ある年の日本ダービーの話   作:砂嵐36

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6.風に吹かれて

『…果てしなく続くwinning  the soulー!』

ワァァァァァァァァァァ―ッ…

歌の終わりと共に大歓声が響き、映像は終わった。

男はノートパソコンの電源を落とし、画面を閉じる。

同時に入り口近くに立つ人影に気がつき…目を丸くした。

「ナリタ…ブライアン?」

「…邪魔してる。ノックくらいしようと思ったんだが…」

ナリタブライアンは男の…サニーブライアンのトレーナーの部屋をぐるりと見回した。

もともと多くない家具は片付けられ、作り付けの棚は空っぽ。中身は床の段ボール箱に詰められている。あるのは古い事務机くらいだ。

それだけなら引っ越し前で済むのだが…出入り口のドアが壊れて転がっているのはさすがに異常だ。

「強盗にでもあったみたいだな」

「似たようなものではあったがな…担当して欲しいってウマ娘が押し掛けてきたんだよ…」

「ほう、まあダービーを獲ったトレーナーだ。当然と言えば当然だな」

「まあな…」

トレーナーは先日に突然扉を蹴破って乗り込んできた黒髪ロングのウマ娘の事を思い出した。

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『私が目指すのは『最高速』!誰よりも、鹿よりも、プロングホーンよりも早く!』

『サニー先輩とインタビューを受けてるところを見て運命的なものを感じたのです!私のトレーナーは貴方しかいないと!』

『さあ行きましょうトレーナー!何事もストレート(直線)に!です!』

『おっと、話しを急ぎ過ぎました、私の名はカルストンライトオ!よろしくお願いします!』

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「おい、浸ってるところすまんが、まずはこっちの話をだな」

「おっと、失礼した」

ナリタブライアンの声に我に返ったトレーナーは居住まいを正す。

「ああ、この部屋を引き払うのと、引っ越しの手続きの書類を持ってきた。確認とサインを頼む」

2枚の紙が机に置かれ、トレーナーが目を通す。しばしの沈黙の後、ナリタブライアンが口を開いた。

「なんでこの旧棟にずっと残ってたんだ?」

トレーナーが居座っていたこの旧棟は、施設老朽化のため取り壊すことが決まっていた。

とっくに移動先の建物は完成していて、目の前の男以外は既に全員引っ越し済み。

予算やほかの工事との兼ね合いで、解体工事の日程は数年先なので別に誰が困るわけではなかったのだが、わざわざ不便な旧棟に残る変わり者の事は生徒会でも把握していた。

「…引退を考えていたんでな。どうせなら…若く勢いがあった時…スワローの奴との思い出が残るここで最後まで…と思っていたんだが」

「そうもいかなくなったか」

「…ああ。ブライア…いや、サニーの奴はまだまだ走るし…新しい問題児も抱えることになっちまった」

トレーナーは書類を書き終えて渡した。

「確かに受け取った。で、会長があんたとサニーに用があるそうだ。悪いが来てもらえるか」

受け取った書類をケースに仕舞い、ナリタブライアンは親指で外を指さした。

サニーがどこにいるかわからないので、途中で探そうと二人は部屋を出て廊下を歩く。

「しかしややこしいな…ブライアンの名前を持つGⅠウマ娘が増えると…」

階段を下りながらナリタブライアンが呟く。

「確かにな。俺もあいつをスワローと区別するためにブライアンと呼んでいたから…」

「あいつはサニーと呼べばいいんだろうが、私はナリタと呼ばれると今度はタイシンと被る。ヒシミラクルの奴みたいにあだ名で呼ばれるのも御免被る…」

「ははは…迷惑をかけるな。ところで会長は何の用なんだ?」

「ああ…二冠ウマ娘ともなると世間の注目も段違いだ。これから菊に挑むってのにいろいろと面倒なこともある…その辺を軽くレクチャーするらしい」

「なるほどな。三冠ウマ娘様に言われると説得力がある…」

「ふん…で、サニーの奴はどこに居るんだ」

「学園には来てるはずなんだが…誰かに聞いてみるか…お?」

「ブライアンちゃーん!」

遠くから走ってくるのはマヤノトップガンだ。

「あのねあのね!あっちでね…」

「どうしたマヤノ…私はこれから用があるんだが」

「サニーの方のブライアンちゃんたちが変なことやってるの!」

「「は?」」

 

向かっていった先にはちょっとした人だかりができており、その中心では…

「ご通行中の皆さーん!わ・た・し・が!サニーブライアンでーす!二冠ウマ娘、二冠ウマ娘のサニーブライアン!覚えて帰ってくださいねー!応援よろしくお願いしまーす!」

勝負服姿のサニーブライアンがニコニコ笑いながら演説していた。

さらにその周りでは、

「はーいサニーブライアンのサイン&握手会開催予定でーす どぞどぞどーぞー」

ゴールドシップが猛烈にダサいデザインのチラシを配っており、

「はぁー…」

ナカヤマフェスタが『二冠ウマ娘 サニーブライアン』と大書された手作りの旗を持って立っていて、

「…」

その後ろでは、仏頂面のシリウスシンボリが無言で踊っていた。

 

「こ、これは…」

「…とりあえず会長のレクチャーは必要そうみたいだな…」

「あ、トレーナー!」

二人があっけにとられていると、サニーブライアンがこちらに気がついた。

「サニー…お前何をやってるんだ…」

「うん!あたしこれまで作戦のせいもあるけど大分地味だったじゃない?知名度をもっと増やしていかないとって!なにせ二冠ウマ娘だからね!」

「だからって…というかその三人はどうして…」

「いや、ちょっとね?負け分を取り立ててるって言うか…ほら!ナカヤマ!もっと旗を振って!ゴルシを見習いなさい!」

「どぞどぞ、どーぞー!」「ちっ…」

テンション高くチラシを配りまくるゴールドシップを横目で見て、旗をバサバサと振るナカヤマフェスタ。

「くそっ…あの土壇場であんな手が入るなんて、ダービー勝つだけの事はあるって事か…?」

「ふふ…『時には運だって必要と言うのなら~♪宿命の旋律を~引き寄せて見せよう~♪』」

歯噛みするナカヤマにサニーブライアンは満面の笑みで向き直り、歌詞を口ずさみながら両手を素早く滑らかに動かして見せた。

まるで何か両手で掴んだ棒状のものをすり替えるようなその動きに、ナカヤマの顔色が変わる。

「おっ…お前まさか…あの時…イカサマ…ツバメ返しを…!?」

「さあねー?」サニーはそっぽを向いて口笛を吹いた。

「こ、こいつ…はぁ…なるほどな…確かに勝つだけの事はあったって訳かよ…」

ナカヤマフェスタは諦めたようにため息をつき、旗をやけくそのように振り始めた。

 

サニーブライアンはそれを満足そうに眺めつつ、トレーナーの側にやって来た。

「ふっふっふ…で、どうよトレーナー」

「どうって、何がだ?」

「何がって…作戦よ作戦。流石にこれだけ騒いでやれば、少しは浮かれてるって思ってくれるんじゃない?」

「…そういうことだったのか…俺はてっきり……」

「菊も逃げるんでしょ?今度はそう簡単に油断なんてしてくれないだろうけど…できることは全部やっとかないとね!」

「サニー…お前…ああ!この際三冠、獲ってやるか!

お前の強さを、ただ単純な事実として!皆に認めさせてやろう!」

「勿論よ、トレーナー!あたし達なら…きっと!」

 

この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。

彼女たちは走り続ける。瞳の先にあるゴールだけを目指してーー。

 

「     」

「うわっ!踊ってるシリウスがなんかすごい笑顔になってる!?」

「なんだこれは…口思い切り開けてるのに全然声が出てねぇ…踊ってるうちに変なテンションになったか…?」

「おーすげー…めっちゃぐるぐる回りだした…って!あーっ!そっちは!危ない!」

「えっ何…?」ドガッ「きゃっ…おっ…とととっ…」

 

グキッ

 

「痛ったぁーーーーーーーっ!!!!」

「うわーーーっ!サニーーーー!!!」

 

…この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。

出走できるかも含めて、不明である。

 

『ある年の日本ダービーの話』 完

 

 




カルストンライトオヒミツ
①入浴時には軽石でかかとをこする。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
こちらあとがきです。よろしければ読んでみてください。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=309127&uid=383227

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"Swallow Tailcoat”
サニーブライアン

芝:A ダ:G
短距離:F マイル:C 中距離:A 長距離:B
逃げ:A 先行:D 差し:E 追込:F
成長:スタ10% 賢さ20%

固有スキル:The Simple Fact
終盤開始時先団条件
スタミナ回復+長時間加速(2400m以上のレース限定)

所持スキル
自制心、押切準備、外枠〇

覚醒スキル
2先駆け 3折合抜群(自制心上位)、4先手必勝、5外枠の鬼(外枠得意上位)

進化スキル
『折合抜群』→『千両役者』
賢さが大きく上昇し掛かりづらくなる
作戦逃げで出走し、掛からなかった場合
レース後半に作戦・先行のウマ娘のスタミナを奪う

『外枠の鬼』→『運命の大外枠』
外枠を引いたとき能力が上がる
一番外の枠だとさらに上がり、スタート直後に速度が上がる

固有称号「証明された実力」
6番人気以下で皐月賞とダービーを勝利したうえで、
G1を合計4つ以上勝利する
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