未来予知できるようになったけど未来はないみたいです 作:sinちゃん
暗く、赤い雲に覆われた空。
うっすらと見える空の隙間からは、巨大な目がこちらを見下ろしている。
高層ビルや、一軒家の光はとっくの昔になくなっていて、破壊の跡がそこらじゅうに散らばる。
散らばっているのは、瓦礫や建物だけではなく、原型のわからなくなったような死体が埋まっている。
どうやらシェルターの内部で死にかけているようだ。
(ああ、いつものか未来か)
この景色は、ずっと昔、未来視が見える様になってから、長生きをしそうな一般人の夫婦の未来を見た時の光景だ。
当初は訳が分からなかった。ダンジョンが現れてから、何かが起きるのかと気が気でなかった時に、そんな絶望の未来を見たものだから、とりあえず力をつけるために、死に物狂いでダンジョンに潜りっぱなしだったっけ。
その時に知り合いもできたけど、今生き残っているのは、ごく少数だ。
そして、一番関わり合いの多いやつが死んで、未来を見て、もう諦めようと思ったんだった。良い先輩だったな。
同性の先輩で、二次創作とかが好きで、逆にダンジョンはそそるからとか、空想に生きているとか言ってたかな。
つい気の迷いで、未来を見えること、死を回避した先に、赤い空で全員死ぬってことを言ったら、じゃあ今のうちに楽しむしかねえな!とか言って。
(まあ、過ぎたことだ)
おかげさまで、コスプレは好きになったし、ネットゲームとかして楽しく余生を過ごしている。というか、どうせ死ぬのだからという諦めを昇華できるようになったのは、その先輩のおかげだった。
まあ一番の功績といえば、ダンジョンの最後の氾濫を単身で食い止めてしまったことか、そんな奇跡の犠牲で、この今があって、こんな未来が訪れる。
(諦める、そういうのに縁がなさそうだったな……女湯は絶対覗いてたし)
リザードマンに刺される未来は、速攻で配信を見て助けに行くタイミングを見計らっていた時にそれらしいやつが後方から来たから、簡単に切り伏せたから変えられた。
この未来は、ずっとダンジョンに関連したものだと思っていたから、解決の糸口はこの十五年見つからなかった。
ダンジョンコアが語った危機に反応してダンジョンが現れた、という言葉が正しいのなら、その危機がこの見下すような目だろう。
(もう、どうすれば良いかはとっくにわからない)
当然だ、当初のダンジョン黎明期なら未成年でも素知らぬ顔で入れたが、ギルドが出来上がり、パーティで組むことが推奨されている今では、この未来視を使った戦闘はあまりに以上で、リスクが大きい。
人を助けることができても、常にこの赤色の空に殺されている未来が見える。
大気の動きが激しくなり、嵐となり、そのまま世界が加速して、空の目がそっと閉じられる。
それを死人の目から見ていた。
カーテンによって窓からの暖かな光が薄く輝いていた。
はっ……なんか厨二病な夢を見ていた気がする……!
「その思考の始め方は結構恐怖なのじゃが……」
「ん、おはよう」
すごく良い寝起きだ、ホコリのった時計を確認するとすぐわかった。
14時だ。我ながらよく寝過ぎぃ……。
「16時間も睡眠を取れるのは逆に才能があるのぅ……」
「いやー嬉しいねー」
「本心なのはわかるが、表情との差が大きすぎるじゃろお主……」
多分近しい人の死を死ぬほど見てた時から、表情はもう動かなくなってた。相手の死に顔見ながら食う飯はまずいということはしっかり学習している。
その点幽霊のダンジョンコアちゃんは死の未来が見えないので安心する。
「……しまった、ギルドに情報渡さなきゃ!」
「おお、その通り、妾が言おうとしたことをよく思い出してくれた。そなたのパソコンを借りて一応出して良さそうな情報はメールにしておいた。もうほんと、眠る機能ないから妾どんだけ暇してたか」
え、めっちゃ優秀なんだけど、ハッキングとかできるのかな、パスワード掛けてたよね?
「ふっふっふ、このダンジョンコアの技術を持ってすればあの程度はちょちょいのちょいなのじゃ、テーブルの下のパスワードなんて霊体にとって見つけてくださいと言わんばかりじゃからな」
「思ったより物理的なハッキング」
意外と遠慮がない、まあパソコンとベット、それと探索用の黒い装備類しかおいてない部屋だと暇つぶしもそれくらいしかできないか。
逆に放置して寝てしまったこちらにも非があるかもしれない。
パソコンを起動して、そのメールをダンジョン省にまとめて送る。一応ギルドのアカウントは創設当初にとっていたからそれを使おう。
データ20個くらいあるけどこれチェックする人大変だろうなー。まあ事実しか書いてないだろうから、きっと良いようにしてくれるだろう。
そのままダンジョン配信サイトに飛んで、今日の死者を確認する。知識をちらっと出すだけで死亡しなくなることもあるし、真っ当な注意喚起のコメントを心がけているのでコメント欄の中では、知識のある杞憂民程度で、収まっている。若干有名になっている気がするけど、それでも人を止めることが確実にできる訳じゃない、仲の悪いパーティとか、進級目の前のソロとか。
今回は幸い2人程度しかいなかったので、チョチョイと装備の確認と出てくるモンスターの知恵袋を勝手にやって解決。
昨日みたいなのは本当に稀なのだ。
ギルド統括本部、午後15時のことだ。何十件もの発見が相次いで報告された。しかも、今よりも性能の良いポーション、転送装置の正式な起動方法の目録、コンソールルームが存在するという論文、どのような資材をどの用途で使用すれば現代で効果的か。タチの悪い嫌がらせの一種だと判断する方が、まだ混乱は少なかっただろう。
「はぁ……この情報どうやって出すよ……」
本部部長の白鷺は悩んでいる。
確実に起きることは、この情報で我々の死傷者は減るということだ。そして、これほどの情報を一気に出すとなれば、ギルドの情報を独占していたのではないか、と疑われることもまた、確実だ。
そんな事実は一切ない、しかし、一日二日で作り上げられたデータではない、むしろ、何年も研究をしてきたか、ダンジョンを作る側の人間の話のように詳細な文章だった。
だからこそ、取り扱いにくい。疑い程度は、もうどうしようもないが、これを人の役に立ててくれと言わんばかりのその態度が怪しい。
「まさか、本当にあるのか?ダンジョンからやってきた、人類に好戦的ではないモンスター……」
先日、ちょうど銀級に上がった話題の少女、登録名マタギくんが語った内容におそらく人間ではない黒い少女が協力をしてくれた、という報告が上がっている。
ダンジョンに深い情熱を持っている子がそうそう虚偽は語らないだろう。
そして、配信にも載っている。その少女は、そう昔の時の記録に残った姿のままだった。
「死んだ姿そのままに、蘇って、また人の味方をする、ダンジョンならあり得るのだろうか……?なあ、紫水……」
古い集合写真がデスクの上に置いてある。
その中に、黒いフードと黒いズボン、特徴的な銃と混じり合ったような剣、そして片目の色の違う幼い少女が写っていた。
「まあ、ともかくお前が死んでいようと、このアカウントからメールを送っていることは間違いない。死者の墓を暴かせてもらうぞ」
これほどの情報を手に入れられる人類はいない。見返りもなく、一度に送ってくるということは、さらに取引がしたいという意味があるだろう。それか、それが取るに足らない程度の情報であるか、だ。
少なくとも、ここで悪印象をつけるわけにはいかない。
「はぁ……なんてメール書けばいい……?おい、誰か、宇宙人と文通したことのあるやつを探してくれ」
ギルド本部はこれまでにないほどの有益な情報に、それを持った存在との対話をしようとしている。
代表としては頭が痛い話だった。
「へっくち……」
どっかの誰かから噂されているようだ。そういえば風邪で思い出したけど、昔ダンジョンから引退する時、別にほぼ知り合いはいなくなってて、近寄る人もいなくなってたからそのまま帰ったんだよね。
もしかして当時は生存報告とかもよくわかってなかったけど、生きてますとか、言った方が良かったのだろうか……?攻略組の年代が若めだったからその辺曖昧だ、僕も当時10歳だったし。
よく少女と間違えられてたな、今もだけど。
「それはダンジョンの機能の一部だろうな、長寿の要素がなければ少数になった人間の知識の伝導をしそこねる可能性があるとか言われて……」
「……」
さて、今日は久々にダンジョン関係のことをしてみようかな、別に人をコメントで杞憂にさせている日課はあるものの、それだけで生きていけるほどに暇は小さいものではない。
「平然と無視したなお主……てか今何時だと思っておるんじゃ、11時じゃよ?」
ふっふっふ。こんな昼に起きてネットゲームだらけの生活、余裕ができるのは夜中だけなのだ。昨日運動してよく寝たぶん眠気なんてこない。テンション爆上がりなのもそう。だから思い切って、そう。
「今日は病弱風にロールプレイをしよう……!」
「は?」
善は急げ、衣装の準備は壊さないように、そう。必要なのは余命がなさそうな儚さと、それでも気丈に振る舞う強さ。さらに口下手な感じと、病を患っている感じの包帯、薬。
ふっふっふ……誰に見せる予定でもないから、それがいい。自己満足でここまで生きてきたんだから、これもまたそう。僕はダンジョンから引退して、サブカルチャーに生かされてきた。
だからそう。憧れは止められないんだ……!
いざ、夜の散歩と洒落込むぞ……!
妾の名はダンジョンコア。
生前の名前はもっと複雑だったが、どうせ名乗る必要はないので機能としての名前を名乗っている。
「……くぅ、……今回は、少しキツかったかな……」
今ダンジョンの近くの公園で苦悶の表情を浮かべている人間。名前は紫水としか名乗っていないが、警戒したのはほんの一瞬だけだった。こちらもそれに反応して迎撃しようとした。だが、そのあとすぐに警戒を解いたのを見てこちらも会話という手段を使った。
思考を読もうとしても、思い出すということをほとんどしない状態だと、妾の能力では全く底が見えない。
それが恐ろしいのだ、なぜこのコアの能力を知り尽くしているかのような行動を取れるのか。なぜこちらの提案を受けていて、何も聞かずにいられるのか。
敵対する必要はないが、いまだにこいつが一見ただのバカのような行動をしていることが、本心なのか、それとも妾ごと欺いているのかがわからない。
そもそも、ダンジョンの666階はそんなに浅いものではないのだ。
いくつか管理者用のバックドアがあるとはいえ、それは知らない人間が入れるものではない、かつ死の危険の多い場所にしかないのだから。この人間がその階までくることができる実力は当然ある。
「……なあ、一体お主は何を考えておるのだ……?」
「うん?そうだなぁ」
少し考えたフリをしている。そう、考えているように見えているが、こいつの頭の中はほぼ夕食のことと、今やること、そしてなぜか能力ではほぼ読み取れない未来とやらのこと。
あり得ないのだ、そんなことずっと考え続けるなんて。現実逃避が得意だろうことはわかる。しかし、こいつは妾に思考を読まれまいと防御している。
その思考は妾が作られた時の技術と、酷似している。
こいつが作った仮面のような技術だがそれを四六時中、寝る前までするなんて……
今の問いかけで確信をした。
「ああ、やっぱりいいのじゃ」
「そう?じゃあ、必要ないね」
偶然で来れないのだから、わかって妾のところに来た。
思考を読まれるから、読まれない技術で対応する。
死ぬのがわかるから、死なないようにする。
おそらくこやつが語った自身の能力とやらは死しか見えない未来視、どころではないのだろう。
つじつまが合わない、こやつはもっと別の目的がある。
諦めて自由に生きる。寝ている間にぼそっと聞こえたそれすら、どこか作り物に感じ始めていた。
「……ここの空気は、やはり身を削るだけか……げほっ」
そう、この時間の公園にきているのも、ここに訪れる人物を予想していたのだろう。その目的は今までの流れだとダンジョンが対策しようとしている危機、それを防ぐことだろう。
ならば、妾とも目的は合っているはずだ。
なぜこんなところに角をつけて、至る所に血のついた包帯を適当に巻いてるのかはわからないが、それも何かの目的があってのことだろう。
まだ、いい。
ダンジョンコアが外の世界を知るには、モンスターを使うか、人に取り憑くほかないのだから、このまま現状維持とするしかない。
「今後ともよろしくお願いなのじゃ……紫水?」
「っうぐっ……ゲホッ、ぐっ、ゲッホ……」
「ど、どうしたのじゃ!?」
「だ、大丈夫だよ、死なないからね」
口から血を出して、まただ、この諦めたような光のない目。
この目を見ると、妾は、深入りしそうになる。
似ているのだ、生前の、友達と。
「……ゲホッ……ああ、久しぶりに見た、月だなぁ……」
「……」
何を思っているのか、こやつの能力なのかわからないが、思考が読めない。
それだけでなく、あまりにも寂しそうで、何も言えなんだ。
「あ、あなたは……えっと、紫水、でいいの?」
そして、先ほどから見ている人間が話しかけてきた。
「……君がそう思うのなら、そうなんじゃない?」
キャアアアアアァ?!?!?!?!
シャベッタァーッ!
やばいやばいこんな夜更けに公園にいるとかどうなってんだ子供は寝る時間だろ、大人も寝る時間だが。
いきなり本名で話しかけられるからはぐらかしたけどこれは正解なのか?
って思ったけどこの子、前ダンジョンで出会ったマタギちゃんじゃないか。
知り合いにビビる必要はそんなになかったね。いやこんな夜会うような関係じゃないが、より会話に困るが。
ん、待てよ。今の格好は客観的に見てみると、超病弱な中性的な存在がケガしながらゴホゴホやってるし、なんなら月夜に目が輝いて超常現象めいたかっこよさ出てるのでは???
……ヨシ、ご近所さんに迷惑がかからない程度に、僕は、かっこいいを追求する。
「あの後送れなかったけど、無事で何より」
「あ、うん……前も言ったけど、ありがと!おかげで銀級になれたし、ヒュドラの素材研究もできるようになってがっぽりだよ!」
「そう、それで、僕の名前を知っているってことは、そういうことだよね」
どういうことなのかわからないので教えて欲しい。やっぱ昔会ったことある人が名前知ってたかな。
「っうん、その……えと、モンスター、だよね」
「……アハハ、まさか、そこまでバレちゃってたかぁ」
ああ、この格好、ネットゲームのモンスターの怪物姫のコスプレ。ツノが生えて、亡国の姫の転生した鬼のような姿、哀れな姫のコスプレだということまで、バレてしまっていたか……。うわーこれ年下の女の子に見られるとか、恥ずかしいな。
「恥ずかしいね、こんな姿。アハハ……」
「そんなことないです!」
「え……?」
「とてもわかったようなことは言えませんけど、私を救ってくれたのは、紫水さんなんですから、恥ずかしくないです!」
そういえば命の危機を助けた女の子にこんな夜中に特殊な格好見られてる現状なんだよな……何してんだ僕。
さて、少し正気になって、月明かりがより強くなってはっきりマタギさんの姿が見えた。また死ぬ姿が見えてしまったので、どうにかしなければ。
「そんなに言われたら照れちゃうよ……それじゃ、励ましてくれたお詫びに助言しておこうかな。これから君は、だいたい明日のダンジョンのボス前かな?配信前で、別のパーティと一緒に行動するときがあるけど、その時は迷いなくやるといいよ。モンスターだけが、敵じゃないからね」
珍しいことだが、ダンジョン内の配信者を襲う輩というのは、意外といたりする。それが有名であればあるほど、認知度が上がるわけだから、そういう目的で襲う奴も出てくるよね。あっさりと未来が変わったので、必殺の金的を教える必要は無さそうだ。
「え、なんで明日の配信時間、いや、それよりもどういう」
「さて、ね。ゴヒュ……ゴホッ……ゴホ……」
「ちょっちょっと、血が出てる!?早くギルドに、私のポーション飲んで!」
ここで渾身の自分の血と嵩増し用のモンスターの血を合わせた特製の血糊の出番だ。
流石にこれ何も知らなかったらビビるから説明しとこうか。
「大丈夫」
「そんなわけ……」
「これは怪我が原因ではない、血も、半分は僕のじゃないから」
「え……」
「ここは居心地がいいんだよ、こうしているとね、どうであれ、僕らしく在れているような気がしてね。だから、こんな格好でも、ここに来てしまった」
おおやばい、夜の仮装散歩が気持ちいいことを喋りすぎている、このままじゃドン引きされる。いや、もうされてるかもしれないけど、度がすぎた仮装の熱は夜には似合わない(?)もう自分の思考もわからなくなってきたので、とっとと帰るとしようか。
「ごめんね、そろそろ正気を失いそうだから、帰るとするよ」
「え、待ってください、まだ全然意味がわからないです!」
それもそうだ、このキャラの説明全くしていない。いや待て、こんなにコスプレの話を熱意をもって聞いてくれた人がいただろうか?これは僕のやったことのない、布教ができるのでは?
「そうだね、連絡先だけ交換しておこうか」
「本当ですか……!今度絶対もっと話聞きますから、絶対ですよ」
「……ありがとう。ここまで生きてきた甲斐がある」
僕のはるか昔の死んだ人しか入ってない携帯端末に、入れたことのない端末の操作なんて、まあ当然できないのでマタギさんにやってもらった。配信は見るだけなら複雑な操作いらないから。別に機械音痴じゃないから。使う機会がないだけで。
「これって……」
「あー、この並びに入れるのは良くないね、なんか別の手段にしようか?」
「いえ……大丈夫です」
笑って流してくれた。普通死んだ人の並びの最後に自分の名前入れるのは、失礼だよなぁ……まあ、別の手段と言っても、あまり思いつかないけども。靴箱に手紙とか?青春だなー。
「じゃあね」
ダンジョンコアが近くにいる時はダンジョン経由でどこでも家に帰ることができて大変便利である。
でもなんだか、今思うとマタギちゃんは先輩に似ているな、顔立ちと、コスプレに理解がある感じが。
「ふふ、またどこかで」
お読みいただきありがとうござい
感想とかお気に入り登録とかしてくれるとめちゃんこやる気上がって降りれなくなるのでおすすめです。