灰の男と赤紫の少女   作:鉄血

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第五話 第一層フロアボス攻略会議

四十四人。

それが、トールバーナの噴水広場に集ったプレイヤーの総数だった。

私の予想───ベータテスター時代の時より随分と少ない、そう言わざるを得ない。

私自身、ボス戦によるレイドを多く経験した訳ではないのだが、今この場にいるメンバーだけではフルレイド(四十八人)のパーティー上限すら満たせていない。

 

「・・・多いな」

 

私の隣で大剣を担いだ相棒がそう呟く。そんな彼に私は問い返した。

 

「・・・少ないわよ。ボス戦規模の戦いになると最低あと四人は欲しいわ」

 

「・・・その様子だとミトはボス戦の経験があるのか?」

 

「・・・まあ、そうね」

 

そんなやりとりをしつつ、ミトは周りを見渡しながら広場にたむろする剣士達の顔を確かめていく。

お互いに名前を知っているプレイヤーが、五、六人。前線付近のダンジョンや街で見かけたことのある者が十五人。残る二十人以上は初めて見る顔だ。

その中で女性プレイヤーは高い塀に腰掛けている《鼠のアルゴ》と私だけだが、彼女はボス攻略には参加するつもりはないだろう。

周りの様子を見渡していると、パン、パンと手を叩く音とともに、よく通る叫び声が広場に流れた。

 

「はーい!それじゃ、五分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!みんな、もうちょっと前に・・・そこ、あと三歩こっちに来ようか!」

 

実に堂々たる喋りの主は、長身の各所に金属防具を煌めかせた鮮やかな青髪の片手剣使いだった。

 

「今日は、オレの呼びかけに応じてくれてありがとう!知っている人もいると思うけど、改めて自己紹介しておくよ!オレは《ディアベル》、職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」

 

すると、噴水近くの一団がどっと沸き、口笛や拍手に混じってからかいの声が飛ぶ。

 

「さて、こうして最前線で活動している、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど・・・」

 

ディアベルはさっと右手を振り上げ、街並みの彼方にうっすらとそびえる巨塔───第一層迷宮区を指し示しながら続けた。

 

「・・・今日、オレたちのパーティーが、あの塔の最上階へ続く階段を発見した。つまり、明日か、遅くとも明後日には、ついに辿り着くってことだ。第一層の・・・ボス部屋に!」

 

どよどよ、と周りのプレイヤーがざわめき始める。それについては私も少し驚いた。第一層迷宮区は二十階建てで、私達が今日潜っていた場所が十八か十九階あたりだったので十九階がそこまでマッピングされているとは知らなかった。

 

「一ヶ月。ここまで一ヶ月もかかったけど・・・このデスゲームそのものもいつかきっとクリアできるんだってことを、はじまりの街で待っている皆に伝えなきゃならない。それが、今この場にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」

 

再びの喝采。今度は、ディアベルの仲間たち以外にも手を叩いている者がいるようだ。確かに言っていることは立派で非の打ち所もない。

 

アスナを見捨てて自分を優先した私よりも──

 

後ろ暗い気持ちになりつつある私に対し話は進んでいく。

 

「───それじゃ、早速だけど、これから攻略会議を始めたいと思う!まずは六人のパーティーを組んでみてくれ!フロアボスは単なるパーティーじゃ対抗できない!皆でレイドを作るんだ!」

 

そうだった。

ボス戦は基本パーティー同士の連携によるレイド戦。この場にいるのが四十四人だから七パーティー作って二人余り。

早くパーティーに入らないと。

そう考えを巡らせ、ミトは立ち上がろうとしたその時──

 

「なあ、そこのアンタ達!」

 

「・・・ッ!」

 

唐突に声をかけられた。

 

「俺達とパーティーを組まないか?二人足りてないからさ」

 

「俺達でいいのか?」

 

その言葉にトターが返すと、男は笑顔で頷いた。

 

「ああ、もちろんだ!アンタみたいなヤツがいたら心強い!」

 

「だ、そうだが。どうする?ミト」

 

そう聞いてくる彼に私は頷いた。

 

「・・・ええ。私は構わないわ」

 

トターのおかげ?でパーティーに入る事が出来た私はトターと一緒にそのパーティーへと合流する。

 

「よし、そろそろ組み終わったころかな?さて──」

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 

ある程度パーティーが組み終わり、会議を再開しようとした時、そんな声が低く響いた。

そして前方の人垣がふたつに割れる。その中央から小柄ながらもがっちりした体格の男が前に出る。

やや大型の片手剣にある種のサボテンのように尖ったスタイルの茶色の髪が特徴の男は、ディアベルの声とは正反対の濁声で唸った。

 

「わいは《キバオウ》ってもんや!ボスと戦う前に言わせて貰いたいことがある!こん中に今まで死んでいった二千人の中にワビィ入れなあかん奴らがおるはずや!」

 

「キバオウさん。君のいう奴等というのはつまり・・・元ベータテスターの人達のこと、かな?」

 

「・・・・ッ!」

 

ディアベルが、今まで最も厳しい表情を浮かべて確認すると同時、私は身体を強張らせる。

 

「決まっとるやろ!ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日にビギナー見捨てて消えおった!奴らはウマい狩場やらボロいクエストを独り占めして、ジブンらだけぽんぽん強うなって、その後もずーっと知らんぷりや!・・・こん中にもおるはずやで、ベータ上がりっちゅうことを隠して、ボス攻略の仲間に入れてもらお考えてる小狡い奴らが!ソイツらに土下座さして、溜め込んだ金やアイテムを吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられへん!」

 

確かにベータテスターだった私はアスナを連れ、誰よりも強くなるために、他の人達を見捨てた。

言い返す言葉もない。そんな私は奥歯を噛み締め、息を殺し、沈黙を保ち続ける。

 

「・・・ヤツの言葉に気にするな、ミト。お前はお前なりに初心者を助けようとした。俺が保証する」

 

「・・・うん」

 

そんな状態の私にトターは肩に手を置いて落ち着かせるような声音でフォローを入れてくる。

そんな彼の声を聞いて落ち着きを取り戻した私は小さく頷いた。

 

「発言、いいか」

 

その時、ハリのあるバリトンが夕暮れの広場に響き渡った。物思いから我に返り、顔を上げると、人垣の左端あたりからぬうっと進み出るシルエットがあった。

筋骨隆々たる巨漢に彫り深い顔立ち。頭を完全なスキンヘッドにし、肌はチョコレートのように濃い。

そんな巨漢は、噴水に集まっているプレイヤーに軽く頭を下げると、かなりの身長差があるキバオウに向き直った。

 

「オレの名前はエギルだ。キバオウさん、アンタの言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ、その責任を取って謝罪・賠償しろ、ということだな?」

 

「そ・・・そうや」

 

そう言い返すキバオウにエギルという斧戦士はレザーアーマーの腰につけた大型ポーチから、羊皮紙を綴じた簡易な本アイテムを取り出した。

 

「このガイドブック、あんただって貰っただろう。道具屋で無料配布しているからな」

 

「──もろたで。それがなんや?」

 

キバオウの刺々しい声にエギルは攻略本をポーチに戻すと、周りのプレイヤー達に向けて言った。

 

「こいつに載っているモンスターやマップのデータの情報を提供したのは、元ベータテスター達だ」

 

その言葉にプレイヤー達は一斉にざわめき、キバオウがぐっと口を閉じる。その背後でディアベルがなるほどとばかりに頷いた。エギルは視線を集団に向けると、よく通るバリトンを張り上げた。

 

「いいか、情報はあったんだ。なのに、たくさんのプレイヤーが死んだ。その失敗を踏まえてどう論議されるとオレは思っていたんだがな」

 

至極堂々とするエギルにキバオウは吐き捨てるように唾を吐いた後、元いた場所へと戻っていった。

そんなエギルも彼の様子を見て、同じように元いた場所へと歩いていく。

ボス攻略会議は各リーダーへの短い挨拶と、ボス戦でドロップしたコルやアイテムの分配方針を確認して終了した。

会議が終わり、解散する皆の様子を見ていると、ふとトターが顔を上げた。

 

「・・・・どうしたの?」

 

そんな彼に私はそう聞くと、トターは気のせいだと言って歩いていった。

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