子育てを始めてからすでに一週間が経っていた。
最初は四苦八苦だったがいまではだいぶ慣れている。
そんなある日、黒夢はあることに気づいた
それは、赤ん坊の名だ。
子育てで忙しすぎて余裕ができたときにようやく思い出したものだった。
しかし、黒夢は今まで名前を考える機会はなかった。
つまりどんな名前にするかまったく考えていなかったのだ。
しばらく考えた黒夢は赤ん坊にこういう名前をつけた。
霊夢、『博麗霊夢』と。
黒夢は霊夢を愛情をこめて育てた。
それこそ血のつながった本当の娘のように…いや、黒夢にとっては本当の娘だったのだろう。
そして今日は霊夢が1歳になった誕生日だ。
「もう1歳か、…子育てには苦労したが育ってくれてよかった」
そう言うと黒夢は布団で寝ている霊夢の頭をなでた。
今日は知り合い総出で霊夢の誕生日会を行った。
いつも元気な霊夢だったが今日はいつも以上に元気にしていた。
そして今は遊びつかれて眠っている。
そんな様子を見ると黒夢は少しため息をついた。
それは、霊夢のことではなく別のことでのため息だった。
数日前黒夢はコルテスにある札を渡されそれを幻想郷中に設置した。
その札は設置させるだけで宿らせた能力をその場所に浸透させるものだ。
黒夢はその札を結界として機能するように設置した。
だが、まだそれは結界として起動していない。
表上の理由としては幻想郷の一角を支配する妖怪たちや人里の人間に伝えていないというのがある。
しかし、本当の理由は結界を発動する膨大なエネルギー…つまり動力源だ。
本来なら龍脈を使い結界を起動させようとも黒夢は考えた。
だが、それをするにはまず龍神の協力が大前提だ。
幻想郷の龍脈は特殊なもので龍神によって作られたものだ。
それを勝手に使うなどという考え方が人間、妖怪の中に浸透してしまっている。
それ以外にも龍脈を結界に組み込むこと自体それこそ数百年という年月が必要となる。
今すぐにも起動させておかなければならない結界にそれほどの時間はかけすぎだ。
なので、黒夢は念のために考えていたもう一つの方法を使うことにした。
それはコルテスにエネルギーを結界の元に流す札を用意してもらいそれを黒夢がいつもの封印の一段階の代わりに持つというものだ。
…つまり一定量の黒夢の霊気を流し続けることで起動するためのエネルギーを補充するというわけだ。
黒夢はその札を毎日持ち続けているためエネルギーは着々とたまっているようだ。
しかし、それでも結界を完全に完成させるにはまだまだ足りない。
だが、そのエネルギーは大体10年ほど経てば満たされる。
「…ッ!ゴホッ、ゴホッ!」
黒夢は口を手で押さえると咳き込んだ。
そして咳き込んだ口を押さえた手には血がついた。
…ここ最近黒夢の体に異変が起きていた。
それは、黒夢の霊気が日に日に増えてきているということだ。
今では能力の封印すら間に合わないほど霊気が増えているため体に負担がかかってしまっている。
今の霊気の量はそれこそ大妖怪の妖気と同等かそれ以上の量宿っている。
黒夢の予想だともってあと1年ほどだろう。
しかし、その前に結界の完成はしなければならない。
なので黒夢は死ぬ前に自分の霊気をすべて結界に流し込む気だ。
だが、今ではそれ以上に気がかりなことがある。
それは霊夢のことだ。
おそらく黒夢の死後は霊夢が博麗としてやるだろう。
そうさせるために、黒夢は日々霊夢に札や霊気の使い方などを練習させている。
だが、霊夢はまだ1歳になったばかりの子供だ。
そんな子供を一人残していくのは心もとない。
仕方なく後のことはコルテスたちに任せるしかない。
「…まあ、お守り代わりに今のうちに渡しておくか」
そう言うと黒夢は手の中に野球ボールほどの大きさをした霊気の塊を出した。
そして眠っている霊夢に近づくとそれを霊夢の体内に入れた。
すると霊夢の体は一瞬だが黒夢の霊気に包まれる。
そして、霊気が消えると完全に黒夢の霊気はどうかしていた。
通常、霊気とは人それぞれ変わるものでそれを無理に入れようとすると拒否反応が出て体に障害を負ったりする。
黒夢が妖怪に自分の霊力をこめて爆発させることができたのもそれが理由である。
なのに、なぜ霊夢に異常がないというとそれは霊夢が持っている能力のおかげである。
霊夢の能力は受け継ぐ程度の能力。
つまり、さっきのは黒夢の霊気を同化させたのではなく受け継ぐという形で霊気を取り込んだということになる。
ちなみに、霊夢はまだ自分の能力に気づいていない。
だが、おそらくしばらく経てば理解するだろう。
「…わがままを言うともう少し、娘の成長を見届けたかったのだがな」
ため息をつくと黒夢は霊夢の寝顔を見ると少し微笑むと隣に布団を引き眠りについた。
黒夢の死期は、もうすぐそばにまで近づいてきている。
▼
「霊夢、朝だぞ」
「ん~」
黒夢は着替えを終え朝ごはんを作ると霊夢を起こすために声をかけた。
しかし、霊夢はまだ寝たいという風に声をあげた。
少しため息をつくと黒夢は無言で霊夢の寝ている布団を引っ張った。
すると、
「ふにゃっ!?」
布団で寝ていた霊夢は布団から引きずり出された。
霊夢は畳に転がる。
少しすると、頬を膨らましながら起き上がった。
「もう、そんな起こし方しないでよ!」
そういいながら黒夢の足のところぐらい(まだ1歳なのでここまでしか届かない)をぽこぽこ叩き始めた。
「悪かった、とりあえず朝ごはんができたから食べるぞ」
「…うん」
まだ少し怒った様子で霊夢は走って食卓へ向かった。
黒夢は歩きながら霊夢の後を追った。
▼
食事を終えるとまず黒夢は霊夢にいつもと同じように霊力の使い方、そして妖怪と戦うための札などの特訓をする。
霊夢もこれは自分のためだと考えて行っている。
そのおかげもあり着々と実力を上げてきている。
特訓を終えると霊夢は疲れきったのか縁側で眠ってしまった。
黒夢は霊夢に掛け布団をかけると縁側に座り持ってきたお茶を飲み始める。
すると、黒夢の隣にスキマが開いた。
黒夢はスキマを見ると少しため息をつく。
「…コルテス、何のようだ?」
「…ハッハッハッ、やはりばれているか」
すると、スキマの中からコルテスが笑いながら出てきた。
一応これも彼のジョークの一つなのだが、
「相変わらず趣味が悪い」
…彼のジョークはいつも趣向を凝らしすぎて別の方向に向かっている。
一応今日はまだマシな方で突然机の下に瞬間移動してきたり、かまどに入れてある釜から出てきたり…と自分の能力を無駄に活用してくる。
まあ、そこが彼らしいところなのだが…一応。
「趣味が悪いとは失礼だな、これこそ俺の真骨頂!俺の力を使い無駄なことをするのが生きがいだ!」
「いや、もういい」
いつものことだがコルテスに振り回されてため息をつく。
しかし、なんだかんだで黒夢もコルテスが嫌いなわけではない。
一応自分の育て親なのだから嫌いになれるはずもない。
「…ところで、何のようだ」
「ああ、今回はお前に少し伝えたいことがあってな」
そう言うとコルテスは黒夢に近づくと耳元で用件を言った。
聞いていた黒夢は驚いた表情をする。
「本当なのか?」
「ああ、間違いない」
黒夢は顔をしかめた。
滅多にそんな表情をしないのでそれほど大変なことだということが分かる。
「…有余は?」
「大体1年ぐらいが限界だ」
黒夢は頭を乱暴にかいた。
そして大きなため息をついた。
「…分かった、準備をしておこう」
「ああ、じゃあな」
そう言うとコルテスはスキマの中に入って帰っていった。
黒夢は真剣な表情をしながら寝ている霊夢の頭をなでた。
博麗神社の境内に冷たい風が流れ去っていった。