「こ、こうくん!!」
異空間から戻った瞬間ベルに抱きしめられた。俺の服に着いた血をものともせず、俺に抱き着いた。
本当ならベルの服が汚れる為、無理にでも離す事が良いのだろうが思わず抱き締めてしまった。
やはり、俺は失うことが怖いのだ。あの狂気を体験したからこそ失う事が怖い。
ベルだけはどんな事があっても生きながらせる。そして、俺と言う存在を忘れさせなければならない。それだと言うのに・・・
「俺は大丈夫だ。傷も直ぐに治る。その事はお前が一番知っているだろう?」
「ぁぅ・・・」
こうして甘やかしてしまう。本当はどうしたいのか分からない。理不尽に晒されたこそ分からない。俺自身、どうなりかが分からない。
しばらくベルの頭を撫でていると気付けば顔が真っ赤になっている。それが面白くて幾許も撫でてしまう。
「・・・」
「ここらで辞めておこう。」
ベルの頭を撫で終えると、少し悲しそうな顔をする。まるで子犬の様だと毎回思う。ベルは他の同性から見ればそう思うのだろう。そう、納得せざるを得ない。
「良く成長したな!日万凛!これで貴様も立派な東じゃ!!」
東海桐花に伝えられた日万凛はどこか複雑な表情を抱いている。恐らく、先程の覚醒を見てそう言っているのだろうが、日万凛の顔は複雑心そのものだ。
続いて和倉優気に床を教え込もうとした所で母さんより叱りを受けた。今まで溜め込んでもいたのだろう。だが、これは宣言でもあった。
”今後は自分が東を引っ張る”と言う先代への宣言。
東海桐花はこれに気付きながらも最後の試練として激昂した振りを見せ、一瞬顔を歪めるも母さんが一瞬で返り討ちとした。
「くっくっく。強くなったものじゃな。やってみぃ。」
「はい。母様。これからも東は強くあり続け、同時に分家との関わりも修復していきます。」
母さんの大胆不敵とも取れる笑みに分家である誉達は身じろぐも何処か覚悟を決めたようにも取れる。それを見て俺はベルに目線を送り出ようとしたが麻衣亜に止められてしまう。
「光来。お待ちなさい。」
「・・・なんだ?」
「あなたに見て欲しいものがあるわ。」
母さんが麻衣亜に目配せを行い、麻衣亜が館に入ったかと思えば有り得ない代物を持ってくる。ここに存在しない、存在してはならない異物。
「・・・やはり知っていたのね。あなたの住んでいる家で数多の武器を見た時に確信したわ。これは何?」
母さんが尋ねて来るが俺は驚愕を隠せないでいる。なんせ、それを口にしてしまえば俺の仮説が当たってしまうからだ。しかし、実物を見たからにはもう逃げられない。魔都はやはり悪夢と現実の狭間なのだ。
「・・・それは聖杯です。」
「聖杯?」
「ええ。しかし、宗教のように神に捧げる様な生易しいものではありません。その聖杯の役割は”神の墓を暴き呪われる為”の代物です。魔都で入る事は可能ですが正気で居られる保証はありません。」
その言葉に分家の者達は疑いの目を向け、組長格も同じだったが唯一母さんは思案した様子だった。俺はそれを確認し続ける。
「もし気になるのなら入る方法は教えましょう。しかしながら出られる確証も無ければ、狂わぬ確証もありません。」
そこまで言うと母さんは麻衣亜に目配せをし、麻衣亜は聖杯を俺に投げ渡した。
「なら、あなたに管理を任せるわ。総組長への進言も辞めておくわ。」
「その方がいいでしょう。「ただし」?」
「東家で湯を浴び夕食を取りなさい。これが条件よ。」
その言葉を聞きベルも見たが多少の怯えはありつつも頷いた。ベルが聞き入れたのなら仕方あるまい。
「分かった。では聖杯を。」
麻衣亜より、すんなりと受け取った聖杯を見ながら俺はベルの手を引き東家の温泉を目指した。