影と闇と   作:鉄血

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第一話

「───これで二十」

 

ソードアート・オンラインが茅場晶彦の宣言によりデスゲームになって早半月。

ホルンカの村で受けられるクエスト報酬アニールブレードを手に入れる為、男は《リトルネペント》を狩り尽くしていた。

HPバーが消滅したリトルネペントが一瞬硬直し、そしてガラスの破片のようにポリゴンとなって消滅した。

 

「・・・ドロップはなし。これだけ狩って出ないと、ドロップ率はかなり低いか」

 

人間のような口がある気味の悪い食虫植物もどきを何度も倒すことになるとさすがに内心気が滅入る。

 

「・・・・・」

 

倦怠感が酷い。

まだ二十代半ばとはいえ、十代の頃に比べれば体力低下は多少なりともある。

時間は十八時。帰って戻ると二十時頃になるだろう。

 

「完全に暗くなる前に戻ろう。無茶して死ぬのはゴメンだ」

 

スモールソードを剣帯へと納め、彼は薄暗くなり始めた森の中を歩く。

ソードアート・オンライン。

正式サービスのあの日の事を今でも記憶に焼き付いている。

悲鳴、絶叫、憤怒、絶望に満ちた声。

その中で俺はなんとも思っていなかった。いや、明日の仕事はどうしようかと考えていたがそれだけだった。

こういうこともある。

ただそれだけだった。

まだ第一層も攻略されていない。それどころかプレイヤーの犠牲者が増えるばかり。

クリア出来る出来ないではなく、そもそも生き残れるのかという話だ。

いや、生き残れても出られなければどのみちリアルで衰弱死するだけか。

一年か、それとも二年か。

そこまで考えて男は考えるのを辞めた。

そもそも男は死ぬことに何の感情も抱いていない。

生き物はいつか必ず死ぬ。早いか遅いかの違いだけ。

そんなだからか自分は死のうと思っても無意識に死ねないと思ってしまうただの臆病者。

それが彼だった。

そんな彼が森を抜ける直前、森の中から剣撃が聞こえた。

 

「誰かいるのか?」

 

誰かが近くにいる。彼は少し気になり足をそちらへと進める。

そういえばもう何日も人と話していない。だからというべきからなのか、彼は少しだけ誰かと話したい気分だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ああああああああああッ!!」

 

アスナを見捨てしまった。

ミトはそんな深い後悔に押し潰されそうになりながら背丈ほどある大鎌を振るう。

振るう。振るう。振るう。

ただがむしゃらに。死にたい筈なのに胸の奥底では死にたくないと思ってしまう。

 

「ああああああああああッ!!」

 

ミトは絶叫しながらモンスターを目に付く範囲から片っ端から殺していく。

 

殺して───殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して───

 

死にたいのなら自殺をすればいい。無抵抗にモンスターに殺されればいい。死んで楽になりたい。アスナに謝りたい。

ミトが思っていることと、やっていることは矛盾だ。

死ぬなら戦いの中で死にたい。

その戦いの中で生き延びてしまったら?なら、次の強い敵を。さらに生き延びてしまったら?ならさらに強い敵を。

死にたけりゃいつでも死ねるのにそうするのは一種の自己満足であり、無意識な生存本能だ。

強くなればなるほど死ににくくなる。こうやって自分を追い詰めていけば死んでいった人も少しは───と思ってしまう。

 

本当に死んでいった者達に赦されたいと思うのなら生きてその罪を背負い続けることだ。

やけになって死を求めるのは逃げることに等しい。

だけれど、心が弱い彼女は逃げた。

アスナから。その罪と向き合うことから。

ミトは自分が見捨てたアスナを思い浮かべながら大鎌を振る。

 

ごめんね、アスナ。私がアスナを街の外にひっぱらなければ。こんなデスゲームに巻き込まなければ。こんな私と友人なんかにならなければ。

 

ミトのHPバーがレッドゾーンに到達する。

それも当然だ。もう、何度も何度も連戦を重ねている。

そして精神的にも彼女は限界だった。

後、数ドット。一発でも攻撃を喰らえば死ぬ。

そこら辺のモンスター達と同じように。跡形もなく。

ミトがそう思いながらも鎌を振るった瞬間だった。

 

「──────」

 

彼女の目の前にいたネペントの身体が不自然に硬直する。

そしてポリゴンの破片となって砕け散った。

キラキラと散らばるポリゴン片の中、ミトは先ほどまでリトルネペントがいた場所に焦燥しきった目を向けると、そこには一人の男性がいた。

二十代半ばの少し小柄の男性。

その男はミトを見て言った。

 

「少し落ち着け。死ぬ気か」

 

そう言う男に焦燥しきったミトは叫ぶ。

 

「私はもうどうでも良いの!パーティメンバーを死なせて、ずっと独りでッ!こんな私と一緒に居てくれる人なんて────もう誰も居ないんだから!私はもう───死にたいの!」

 

それは悲鳴だった。どうやら彼女は一緒にいたパーティメンバーを死なせてしまったらしい。

死にたいと叫ぶ彼女に男は言った。

 

「お前が死んだ所でお前が死なせたパーティメンバーはお前を赦さないだろう。それでもお前は死にたいのか」

 

「なら!私はどうすればいいの!アスナを見捨てて、のうのうと逃げて生き残こった私は、どうすればいいの!!」

 

泣き叫ぶように彼女は手にした大鎌を捨て。男の胸ぐらをつかむ。

そんな彼女に男は────

 

「なら生きろ。ソイツの分まで生き続けて自分がしたことと向き合い続けろ。それがお前がするべきことだろう」

 

それは彼の祖父が言ったこと。

自分のことは自分でケジメをつけろ。逃げることは絶対にするなと。

だからこそ彼は彼女に言う。

生きることから逃げるな。自分のしたことから逃げるなと。

 

「私は────」

 

彼女はそう呟く。

あと一押しかと思った男は言った。

 

「今、生きているのはアスナという奴じゃない。お前だ」

 

その言葉に彼女は胸ぐらをつかんだ手が緩み、彼女はそのまま膝から崩れ落ちた。

 

「アス、ナ・・・・う、ぁ・・・ぁぁぁぁぁッ!!」

 

崩れ落ちた彼女はそのまま幼子のように泣き始めた。

その様子を男はただ一人、無表情で見続けていた。

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