東方神主伝   作:ごくでヴぁる

31 / 41
第三十話 行く道は

「(…余裕ぶってはいるが、ダメージが蓄積していてやばいな)」

 

黒夢の体はもはや限界に近い。

あばらの骨が何本か折れている上に左腕の骨にひびも入っている。

さらには出血による貧血など、もはや立っているほうがおかしいほどの怪我をしている。

いくら痛みの干渉を封じても体のダメージが消えるわけではない。

ただ痛みを感じないだけでは、体がもたない。

おそらく攻撃できるの後数分ぐらいだろう。

 

「(なら、最初から全力で行くしかないか)行くぞ」

 

血で濡れた手で黒夢は札を持った。

殺はそれを不敵な笑みを浮かべながら見ている。

どうやら、黒夢の状態に気づいてしまったようだ。

もう、時間はない。

 

「八方、鬼縛陣!!」

 

「ぐっ…」

 

すると、殺の周りを霊気の結界によって包まれる。

そして殺は身動きができないようになった。

どうやら、雷鬼が時を止めている間に準備をしたようだ。

 

「さて、これで好きにやれる」

 

黒夢はぼろぼろの体を引きずりながら殺へ近づいていく。

殺は鬼縛陣によって身動きができない。

黒夢は息を切らしてはいるが殺の目の前にいた。

 

「…行くぞ、これでお前の力は無くなる」

 

黒夢は非干渉を宿した右腕を殺の体へと突き刺した。

すると、殺の体から多大なエネルギーが放出される。

だがこれに攻撃性はなく、ただ…力がなくなっていくのを実感させる。

 

「ぐああああああああ!!!!この、私の力がっ!!消えていく!?」

 

殺はうめき声を上げる。

だが、体はその意思に逆らいまるで首から下は石像のように動かない。

そして鬼縛陣が解ける10秒前、黒夢は突き刺した右腕を引き抜いた。

その右手は自分以外に殺の血で濡れている。

そして黒夢は札を手にした。

その札は霊破槍となる。

 

「…案外あっけなかったな」

 

そうつぶやくと黒夢は霊破槍を殺の腹部に突き刺した。

しかし、殺はうめき声一つ上げなかった。

そのことに黒夢は少し疑問に思った。

だが、次の瞬間!

黒夢の体に殺の蹴りが直撃した。

攻撃の勢いにより黒夢はそのまま壁に叩きつけられた。

黒夢は叩きつけられた衝撃で一瞬呼吸ができなくなった。

顔にこびりついた自分の血を手でぬぐう。

そして再び立ち上がると殺の方を見た。

そこには、赤い目が不気味に光っている殺がいた。

 

「グオオオオオオオオオ!!」

 

すると、まるで野獣のような雄たけびを上げた。

殺の体から放たれる妖気は豪が使っていた力とよく似ていた。

しかし、その妖気は安定しているとは到底言えないほど暴走していた。

おそらく、一時的に能力を非干渉にしたせいで失った力の中で唯一残った豪の力が暴走しているのだろう。

 

「チッ、どうするかな」

 

痛みがないにしてもダメージはさらに蓄積された。

このままでは黒夢が先に倒れてしまう。

だが、ここで殺を倒さなければならない。

黒夢は服の中から札を出し、両手でそれを掴む。

そしてその札に霊気をこめる。

 

「…行くぞ!」

 

すると、札にこめられた霊気が赤と白に染まっていく。

今出せる、黒夢の最大の一撃。

それを放つ準備は完成した。

 

「夢想封印!!」

 

紅白の色をした鮮やかな弾幕が殺に襲いかかる。

殺は弾幕を片足を上げてまるですべるかのように移動して避ける。

豪も使っていた技だ。

しかし、弾幕は終わらない。

殺の移動に対して的確に弾幕を飛ばしていく。

そして、弾幕が殺へと突き刺さる。

 

「グルアッ!?」

 

獣のようなうめき声を上げる。

だが、まだ攻撃は終わらない。

 

「陰陽鬼神玉!」

 

黒夢の手から巨大な陰陽玉の形をした霊弾が放たれる。

夢想封印を喰らい少し隙ができた殺に直撃した。

 

「グッアアアアアア!?」

 

体が千切れていくが再生しない。

どうやらあの再生自体も吸収した能力の力だったようだ。

すでに体の半分ほどは消えてしまっている。

 

「…止めだ」

 

黒夢の手の中に霊破槍が現れる。

だが、その霊破槍は黒夢の体よりも三倍ほど大きい巨大な槍だった。

 

「霊破槍!!」

 

霊破槍は殺を包み込んだ。

殺は、黒夢の霊気に飲み込まれ消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ…」

 

ダメージが蓄積したのが一気に出たのか、はたまた霊力の開放のせいか…もしくはその両方の影響で黒夢は気を失いそうになる。

だが、何とか意識を失わず膝をついている状態となっている。

そのとき、誰かが動く気配を感じた。

その気配はさっきまで戦っていた妖怪である殺の人形達だった。

そして向こうの扉があった場所にもたくさんの妖怪がいた。

 

「チッ、もはやここまでか」

 

黒夢らしくないが勝てないということは分かっていた。

殺との戦いで死力を使い果たしたからだ。

だが、このままあきらめる気もない。

黒夢は今にも倒れそうな体を起こした。

そして、体から霊気を放出する。

もはや神を宿すほどの集中力はない。

それに旧地獄とあって神との通信状態は最悪だ。

だが、今の黒夢はダメージだけでなく開放している霊気によって体が破壊されかねない。

なので体から霊気を放出することで最低限に抑えている。

妖怪たちはその姿を見ると恐怖を感じた。

一目見ればかなりの致命傷を負っているのは分かる。

だが、そんな怪我すらないように見えるほどの力の差を妖怪たちは感じていた。

 

「…どうした?こないのか」

 

そう言うと黒夢は妖怪たちへ近づいていく。

そんな黒夢に最初に攻撃を仕掛けたのは殺の人形だった。

黒夢を引きちぎるために牙を向ける。

だが、黒夢は少し体をそらすだけで攻撃を避けた。

そして人形の頭を掴むと体内に霊気を流し込んだ。

その膨大なエネルギーに耐えられなかった人形はまるで風船のように膨らんで破裂した。

黒夢の体は破裂した妖怪の血で濡れる。

その姿は人間が言う妖怪にも思えた。

 

「俺は、ここにいるんだぞ」

 

妖怪たちは、恐怖心に駆られて一斉に黒夢に襲い掛かる。

だが、その攻撃が黒夢に通ることはなかった。

なぜなら…

 

「ふん、弱いな」

 

攻撃をしてきた妖怪たちを雷鬼がすべて吹き飛ばしたからだ。

それは、妖怪たちはおろか黒夢も驚いていた。

雷鬼はあの時確かに能力に汚染されかけた。

だが、今は雷鬼の精神力が上回り能力を操作している。

その理由の一つにのっとろうとしていた意思がいた状態で殺の攻撃を受けたというのも大きい。

そのときにその意思はダメージを受けてしまったためのっとられずにすんだ。

 

「下がっていろ黒夢。ここは俺がやってやる」

 

そう言うと雷鬼は床に足を叩きつける。

すると床はひびが入り雷鬼と黒夢とヤマメのいる場所以外はすべて砕け散った。

妖怪たちはすべて地面へと落ちていく。

そのとき、落ちていく妖怪を踏み台にして雷鬼へとやってくる気配を感じた。

その混じり気のない殺気を感じた雷鬼は殺意のする方向を見る。

そこには、あの時殺に力を吸収されたはずの豪がいた。

殺が倒された瞬間、吸収していた豪の力は解放された。

そのときに豪の肉体が自分の力を取り戻したことにより蘇ったのだろう。

 

「強者と戦うことが我の望み」

 

豪は足に波動をこめると雷鬼に強力な蹴りを入れる。

しかし、当たる寸前で…豪の動きが止まる。

よく見たら豪だけではない今地面に落ちていく妖怪たちや瓦礫などのすべての動きが止まっているのだ。

 

「ザ・ワールド。時は止まった」

 

雷鬼は時の止まった空間の中で豪を見る。

すると、うれしそうに笑った。

 

「ふん、やはり復活してきたか。…面白い」

 

そう言うと雷鬼は右腕で豪の蹴りをそらす。

そして腹部に力をこめた右拳をたたきつけた。

 

「そして時は動き出す」

 

豪は拳の勢いで吹き飛んでいく。

しかし、波動を飛んでいく逆の向きにうつことで方向転換し波動を雷鬼の足場に当てた。

雷鬼のいた足場は崩れ地面に落ちていく。

しかし、雷鬼は崩れていく岩を足場にして移動していく。

そして豪の近くに来ると岩を力をこめて踏み豪に飛びかかる。

 

「あのときのダメージのお返しだ」

 

右手に妖気が渦を巻いて纏われる。

そして右手に力をこめると豪に殴りかかった。

豪も体に波動をこめると力を籠め一点に拳を放った。

拳同士がぶつかり合う。

二人の拳圧で飛んでくるものはすべて吹き飛んでいく。

競り勝ったのは…雷鬼だ。

豪はそのまま吹き飛ばされ地面に勢いよく叩きつけられた。

 

「…まだ、だな」

 

土煙が上がった場所から豪が飛び出した。

しかし、雷鬼のところへは行かず少し離れた場所に着地した。

雷鬼は少し疑問に思う。

 

「…なぜ、俺のところに来ない」

 

「さっきの戦いでお互いにダメージを受けた。これでは満足のいく戦いはできん。…また今度にさせてもらう」

 

そう言うと豪は地霊殿を去っていった。

後を追う必要はない。

なぜなら、

 

「…チッ、勘のいいやつだな」

 

雷鬼もさっきの戦いと能力のこともあり肉体的にも精神的にもダメージが大きいからだ。

このまま戦ったらお互いに手痛いことになるだろう。

 

「まあ、いい。とりあえず黒夢の治療をしないとな」

 

雷鬼は黒夢のいる場所に戻ると怪我の具合を見る。

霊気の封印はもうすでに終えているらしくそれは問題ない。

だが、怪我がかなりひどく出血が止まっていない。

この状態でまだ生きているというのだから驚きである。

骨も折れている臓器にはギリギリ刺さっていない。

悪運がいいとしか言いようがない。

 

「…チッ、時よ止まれ」

 

そう言うと周りの動きはすべて止まった…黒夢もだ。

どうやら常時発動の非干渉まで使えないほど弱っているらしい。

だが、逆に好都合だった。

雷鬼は黒夢を背負うと俊足で移動する。

時の止まっている間ならどれだけ早く走ろうが黒夢にダメージはない。

30秒経過して動き出すともう一度時を止めて移動する。

それが数回続いたときには、博麗神社についていた。

雷鬼は居間のふすまを開けた。

 

「魔法使い!早く黒夢を治療しろ」

 

そこには、陰陽玉が破壊され補助することができなくなった佳奈美がいた。

佳奈美は黒夢に駆け寄る。

 

「…ひどい傷。わかった、すぐに治療する!」

 

佳奈美は精霊の力を借り回復魔法を黒夢に使う。

回復魔法では完全に治すことはできない。

しかし、応急処置ぐらいにはなるだろう。

雷鬼は黒夢の様子が安定したのを見ると安心したようにため息をついた。

 

「…また、何もできなかった」

 

佳奈美のつぶやいた言葉に雷鬼は少し反応する。

たしかに、あのときの戦いでは佳奈美は正直何もできなかった。

黒夢を守ることすらも…

 

「ふん、くだらん。貴様はその言葉であきらめるのか?」

 

雷鬼は嘘をつかない。

なぜならつく必要がないからだ。

今の言葉もそうだ。

何もできなかった、だからあきらめる?

そんなことは雷鬼の中にはない。

何もできなかったときは、その後に何かできるようにするだけだ。

 

「貴様は黒夢を死から救った。それは何もできなかったとでも言うのか?」

 

「!」

 

おそらく雷鬼には傷を癒す術はなかっただろう。

なぜなら雷鬼は体力と精神力をかなり消耗していたから。

だからこそ、佳奈美のことを知っていたのは不幸中の幸いだった。

 

「そこまで落ち込む必要はないということだ」

 

雷鬼はそう言うと大きくあくびをした。

そして眠いと一言つぶやくと畳の上で横になった。

そして数秒もすると寝息が聞こえた。

どうやらかなり疲れがたまっていたようだ。

 

「…まさか、雷鬼に励まされるなんてね」

 

佳奈美は少し笑っていた。

だが、その笑みにあきらめはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は幻想郷を放れた森の中。

その中にまるで鬼のような顔つきをした男がいた。

そう、豪だ。

地底から去った後豪は一人で幻想郷から放れた森の中まで来ていた。

 

「…まだ我は未熟だ」

 

いくらオリジナルだからとはいえ豪は殺に負けた。

そのことは豪の中で敗北として残っていた。

下手をすれば死んでいた。

 

「やはり、鍛えなおす必要がある」

 

豪は森の奥へ進んでいく。

その道の先になにがあるかは分からない。

ただ、強さだけを探していくだけだ。

たとえその先にどんな修羅の道が待っていようと。

未来は_____誰にも分からないのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。