ある年の日本ダービーの話   作:砂嵐36

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2.プリンシパルステークス

プリンシパルステークス。ダービートライアル競争であったNHK杯がNHKマイルカップとしてG1に格上げされるにあたって新設されたOPレースであり、先日行われたGⅢ青葉賞と同じく三着までに入ればダービーの出走権を得られる。

皐月賞を逃したもののダービーを狙うウマ娘にとっては最後のチャンス。それだけに出走メンバーもOPレースと思えぬ豪華さで、ファンの注目も集まっていた。

当然の事ながら、パドックを済ませてゲート前に集まるウマ娘たちも気合い十分といった顔で視線をぶつけ合っている。

ランニングゲイルもその一人だ。皐月賞でダービーの優先権を得られるのは掲示板内まで。

6着に終わった彼女は権利を得られなかった。

無論、ランニングゲイルのこれまでの成績を鑑みれば出走できる可能性は高いが、万一ということもある。

「…よし…」

ランニングゲイルは蹄鉄の具合を確かめた。今日の調子は絶好調。

(今度は、バ群に囲まれるなんて無様はしない…)

3着までで十分、無理はしないようにとトレーナーに言われているが、このレースの上位勢はダービーに出走してくる。

出来れば、今のうちに実力の差を思い知らせておきたい…

(特に、あの娘には…)

噂は聞いている。この世代最後の大物。

彼女のレース映像を見た時、ゲイルのトレーナーが呆然とスカウトしておけばよかった…とつぶやいたと人づてに聞いたこともある。

果たしてどれほどに強いのか。ランニングゲイルの視線の先には、一人の長い栗毛のウマ娘がいた。

 

「…はぁ…」

その栗毛のウマ娘が一人ため息をつくと、回りのウマ娘たちの視線が一気に集まる。

サイレンススズカ。諸事情でデビューが遅れたものの、メイクデビューを後続に七バ身の大差をつけて勝利。

一躍クラシックウマ娘候補と呼ばれるようになるも、弥生賞でゲート入り後のトラブルにより出遅れ、まさかの敗戦。

皐月賞への出走は叶わなかったが、翌週の条件戦を圧勝してその実力を示した。

調整のために青葉賞を回避してプリンシパルSに出走してきた彼女は、一番人気こそランニングゲイルに譲っているが、注目度はある意味それ以上だ。

「はぁ…」

そんな彼女は、もう一度ため息をつき心ここにあらずといった顔で空を仰いだ。

(…トレーナーの言っていることはわかる…正しい…けど…)

サイレンススズカは少し前の出来事を思い返した。

 

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「控えろ…ですか?」

「ええ。貴方の才能は素晴らしいけど、逃げ一辺倒ではこの先通用しない。好位に付けるレースを身に着けて、どんな展開にも対応できるようにしておくべきだわ」

トレーナー室でサイレンススズカは彼女のトレーナーと向かい合い、今後のレースプランについて話していた。

「そ、それはわかりますけど…ですが…先日の皐月賞も逃げたウマ娘が勝っていますし…」

「…ええ。確かにね。」

口をとがらせて反論するスズカにトレーナーはため息をつきながらいったんは頷いた。

「でしたら…」

スズカを手で制し、話を続ける。

「…先手を奪った後は1000mを61秒台の極端なスローペースに持ち込みスタミナを温存。前残りの展開を作り出して中山の短い直線で逃げ切る…

狙ってやったのか運が良かったのかはわからないけど…逃げの理想形といってもいい、見事なレース運びだわ。

そして、仮柵のおかげで内側の芝が良く、外側の芝が荒れ気味で、追い込み勢には不利だった。

これほどの有利な条件がそろって、なお目一杯、クビ差での逃げ切り。どういうことかわかる?」

「どういうこと…ですか?」

「…確率の低い奇襲を仕掛けた上で運にも恵まれて、それでなお辛うじての勝利。勝ったウマ娘…サニーブライアンの実力は、その程度でしかない、という事よ。」

「っ…」

「彼女のトレーナーの事も知っているけど…それなりに長くこの世界に居るのに、担当ウマ娘に重賞を取らせたこともほとんどない。昔、ダービーで二着になったことがあるくらいかしら?

最近はテレビや新聞に引っ張りだこで、大言壮語をさんざん吹きまくっているそうよ。

総合的に考えれば…フロックに過ぎないわ。」

「そんな…」

「無論、勝利の価値が損なわれるわけではないわ。彼女は分の悪い賭けに出て、見事に大当たりを引いて見せた。最後に粘りきれたのも彼女の力よ。それは間違いないけれど…才能を持つウマ娘が参考にすべきものじゃない。

貴方が目指すべきは王道…皇帝のように当然に勝つレース運びよ。わかるわね?」

「……はい…」

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「はぁ…」

サイレンススズカはもう一度ため息をついて空を眺めた。

頭ではトレーナーの言葉が正しい、と思っている。

しかし、レースや練習で、ほかのウマ娘に交じっていろいろ考えながら走るより、一人でただ走るロードワークや走り込みを楽しみにしている自分も確かに居るのだ。

(レースでも逃げられたメイクデビューや条件戦の時は楽しかった…彼女…サニーブライアンはどうだったのかしら?話をしてみたかったのだけど…)

スズカとサニーはクラスが違う。あまり人づきあいが得意でない彼女には話をする機会がなかった。

そこに聞こえてきたサニーブライアンのプリンシパルS出走表明。既にダービーの優先出走権を得ているにもかかわらずだ。

口さがないものは、「皐月賞ウマ娘のメッキが剥がれる前に少しでも目立っておきたいんだろう」などと囃していたのだが、結局彼女は回避してしまった。

なんでも未勝利ウマ娘と接触して負傷したのだという。

トレセン学園においても、GⅠウマ娘は一種特別な存在だ。畏れ多くて近寄れないとか、もし怪我でもさせたら大変だ、と距離を置かれることも多い。

そんな環境で、未勝利ウマ娘に接触されるというのは…雰囲気がないのではないか、ともっぱらの噂だ。

幸い負傷の程度は軽く、ダービー出走は可能だそうだが…

 

「…スズカさん、スズカさん!」

「えっ…あ、ごめんなさい、フクキタル。」

振り向けばクラスメイトのマチカネフクキタルが声をかけてきていた。

「ゲート入りもう始まってますよ!そろそろスズカさんの番です!」

ゲート入りは奇数番から。11番のサイレンススズカはそろそろゲート入りしなくてはならない。

「あっ…ほんとだわ。ありがとう」

「いえいえ!今日は頑張りましょうね!わたしの運勢は大吉!今日は勝てそうとシラオキ様も言っています!」

目を輝かせてゲートに向かっていくフクキタル。

(貴方、いつも大吉が出るまで何度も占い直してるじゃない…でも、少しは落ちつけたかな…)

心のなかでいつもやかましいクラスメイトに感謝し、サイレンススズカはゲートに入った。

(目的はあくまでもダービー。このレースは前哨戦…冷静に、冷静に…)

ゲートが開き、各ウマ娘一斉に飛び出した!

 

好スタートを決めたスズカは、そのまま自然に先団につけた。

(…いい感じに飛び出せた。このまま誰も仕掛けてこなければ…っ!)

「でりゃああああああああああああああ!」

消極的逃げに持ち込もうとしたスズカに、大外枠から切れ込んだウマ娘が競りかける。

そのウマ娘はじろっとスズカをにらみつけ、強引に先手を奪った。

「っ…」

サイレンススズカは思わず一歩引いてしまい、そのまま2番手につける。

(落ち着いて…落ち着くのよ。このまま好位につけて、最後の直線で…)

マチカネフクキタルはスズカ達から少し離れて追走、ランニングゲイルは後方に陣取った。

 

逃げに持ち込んだウマ娘…カイシュウホマレの作戦は、おおむね想定通りに運んだ。

(皐月賞は大外から逃げた人気薄のウマ娘が勝った!私だってできるはずです!サイレンススズカが相手だって…引きません!…いける!)

レースはよどみなく流れ、第三コーナーに差し掛かろうとしている。

(強引に先手を奪い、スローペースに抑え、前残りの展開を作る…ここまでは問題ありません!あとは最後まで…っ)

「はああああああああああああ!」

そう思った瞬間、外から一人のウマ娘…トーアステルスが並びかけてきた!

(展開を作ってくれてありがとよ!ダービーの出走権はあたしが頂く!)

(くっ…先手は譲りませんよ!)

「ふんがーーーーーーーー!」

「だりゃーーーーーーーー!」

二人は競り合いながら第四コーナーを抜けて直線に入り…

「はあっ!」

「「あっ」」

まとめてサイレンススズカにあっさりと交わされた。

 

(逃げでペースを作って逃げ切る…言うのは簡単だけど、実行するのは難しいのね…)

「無理ー!」

「むぅーりぃー!」

後ろに沈んでいく二人を横目で眺め、サイレンススズカは加速する。

スローペースの前残り。実際にそういう展開にはなったが…それを生かすことができるかは別の話だ。

「にゃああああああああああああああああああ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

先頭になったスズカに内側からフクキタル、外からはランニングゲイルが襲い掛かってくる!

「たあああああああああああああああああああ!」

スズカも負けじ、と足に力を籠めた!

 

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翌日の〇〇スポーツの記事より抜粋

 

プリンシパルS

芝左2200m / 天候 : 晴 / 芝 : 良

 

着順 番号 名前

1 11  サイレンススズカ  2:13.4

2 12  マチカネフクキタル クビ

3  9  ランニングゲイル  クビ

 

解説:先日の皐月賞と同じく、人気薄の逃げウマ娘がスローペースを作り出したが、波乱は続かず二番人気サイレンススズカが厳しい追撃をクビ差でしのぎ切り快勝。噂にたがわぬ実力を見せ、ダービーへの切符を手にした。

二着には内から追い込んだマチカネフクキタル、三着には弥生賞ウマ娘ランニングゲイルが入った。

この三人の上り3ハロンはいずれも34秒台の好タイム。

青葉賞の勝者トキオエクセレントと同様に、直線の長い府中での好走も期待できる…

 

 




ランニングゲイルのヒミツ
②トレーナーがすぐ担当ウマ娘を増やすので結構大変。
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