「助かった。」
「う、うん!ご飯の件、忘れないでね!」
そう言い残しベルの乗るジープは遠ざかっていく。光来は天然の壁からなる人一人通れる洞窟を潜る。
魔都には鬼門と裏鬼門と呼ばれる醜鬼が通常より多く出る場所があるが、光来の狩り場はそのどちらよりも多く出る上に一時間に一回、約五十体の醜鬼が誕生する場所でもある。
光来が来る前は各組が一日事に受け持っていたものの、余りの過酷さに体や心を壊す者が続出した。しかし光来が来てからは全て光来の管轄となっており光来自身が望んだもの。
今回の様に組長会議へ招集された場合は他の組が受け持っているが、普段は光来一人で全て処理している。
無限に思えるこの場所は一時間に十分程度、一切醜鬼が出てこなくなる。その際に魔防隊員にとっては地獄でも、この空間が生温く感じる地獄で過ごしていた事もありこの十分が天国となる。
「待たせたな。中に入ってろ。」
「「「「は、はい・・・」」」」
普段は男に厳しい魔防隊員もこの場所では光来を畏怖してか自然と敬語となる。制服もボロボロとなり肩で息をする隊員達はフラフラになりながらも建てられている掘っ建て小屋の中に入る。それを見届けて光来は懐に差してある『慈悲の刃』を抜き駆け出す。
『あの廃れ者め!!』
怒号と共に巨腕を壁に叩き付けめり込ませる祭服の様な服を着た異形。八雷神が一人、『雷煉』。ここまで激怒しているのは組長会議が始まる前に東光来と交戦し、片腕を涼しい顔で切り落とされたから。
『まあまあ、落ち着きなよ。雷煉。』
『これが落ち着けるか!!我の肉体は今まで傷を付けられた事などありはしない!それに神である我へのあの冷めた視線!!これで怒らない者が何処にいる!!』
『いやいや。今回は僕達の負けだよ。能力を持たぬ人の雄に舐めて掛かった。だからこそ学びを得ただろう?』
そう宥めるのは黒髪で身長の低い八雷神『紫黒』。体の一部が蛇となっており撫でながらも、思い出し楽しんでいる素振りを見せる。
『だが、あの人間は危険だ。早急に滅ぼすべき存在。』
そう意見を述べたのは浅黒い肌を持ち、反対に背中から純白と呼べる程の白い翼を生やした八雷神『壌竜』。
『いや、今は様子見の方がいいだろうね。あの人間は殺すのに手間も時間も掛かる。強さで言えば組長格にも劣らないみたいだし。』
『分かった。私は紫黒に従う。』
『ぬぅ・・・』
「イ、イカれてる・・・?」
「ええ。あんたは会って何も思わなかったわけ?」
所変わって七番組。光来の妹である『東 日万凛』との鍛錬中での会話。何の気なしに優気が光来について聞いたのだ。
「いやまあ、怖かったけど・・・」
「・・・元々、光来は私と同じだったのよ。東でありながらも男故に能力を持てない。それでもとても優しく人の痛みが分かる人だったわ。でも、ある日、突然人が変わったのよ。」
「変わった?」
「ええ。しばらく会ってないけど、優希の言い草からして最後に見た時と同じなんでしょうね。それまでは喧嘩を売られても無視していたのが、突然買ったと思ったらソイツの腹を割いて内臓を引きずり出したのよ。」
「な、内臓を!?」
「ええ。その喧嘩を売った相手は普通の能力者じゃない。元魔防隊所属で組長まで上り詰めた人よ。そんな凄い人を真正面から捻り潰した。東家では大騒動だったわ。」
座りながら話す日万凛の肩は少し震えている。それまでの豹変と惨たらしさがあったのだろう。そんな日万凛を見ていると、ふと言われた言葉を思い出した。
「なあ、日万凛。血を恐れろってどういう意味だと思う?」
「はあ?何よ、急に。」
「いや、別れ際に言われたんだよ。でも全然分からなくてさ。」
「まあ、それだけ言われても・・・恐らく、会う機会があるはずだから聞いてみたら?」
「そうするよ。さて、飯はどうする?」
「豚骨ラーメンでお願い。」
「分かった。作るよ。」
休憩を挟みながらも優希と日万凛の胸のつっかえが取れる事はなかった。