灰の男と赤紫の少女   作:鉄血

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第七話

コボルドの王とその衛兵対プレイヤー四十四人の戦いは、私の予想を上回る順調さで推移した。

ディアベルのC隊が一本目のHPゲージを、D隊が二本目のゲージを削り、現在はF隊と私達がいるG隊がメインの戦場となっている。

その中でもトターの活躍は凄まじいものだった。

 

「フッ・・・!」

 

コボルドの王の振られた骨斧を手にした両手剣で上手く受け流し、カウンターの一撃をその身に叩き込む。

自然に戦うその姿はまるで本物の剣士だった。

 

「・・・スイッチ」

 

「・・・!はああああッ!」

 

トターのその声に私は彼のカウンターで仰け反ったコボルド王の脇腹目掛けて両手大鎌専用ソードスキル《シン》をすれ違うように叩き込んだ。その連携攻撃と共にボスの最後の長大な四段目のHPゲージへと突入する。

 

「ウグルゥオオオオオオ───!!」

 

《イルファング・ザ・コボルドロード》が一際猛々しい雄叫びを放つ。同時に、壁の穴から最後の《ルインコボルド・センチネル》三匹が飛び出してくるのが見えた。

そして右手に持っていた骨斧と左手に構えていた皮盾を同時に投げ捨て、右手を腰の後ろへと持っていく。

 

「C隊!前へ!俺がタゲを取る!」

 

ディアベルの指示でC隊の六人がボスの周囲をぐるりと取り巻いた。横薙ぎ攻撃のある骨斧装備時には取れないフォーメーション。事前に攻略本を読んだだけとは到底思えない、見事なまでに的確な指示だ。後はもうあの六人でタルワールの攻撃を避けつつトドメまで───

 

「・・・・えっ?」

 

喉の奥で、無意識に声が漏れた。

違和感。何かが違う。あのボスモンスターは、私の知るコボルド王とどこかが少しだけ違う。

色?大きさ?顔でも声でもない。では違和感の源はなんだ?

私は視線をボス本体ではなく、右手の武器に向ける。

 

あの剣。緩く反った刃。タルワールの大きく反った刃とはまた違う。あれは───

 

「───刀!?」

 

それを知覚した時、誰かが絶叫にも近い声を発した。

 

「だ、だめだ!下がれ!!全力で後ろに跳べ───ッ!!」

 

その声と共に私は咄嗟に防御の姿勢を取る。

コボルド王の巨体がドウッと床を揺るがせ、垂直に跳んだ。空中で身体を捻り、武器に力を溜める。そして落下の勢いと同時に、蓄積された力が深紅の輝きに変えて周囲に衝撃波の如く解き放たれた。

 

 

軌道(・・)───水平(・・)。攻撃角度───三百六十度(・・・・・)

 

カタナ専用ソードスキル、重範囲攻撃《旋車》。

迸った六つのライトエフェクトは鮮やかに赤く、まるで血柱のように見えた。

視界左に表示されるC隊のHP平均値ゲージが、一気に五割を下回って黄色に染まった。近くにいた私は咄嗟に防御スキルを発動していた甲斐もあってあまり減っていなかったが、マトモに技を食らった彼等には、更に追加の効果が発生していた。

 

一時的行動不能状態───スタン。

 

SAOに十数種存在するバッドステータスの中では、長時間完全に身動き出来なくなる麻痺や視界が完全に見えなくなる盲目ほど恐ろしいものではない。効果時間も最長で十秒ほどだ。だが、発動が即時なうえ、回復手段が存在しない。

それゆえ、前線メンバーがスタンした場合は、仲間がスイッチを待たずに飛び込み、タゲ引きを受けねばならないのだが。

 

「・・・・マズいかッ!」

 

すぐに動けたのは私と交代で回復の為に後方にいたトター以外にいなかった。事前に綿密極まる作戦会議をしていたこと。ここまでずっと楽勝ムードが続いていたこと。そして何より、頼るべきリーダーのディアベル本人が一撃で打ち倒されてしまったこと。

それらの理由が複合して、私を含めて他の部隊全員の身体を縛った。皆が硬直する中、トターを先陣に両手斧使いエギルが援護に向かおうとしたが、間に合わなかった。

 

「ウグルオッ!!」

 

コボルドの王が吠え、右手で握った刀を床スレスレの軌道から高く斬り上げた。ソードスキル《浮舟》。狙われたのは、正面に倒れていたディアベルだった。 銀色の金属鎧を着込んだ彼の体が高く宙に浮く。ダメージはさほどではないが、コボルド王の動きも止まらない。

再び刀の刀身が赤いライトエフェクトが包む。《浮舟》はスキルコンボの開始技だ。あの技を喰らって浮かされたら最後、対処する手段は殆どないと言って等しい。

そんなディアベルに巨大な刀の刀身が正面から襲った。

目にも止まらぬ高速の二連撃。そこから一拍溜めての突き。三連撃技、確か名が《緋扇》。

ディアベルの体を包んだ三連撃のダメージエフェクトは、その色彩と衝撃音で全てがクリティカルヒットだったことを示していた。彼の身体は走り抜けるトター頭上を通り過ぎ、最後方でセンチネルの相手をしていた二人組のパーティーの近くへ突き刺さるように落下した。

その内の一人が直ぐさまディアベルの元へと駆け寄ったが、ディアベルは彼のポーションを握る手を強く握りしめ───

 

「──────、───。───、─」

 

ディアベルの声はすぐ目の前にいた彼以外、誰にも聞こえなかった。

 

───そして

 

───カシャァァァン!

 

ガラスが割れるような甲高い音と共にアインクラッド初のボス攻略レイド指揮官、騎士ディアベルはその身体を他のモンスターやアイテムの消滅と同じ、青いガラスの欠片へと変えて四散した。

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