灰の男と赤紫の少女   作:鉄血

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第六話

「・・・ねぇ、トター。ちょっといい?」

 

私はトターに近づき身を寄せると、周りに聞こえないように声を低めて囁いた。

 

「今日の戦闘で私達が相手をする《イルファング・ザ・コボルドロード》のヒットポイントバーが最後の一本になった時は気をつけて。メイン武装が斧からタルワールになった瞬間、攻撃パターンががらりと変わるから。メインタンクはB隊が張ってくれるけれど、必ず貴方にもその出番が回ってくる。貴方は私と同じダメージディーラーだから必ずしもタンクの仕事はこなせなくてもいいの。・・・だからくれぐれも無茶だけはしないで」

 

「・・・怖いのか?」

 

仕事をこなせなくてもいい。そんな風に言う彼女にトターはそう返事をすると、ミトは少し迷ったような仕草をした後、ゆっくりと頷いた。

 

「・・・ええ。昨日からアスナが死ぬ瞬間を見たくないってパーティーを解散したあの日の出来事を作戦会議の後からずっと頭の中で浮かんで碌に寝れなかった。もし、同じ場面にまた遭遇したら私は見捨てるのかって・・・」

 

「・・・・・」

 

ミトの自白にトターは黙ったまま耳を傾ける。

そして小さな溜め息をつき、トターはミトに言った。

 

「なら・・・自分の内に映る彼女に問いかけてみるといい。彼女は本当に見捨てた自分の事を恨んでいるのかと。もし、その答えを得た上で自分を責めるのなら・・・本人(・・)に会って聞いてみるのも良い」

 

「・・・えっ?それってどういうこと?」

 

トターの言葉の意味が分からない。

本人に会って聞いてみろ?つまり、アスナは今も生きているとでもトターは言いたいのだろうか?

もしそうだとしたら───

 

「もし、俺の言った言葉の意味を知りたいと思うのなら・・・少なくとも今日は生きて帰らないといけないな」

 

そう言って彼は正面を向く。前方ではディアベルが、七つのパーティーを綺麗に並ばせ終えたところだった。

そしてディアベルは、銀の長剣を高々と掲げると、大きく一度頷いた。他のレイドメンバーも同じようにそれぞれの武器をかざし、頷き返す。

そしてその騎士は左手を大扉の中央に当てて───

 

「──────行くぞ!」

 

その一言と共に、思い切り扉を押し開けた。

 

 

 

 

 

こんなにも広かっただろうか。

ほぼ四ヶ月ぶりになる第一層迷宮区ボス部屋を見て、私はまずそう感じた。

奥に向かって延びる、長方形の空間。左右の幅はおよそ二十メートル、扉から奥の壁まで約百メートル。二十階はもうボス部屋以外ほぼマッピングされているのだから、そのサイズは地図の空白エリアを見れば割り出せるのだが、それでも実際に目にすると数字を遥かに超える奥行きを感じる。

その奥に巨大なシルエットがあった。粗雑かつ巨大な玉座。そこに座するのは───

 

A隊リーダーと玉座との距離が二十メートルを切ったその瞬間、それまで微動だにしなかった巨大なシルエットが猛然と跳んだ。空中でぐるりと一回転し、地響きとともに着地。狼を思わせるアギトをいっぱいに開き、それは吠えた。

 

「グルルラアアアッ!!」

 

獣人の王。《イルファング・ザ・コボルドロード》は右手の骨斧を高々と振りかざすと、A隊のリーダーに向けて力任せに叩きつける。それを分厚いヒーターシールドがそれを受け止め、眩いライトエフェクトと強烈な衝撃音が広間を揺らす。

その音が合図だったかのように、左右の壁に開いた穴から三匹の重武装モンスターが飛び降りてきた。

ボスである《イルファング》のHPゲージは四段。三段目までは右手の斧と左手の盾を武器に戦うが、四段目に突入するとそれらを捨て、腰のタルワールを抜く。

最初の骨斧はもちろん、タルワールに切替わってから放たれるソードスキルの種類と対処方法は昨日の会議でもきっちり確認済みだ。

 

だからお願い。───このまま上手く事が進んで。

私は全身全霊で何者かにそう祈った。

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