間もなかったからどのくらい寝ていたかなんてわからないけど、とりあえずドアを開いた先に見える空は真っ暗だった。

 

「お、おはよ! 成幸!」

「ああ、お邪魔します……っておはよう?」

「だからただいまにしてってばー」

「それはまだ言わないって。それよりおはようって?」

「え、あ、そのさっきまで昼寝っていうか夕寝? しちゃってて。ごめんね、ご飯すぐ作るから」

「ああ、いや全然。というかむしろここのとこ俺が作れなくてごめんな」

「唯我センセイは教育実習ガンバってるんだから気にしないで! じゃーできるまで待っててね」

 

 リビングに向かいながらそう言うと、成幸は「手伝うよ」なんて言ってきた。気持ちは嬉しいけど後はお肉焼くだけだからと断る。正直、隣にいられたらドキドキして失敗してしまいそうな気しかしなかった。今さらあんな夢でこうなってしまうなんて、シチュエーションの力ってすごいと思う。

 冷蔵庫から鶏肉を取り出して、皮目にフォークで穴を開けながら、少しずつ少しずつ夢の出来事を振り払って気持ちが落ち着くのを待っていた。

 

「どう? おいしい?」

「ああ、うまいよ。いつもありがとう」

「どういたしまして!」

 

 出来上がった料理をおいしそうに食べる成幸。時間もあったし自分でもよく作れたと思っていたから大丈夫だとは思っていたけど、いざおいしかったと言われるとやっぱり安心する。

 教育実習の楽しいところや大変なところなんかを聞いて、それから一日家でどう過ごしていたかを話して。ひと通りご飯を食べ終えてから、そういえばと夢で見た光景を思い出して、成幸に質問をしてみた。

 

「ねえ、成幸。センセイって放課後生徒と2人きりになることってあるん?」

「いや、普通ないんじゃないか?」

「補習とかでも?」

「どうなんだろうな……? まあ補習が一人だけとかだったらあるかもしれないけど」

「ふーん……絶対二人っきりになんないでね」

「え? なんでだよ?」

「成幸のえっち」

「なんでだよ!?」

 

 突然の批難で声を荒げる成幸を見てくすりと笑う。別に実際にあんなことするなんて全然思わないけど、夢の出来事を話したら怒るだろうか。笑うだろうか。

 戸惑いの色を浮かべる成幸の表情がどう変わるのか、楽しみにしながら口を開いて、夢の話を話し始めた。

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