「嘘…よね、黒夢がもういないなんて」
博麗神社の室内。
その中に二人の男女がいた。
先ほどありえないという風に声を出したのは女性…八雲紫。
黙って紫を見ている男性…コルテス。
紫は涙を流している。
それは、今まで育ててきた息子同然の人間が亡くなったからだろう。
コルテスは紫の頭の上に手を置いた。
そして、
「…すまない」
コルテスの手が青白く光り……紫は気を失った。
気を失ったのを確認するとコルテスは自分の能力でスキマを開け入っていった。
……先ほどコルテスが使用したのは自分の能力だ。
その中でもコルテスは境界を操る程度の能力を使い記憶の境界を操った。
普段の紫ならともかく精神的に動揺している紫になら能力は簡単効くだろう。
…なぜ記憶を操ったかというとそれは、黒夢に関する記憶を消すためだった。
これからコルテスはある人物たち以外が持つ黒夢に関する記憶をすべて消してしまうだろう。
無論、消すのだからその記憶はもう二度と戻ることはない。
しかし、それを望んだのは黒夢自身なのだから仕方がない。
黒夢が亡くなったあの日の夜、チルノが黒夢の服にあった赤い布を持ってコルテスの元へやってきた。
そしてこう言った。
―せめて、あたいだけには!黒夢の記憶を消さないでほしい―
…と。
コルテスはそんなチルノの思いを無駄にはできなかった。
それと同時にコルテスはあることを考えた。
本当に黒夢がいたという痕跡すらなかったことにしていいのか…と。
良くも悪くも黒夢は影響力の大きい人間だった。
そんな黒夢を完全になかったことにするということは、重大な何かが起こるとも考えられた。
たとえば、黒夢が戦った妖怪達。
黒夢は隠していたが、代々博麗に伝えるためにその妖怪たちの力や能力などを記した書物が蔵の中で眠っていることはコルテスは知っている。
それじゃあ、そんな書物は誰が読むのだろうか。
誰が書いたかも知らない、そんな物を…誰が読みたがる。
おそらく、読まれないまま…ずっとあの倉庫の中にしまわれるだけだ。
それはつまり黒夢のいたことを…今までしてきたことを本当になかったことにしてしまう。
コルテスはそんなことはしたくなかった。
だから、コルテスは記憶を残しておく人物を決めた。
口が堅く、誰にもしゃべらないであろう人物に。
一人目はチルノ。
それは最後に黒夢が望んだから…という理由だ。
二人目は黒夢の娘である霊夢。
黒夢の書いた書物を受け継いでいくのは博麗でなくてはならない。
それと、彼女自身が覚えていたい…そう言ったからだ。
この二人の記憶を残し、それ以外の者の黒夢に関する記憶はすべて消した。
▼
「…本当に、これでよかったんだろうか」
記憶を消した後、コルテスは森の中を歩いていた。
コルテスは黒夢の遺言どおり記憶を消した。
しかし、コルテスは未だに悩んでいた。
…しかし、もう遅い。
みんなの記憶から黒夢は消えて記憶を持っているものは黒夢の事を隠し続けながら生きていかなければならない。
それは、つらいことだ。
もう後戻りはできない。
「……ああ、そうか。戻っただけだよな」
―黒夢が来る前に―
そうつぶやいている間にコルテスは目的地に着いた。
そこは妖精たちが住んでいる湖。
黒夢の亡くなった場所だ。
この場所で黒夢が亡くなった事を知る人間ももうほとんどいない。
そんな場所に一人の女の子が座っていた。
その子は金髪の髪をしており、頭には赤いリボンがつけられていた。
そして、服は長い間付着して変色した血で染まっていた。
コルテスには見覚えのある人物だった。
なぜなら、それは……力を封印されたルーミアなのだから。
「……なんだ、まだいたのか」
コルテスは少し驚いていた。
一方ルーミアは声をかけられたのに気づくコルテスに振り向いた。
口元には乾いた血がこびりついていた。
「…誰なのだー?」
ルーミアはコルテスを見るとそう言った。
どうやら記憶まで封印されたようだ。
「…ま、無くなっている方がいいよな」
「?」
コルテスの言っている言葉の真意をルーミアはわからなかった。
……いや、わかるはずもない。
なぜなら真意を理解できる記憶はすでに持ち合わせていないのだから。
コルテスはルーミアの頭を乱暴になでるとスキマを開け中から酒瓶を取り出した。
そしてそれをふたを開けると地面に撒き始めた。
「死人に墓参りさせるなんて本当に馬鹿だな、お前は」
そう言うとコルテスは空になった酒瓶を近くの木の根元に置いた。
そして、両手を合わせて少しするとコルテスは再びルーミアのところにやってきた。
そして、隣に座るとコルテスは口を開いた
「…今から話すことは、俺の独り言だ。だから忘れてくれてもかまわない」
コルテスは、ルーミアに話した。
黒夢が今までどのように生活してきたかを。
黒夢が今までつらい戦いを勝ち抜いてきたことを。
そして……黒夢の能力の減退のせいで霊力が黒夢の体が耐え切れなくなるほど肥大していったことも。
すべてを、話した。
ルーミアはすべて理解することはできていない様子だ。
コルテスは話を終えるとルーミアの頭に手を置いた。
「もし、お前が再び力と記憶を取り戻したときあいつを……黒夢を恨まないでやってくれ。…これは、俺の願いだ」
じゃあな、と一言言うとコルテスはルーミアの元から離れてそのまま森の奥へと消えた。
ルーミアはしばらくその場に座っていたが、立ち上がり酒瓶の置かれている木の根元で両手を合わせた。
「…黒夢…?誰なのだー」
ルーミアは少しすると合掌をやめてどこかに行った。
▼
これが、博麗黒夢に関する話。
今になっては誰も知らない物語。
唯一知っている人物たちも、このことを他言することはない。
しかし、物語は終わっていない。
この後に続くのは世界が
世界は……一巡する。
というわけで更新が遅くてすいません。
これで第一章 博麗降誕は完結です。
ちなみに、まだ黒夢が主人公の話は続きます。
しかし、それを書く前に物語の裏で動いていた彼について書かなければなりません。
というわけで、第二章ではコルテスが主人公として動きます。
次回、第二章 世界観測者