神代の大魔族と神話の魔法使い   作:匿名希望

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#2 人助け

 

 

 ––––––堕楽のクーリオが人間になって一週間後。

 

 彼は森の中で空腹によって行き倒れていた所を偶々通り掛かった行商人に拾われ、干し肉と水を恵んで貰っていた。

 

 『邪教』の主神として得ていた糧に比べると雲泥の差であり、美味いとは口が裂けても言えない筈だったのだが、彼の舌は確かにその粗末な干し肉を美食として味わっている。成る程コレがゼーリエ(存在しない記憶)が昔言ってた『空腹は最大の調味料』と言う奴か。

 

 クーリオにとってそれは未知の発見と言っても良かった。魔族から人間の身体になった事で肉体構造の差異によって発生する感覚の違いが、感性として自身に影響を与えていると言う事だ。これは人間の身体に魔族の心を有している異質な存在の感覚がどちら寄りなのかを示していると言えるだろう。

 

 だからこそ魔族には理解出来ない物を理解する為、彼は荷台に乗っている人の良さそうな護衛に話かけた。

 

 

 「––––人助けとは手放しで褒められる事なのかな?」

 

 「行き倒れてた男の言う台詞じゃねぇな」

 

 

 呆れたような声色でそう返されたものの、私は特に構う事無く問いを投げかける。

 

 

 「人を助けると言う行為自体は人類に於いて美徳とされる。しかしながら『時』と『場合』によってその行為は悪徳となりえると言う。これでは人助けが良いことなのか悪いことなのか分からないと思わないかい?」

 

「人助けは人助けだろ、別に悪い事じゃ無くねぇか?」

 

 「行為自体はそうだろう。ならこの状況だったらどうかな? 『仲睦まじい母子を惨たらしく殺して食糧を盗んだ強盗が道端で倒れていた』この状況ならキミはどうする?」

 

 「そりゃふん捕まえて憲兵なり自警団なりに引き渡すに決まってんだろ」

 

 「何故? 同じ様に道端で倒れていた私をキミ達は助けてくれたじゃないか、強盗だって何らかの怪我をして助けを求めているかもしれない」

 

 「いや何故って……強盗殺人やった奴なんだろ? 助けなくて良いじゃねぇか」

 

 「成る程、つまり罪人は救われる権利など無い。故に助ける必要は無く、彼によって加害された者の方に重きが置かれると言う事だね? 被害者の生死は関係ない、と」

 

 「難しい事聞くなぁ」

 

 「なら次だ。キミが突き出そうとしている強盗には『病によって伏せっている妻子が居た』『痩せ衰え、夫が罪を犯さなければ糧食にありつけない』『そんな妻子を救う為に罪を犯さなければならなかった』『そしてその妻子は夫の行いを知らない』これだけの理由があったのなら––––キミは強盗を突き出せるかね?」

 

 

 これは『邪教』の主神をしていた際に外部からの入信者が告解した事案の一つだ。

 

 罪を告白した彼は知らなかったと言う。強盗に妻子を殺され、泣いていた被害者の夫からの依頼で強盗を追い詰めて捕まえた。『俺には病で伏せている妻と子が居る』『だから見逃してくれ』『盗むだけのつもりだった』『見つかったから殺さないと殺されると思った』『殺すつもりなんかなかった』そう命乞いする強盗を魔族のような男だと決め付け、被害者の夫の前に突き出したと。

 

 結果として激昂した被害者の夫によって強盗は私刑を受けて死んだ。しかししきりに妻子が居ると言って命乞いをし続ける男が気になり、その身辺調査をして、その言葉が事実だった知ったらしい。

 

 そして病に苦しむ強盗の妻子は盗人の家族だと言われ、身体だけで無く気も病んで母親が子を殺し、母親もまたそれが契機となって首を括っていた。

 

 信者の男は泣きながら告白していた。『正しい行いだと思ってはいる。ただあのやせっぽっちな母子を追い詰めて殺したのは私なのです』と、当時の私は俯瞰した視点で話を聞いていた為、人類の習性の一つとして記憶していたのだが、もしかすれば彼が泣いた理由を理解出来るかもしれない。

 

 問いかけの答えを待つ間、彼は難しい顔をして考え込んで居た。人類間で起きた問題であり、魔族という介入要素が無い以上、すんなりと回答が返ってくる物だと思っていたが、どうやら人類に対しても返すのが難しい話だったようだ。

 

 

 「人類は行為の是非を『善』と『悪』と言う概念で染める。ならその定義を確定させなければ自分自身の行為行動の善し悪しを定義出来ないと思わないかい?」

 

 「まぁその辺は分かる…………さっきの例題の話をするのなら、俺は突き出すな」

 

 「ほう? つまり病気の母子は咎人の縁者だから死んでも仕方ないと?」

 

 「嫌な言い方だが、まぁそうなるな」

 

 「理由を聞いても?」

 

 「それが今居るこの国の法律だからだよ」

 

 「成る程成る程。これが『法律』の役割と言う事か。面白いね」

 

 

 

 嘗て私を主神と仰いで居た彼等にも確か決まり事があった筈、つまりその側面から見た場合彼等の行いは『善』であって何ら罪を犯していない。即ち咎人では無かったにも関わらずあの島は対岸の国々と言う大規模な集落から一方的に『悪』と決め付けられ滅ぼされたと言う事となる。

 

 だが逆に島の外の彼等の法に照らすのならばもしやすると我々の行いの何かが悪だったのだろう、とすればだ。『島外』と『島内』で善悪を振り分けた時、どちらも善対悪、悪対善、善対善、悪対悪の四つに割れてしまう。

 

 これは困ったが、同時に発見でもある。

 

 つまり人類の言う『正しさ』と言う物は客観性に視点を置いた場合、定義次第では無限に善悪が反転し、主観に置いた場合は相手が正しいと思った物が正しいと言う訳だ。

 

 これらの無秩序を抑える為の道具として法律と言う物が存在するらしいが、これは詳細を調べていないのでよく分からないな。

 

 もう暫く話を聞いて見たかったが、行商人達は分かれ道で西に行くらしく、北を目指す私とは方向が違っていた為、その場で別れる事となった。

 

 

 その際に3日分の水と食糧を好意と言う物で譲って貰ったが、人間の皮を被った大魔族への『人助け』が良いのか悪いのか––––––さてどうなんだろうね?





 本日の存在しない記憶

 『腹ペコゼーリエが粗食を美味い美味いと食う姿』
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