神代の大魔族と神話の魔法使い 作:匿名希望
–––––堕楽のクーリオが人間になって3ヶ月。
ゼーリエは彼と戦う為に新たに魔法を作り続けていた。
堕楽のクーリオは彼女が勇名を馳せる以前から存在しており、それ故に既知の魔法では認識以前の段階から即座に対処されてしまう。更にタチの悪い事に、彼の持つ『
それ故に彼と戦う為に必要となる条件は『
また、仮にパーティーを組んで戦闘を挑み、戦士等が近接戦を挑んだとしても、大魔族として比類なき身体能力で並の英雄程度ならば返り討ちにされてしまう。
それが『最強』と呼ばれる所以であり、邪教が立ち上がって『神』と称される理由でもあった。
そんな条件を満たせる者は世界広しと言えどゼーリエのみであり、それ故に彼の『信者』との戦いには他の者が当たっていたのだが、一対一の戦闘、しかも攻略戦前に先遣隊から得た情報や過去の文献から得られた彼の戦術を全て頭に叩き込み、それらを事前に潰す仕込みをして確実に殺しに行ったにも関わらず
その事実が、彼女のクーリオへの執着を生む要因となり、関心を生む結果となった。
徹底した対策を貼ったにも関わらず、それに対するクーリオの対象は実にシンプル。
言葉にすれば簡単な話だ。しかし相手は
それは即ち『自身の在り方』に絶対の自信、自負が存在しており、それ故に一瞬の意固地な気質を共通して持っている。
だがクーリオはその能力の万能さからか、その常識から完全に逸脱しており、あっさりと自身の在り方と言う物を捻じ曲げて見せた。
『何を驚いているんだい? キミが私を良く知っている様だから
ゼーリエの脳裏には戦いの最中にそう言い放った彼の言葉が蘇る。魔族として異常極まりない言葉をさも当然の様に語り、自分を殺す為に星の数に匹敵する魔法の雨によって超過密の攻撃を放つ彼は、あの瞬間間違いなく自分を一個の存在として認識していた。
冷静に考えるのならばこの状態は彼女にとって不利であった。何故ならば攻める側である彼女は
つまり、『戦う為のカードが絶無の状態から』『時間を掛ければその分相手に対策の時間を与える状況下で』『相手に既知と判定されない魔法を作る必要がある』これだけの縛りが彼女には存在していた。
だが、ゼーリエは大魔法使いであり、今の時代では並ぶ者が存在しないと言われる天才である。
一度逃げられている以上、相手が逃走と言う手段を選ぶ事を考慮しなければならず、また一から探す必要があると言う事を考えるのならば、次の戦闘で確実に仕留める必要があり、その為の仕込み等を考えるのならば、クーリオの行き先を把握して罠を仕掛ける必要がある。
その為、ゼーリエは魔法の開発と並行してクーリオと思われる奇行者の情報を可能な限り掻き集めていた。
過去の情報や相手の性格から考えて、彼は他の魔族に比べても『好奇心』が非常に強く、またその解消の為にならばどれだけ時間や手間を掛けたとしても苦にならないと言う性質を持っている。
これは彼が自身を祀る『邪教』の観察に数百年単位の時間を掛けていた事に強く現れており、一つの物事に対して異常な執着心を持つ事から、自分の手駒が潰された程度で抱いた好奇心を殺す事などしないだろうと彼女は考察していた。
だからこそ情報そのものは容易く集まったし、現在彼が目指している場所も大凡割り出されているが、集まった情報を見て彼女は思わずその美しい眉間に皺を寄せた。
曰く『かの堕楽は人助けをしている』だの、『堕楽は魔族を積極的に狩っている』だの、『堕楽は人間のような振る舞いをしている』だの、ゼーリエの考えていた彼の行動とは些かズレていたのだ。
堕楽はその名の通り人類を享楽に堕とす事で自身に依存させ、定期的に一定量の
しかしその実態は依存による支配であり、そもそもからしてあの島の住人はその考え方や在り方すら歪に歪んでいた。
人柱を『御役目』と呼び、それに選ばれる事を名誉とする。後の調査で元々はその島の長の家系から選ばれていた『御役目』も時代の流れによって
狂信者。当時の島民は一人残らずそうなっており、文化として堕楽の食べ残しを『御役目』を果たした者の遺族が食すと言う物まで出来上がっていた。
これは死者の血肉を喰らう事で自身の肉体の中に個人の命の欠片が宿る事となり、死の孤独から解放されると言う価値観と、人類が当たり前生きる為に行なっている『食事』と言う行為を『神』が行う事で、『御役目』は神と同一化し、共に永遠を生きる事となる価値観の元に生まれた行為だと言われている。
直接戦闘を通じて理解した堕楽の性質を鑑みるに意図的にそうなる様に仕向けた訳では無い事は分かる。だが、一番の問題は
これが意味する事は大魔族が人間の価値観に於ける『利益』に対し、人類よりも強大な魔法の力を行使する事で多大なる貢献を行い、次第にそれが一つの基準となる事を意味する。
彼は人類と非常に親密になる事が出来る魔族であるが、それ故に
クーリオは神として祀られていた為か、一応は『知識』としては理解していた様だが、実感として善悪の概念を理解していない事に変わりは無く、それ故に『倫理』や『道徳』を考慮しない願いや、『少数の不利益がその他大多数の最大幸福』となる願いも無思慮に叶えており、結果としてそれが島内の『基準』となり、狂信者のみで構成される『狂信都市』が出来上がった。
その実態は『共存』では無く『共生』。つまり互いが利用し合いながらその存在を支え合う、いやこの場合は寄生虫とその宿主の関係だろうか?
その点を考慮して考えるに、ゼーリエが思う以上にかの邪神は『人類』に興味と理解を示していたのだろうと判断出来る。そしてその為に人類と言う存在を研究しようとしていると結論付けた。
「––––––本来なら後1ヶ月は手数を増やす予定だったのだがな。あまり時間を掛けては居られないらしい」
ゼーリエは嗤いながらそう言い、次にクーリオが立ち寄るであろう場所に向かうのだった。
性善説と性悪説。人間の本質はどちらでしょうね?