地底に続く通路を雷鬼とさっき襲ってきた妖怪と歩いていた。
妖怪の方は警戒しながら、雷鬼の方は真剣な表情で歩いている。
そしてその隣では陰陽玉を浮かばせた黒夢が歩いている。
雷鬼は見知った霊気を感じてわざわざ来た。
そしてようやく話が通じる奴が来たと思いながら黒夢がここにきた理由を説明した。
それを聞くと雷鬼はうれしそうに笑みを浮かべた。
目的は同じだから、とのことだ。
この旧地獄はその名の通り元は地獄だった。
だが、地獄の軽量化のために一部の場所を消すことにした。
それがこの場所、旧地獄。
そしてその地獄の管理人をしていたのが肉片を操る妖怪…閻魔だった。
だが、人員を減らすこともありその閻魔は地獄から追放されただの妖怪となった。
妖怪は恨んだ、今まで自分がしてきたことはなんだったのか。
しかし、なぜそこまでうらむのか…妖怪は分かった。
権力を欲していたのだ。
閻魔として魂を裁き時折地獄に突き落とす。
そのことに喜びを感じていた。
妖怪は再び権力を手に入れようとした。
そしてある日旧地獄が別の場所につながったのを感じた。
そこは、不運にも幻想郷だった。
その被害は旧地獄の住民にも来ているため、雷鬼が重い腰を上げたというわけだ。
だが、敵は想像以上に厄介らしい。
相性の悪かった勇儀は大怪我を負って戦えない。
他の鬼達も勇儀が負けたことで怖がって戦力にならないとのことだ。
それで封印されていて弱まっているとはいえ強い雷鬼が決着をつけることにしたというわけだ。
黒夢は運がいいと思った。
今の自分も残念だが無理やり神の力で再生させた体なので本調子というわけではない。
それに札もあのときの戦いで少々消費した。
佳奈美も直接来れない。
そんな最悪の状態だ、やはり協力者は必要だった。
今雷鬼と黒夢は協力関係の仲だ。
お互いに今不足しているところを補うためにだ。
雷鬼は強靭な肉体と圧倒的な力。
黒夢は近中距離で戦えるたくさんの技。
二人で戦えばある程度数がいても戦えるとのことだ。
「…それで、今はどこに向かっているんだ?」
黒夢は雷鬼に聞いた。
雷鬼はここ数年間ずっと地底で暮らしているため多少ながら土地勘はあるだろう。
「あいつが拠点にしている地霊殿と呼ばれる場所に向かっている」
旧地獄には最初から存在する主要施設と後から作られた住居の二つに分けられる。
その中でも地霊殿は地獄だったときに使われた場所を管理するために立てられている。
灼熱地獄への入り口もそこで管理しているらしい。
「地霊殿・・・か、少なからずそこには他の奴も住んでいそうだな」
「あぁ、住んでるよ」
雷鬼との会話に黒夢を襲った妖怪が口を開いた。
妖怪の名は黒谷ヤマメ。
病を操る程度の能力を所持している土蜘蛛の妖怪だ。
ここには雷鬼よりもかなり長く住んでいるらしく妖怪としてこの場所に封印されてから地霊殿にいる妖怪に拾われて入り口の門番としていたらしい。
「私が主だと思っているのはあの人だけだしね」
ヤマメが言うには肉片を操る妖怪を主とは思っていないらしい。
妖怪自体は主従関係を持つことは吸血鬼などの妖怪ぐらい出ないと殆どない。
天狗などの社会が生まれたのも実はここ最近だ。
そんなヤマメが主だと思う妖怪がいることに少し黒夢は驚いていた。
「ふうん、じゃあ…肉片妖怪は消してもいいんだな」
ヤマメは縦にうなづいた。
自分の力じゃ黒夢に勝てないことはもうその身で知っている。
それに実際のところ肉片妖怪のことはよく思っていない。
それは自分たちのことを道具としてしか見ていないというところがある。
「まあいい。…時間も、あまりないからな」
いつ妖怪が人里を本格的に襲うかは分からないが長引かせて徳があるとは思えない。
三人は急いで向かおうとした…そのとき。
黒夢の頭に人一人が入れそうな大きな桶が当たった。
急いでいたのかあまり油断していなかった黒夢には少々痛かった。
頭を抱えて涙目になっている。
「あ、キスメ」
するとその桶の中から緑色の頭が飛び出した。
陰陽玉から様子を見ている佳奈美は心配そうに黒夢の方を見ている。
そんなハプニングがありながらも地霊殿まで向かうことにした。
▼
「…とりあえず、キスメはここで待っていてくれ。人数が多くてもいいことは無いからな」
地霊殿の中に入るのは黒夢、佳奈美(陰陽玉)、雷鬼、ヤマメの四人だ。
ヤマメは能力があるので肉片ぐらいなら病にかけて感染症にさせることができるだろうとの考えがあっての事だ。
本人も行きたいと言ったのもある。
キスメは行きたそうにしていたが足手まといになることは分かってしまっているので分かったと一言つぶやくと元いた場所に戻って行った。
「…さて、行くぞ」
黒夢たちは、地霊殿の中へと向かった。
▼
地霊殿の中には地上で戦った肉片妖怪とまったく同じ姿をした妖怪がたくさん歩いている。
どうやら大体の分身はこの地霊殿で製造されているらしい。
おそらく自分の体を切ってその肉片で分身を作っている。
さしずめ分身製造場と言うべきか。
とりあえず、雷鬼の能力と黒夢の神を宿す力を使い強固な幻術を作り出して歩いている。
これによる分身程度ならまず幻術でごまかすことができる。
ただし、今の二人だと長時間継続させるのは厳しいので早く目的地に向かいたいところだ。
しばらく歩いていると大きな扉の前に着いた。
「この奥に…やつがいる、気をつけろ」
雷鬼はそう言うと扉を素手で吹き飛ばした。
するとその部屋の中から一人の男が歩いて出てきた。
目は赤く、体もまるで鎧に包まれているかのような筋肉で鍛えられている。
そして、とてつもない殺気に包まれている。
この男こそ、この土地の支配者。
「…まさか、ここまで来ていたとは。不覚、だ」
言葉の一つ一つに重みを感じる。
それは殺気として黒夢たちを襲う。
これが、地獄の一角を支配してきたものの重みなのだろう。
「どうした、こないのか?」
この殺気の強さにキスメは気を失いかけている。
今までたくさんの妖怪や人間を退治してきた黒夢は数多くの殺気を浴びてきた。
だが、これほど純粋なすさまじい殺気を浴びたのは初めてだった。
しかし心の中に恐怖は殆どない。
なぜなら、黒夢はただ勝利だけを見ているからだ。
札を一枚構えると妖怪を見た。
「…準備は、できている」
雷鬼も拳を握り締めた。
「来い、相手をしてやる」
妖怪は拳に妖気をまとわせた。