疾走優駿演舞 supplement・withdrawn 作:チョコカビ人間
なお、香辛料はあまり関連しておりません
東京都のとあるマンションで荷物をまとめている青年がいた。彼の名前は藤丸立香、人理焼却、人理漂白を乗り越え現在ではとある大学に通っている。カルデアから離れた後、久々の我が家で暮らしていた。今は府中にある引っ越し先にいくための準備をしているようだ。
「そろそろ業者の人が来るから準備しておかないと」
独り言を話しながら玄関先に生活用品がみっちり詰まったダンボールを移動させているとチャイムが鳴った。引っ越し業者が来たようなのでそのまま玄関を開け、招き入れた。
「こちらが引っ越し先に運ぶものですか」
「はい、よろしくお願いします」
「わかりました、全部運んでいきますね」
業者が荷物を次々に運んでいく中、
「あっ…、それは自分で持っていくので大丈夫です、こっち側の荷物をお願いします」
「料金プランの内容的に値段は変わりませんがよろしいですか」
「はい、貴重品類が入っているので」
…
多くの引っ越し荷物が乗った車を見送りながら手元のトランクを握りしめた藤丸は過去の思い出を考えながらふと言葉をこぼした
「これだけは、他の人に預けられないなぁ」
このトランクの中には彼のカルデアでの思い出が詰まったものであった。
彼は人理漂白を解決後、元の場所へ帰ることになったがその際に様々な手続きをする必要があった。その過程でカルデアで過ごしたときに得た物はすべて魔術協会に没収され、口封じされた。「せめてアルバムだけでも…」と思い帰国したが、実家にはいつのまにかトランクが送られていた。その中にはカルデアの思い出が詰まったアルバムだけでなく、バレンタインに貰ったものもすべて入っていた。さすがに入りきらなかったため拡張魔術が使われていたようだが
というわけで残った荷物を持ち、引っ越し先へ向かうために駅へ向かって歩いていくのであった。
...........
「トンネルから出てきたらそこは異世界だった..?」
引っ越し先に近い駅から出てくると、そこにはどこか違和感を覚える光景が広がっていた。下見のために通りかかったときにみかけた店とは別の店舗が入っており、広告も知らない企業が多く見える。そして何より、馬の耳が生えた女性が所々見かけることだ。
確かに今までも頭に角だの耳だの色々な物が生えている人物は見かけたが、それはあくまでも人理が危険に陥っていた状態であり、神秘に満ちた場所を旅していたためである。現代ではそのような神秘も薄れており、帰国してからは
ひとまず腰を落ち着け、手元のスマホを確認すると画面の上部には圏外のマーク、残念ながら電話も通じないことも察し諦めて画面を消した。
(さて、ここからどうするか...)
彼の旅路は基本的に大昔や未開の地であり、人口もかなり少なかったが、今回は現代の東京、少なくとも何とかサバイバルはしなくてよさそうである。(新宿?あれはどう考えても現代社会とは言えないだろう)ひとまず、確認すべきことを頭の中で並べながら引っ越し先へ向かうことにした。
...........
というわけで本来の引っ越し先の住所に来てみたが、残念ながら何度か下見に訪れたアパートではなく古臭いバーの入った建物になっていた。この調子だと引っ越す前の場所も別の建物になっているだろうと察し、大きく嘆息し顔をしかめた。
このまま留まっていてもしょうがないため、情報収集をしようと図書館に向かうことにした。幸い現在地から図書館は近いため徒歩で歩くことにする。
しばらく歩いていると腹が減っていることに気づいた。いつのまにか時刻は2時を過ぎており、駅の近くで昼食を済ませようとしていたことを忘れていたのである。そそくさと近くのコンビニに寄ろうとするが、ある疑念をが浮かび上がり足を止めた。頭頂部から動物の耳が生えた女性を度々見かけるがそれ以外は元の環境と変わらないように見える。しかし、現金も元の世界と同じものであるかわからなかったからだ。そこで、どうか使えますようにと祈りながら、飲み物を買うために500円玉を投入口に入れた。
「ガコン」
どうやら同じような日本円らしく、無事に使うことはできたようだ。現金が使えることを確認した今、財布の中身から考えるに1週間ほどは野宿で暮らしていけそうだ。ただ、身分証も頼りにならない今、ハローワークに頼れずに働き口を探す必要がありそうだ。一銭も無駄にできないため、スーパーに立ち寄り安いパンを買って改めて図書館へ向かった。スーパーでも感じていたが、あの女性たちは日常に馴染んでいたようであり、これが当たり前のようであった。
図書館へは誰でも入れるようであったため、図書館をいったんぐるっと周ってみると色々と見覚えのないものが目に留まった。
「ウマ娘ファッション特集!今話題のファッションモデル ゴールドシチー!」
「来月に迫る有マ記念 注目のウマ娘は」
「ウマッホ画集 悲劇の彼女が暮らした日々」
・・・
思わず手に取ってしまった「ウマッホ画集」をパラパラとめくるとそこにはゴッホが描いた「ひまわり」や「黄色い家」などが描かれていた。カルデアにもゴッホはおり、女性であったが馬の耳は生えてなかった。そもそも彼女はなんやかんやで別人であり、凡人類史のゴッホは男性であったはずである。ウマ娘なる種族があの女性らであることがわかった。ふと歴史上の人物がウマ娘に置き換わっているということかと考えたが、今までの経験からそれはないと頭を振るった。そのまま本を棚に戻し、今いる世界の常識を探ろうと館内を再び歩き回りだした。
...........
既に日は落ちた時間になり、閉館時間となったため荷物をまとめて外へ出ることにした。就活対策の本が歴史や常識が簡単にまとめられているのではと思いついてからは早く、ざっくりとした知識は仕入れられた。アイルランドがイギリスから分離しているなど凡人類史との差異はあったものの、一般常識はあまり変わらないようだ。元の世界と同じような生活をしていれば、不審な挙動を怪しまれて警察の厄介になる、ということはないだろう。
さて、今最も重要な課題は衣食住が全然そろっていないことだ。衣服は引っ越し業者の人に頼んだし住居も先ほど確認したように住めない、食料を買おうにもお金に限りがあるのである。カルデアからの給料がたんまりあったので勉強やサークル活動に集中していて今までアルバイトの経験はなかった。
(せめてキャッシュカードが使えればなぁ)
残念かな、サバイバルや野宿の経験は現代社会の東京ではろくに役に立たないのである。
ひとまず夕食を買いにいくために閉店直前のスーパーに走り、スティックパンとジュースを購入、今後使うお金をできるだけ温存するためだ。ちなみに今晩のベッドは公園のベンチである。野宿に注意すべきなのが夜襲ではなく盗難なのが現代日本の治安の良さを伺えるところだ。
...........
「..ーい ぁ...たー」
今晩の寝床へ歩いていくとき、遠くから大きな声が聞こえた。所々電灯で道の中、暗がりにウマ娘が近づいてくる。はて、今日初めてウマ娘という存在を知ったのに知り合いがいるわけがないのだが。
「ぉーい、 ...ゥター!」
目をよく凝らしてみると、ウマ耳だけではなく、角が生えているではないか。なんと理不尽に因縁をつけて襲い掛かってくる怪異だったか
(やばい、逃げないと!)
振り返って逃げようとするも相手はウマ娘、怪異の方が足が速くすぐに追いつかれてしまう。
「おぉーい! ムァスター! なんで逃げるんだー?」
(マスター? なぜそれを?)
意識が一瞬別方向に行ってしまい、その場でこけてしまった。結果、追い付かれてしまい目を瞑ってしまう。しかし、いつまでも襲ってくる気配はない。そのまま後ろの方を見返してみるとどこか見覚えのある顔のウマ娘が見下ろしていた。
「おいマスター! なんで逃げてるんだ?」
その頭には牛のような角が耳の隣に生えていて
「久々だなマスター! いや、考えてみればそりゃわからないか。しかし、フム...」
ジロジロとこちらを見ながら、そう、過去に聞き覚えのある言葉を
「確か
「そしてこの状況、すべて整っている。ならば、今しかあるまい」