「ふわ~あ…朝か」
少し寝癖のついた頭をかきながら黒夢は布団から出る。
昨日は深夜まで妖怪退治に明け暮れていたため寝不足だった。
…ここ数年で黒夢を取り巻く環境は変わった。
まず、親友であった佳奈美は捨虫の魔法で完全に魔女となった。
そしてさらにたくさんのものを見て行きたいと言って幻想郷の外へ行った。
萃香も最近じゃ霧となって幻想郷中を見ているらしい。
…時々博麗神社の縁側で酒を飲んでいる姿を見るが。
華扇は仙人として人に教えを伝えていっているらしい。
そのようなこともあって博麗神社にあまり人や妖怪が来なくなっていた。
黒夢はあまり気にしてはいないらしいが。
髪を整えていつもの神主服に着替える。
今日は朝から神社の境内を掃除する予定だ。
箒を取り出すと黒夢は賽銭箱の前に来た。
そのとき、賽銭箱の上に一人の赤ん坊が置かれているのを見つけた。
赤ん坊はゆりかごの中ですやすや眠っている。
「…は?何で赤ん坊がこんなところに」
そんなことを口で言ったが理由はなんとなく分かっている。
黒夢ほどではないがこの赤ん坊からはふつうの人間とは比べ物にならないほど霊気が宿っている。
おそらく、幼少時代の黒夢と同じように…親に捨てられたのだろう。
しかし、その親にもまだ情が残っていたようで同じような存在である黒夢の元へ置いていったのだろう。
その証拠に、ゆりかごの中にお金が入っていた。
…黒夢は赤ん坊を見る。
こんな状態でも寝ているとは図太い精神を持っている。
そういう印象を持った。
参ったなと一言つぶやくと黒夢はゆりかごを持って神社の中へ戻っていった。
今日は掃除ができそうになさそうだ。
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博麗神社には特殊な結界が張られている為並みの妖怪はまず入ることができない。
入れるとすれば大妖怪などの大きな力を持ったものや黒夢がその結界をいじって入れるものとして登録するぐらいである。
なので、赤ん坊も妖怪に襲われずにすんだのだろう。
そこまで見越して親が博麗神社に置いたのかどうかは分からない。
だが、結局子を捨てたのだからいい親とはいえないだろう。
黒夢はゆりかごの中でいまだに眠る赤ん坊を見ている。
今まで黒夢は子供というものに関わったことがない。
人里ではあまり人とは関わらないし、子供には避けられているから当然といえば当然だろう。
だから、少し怖がっていた。
自分のような存在が触れてもいいのか…そういう迷いがあった。
とりあえず、赤ん坊をゆりかごから出して抱っこをする。
まだ首が据わっていないので頭を少し腕で支えながら抱き上げる。
赤ん坊からは暖かい体温を感じた。
しかし、それと同時に妙な違和感を感じた。
体温が少し高すぎる。
しかし、しばらく黒夢が触れているうちに体温は少し下がった。
このことから黒夢は一つの推測を立てた。
霊力の操作ができていないのではないか…ということだ。
つまり、赤ん坊の頃から霊力が強力なゆえに体に影響が出ているのだろう。
…おそらく微熱という形で。
とりあえず、霊力の操作を教えられる年齢になるまではしばらく世話をしておこうと考えた。
「…まずは、食事の支度をしないと。…赤ん坊は何を食べるんだ?」
しばらく考えても分からなかったので黒夢は慧音に聞くために人里へ向かう。
赤ん坊は布を体に巻きつけてそこに入れた。
そして落ちないことを確認すると黒夢は人里へ向かって飛び始めた。
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「…お前、いつ子供を作った!」
「違う」
赤ん坊を抱えてやってきた黒夢を見て慧音は手に持っていた筆を落とした。
それほど、驚くことということだ。
その後に慧音が言ったのはその一言だった。
黒夢はすぐに否定する。
そして事情を説明した。
慧音は少し考えると部屋の奥から穀粉を取り出した。
「さすがに母乳は手に入らないだろうからな。これを煮て冷ましてから赤ん坊に飲ますといい」
慧音はそれから赤ん坊の育て方、必要なもの、衣類まですべて教えてくれた。
それで3時間ほどかかったが。
とりあえず、帰りに赤ん坊の服と穀粉を買って帰宅した。
神社に帰ると早速穀粉をお湯で煮てから赤ん坊が飲めるぐらいの暖かさにする。
そして容器に移すと赤ん坊に飲み始める。
赤ん坊はお腹が空いていたのかすべて飲み干した。
そしてお腹がいっぱいになったのか赤ん坊は眠った。
とりあえず、寝ている間に赤ん坊の服を着替えさせる。
着替えを終えると黒夢は赤ん坊を抱き上げた。
「…女の子だったのか」
このとき、黒夢は初めて赤ん坊の性別を理解した。
とりあえず、これから赤ん坊の世話をしていかなければいけないので不安が大きい。
だが、それより不安なのが…
「やっほー、遊びに来たわよ黒…夢…」
…黒夢の親や知り合いに知られることだ。
紫は驚いた様子で固まっている。
神社の中にはスキマで入ってきたようだ。
ちなみに神社自体は紫の境界操作では入れるが倉庫だけはスキマを開けて入る事はできない。
それは倉庫の方が敷地的に狭いことが関係しているが…今、その話は関係ない。
黒夢はしまったという様子で頭を抱えた。
「いきなりスキマの前で止まるなよ、ゆか…り…」
さらにはコルテスまでやってきた。
黒夢はさらに頭を痛くする。
「…今説明する」
黒夢はため息をつきながらそう答えた。
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「へえ、あなたが子供を…ねぇ」
「…なんだよ」
本当にできるのかという目で紫たちに見られた黒夢は不機嫌そうにしている。
「まあまあ、黒夢ももう大人なんだから流石に子育てぐらいできるって」
コルテスは紫にそう言った。
こういうときだけはコルテスがいるのは助かる。
…いつもはあまり何も言わないのでいろいろと困るが。
「…それもそうね。黒夢、子育てで何か困ったこととがあったら私たちに言いなさい」
「ああ、そうさせてもらう」
なんだかんだで黒夢は心配されていることを嫌ってはいない。
この二人を嫌いになることなんてありえないのだから。
その後、赤ん坊は紫とコルテスを見てもあまり驚くこともなく笑っていた。
それを見て黒夢は将来大物になるなと内心思っていたのは内緒だ。