東方神主伝   作:ごくでヴぁる

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第三十五話 別れ

ルーミアがストームブリンガーを一振りすると、それだけで森の一部の木はすべて消滅した。

黒夢はその攻撃を紙一重でかわした。

それでも攻撃の余波は伝わっていた。

黒夢の皮膚を刺すような衝撃が来る。

それを感知するとすぐに札で結界を作り衝撃に耐えた。

しかし、ダメージは抑えることはできたが勢いで吹き飛ばされた。

黒夢は空中で受身を取る。

 

「アハハハ!!どうしたの、その程度?」

 

ルーミアの周りには闇がうごめいている。

おそらく、ルーミアの能力が発動している影響だろう。

黒夢は札を投げると走り出した。

そして、能力で封じた霊力の枷をはずした。

黒夢の体から多大なる霊力が漏れ出る。

今、すべての霊力を開放した。

その量はもはや人の域を超えている。

しかし、その強大な力に黒夢の体は長くは耐え切れない。

おそらく、もって10分が限界だろう。

もちろん黒夢もそのことを十分に分かっている。

だから、体外に霊気を放出することでギリギリの状態で停滞させている。

 

「…行くぞ」

 

黒夢の手の中に霊気が集まっていく。

その量は幽霊や亡霊の持つ霊気の量を超える。

そして霊気は槍の形に構築されていく。

 

「霊破槍」

 

霊気の槍をルーミアに向かって放つ。

すると槍はかなりの速さでルーミアに近づきルーミアを貫いた。

ルーミアの腹部には青白い槍が深々と刺さっていた。

 

「グッ…」

 

痛みで少し声を漏らした。

黒夢は霊気の槍を作り出し何度もルーミアに投げつける。

ルーミアの周りにたくさんの槍が雨のように降り注いだ。

そしてルーミアに突き刺さると、突然幻想郷の周りが青白い光に包まれた。

その光は幻想郷を包み込むような形だ。

 

「力を全開にして注ぎ込めば結界も発動すると思ったのだが、どうやら上手く発動したようだ」

 

そう言うと黒夢は懐に入れておいた一枚の札を投げ捨てた。

それは結界にエネルギーを供給する霊気の封印の代わりにしていた札だ。

これを通して黒夢の完全に開放した霊気を結界に送り込んでいた。

 

「…ナンデ、ナンデキヅツケルノ!」

 

ルーミアの目から光が失われる。

さっきも黒夢に攻撃されるという衝撃で軽く暴走状態だったが、今はそれすらを越えた。

おそらく完全に能力が暴走してしまっている。

黒夢は少し顔を曇らせた。

しかし、すぐに霊破槍を構えるとルーミアを見た。

ルーミアは目線を地面に向けたままぶつぶつ何かつぶやいている。

そしてうつろな目でストームブリンガーを構えた。

すると、瞬きをしたときにはもう目の前にストームブリンガーを振り下ろそうとするルーミアがいた。

黒夢は本能のまま体をそらす。

結果、致命傷は避けたが左手首を斬りおとされた。

そのまま斬られた左手首は闇に飲まれて消えてしまった。

すぐに痛覚の干渉を封じる。

そして体内の霊気を操ることで血液の流れを操った。

それにより出血による貧血になる可能性はなくなった。

しかし、手をなくした左腕はもう使い物にはならないだろう。

 

「…まだ、左手だけで済んだだけ運がいいか」

 

そう言うと黒夢はルーミアを見る。

ルーミアには先ほど持っていた霊破槍が右肩に深々と刺さっている。

先ほどの一瞬で致命傷を避けるのと同時に霊破槍で攻撃していた。

ルーミアは痛みのせいでストームブリンガーを手から離してしまっている。

落ちたストームブリンガーは深々と地面に刺さっていた。

しかし、まだ油断はできない。

未だにルーミアの周りにはどす黒い闇が広がっているのだから。

黒夢は周りに札をばら撒くと霊気を手のひらに集め圧縮していく。

そして野球ボールほどの大きさに圧縮された霊気の玉をルーミアに向かって放った。

ルーミアはまるで獣のように飛び上がりよけた。

そして地面に当たった霊気の玉は地面をえぐり大爆発を起こす…はずだった。

地面に当たると霊気の玉はその場で爆発はせずにまるで泥団子のようにあたりに砕け散った。

そして砕け散った霊気は事前にばら撒いていた札に砕けた霊気が吸収され霊気によって札の効力が発動する。

その効力は、拘束。

 

「八方鬼縛陣」

 

ルーミアの動きを再び封じた。

暴れて無理やり振りほどこうとするが先ほどの拘束よりも強力なようだ。

どれだけ暴れても壊れることはなかった。

そして黒夢は霊気を体から出しルーミアに近づいていく」

 

「夢想天生」

 

黒夢の周りに霊気で構築された陰陽玉が現れる。

陰陽玉は回転の速さを増していく。

 

「ッア…コクム…」

 

ルーミアの脳裏に昔の光景が現れる。

初めて黒夢に会ったときのこと。

一緒に遊び、時には喧嘩もした。

しかし、もう…そんな日々は戻ってこない。

ルーミアの目に涙が浮かんだ。

それを見たとき、黒夢は激しく動揺した。

そしてそれと同時に、黒夢は作り出していた陰陽玉にひびが入る。

『夢想天生』は心を無にすることにより人の域を超えた一撃を相手に放つ技だ。

つまり、心に不安や動揺があるとすぐに技の発動が失敗する。

そして…リミットがきてしまった。

黒夢の体に傷が現れ傷口から血が流れる。

 

「…まだ、完全に暴走していないのならこのぐらいか」

 

体から血を出しながら黒夢はゆっくりとルーミアに近づいていくそして懐から一枚の札を取り出した。

その札は封印用に強力な術式を書き記して作ったものだ。

それをルーミアの頭につけた。

するとそれは形を変えて、赤いリボンになった。

 

「悪いな、俺のことは忘れてくれ。お前を自分のために殺そうとした最悪な男だ、すぐ忘れることができるだろ」

 

ルーミアは何が起こっているのかわからなかった。

目の前に札を持ち体に傷ができていく黒夢。

そして意識が、自分がいなくなっていく感覚を感じていく。

何が起こっているのかわからないまま…ルーミアの意識は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーミアは意識を失い地面に倒れた。

そして同時にルーミアの周りにあった闇は消え去った。

封印に成功したのを確認すると、黒夢は木を背もたれ代わりにして腰を下ろした。

…もう立つ力もないといったほうが正しいだろう。

ルーミアの纏っていた闇は常人が少しでも触れただけで体に蓄積し死を早くする…いわば毒のようなものだ。

数年前の黒夢だったら非干渉の能力を使い完全に無効にできていただろう。

しかし、年をとり衰えていた黒夢は能力も衰えてきていた。

それにより、さっきの戦いは左手以外にもダメージがあった。

 

「…うーん、意識を失いそうだな。ま、このまま失えばルーミアに食われて終わりか」

 

不思議なことに、その声は死ぬ前のものとは思えないほど陽気な声だった。

正確にはあきらめの意味も入っているのだろうか。

そしてそのまま目を閉じていき意識を失って…いこうとしたとき、水色の髪が目に入った。

無理やり目を開けるとそこには、チルノが黒夢を見ていた。

よく考えればこの湖はチルノのテリトリーだ。

 

「…近い」

 

そう言うとチルノは少し離れる。

しかし、表情から不安な様子を読み取れる。

 

「何不安そうにしてるんだ…」

 

できるだけ不安にさせないように声を出した。

しかし、その声は普段よりも弱弱しかった。

 

「なんで、またあたいは独りになるの?」

 

チルノの言葉を聞き黒夢は昔のチルノを思い出した。

妖精からも、妖怪からも嫌われ居場所のなかった頃のチルノのことを。

少し考えると、黒夢は自分の神主服につけてある赤い布を取るとチルノの手の上に置いた。

もう能力が発動していないのか、触れた手は少し冷たさを感じた。

 

「これ、やるよ」

 

チルノはそれを見ると少しうれしく思った。

しかし、それは本当に少しで黒夢がいなくなるということにはかわりがないと思っていた。

 

「…いつかは、こんな日が来るとは思ってた」

 

チルノは赤い布を手で握り締める。

人間というものは妖精や妖怪と比べると寿命がかなり短い。

そのことをチルノは知っていた。

 

「でも、早すぎるよ!もっとそばにいてよ…」

 

チルノの目から大粒の涙が零れ落ちた。

その涙は冷たくなかった。

 

「…そう…だな。もし、俺がこの土地で生まれ変わったら…俺を見つけてくれないか?記憶を失っているかもしれないけどな」

 

そう言うと黒夢はチルノを頭をなでた。

しかし、それは普段とは違い弱弱しかった。

だが、チルノには黒夢の真意が伝わった。

 

「うん、わかった」

 

チルノは自分の手で涙を拭きながらそう答えた。

その様子を見ると、黒夢は少し安心したようで最後にこう言った。

 

「ルーミアと友達になってほしい。あいつは記憶を失い強くても中級の妖怪になっている。…だから、支えてほしい…あいつを。それと、コルテスにその布を見せれば記憶を消されずにすむだろう…今から行くんだ」

 

黒夢の言うことにうなづくとチルノはそのまま博麗神社まで向かった。

それを見届けると黒夢は安堵したようで息をついた。

 

「よかった…チルノに見せなくてすむ」

 

黒夢のすぐそばには空腹のルーミアが起き上がっていた。

それを見ると、黒夢はそっと目を閉じた。

…ルーミアが木にもたれかかって寝ているときには、すでにそこには骨ひとつ残ってはいなかった。




とりあえず、後一話で一部は完結です。
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