東方神主伝   作:ごくでヴぁる

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第二十九話 力を求めし者

今、この場の空気は一番緊張した形となっている。

敵は二人。

だが今は邪魔をしなくてもよい。

というか邪魔をしたら先に黒夢たちがやられる可能性がある。

豪という男は自分の戦いを邪魔するとおそらくその相手にまで矛先を向ける危険な男だ。

 

「では、はじめるとしようか」

 

そう言うと豪と殺は同時に豪がした特殊な移動法でぶつかり合った。

先に攻撃を仕掛けたのは豪。

殺の首を取るために移動が終わった直後に手刀を放つ。

しかし殺はそれを読んでいた。

少し体をそらして避けると豪の顔を掴んだ。

そしてそのまま走っていき豪の体を壁に叩きつけた。

しかし、豪も負けていない。

壁に押さえつけられているとき、押さえつけている右腕を豪が掴んだ。

すると、骨が折れる鈍い音が響き渡った。

そして力が緩んだとき豪は右の手のひらに紫色の波動をためて殺に放った。

殺は波動の勢いで吹き飛ばされ反対側の壁に激突した。

豪と殺がぶつかり合うたびに部屋が壊れていく。

もはや原型は残っていない。

黒夢たちは巻き添えを食らわないようにすることで精一杯だった。

 

「…くくくくくっ、ハーッハハハッ!!」

 

右腕が歪に折れ曲がった状態で殺は高笑いした。

そして左腕で右腕を掴むと強引に元の向きに戻した。

無理やり戻したせいか右腕からは血がこぼれ出る。

 

「豪、君はかなり波動を極めたようだね。ならば私が吸収するに値する!!」

 

「…吸収だと?」

 

確か肉片妖怪である殺の能力は『肉片を操る程度の能力』のはずだ。

それなのに今殺は吸収すると言った。

それはすなわち…

 

「(…くっ、能力を勘違いしてしまっていたというわけか!)」

 

黒夢は瞬時に理解した。

殺の能力は肉片を操るだけのちんけな能力じゃない。

はたまた肉体の高速再生もおまけにすぎない。

やつは…今までたくさんの能力者の力を吸収してきた。

おそらくそれは地獄に落ちてきた能力者達のことだろう。

ともかく、殺はたくさんの力を吸収してきたのだろう。

さしずめ『力を吸収する程度の能力』と言うべきか。

だが、それならまだ黒夢にも倒せる方法がある。

 

「…雷鬼、少し…頼みがある」

 

「何?」

 

「実は…」

 

黒夢は雷鬼に今から行うことを話した。

雷鬼は少し驚いたがいい案ではあると考えた。

能力を切り替える。

そして戦っている殺を見た。

今発動しているのは『何もかもを分析する程度の能力』だ

分析の結果、殺の体内にかなりの量のエネルギー体が存在していることが判明した。

それは能力によって無理やり縛り付けられていることまで分かった。

すなわちそれは…

 

「どうした!動きが遅くなってきているぞ」

 

「うぬに心配される必要はない!」

 

二人の攻防は続いている。

しかし、少しずつ豪が押され始めた。

肉体の再生はオリジナルである殺の方が断然上。

それに殺は豪以上の天才的な格闘センスにより豪の技を少しずつコピーしている。

殺の波動の塊が豪に向かう。

豪は移動法で避けるが移動した先には殺が立っていた。

そして、手を突き出すと豪の腹部に突き刺した。

 

「ぐぅ!?」

 

腹部に痛みが生じた。

そしてそれと同時に自分の力が奪われていく感覚を感じた。

突き刺した手から豪の力を吸い取っている。

 

「フフフッ、これはすばらしい力だ!私の波動が高まっていくのを感じる!!」

 

豪の力を吸収すると同時に殺の波動が膨れ上がる。

しかし、そのとき!

 

「…ムッ!?」

 

力を吸収している右手に誰かが触れた。

それはさっきの豪との戦いのダメージがまだ残っている黒夢だった。

そして、殺は触れられたと同時に力の減退を感じた。

それはまるで体から力が放出されるようだった。

 

「グッ…離れろ!!」

 

殺は自分の力を失うということに危機感を覚えた。

力を失わないために殺は左手に波動をこめて黒夢に放った。

しかし、波動が黒夢の体に触れたとたん周りに拡散して消滅した。

黒夢の非干渉が波動をも非干渉にしているのだ!

波動が効かないことを知ると殺は左手で黒夢を殴り飛ばそうとした。

しかし、その左腕は雷鬼に掴まれて動かせなくなった。

 

「ムッ、クアアアアアアアア!」

 

だが、殺は体中からどす黒い波動を噴出した。

 

「ぐっ…」

 

「っあ…」

 

雷鬼と黒夢はそれにより弾き飛ばされた。

殺は瞬時に豪の力を吸い尽くすと豪を投げ捨てた。

右手は豪の血によって赤黒く濡れている。

その目はさっきよりも赤く染まっておりその中に怒りも見えた。

 

「貴様…貴様が私の力を…ゆるさん!」

 

殺はダメージによってまだ立てずにいる黒夢に向かった。

 

「死ねぃ!!」

 

回し蹴りをして黒夢を吹き飛ばす。

そして再び特殊な移動法を使いまわりこむと素手で黒夢の腹部を貫くように拳を突き刺す一撃を放った。

黒夢は口から多量の血を吐いた。

殺はそれを見てうれしそうに笑っている。

 

「こんなものでは腹の虫が収まらん!…そうだな、貴様の体を一つ一つちぎって食べていくというのも面白いな」

 

これから起こる事を思い殺はさらに笑みを浮かべる。

そんなとき、陰陽玉から火炎魔法が放たれた。

向こうから佳奈美が放てる一番の攻撃を出したのだろう。

しかし、それは殺の右手によって簡単に消されてしまった。

そして陰陽玉を掴むと両手で粉々に砕いた。

 

「これで、邪魔はできんな」

 

そう言うと殺は黒夢を右手で掴んで軽々しく持ち上げた。

そして額から出ている血を左手につけて舐める。

 

「ほう、なかなかだ。これは楽しみだな」

 

黒夢はすでにダメージが蓄積していて気を失いかけていた。

もはや能力を出す余力はない。

それに…もう、霊力を開放してかなり時間が経っている。

体に反動が来ていてもおかしくない。

 

「黒夢を…離…せ」

 

「…まだ生きていたか」

 

殺の背後に雷鬼がおぼつかない足取りで向かってきていた。

体中からは蓄積したダメージにより血が流れ出ておりダメージはかなりのものだと見られる。

おそらく今のままだとまともに戦えはしないだろう。

 

「そんな体で私に勝てるとでも思っているのか?」

 

黒夢を投げ捨てると殺は雷鬼の方へ振り向いた。

雷鬼は不敵な笑みを浮かべると左腕につけられている赤色の布を右手で掴んだ。

右手からはまるで拒絶しているかのようにたくさんの血が出る。

しかし、雷鬼はそのまま赤い布を破りさった。

すると、雷鬼の体に変化が訪れた。

幼かった雷鬼の体は殺に負けないほどの身長と体格になり服も大きくなった。

雷鬼は今、黒夢につけられた封印を解いた。

封印の証で小さくなっていた服も元の大きさに戻った。

殺からはさっきまでの笑みが消え警戒の体制に入った。

 

「うむ、やはりこれが一番よくなじむ。…さあ、最終ラウンドだ!!」

 

雷鬼の体から多大な妖気が吹き出る。

すると体についている傷はすべて回復した。

それは、まさしく鬼神と呼べる最強の鬼の姿だった。

 

「行くぞ!ザ・ワールド、時よ止まれ!!」

 

雷鬼がそう宣言すると周りの時間はすべて止まり雷鬼が支配する世界となった。

そして雷鬼は殺に近づくと腹部に大穴を開ける。

さらには、手の中に鬼火を出し殺の体を燃やす。

これだけで五秒経っている。

だが、まだ時は動き出さない。

 

「今の俺は絶好調だ!最大で今は時が二十秒は止まる!」

 

拳を構えると殺に殴る蹴るの打撃を加える。

その体はすでに原型がないほどのただの肉片となり果てていた。

 

「ふん、そして時は動き出す」

 

そして時は再び…動き始めた。

殺は燃えた肉片となって地面に落ちた。

しかし、数秒もすると体は完全に再生した。

 

「…ぐっ、まさか貴様ごときに」

 

殺は血まみれの姿で雷鬼を睨む。

雷鬼は腕を組んだまま殺を見ている。

 

「ふん、どうやら貴様は瞬間再生してしまうようだな。ならば…」

 

―おいおい、まさかその程度で私の力を操れた気になっているのか?―

 

雷鬼の頭の中に自分とまったく同じ声が響き渡る。

あの時と…同じだった。

平行世界の自分に体を支配されたときと。

 

「貴様には関係はない」

 

―いいや、大有りだな。貴様に私の力を好き勝手に使われるのは腹が立つ―

 

すると、雷鬼の体に変化が起こった。

体から少し傷ができてそこから血が出てきたのだ。

 

「貴様…まさか拒絶する気か?」

 

―貴様程度がこの私の力を操りきれると思っていたのか?まったく無駄な話だ!―

 

雷鬼は頭を抑える。

体にはどんどん傷が増えていく。

殺はそれをチャンスだと思った。

特殊な移動法で雷鬼に近づくと雷鬼の体を拳で掴む。

そして体から膨大な量のどす黒い波動が出ると周りが暗くなる。

そして多大なる拳の音が聞こえる。

その闇が晴れた後に倒れていたのは雷鬼だった。

 

「ハッハア!!」

 

そして雷鬼を掴むとそのまま壁に叩きつけた。

雷鬼の体から多大な血が流れ出る。

そしてそのまま地面に倒れた。

 

「ふん、口先だけだったな。所詮は無駄だったというわけだ」

 

「いいや、無駄じゃなかったな」

 

殺は驚いて声のする方へ振り向いた。

そこには自分の血で濡れた神主服を着ている黒夢が立っていた。

 

「馬鹿なっ!?貴様は確かに」

 

「ああっ、確かにダメージは大きかった。だけどな…痛みの干渉を封じればどうってことは無い」

 

だが、能力の発動には時間がかかってしまった。

霊力の封印もすでに1式まで解いている。

だからこそ雷鬼の戦いは致命傷を与えられなくとも準備までの時間稼ぎにはなってくれた。

 

「さあ、はじめようか」

 

黒夢は手の中に霊破槍を出すと殺をにらみつけた。

殺は目の前に血で濡れた右手を出すとそのまま握り締めた。

 

「ならば、お手並み拝見と行こうか」

 

二人の戦いが、激化する。

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