「さっきのボスの範囲攻撃、ベータテストで見たことある。でもあれは敵を取り囲まなければ来ない」
「分かった」
アスナはミトのアドバイスに頷いて走り出すそんな彼女に、ミトは思い出したかのようにストレージを開くと、そこから一本の細剣を実体化させ、それを彼女に向けて鞘ごと放り投げた。
「アスナ!!」
「・・・!」
「使って!!」
宙に浮いたその細剣をアスナは手にすると、そのまま彼女はその細剣をすぐさま装備欄にセットし、その細身の刀身を鞘から引き抜く。
「ありがとう」
後ろで《センチネル》を引き付けるミトに向けてそう呟き、アスナは自身のパーティーメンバーである剣士が引きつけている《イルファング・ザ・コボルドロード》の脇腹目掛けて雄叫びと共に《リニアー》を叩き込んだ。
「スイッチ!」
「・・・!罠だ!!」
その言葉と同時にコボルド王の踏みとどまる姿を見た青年はそう叫ぶとコボルド王は手にした刀を彼女目掛けて振るった。
その攻撃にアスナは身体を屈めるようにして避けるが、彼女の身につけていたフード付きのマントを掠り、彼女の隠していた顔が露わになる。
「せやあああああッ!!」
「君は・・・ッ!」
彼女の姿を見た青年が驚いた声を上げるのと同時、カウンターのソードスキルが炸裂し、コボルドの王がノックバックしながら吹き飛ばされる。そしてアスナは破れたマントを脱ぎ捨て、その剣をボスに向けて叫んだ。
「皆聞いて!ボスを囲まなければ範囲攻撃は来ない!ひとまず全員後退!回復した人から復帰して!」
鼓舞する声に皆は動揺から抜け出して一時後退する。
そんな彼等の姿を見てトターはミトに向けて言った。
「どうやら彼女のおかげで指揮が上がり始めたようだ」
「・・・うん。でもこれはトターのおかげ」
「・・・俺は何もしていないが」
意図がわからない。そう言う彼にミトはボスと戦うアスナ達を見て答えた。
「貴方がボス戦前にアスナが本当に私を恨んでいるのか本人に聞けばいいって言った時、その時の私は心の中で恨んでいる筈だって思ってた。ううん、そう思いたかった。でも・・・さっきアスナと会ってみて、そうじゃなかったって思えるようになったの。だから・・・トターもありがとう」
「・・・礼は不要だ。だが・・・お前が再び前を向く決心が出来たのならその礼は受け取っておく」
遠回しな言い方にミトは苦笑する。
「いつもみたいに、そうかって言えばいいのに」
そう言ってミトは大鎌を構える。その横にアスナは居ないけれど、今はトターがいる。
今だったら何でも出来る。そう思えた時、トターが言った。
「ミト。お前も彼等のもとに行け。心配なのだろう?」
「でも・・・」
「友人を心配するのは友を持つ者の特権だ。行くといい。俺の心配は無用だ」
そう言って両手剣を振り被る。
そして私の後ろにいた《センチネル》目掛けて振り下ろした。
「お前が通る道を俺が示してやろう」
吹き飛ばされた《センチネル》を余所にトターは私の方へ振り返り、初めて笑った。
普段の枯れ木のような生気のない顔から出た初めての笑顔。
「分かった。なら、お願い」
「急げ。時間はないぞ」
すぐに何時もの表情に戻したトターの視線の先を見ると、吹き飛ばされた黒髪の剣士を守るようにアスナがコボルド王に剣を振るう姿が見えた。
「ありがとう!トター!」
ミトは彼に礼を言ってアスナ達の所へと走り出す。
「礼はいい。早く行け」
そう言い返しながらミトを見送ったトターは《センチネル》を前に剣を構えて一言、声を漏らす。
「来い。俺が相手になってやろう」
◇◇◇◇◇
吹き飛ばされ、膝を突いた俺の代わりに、アスナがコボルド王へと突っ込む姿が見えた。俺は駄目だと叫ぼうとした。ソードスキル《幻月》は技後硬直が短いスキルだ。高く斬り上げられたままの刃が、ぎらりと血の色に光る。まずい、と思った時、横に一つの影が俺の横を走り抜けた。
「はあああああッ!!」
その叫びが轟いたのは刀の刀身がアスナを襲う寸前だった。
刀の初撃と大鎌が激突する。ボス部屋全体が震えるほどのインパクトが生まれ、コボルド王は大きく後方にノックバックする。
割って入ったのは、白い肌と薄い紫色の髪。そして身の丈以上ある大鎌を持った少女。
彼女はソードスキルを発動させようとするコボルド王に合わせるようにしてソードスキルを発動する構えを取った。
赤色と紫色のライトエフェクトが両者の武器に宿り、再び刀と大鎌が激突した。
ダメージこそ受けなかったが、相殺の勢いで吹き飛ばされた両者と入れ替わるように、俺は彼女の横を駆け抜け、声を張り上げた。
「アスナ、最後の《リニアー》、一緒に頼む!!」
「了解!!」
打てば響く声に、俺は思わず片頬だけで笑った。
二人の武器が同時に唸り、ボスの巨体をライトエフェクトの渦が呑み込む。 だが、俺の一撃は最後の足掻きだと言わんばかりに刀に弾かれ、後ろへと後退するが、アスナがその隙を埋めようと前へと出る。
その時、獣人がにやりと嗤った気がした。
コボルド王の身体の影に隠れていたかのように刀がアスナに振り下ろされる。
「えっ!?」
驚愕で思わず足を止めてしまう彼女だったが、その視界の端で大鎌使いの少女がコボルド王の巨体をソードスキルで浮き上がらせた。
「ミト!?」
その少女の名をアスナは叫ぶが、ふと暗くなる視界に顔を上げると、浮き上がらせたボスの巨体が重力に引っ張られるように落ちてくる。
「う、あああああッ!!」
アスナは咄嗟に無抵抗に落ちてくるボスの胴体目掛けて《リニアー》を撃ち込んだ。
HPゲージは残り一ドット。
「「スイッチ!!」」
二人の声が重なる。
それに対し、俺は獰猛な笑みを返すと、素早く手首を返した。
「お・・・・おおおおおッ!!」
全身全霊の気勢とともに、剣をはね上げる。激戦を経て刃毀れした刃が、先の斬撃と合わせてv字の軌跡を描き、コボルド王の左肩口から抜けた。
その巨躯が不意に力を失い、狼に似た顔を天井へと向けて、細く高く吠える。その身体に、ビシッと音を立てて無数のヒビが入った。直後、アインクラッド第一層フロアボス《イルファング・ザ・コボルドロード》は、その身体を幾千幾万のガラス片へと変えて盛大に四散させた。
実体のない圧力を受けて仰け反る俺の視界に、【You got the Last Attack!!】という紫色のシステムメッセージが、音もなく瞬いた。