東方神主伝   作:ごくでヴぁる

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第二十八話 波動

「愚か者め」

 

大妖怪は向かってくる黒夢たちに対して拳を構えた。

まずは雷鬼が攻撃を仕掛ける。

 

「くらえ!」

 

拳に妖気をこめて鬼の最大の力で殴りかかる。

だが、次の瞬間。

目の前にいたはずの大妖怪が拳を構えた体勢のまま雷鬼の背後に移動した。

雷鬼の拳はそのまま壁を吹き飛ばした。

背後には大妖怪が立っている。

 

「くっ、霊破槍!」

 

黒夢は霊破槍を大妖怪にめがけて投げつける。

しかし、黒夢の霊破槍はいとも簡単にはじかれた。

そして黒夢が反応するより早く、雷鬼におびただしい数の拳をたたきつけた。

そして、最後に妖気のようなものを纏った拳を雷鬼の腹部に当てた。

すると雷鬼は立つ力を失ったかのように倒れた。

 

「(馬鹿な!雷鬼が一瞬で…)…妖気で体を格段に強化しているのか?」

 

「正確にはうぬの思っている妖気ではなく波動を使って肉体を強化している」

 

波動、霊気や妖気などの生命エネルギーの別の形。

通常霊気を使える人間は少なく、妖気を使って戦う妖怪も少ない。

だが、波動はどんな人間や妖怪でも持ち合わせておりその種類は人それぞれで変わる。

波動が乱れると人間や妖怪は気分が悪くなったり体調不良になったりと健康に関する障害が生まれる。

 

「波動だと?(雷鬼は立とうとしているがすぐに体勢が崩れている…さっきの拳のダメージだけでなく体内の波動が乱されたからか)」

 

「うぬう…この、雷鬼が気分が悪いだと!あの男に殴られて、立つことができないだと!?」

 

ふざけているように見えるが本人はいたってまじめである。

雷鬼は体調が悪くなったり気分がよくなると少々ハイになる傾向がある。

今は若干ハイというところだろう。

だがさっきの一撃は体内の波動の流れをグチャグチャにされたためしばらく雷鬼は戦闘には参加できない。

 

「(雷鬼を一瞬で沈めるとは…)行くぞ」

 

黒夢は手の中に何十枚もの札を持つとそれらを回りにばら撒いた。

するとばら撒かれた札は青白く光り始めた。

その光は強くなっていく。

 

「霊破壊」

 

札は一枚の薄い霊気の壁へと変化していくそしてひびが入ると、割れた霊気が大妖怪の元へと向かう。

しかし、その場で足を突き出し回転する。

それはまるで自分自身が竜巻であるかのように巨大な突風を生んだ。

それにより霊気の破片はすべて吹き飛ばされた。

 

「こんなものか?ならばわれの番だ」

 

そう言うと大妖怪は構えを作った。

すると手の中に紫色の気が集まっていく。

その気は球体となり黒夢に向かって放たれる。

黒夢は体をそらして瞬時に避ける。

だが…避けた先には大妖怪が拳を構えて立っていた。

さっきの特殊な移動法を使って先回りしていたようだ。

 

「失せろ」

 

黒夢の腹部に大妖怪の拳が突き刺さる勢いで放たれた。

拳の勢いによって吹き飛ばされ壁に激突した。

壁は完全に砕け散る。

それは拳の重さを物語っていた。

 

「…この程度か」

 

そう言うと大妖怪は黒夢の吹き飛んでいった場所から背を向けた。

しかし、次の瞬間!

大妖怪の両肩に二本の霊破槍が突き刺さった。

苦痛の表情を浮かべる大妖怪。

 

「…ちっ、頭に当てる気だったんだがな」

 

壁が砕け散ったときに出た煙の中から腹部から血を流し、頭から血を流した黒夢が立っていた。

服の中に仕込んでいた服によって拳の攻撃を最小限のダメージで凌ぎ、壁にぶつかる瞬間に札で霊気の壁を作り出すことで激突を避けた。

大妖怪はうれしそうに笑っている。

そして力をこめると筋肉が膨らみ肩に刺さっていた霊破槍が砕け散った。

 

「(あいつ、なんて力だ。そこらの鬼以上はあるんじゃねえのか?)」

 

すると大妖怪の近くでうずくまっていた雷鬼が立ち上がった。

どうやらまだダメージが残っているとはいえ立ち上がれるぐらいにはなったようだ。

 

「カス以下の妖怪が、この鬼神であるこの雷鬼に傷をつけたことだけはほめてやる。だが…」

 

「雷鬼!!」

 

しかりつけるかのように黒夢は怒鳴り声をあげる。

雷鬼は突然黒夢が怒った事に驚いた。

 

「雷鬼、お前が俺に負けたのはその慢心のせいでもある。こいつは慢心していて勝てるような相手じゃない。認めろ、あいつがお前を倒せる可能性を持つことを」

 

黒夢の目には決意が見える。

それは絶対に勝つという覚悟だった。

たとえ体が血で濡れようと、腕を斬られても…必ず勝つという覚悟から成り立っている。

雷鬼は黒夢の目を見たとき自分の敗北したときを思い出した。

確かにあの時は自分の力、能力に絶対的自信を持っていたが黒夢によって倒され…力を封印された。

 

「…ああ、分かった」

 

普通なら雷鬼は従わないだろう。

だが、雷鬼を倒した黒夢だからこそ言うことを聞く。

 

「行くぞ」

 

雷鬼は自分の能力を発動した。

封印されている身なので使える能力は限られ力も平行世界の自分が使うのと比べたら弱体化するが…それでも十分だ。

 

「ザ・ワールド」

 

雷鬼の声が響き渡る。

そして、雷鬼は宣言する。

自分の使う能力の名前を…そして。

 

「―時よ止まれ」

 

あの時使った力が使われる。

周りの物質や大妖怪はすべて動きを止める。

この世界は雷鬼の支配下に入った。

今の状態では最大で五秒時は止まる。

そしてこの世界の中では支配者である雷鬼以外は動けない…例外を除いて。

黒夢は非干渉の能力で雷鬼の能力のみ(・・)を封じている。

雷鬼は拳を構えると大妖怪の腹部を拳で貫く。

黒夢は手の中に霊破槍を籠めている。

時が動き出すまで残り3秒。

 

「3」

 

霊破槍がさらに巨大化する。

 

「2」

 

そして霊気が圧縮されて一つの細い槍となる。

 

「1」

 

破壊力を籠められた霊破槍が大妖怪に向かって放たれ…当たる少し前で停止する。

 

「そして時は動き出す」

 

すると動きが止まっている槍が大妖怪に突き刺さり爆発を起こした。

黒夢は大半の霊気を注ぎ込んだのかを息を切らしている。

雷鬼は警戒しながら煙に包まれている方向を見る。

すると、煙から何かが飛び上がった。

雷鬼はあわてて見上げると空中に黒夢に向かって手刀を放とうとする大妖怪がいた。

その体は腹部に穴を開け左腕も消し飛んでいるがまだ戦える状態だった。

今の黒夢にはこの攻撃をかわす余力はない。

そして、雷鬼もあと少し時間が経たないと時を止めることができない。

しかし、その少しを待つ前に手刀が黒夢を切り裂くのは目に見えていた。

佳奈美が陰陽玉からファイアーボールを放つが手刀で簡単に切り裂かれる。

後1秒で切られるところで黒夢は霊力を開放した。

黒夢はコンマ1秒もかからず自分を霊力で構築した。

すると大妖怪の手刀がはじかれる。

大妖怪は黒夢と雷鬼を警戒しながらさっきの移動法で距離をとった。

 

「霊力開放 3式」

 

「…なぜ、それほどの力を持ちながら真っ先に使わなかった」

 

黒夢の体を包み込むほどに増幅している霊気を見ながら大妖怪は言う。

黒夢は少し鼻で笑った。

 

「この力は自分の体を壊しかねないからな。いわば最終手段ということだ」

 

「そうか」

 

そう一言言うと大妖怪は残っている片腕で拳を構える。

その姿を見ながら黒夢は疑問に思う。

そして、一つの仮定に至った。

 

「お前、大妖怪の本体じゃないだろ」

 

雷鬼は黒夢の言ったことに驚いた。

確かに目の前にいる大妖怪から放たれている妖気はあの大妖怪の妖気とまったく同じだったからだ。

大妖怪は少し黙り込んだがすぐに口を開いた。

 

「…だから、うぬらに何の関係ある」

 

「おおありだ、本体じゃないと戦う意味は…!」

 

黒夢は飛んでくる何かを感知すると霊気の壁を作り攻撃を防いだ。

そしてその何かが放たれた先には…目の前にいる大妖怪とまったく同じ見た目をした妖怪が100を超えた数で並んでいた。

どうやら下にいたコピーたちのようだ。

 

「うぬらはこの戦いに参加しないはずではないのか?」

 

目の前の大妖怪は現れた妖怪たちに言う。

すると、その質問を答える男があらわれた。

その男は白髪で黒い肌をした30代ほどの見た目だ、目は大妖怪と同じように赤い目で服の上からもかなりの筋肉質なことが分かる。

 

「このままでは君が負けてしまう可能性があるからね。手を出させてもらったよ。豪」

 

豪と呼ばれた大妖怪は現れた男を睨む。

 

「…殺」

 

豪は男を見ながらそうつぶやいた。

一方黒夢たちはかなりあせっていた。

今戦える数は二人。

キスメは気を失っており、陰陽玉を通して戦える佳奈美も旧地獄という悪条件からいつもの威力は出ない。

さっきの豪の戦い方を見る限りそれが101増えたと考えていいだろう。

現時点の第三形態の霊力開放は30分ほどしか持たない。

どう考えても30分じゃ始末しきれない。

 

「…うぬらの考えはよくわかった」

 

そう言うと豪は拳を構えなおし体から波動を最大限引き出す。

すると見る見るうちに消えていた左腕が生えてきた。

ありえないと黒夢は思った。

いくら波動が使えるとしてもまさか肉体を再生するほどとは思わなかったからだ。

 

「我は拳(けん)を極めしもの。それに他のコピーとは違い個人の魂をも手に入れた」

 

すると、豪が荒々しく出している紫色の波動がさらに増幅し辺りがそのせいか暗くなった。

 

「一瞬千撃」

 

そんな声がすると次の瞬間おびただしい数の拳で殴る音が聞こえてくる。

そして少しすると暗闇が晴れた。

すると100もいたコピーがすでにすべて倒されて床に倒れ伏せていた。

今立っているのは豪と殺、そして雷鬼と黒夢だけである。

 

「…これは何のつもりかな?豪」

 

殺は冷静な態度を見せながら豪に聞く。

 

「われは強きものと一人で戦うことを望む。そこにうぬらが関わるなら容赦はせぬということだ」

 

黒夢は豪がただ権力や富というくだらないものではなく戦い…死闘を望んでいることに戦いながら気づいていた。

だが、黒夢が佳奈美から聞いた話だと権力を求めているという。

そこの食い違いが黒夢は戦っていて気づいたが…ここで少々困ったことが増えてしまった。

それはさっき豪が言った自分の魂を持っているということだ。

つまり、豪はすでに殺の支配下から開放されて一人の妖怪になっていることが分かる。

もし殺を倒しても豪とは戦わないといけない。

…だが、今は殺を倒すことが優先となる。

なぜなら殺を倒さないと幻想郷に被害が出る。

ならば先に殺を倒してその後に豪と戦っても悪くないだろう。

 

「…雷鬼、先に殺を倒す」

 

「ああ、分かった」

 

雷鬼は黒夢の言うことにそう言ってうなづいた。

二人は殺を始末するため攻撃の態勢に入った。




一応補足
豪の見た目は豪鬼で殺の見た目はG・ルガールをイメージしています。
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