第五十六層 パニ───
岩山がくり抜かれた建物の中、フィールドボス攻略の為、複数のギルドと何人かの逸れプレイヤー達がその場に集まっていた。
ミトとトターもまた、その場にいた。
「フィールドボスを村の中に誘い込みます」
血盟騎士団副団長のアスナが提示したその作戦内容に周りのプレイヤー達が一斉にどよめきの声が上がり始める。
そんな中、キリトは反論した。
「ちょっと待ってくれ!そんな事をしたら村の人達が──!」
「それが狙いです。ボスがNPCを殺している間に、ボスを殲滅します」
「NPCは岩や木みたいにオブジェクトとは違う!彼等は!」
反論するキリトに対し、アスナは冷徹に答える。
「生きている、とでも?あれは単なるオブジェクトです。たとえ殺されようとまたリポップするだけ」
「俺はその考えには従えない!」
「今回の作戦は私、血盟騎士団、副団長のアスナが指揮をする事になっています。私の言うことに従ってもらいます」
睨みつけるアスナとキリトに私とトターは割り込むことも出来ずにその会議は終わりを迎えた。
外に出た後、私達はエギルと話しているキリトと合流した。
「よう、ミトにトター。お前達も来ていたんだな」
「まあね。でもキリト。貴方、最近良くアスナと揉めるわね」
「きっと気が合わないんだろうな」
そう答えるキリトにトターは言う。
「昔、お前とコンビを組んでいた時は仲が良いと思っていたが、こうも変わるとはな」
「そうだな・・・俺も彼女が攻略組トップギルドのあの攻略の鬼になるとは思わなかったよ」
彼女の今の姿はあの時、この場にいる皆も予想していなかった。
「まあ、そうよね。でも最近はアスナも何かに焦ってるみたいに攻略スピードを上げてる」
心配そうな顔をするミトにトターも同意するように相槌しながら口を開く。
「ああ。今までにないくらいのハイスピード攻略だ。これでは安全にマージンも取れたものではない」
とは言え、作戦も作戦だ。正直な話、私も気が乗らない。
「俺は今回の攻略はパスをさせてもらう。彼女の作戦に気が乗らん」
「トターならそう言うわよね」
たとえNPCとはいえ、私達プレイヤーと何ら変わらない生活をしているのだ。それを囮にするは負い目を感じてしまう。
「なら、私も今回の攻略は抜けさせてもらうわ。トターもやる気じゃなさそうだし。それに最近のアスナはちょっとおかしいところもあるし」
それに最近は私のお店にも来ていない。
五十層に入る前は良く来ていたのに。
モヤモヤしながらも私はキリト達に言った。
「じゃあね。キリト、エギル。アスナによろしくって言っておいて」
「ではな、二人共」
「あ、ああ」
そう言って歩いていく二人の後ろ姿にエギルはポツリと声を漏らした。
「なあ、あの二人・・・付き合っているのか?」
「さ、さあ?」
◇◇◇◇◇
第五十九層 ダナク──
「ねえ、キリト?これって・・・どういう状況?」
私はトターと一緒に最前線でのレベリングをしようと迷宮区に向かっていた矢先、ダナクの街外れた芝生の上で昼寝をしているキリトとアスナを見つけた。
「ち、違うんだミト!これは偶々偶然で!?」
焦りながら手を振るキリトに私はため息をつく。
「別に私は二人がそんな関係だとは思ってないわよ。ただ、前に揉めた二人がなんで仲良く昼寝なんかしているのか不思議に思っただけ」
そう答えるミトにキリトは言う。
「最初はなに寝ているんだって言われたさ。だけど今日はいい天気だからお前も寝てみろよって言ったら──」
「こうなったって訳ね。全く、アスナも不用心に程があるわよ。最近は睡眠PKがあって皆ピリピリしてたって言うのに」
眉間を抑えるミトに対し、トターはアスナの方に目を向ける。
「ああ。だがこの様子からすると・・・」
「疲れてる・・・んでしょうね」
「ああ、そうだろうな」
彼女が外でこうも熟睡しているのはそれほどまでに気を張り詰めていたということだろう。
その張り詰めが解け、溜まっていた疲れが一気に押し寄せた結果がこれならば仕方がない。
その辛さは、私にも覚えがあるので強くは言えないが。
「とは言え、寝てみろよって言い出したのは俺だ。起きるまで付き合ってやるさ」
「そうしなさい。でも・・・キリトの話を聞いた後だと、私もちょっとだけ昼寝をしたくなってきた」
「俺はそう思わない・・・が、寝たいと言うのなら付き合おう。見張りは俺がしよう。キリトも休むといい」
「いや、流石にそれは俺が気が引けるというか・・・」
大の大人一人に見張りを任せて昼寝とか流石に気が引ける。
そんなキリトにミトは芝生の上に寝転ぶと、そのまま目を閉じた。
「トター。今日の攻略はお休みで。また違う日にしましょ」
そう言うミトにトターは一度溜め息をつくと、キリトへと顔を向けながら頭を下げた。
「・・・仕方のない奴だ。キリト、すまないが俺も見張りをしよう。一人でいるよりも二人で駄弁を語れば、時間が経つのは早い」
「あ、ああ。なら、よろしく」
あまりこの男とは喋った事はないが、一人でボーッとするよりかはましかも知れない。
そう思いながら、キリトはストレージから飲み物を取り出し、芝生に座り直すのだった。